第20話 カルロンVSグラトニー・スライム

 俺は着地した瞬間の惨状を目の当たりにするも、冷静にかつ慎重に相手の動きを見る。

 ここまでの攻撃でわかったことが幾つかある。

 ひとつは物理完全無効の特徴をコイツも持っているということ。

 そして二つ目に、されているという事。

 先程から放っているはずの魔力弾が意味を成していない。それだけでもこの魔物の異質さが伝わってくる。


 ならば無に帰すムニキスを撃てばいいじゃないか?と誰もが思うことだろう。実際俺もそう思ってさっさと撃った。


 ──効かなかったのだ。いや正確には、確かに無に帰すことは出来た。しかしその次の瞬間には消した部位ごと完全に再生されてしまった。という事だ。


 俺の現在の出力ではこいつのサイズ、20メートルを超えるこいつを一撃で消すことができない。その為、ある程度消耗させてからでないと無に帰す事ができないわけだ。


 厄介、としか言いえない。それはカルロンにとって非常に厄介かつ天敵とも言うべき相手だった。

 カルロンは確かに魔力量も質も現代の全ての魔法使いを凌駕するものを有している。しかしだけはどうしても肉体のサイズに影響を受けてしまうのだ。

 齢十二歳の肉体でひねり出せる魔力ではコイツを一撃で消し去る事が出来ない。


「──灰燼に帰すも駄目かっ!……」


 ならばと放った『灰燼に帰すイグニス』も、スライムの肉体のほんの少しを焼き焦がした程度で収まってしまっている。

 それはひとえにスライムの性質に灰燼に帰せない何か、が含まれているということだろう。


 仕方がない、俺は即座に殴りに切り替えて殴ったのだが……結果は上空に弾き飛ばされるだけに終わってしまった。


 それだけでは無い、『帰還』の糸が次々と奴に貪り喰われてしまって、機能しなくなっているのだ。

 この周囲に張り巡らした糸、それが次々と食べられてしまうという異常事態。


「コイツ、バケモノか?!」


 思わず悪態をついてしまう程には、この理不尽な相手に俺は苦戦していた。


 だがこいつと非常に類似していた魔物『絶対強欲機構/スライム・グリード』は内蔵量をオーバーする魔力を打ち込んだ事で爆散して死んだ。それを加味すると、コイツもおそらくだが同じようにする事でダメージ、もしくは致命打を取れる可能性がある。


 ならばゴリ押しが最適解になる可能性が高い。

 俺がそう考えていると、スライムはこちらに目を向けると……触手をもの凄い速度でこちらに突き刺してくる。


 それを俺は魔力を手の中で収束させた斬撃で切り飛ばす。

 これは魔法剣士のニアと言う北部ギルドの最強冒険者に教えてもらった技だ。彼女は周囲の魔力を固めて斬撃として解き放つのを得意としており、その戦闘スタイルに俺は感銘を受けたのだ。

 俺ほどの魔力量の奴の斬撃であれば、スライムの放った攻撃程度、即座に切り伏せる事が可能な筈だった。


「───ッ!」


 魔力探知に引っかからない程の微弱な攻撃が俺の身体に突き刺さる。

 それは魔力シールドにより、殆ど意味無く無害化されたが、それでも一瞬……俺の意識をずらすには事足りたようだ。


「「「クルルルルルルルルルルルルウウウウウウアアアア!!!!!!!!」」」


 スライムの口がぱっくりと開き、内包された魔力が俺を目掛けて放射される。


 黒い光線。あまりにも高出力故に魔力が光ることすら出来ないほどの圧倒的な質量攻撃。


 咄嗟に俺は「『無に帰すムニキス』」でガードする。

 さすがは俺の奥義、この程度の魔力攻撃であれば咄嗟にでも防ぐことが出来た。

 最も、その反動で俺の体は地面にめり込んだのだが。


「──早いとこ、決着をつけないと……ヤバそう……だなっ!」


 目の前で建物を食べ始めた途端、いまさっき使用した魔力と同じぐらいの魔力を回復しているスライムに俺はそう判断すると。


制限解除リミット・オフ……ここで仕留めるっ…………俺の内包する魔力の三分の一、纏めて味わえ!!!『高出力魔力超過砲ハイパー・マナブラストサチュレーション』!!!!!」


 体内の三分の一の魔力、つまりは魔力を纏めて解き放つ。

 轟音、世界の果てまで届きそうな程の光が俺の手の前から解き放たれる。

 スライムを軽く飲み込むほどの超特大な魔力砲。

 その性質故に地面に向けて解き放つ必要があったほどのそれを俺は解き放つ。


 やがて光は徐々に終息していき、後には何も─────。


 ◇◇


 ────俺は過信していた。焦っていたのだろう。

 本来であれば、こいつの性質をもっとしっかりと調べるべきだった。

 冒険者達と協力して、奴の弱点を探り……一旦撤退してから改めて冷静さを取り戻してから戦うべきだったのかもしれない。


 現れた方法がイレギュラー?守るべきものが近くにいたからこその焦り?それとも仲の良かった冒険者たちが目の前で喰われる様を見てしまったせい?


 分からない。けれどひとつ、ミスをしてしまったのだけはわかった。

 最も、それは後の祭りだったのかもしれないが。


 ◇◇◇



「─────は?」


 光が終息した後、目の前に広がる大穴から……がゆっくりと這い出てきた。

 そのからだはキラキラと光り輝き、そしてまるで傷一つ無かった。


 それだけでは無い、俺の魔力探知には有り得ない事実が表示されていた。


 という事。そしてその魔力の上がった量はだと言うこと。


 ──有り得ない。信じられない。

 コイツは、……とでも言うのかっ?!


 唖然とする俺。そして俺は失念していた。


 戦場において、ぼーっとしてしまうのは……即ち死を意味すると言うことを。


「「「「「「「キャルルルルルルルルルルルルルルウウウウウウウウルルルルルフフフフフフフ」」」」」」」


 ──


 そして、光が溢れ出す。その光は世界を三度焼き尽くす程の熱量を秘めていた。

 終末の剣。世界樹を焼き尽くすには至らなくとも、俺程度一撃で沈めれる程の極光。


 俺は一瞬後ろを振り向く。

 そして理解する。


 、そういう事か。


 俺一人であれば、この程度避けることは容易い。しかし後ろにいたのは達非戦闘民。

 ギルドマスターは唖然と今の状況から理解が及ばないようでただ呆然として。


 俺はあの攻撃を防がなくてはならない。──無理難題、無茶振り。不可能。


 言葉が頭を駆け巡る、それでも体は素直だ。即座にかの光の前に歩み寄ってしまった。


 ───そして光が全てを焼き尽くした。


 ◇◇◇



 グラトニー・スライムは進化した。キエス=カルロンという規格外が解き放った規格外の魔力攻撃を結果。


 それはカルロンの誤算、カルロンの油断、そしてカルロンがうちに秘めていたこの世界に対する甘さ。それらが引き起こしたミス。


 その結果このグラトニー・スライムは更なるバケモノに進化してしまった。


 ──名前を『ベルゼビュート・スライム』。


 光すら逃さない魔物は『悪魔』へと至る。


 その叛逆律レベルⅩⅠ11


 世界を超越してしまった、最悪の魔物は、果たしてどうやって倒すのだろうか。

 少なくとも、のカルロンでは太刀打ちができないのだろう。




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