第19話 冒険者の末路
スライムの三度の胎動。その結果は凄惨かつ悲惨な末路を冒険者たちに押し付けた。
それでも冒険者たちは即座に武器を抜き、魔力を流し、立ち上がって殴り掛かる。
その精神力と言い、不屈の闘志は未だに絶えることなく燃え盛っていた。
俺はひとまず周囲の安否確認をする。勿論俺の後ろにいたシェファロは無事だった。
最も、周囲の状況にただただ呆然としてはいたが。
「シェファロ、無事か?……一応君にも全力のシールドを即時貼っておいた……一応ギルド本部の方にこれから赴く、君もこい」
呆然とするシェファロの腕を無理やり掴むと、俺は走り出す。
道中にはたくさんの血溜まりがあった。それは一人の人間の人生の全てをミキサーしたもの。
壁にはいくつもの武器や顔がめり込んでいたし、その血溜まりにただ呆然としている人もいた。
「──っ……シェファロ、目を閉じていろ……君がこれを見る必要は無い」
俺の言葉に震えながら頷くシェファロ。俺はそのままかつてギルド本部があった場所にたどり着く。
そこにはギラ含め生き延びた何人もの冒険者達と非戦闘民が何十人もいた。
「!カルロン、生きていたか!……クソアイツは一体……?!」
俺は即座にギルド本部に聖域結界防壁を展開し、その数を幾つも重ねる。
そのうえでギラの質問に、分からない。と答えるしか無かった。
「──分からないのか……っ……ただあれはどう見てもスライム、それは俺にも分かる……だがあんなスライム……見たことないぞ?!」
「あいつの魔力量と質は見覚えがある、確か……絶対強欲機構/スライム・グリードと類似している……だが」
俺は言葉を紡ぐべきか悩む。いや、これは言うべきでは無い。そう心の中で天使も悪魔も叫ぶ。
それでも言わなければ、最悪の展開よりも更なる最悪を引き起こしかねない。
「──アイツはあの時の魔物より強い……それも、圧倒的にだ」
「──っ……?!」
ちょうどその時、走ってきた伝令が伝えた言葉は俺たちに更なる絶望を叩き込むには事足りた。
「報告いたします!……各地冒険者ギルドからの報告です!……どのギルドも現在、近郊に現れた
「……なあ、これは夢か?……夢だよな?……夢だと誰か言ってくれよ!!?」
「落ち着け、ギラ……」
叫ぶギラに慌てて対処しようとするほかの冒険者。
しかしギラはその瞳に明確な絶望を滲ませて叫ぶ。当然ギルドマスターがこんな風なのでその恐怖は次々とその場に居合わせた全ての冒険者や非戦闘民たちに伝播していく。
仕方ない。俺の秘策も特技も全部完全にばらすのはあまり得策ではなかったが、こんな緊急事態にそうこう言ってられない。
「──俺がやつをどうにかする、だからギルドマスター、生き残った民たちの避難誘導を頼む……ほかの冒険者達も避難を……」
「おいおい、てめぇだけに任せる訳には行かねぇだろ?……ギラ!てめぇは生き残れ!……民たちを護るのもギルドマスターの仕事だろ?……」
「そうですね、私達を舐めてるあのスライム如き、サクッと始末してやりますわ!」
「ったくしゃーねな!一番ちびっこがこんなふうに戦う意思見せてんだ!……俺たちベテランが怖気付いてどうするんだよ?」
次々と何故か冒険者達が、先程まで目を伏せたり、逃げる準備をしていた奴らが武器を構えて走り出していく。
普通に考えれば、先程のたった三回鼓動するだけで俺たちにこんだけの絶望を与えた奴に戦いを挑むなど、バカのやる事だ。
にもかかわらず、次々と冒険者たちは立ち上がり、走っていく。ある者の手は震えていて、ある者は冷や汗を流してはいたにも関わらず。
俺はシェファロに呼びかける。
「──絶対にここから出るな、良いな?……この結界の外に出れば間違いなく死ぬ……良いな?」
「わかった!…………でも絶対にこれだけ約束して!………………生きて帰って来ること!」
その目を見て俺は答える。"然り"と。当たり前だろ?
「──『帰還』魔法の使い手が、約束の場所に無事『帰還』出来ない訳が無いだろ?……」
そう言うと俺もほかの冒険者たちに遅れを取らないように走り出す。
その時にはもう既にやつの分析、解析、そしてどうやって倒すのかをシミュレーションし始めていた。
◇◇
「──ギラ?あたしも行ってくるわ!……あの子たちに任せっ放しには……行かないものね、あなたはここで皆を守っていなさいな?」
コーラルはそう言うと死地へと走っていく。
「まあウチは死なんから大丈夫や?……何泣きそうな顔してるん?あんたらしく無さすぎやろ?せや、ウチの髪飾り渡しとくで?……安心しー?ウチは人に渡したもんしっかり取り返しにいく女やで?……ほな!」
ヒノもまた、走り出していく。それは優しい、優しい嘘。
走り出していく冒険者たちの後ろ姿を見て、ギラはただ。
「──無事に……帰って……来てくれっ……頼む……!!」
祈るしか出来なかった。それはギラという立場、役目、使命をになっているから。
もし彼がギルドマスターでなければ、まっさきに飛び出して行けたのに、彼はギルドマスターだから飛び出すことが許されなかった。
──ギルドマスターは弱き者を守るべき仕事である。
時には、何かを守る為に何かを捨てなければならない。
それが世界の理なのだから。
◇◇◇
冒険者たちが殴りにかかる。そして死ぬ。
ある冒険者は何千ものゴブリンを盾ごと叩き潰した最高の剣を打ち込む。
しかしその剛剣はスライムの外骨格にダメージを与えることは無かった。
そして冒険者はそのからだを真っ二つに……ゴブリンの盾ごと叩き潰してように潰されて死んだ。
ある冒険者は卓越した槍捌きと、武器『烈火槍』を駆使し、ドラゴンさえ串刺しに出来る最強の槍を打ち込んだ。
しかしその槍は簡単にスライムに弾かれた。そして体をいとも容易く串刺しにされて死んだ。
ある魔術師は特殊なアイテムを駆使して数百の魔力弾を展開、それを剣に書き換えて飛ばした。
それが当たればたとえオークキングだろうと一撃で倒せる程のそれは、残念な事にスライムの外殻の一部をほんの少しだけえぐった。そしてその攻撃を反射され、死んだ。
◇
ある卓越した炎の剣を使う侍は、火の鳥の加護を用いて強大な斬撃を打ち込んだ。
それはスライムの身体を真っ二つに切り裂いた。
しかしその直後、一瞬でスライムは切られた部位を再生し、その肉体を切られる前の二倍のサイズに拡張した。
唖然とする火の鳥の侍は炎を纏い、突撃したが、そのからだを軽くつままれて地面に叩きつけられた。
そして起き上がったところを大口を開けていたスライムに飲み込まれた。
最後の最後、愛する人、子供達の名前を叫ぶ事さえ……許されなかった。
◇
ある強力な弓使いは、精霊の弓矢を放つ。
それは確実にスライムの肉体にダメージを与えた。
しかしスライムがゆっくりと口を開けた途端、放った矢は全て飲み込まれ……そして全てが弾き返ってきた。
回避も間に合わず、全てをくらってしまった弓使いは、動けなくなった所を大口を開けて食べられた。
最後に叫んだ声は、スライムの腹の中に飲み込まれて消え失せた。
──これにて、冒険者たちは一人を除き……死に絶えた。
人は所詮人である。いくら強くても、自然災害には勝ち目が無かった。
これはただ、それだけの話だ。
◇◇
では我らがカルロンはどこにいたのか?何をしていたのか?
それは──遙か上空にいた。
「っ?!……まさか全てのエネルギーを反射されるとはな!?」
全力を込めた……魔力を込めた殴りを打ち込んだ所、逆に全てのエネルギーを即座に反射され……彼は上空に吹き飛ばされていた。
勿論即座に『帰還』をしようとしたが、何故か戻ることが出来なかったのだ。
こうして着地した彼の前には、死に絶えた冒険者たちの骸を美味しそうに頬張るスライムだけが残されていたのだった。
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