第22話 契約①女神『ヘカテー』
人間は愚かだ。愚かだから助けないし救いを差し伸べることはしない。
女神はそう心に決めていた。最初の愛したものに裏切られたあの時以来、一度たりともその心構えを崩したことは無かった。
だから目の前に集めた一人の哀れな男にも、同じような対応をするつもりだったのだ。
女神は云う。──所詮魔法使いなんてクズしか居ない……あの愚かな性癖の持ち主共に救いなんて与えてたまるか。
そう思っていたし、その通りにこの数百年間過ごしてきた。そういった結果女神を信仰する魔法使いも次第に数を減らして言ったと言うオチまでつけて。
◇◇
先程またしてもここに新たな凡人が入ってきた。またしても魔法使いの頂点を志すものだった……最もここに来るということは死んだと言う以外に他ならないわけだが?
ソイツは少し今までのヤツらとは訳が違ったので、私はコイツの絶望する姿が見たくなってしまった。だからひたすらに煽った。
神生(神として生きた意味)の中で一番に煽り散らしてみた。すましたその表情が妙ないらだちを覚えさせてくれたせいだろうか?
煽って、煽って……煽りきった。
──しかし何故かこの男は折れなかった。それどころか……次元の壁を壊そうと暴れ始めたのだから、もうわけがわからないよ。
人間って私が思ってたよりバカじゃね?……元からか。
そして驚く事態が起きた訳です。うんびっくりした……本当に本当にホント〜〜〜に!びっくりしたの!!!
私の目の前で次元の壁が壊されちゃったのよ?いやいやこんなの誰がどう考えてもありえない事態よ?……ちょ、冷静にって?ええ私は冷静。
冷静、冷静……。
『冷静にできるかー〜ー!!』
「あ、壊れた……って君が驚くのか……?」
ええもちろん。勿論!ちょっと!ねえ凄いんだけど?うんうん?!……マジ?
「あの?それで俺はここから帰っていいんですか?……さっさとあいつらを助けに行かないと行けないんです」
『あーえっとね、うん……まあ一旦お、落ち着いておおお落ち着』
「貴方の方が落ち着いてください……」
──私は神様。女神『ヘカテー』うん、大丈夫。
少し落ち着くのに時間がかかっちゃったけど私は何とか落ち着けた。えっへん。
声を何とかつくり、威厳を持った喋り方に治す。
『素晴らしい、この私を驚かせるとは……貴様なかなかやるではないか』
「──誰?」
『ンンッ/////////////……まあ一旦君のことを教えてくれるかな……そう場合によっては君を助けてあげても』
私の言葉を遮るようにため息をついた男は。
「結構、俺は俺の手で皆を救い出して……奴を倒すだけ……俺は次は油断はしない」
『うんうんあのね?あれ君じゃまだ勝てないんだよ〜分かるかな?ちょっと君危機管理能力抜け落ちてるっぽいからさ、教えてあげるね?』
そうあれはまだ勝てないはずのバケモノ。と言うか多分あれを作ったのって……あれだよね?ログアウトちゃん……。
あの子の話では確か一旦冒険者を全滅させて魔法使い達に危機感を持たせたいって話……。
「勝てない?ふむ、俺の見立てでは奴は魔物だ、血を流す。ならば殺せる……違うか?」
『キミさっきから割とズレてない?──まあそれぐらいズレてなきゃ次元の壁を破壊なんて出来ないかーー』
「で?俺をここまで呼び止めるには、何か理由があるとみたのだが……?何か用がないのであれば俺はこの次元の壁を越えて行くが」
見た目とは異なる程の冷静な目付き、そして精神はまあ素晴らしいよ。
『ひとつ良いかい?君は何を目指しているんだ?』
私は尋ねるべきだと思った。え?それを聞いて何になるのかって?
まあそれはうん……あれよあれ。
「愚問、俺は魔法使いの頂点に立つ男だ」
あー魔法使いの頂点……つまり『魔皇』になると?彼は言うではないか。
確かに彼の血に流れるものはそれを可能にはしているだろうし、それに……私は彼の普段の生活を眺める。
『──良いでしょう、貴方はほかの魔法使いとは異なります!!──光栄に思いなさい?私はあなたと契約を結びましょう!!』
多分彼は大丈夫。かつて私を裏切って主神の座からたたき落としやがったクソ野郎に比べて、この少年はまともだから。
それに対してその少年の答えは……。
「え?嫌ですけど?そもそもあなたが誰なのか俺は聞いていませんし、第一誰か分からない神を名乗る不審者なんて相手にするべきではないと思うんですが、如何様にお考えで?」
『んー、ん〜。ん?あ、アレ?……聞き間違いよね〜〜〜おい少年、もっかい言ってみてくれない?いやぁ女神になって耳が遠くて』
「つまりおばあさんと?なるほど若さに嫉妬しているだけの神を語る変人と。しかもこんないたいけな少年を監禁するなんて……」
『誰がババアじゃ!?ぶち殺すぞてめぇ!?──だから私は女神様……あーもーじれったい!あなたと話していると自分の素がでちゃうからさっさと契約結んで出ていってくれ!』
私はちょっとだけ恥ずかしくなりながら、そう告げる。
◇◇
ふむ困ったものだ。さっさと助けに行きたいのだがこの女神が妙にチラチラとこちらを見てきては……うじうじしている。
さっきの勢いのまま飛び出せば良かったか?しかしこの女が言うことも実に理にかなっているのだ。
確かにあのスライムには今の俺では勝てる気がしない。
先程の状況から考えて、同じ手を使った所でまたしても同じオチを辿るだけだろう。
必殺の『無に帰す』も『灰燼に帰す』も何も通じなかった。必殺が必殺ではなかった場合の対応策を練っていなかったのは俺の油断と奢りから来るものだ。
俺だけでは限界があったのは重々承知していたはずだ。どれだけ鍛えても結局人間としての限界に直面する。
もしそれを超える手段があるのであれば、それを使わない訳には行かない。
この契約で何か変わるのか?コイツが嘘をついている可能性があるのでは無いか?
それはコイツの変わり身の速さから考えると必然の判断。されどシェファロ達を救うためには力がいる。
──俺は覚悟を決める。
「ああわかった、君と契約を結ぼう……俺はキエス=カルロン……でどうやったらいい?」
『ふふーん、いい顔ね気に入ったわ!!えっとね顔をこっちに向けて……はいっ!』
────静寂。音が消えた気がした。
「なるほど、これで契約と……?それでキスをした意味は……?」
『だー恥ずかしいから言わないでっ!///もー契約の度にこうやってキスするの嫌なのよ!』
よく分からないが、女神にも乙女心があるようだ。──ふと身体に力がこもるのを俺は理解する。
サウナに入った時のような高揚感。
『ねえ?どう?……女神様の祝福は如何?』
俺は少し考えたあと。
「悪くない、まるでデスマーチの直前に大量にエナジードリンクをがぶ飲みした時のような高揚感だ」
「もっといい例え方無かったのかなぁ?!」
少しだけ声が近くなった気がする。それは契約のせいだろうか?
ともあれ俺は女神の力を手に入れた。……なんの女神かは知らないが。
「あー私はね?ヘカテーって言うの。……魔術神、冥界の神、夜と魔法の神様……!だいたいそんな感じね!……まあ君にあげた祝福はいずれ君自身で理解して欲しいな!」
そういうと俺の後ろに立つ。なぜ俺の後ろに?と思うまもなく……俺の下の地面が開く。
なるほど自由落下と。
「そうだ!君に教えてあげるね?あのスライムはベルゼビュート・スライムよ?!……弱点は─────」
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