第16話 回想録ページ1 ギルドマスターの思い出

 魔物に襲われていた人を一人救出した後、俺はギルマスに預けて立ち去ろうとしたのだが。


「あ、あのッ!……も、もし良かったらお名前だけでも……」


「ん、詳しい話はそこのギルマスのギラさんにでも聞いてくれ、俺は日課の続きをする。ではな」


 言葉が途切れるか否かの辺りで既にカルロンの体は先程までいた場所に『帰還』した。


 ◇◇



「──最近は面倒な魔物が増えて大変だ、全く……この原因は間違いなく、使のせいだろうな。」


 俺はそうつぶやくと、先程よりもはるかに高い位置に飛び上がる。


「『制限解除リミット・オフ』……魔力感知範囲/最大超過……さて、どうなるか」


 上空に浮遊するカルロンを中心に、同心円状に魔力の感知波が広がってゆく。

 それは他者にはほとんど感じ取れない程度の微弱な、されどとてつもなく頑強な波。


 今行っているのは『』、すなわち届く範囲全てを網羅する全力の魔力探知だ。

 これによりダンジョン内でも無ければほぼ見つけられる。


 しかし最近は稼ぎ場所がダンジョンなのが一般的。そしてダンジョン内は一度潜る必要があるので、割と時間がかかってしまう。故にこうして広範囲を確実に探索する方法を編み出す羽目になってしまった。


 数十秒後、カルロンはある程度目星をつける。おそらく怪我をしているであろう人、優先度の高そうな人、ほっておけば間違いなく死へと至る人、それらをものすごい速度でリストアップして順序を立ててゆく。


「───確定、完了。……これより日課を開始する」


 体が再び東西南北を起点とした世界の端っこにリンクし、ものすごい速度で引っ張られていく。


「そう言えば、彼女の名前を聞き忘れていたが……まあ良いか」


 ◇



「え、え?!い、今何て言いました?!……?!あの人あの名家の出身何ですか!?や、ヤバいです……ヤバいですよ!?」


「おう落ち着けや、お嬢ちゃん。ちなみにやつは自分がキエスだとあんまり名乗りたくないらしいから、控えとけよ?」


 そう言ってギルドマスター・ギラはクエストボードを眺めに立ち去る。その足取りはやや重く、かつての軽やかさは微塵も感じられない。

 それはこの七年間で彼が成長したと言うべきか、衰退したと言うべきか。


「ギラ〜アンタそろそろ身体休めなさいな?」


 コーラルに言われ、ギラは


「はぁ……そうしたいのは山々だがな、ここ数年間の魔物の出現状況がはっきりいってやばいからな、片時も休める気がせんよ……全く」


 彼の目線の先、クエストボードにはたくさんの依頼書が突き刺さっていた。あまりにも長いこと放置された結果劣化した紙すらあるほどの無数の依頼書。

 少なくともギラが就任する前はここまでたくさんの依頼書が張り出されることはなかったと記憶している。


 だが、それでもギルドランキングで上位に入れているのは一重に『カルロン』のお陰としか言いようがない。


 東西南北中央。五つのギルドは毎年どれだけの依頼をこなしたか。

 どれだけの死者を出してしまったか。

 どれだけの成果をあげれたかで競い合うのが習わしだ。

 しかし名声を求める冒険者たちは皆『中央』に集まるし

 強い敵と戦いたい猛者は『北』に集う

 気楽に戦いたい人は『南』に、商売を繁盛させたい冒険者たちは『西』に集まる。


 ここ『東』はそれら全てが無い。故に毎年のごとく最下位を独走していたのだ。──もちろんカルロンが来るまでは。


 カルロンが手を貸してくれるようになってから、この東ギルドでは誰一人として犠牲者が出ていない。

 ──最も冒険者の、ではあるが。


 ちなみにこんなふうに一人として犠牲者を出していないのは、はっきりいってカルロンがおかしいからにほかならない。


 朝早くから夜遅くまで、ひたすら空からの目で観測し、ダンジョンがあれば即座に潜り安否確認。

 大量に発生した魔物は事件が起きる前に芽を摘んでおいてくれるし、必要な素材は全て西まで彼が買い集めに行ってくれているおかげで困ることはほとんど無いし。


 もはや彼に依存している、と言ってもいいほどには彼中心の冒険者ギルドに変わってしまっている。


「しかしなぁ……やっぱりあいつも冒険者になればいいのに……」


 カルロンは冒険者登録をしていない。その代わり、ダンジョンなどには自由に出入りできる証明書を中央から賜っているため、ある意味ではどんな冒険者よりもランクが上だったりする。


「まーアイツ魔法使いの頂点目指しとるからなぁ……わたしらへっぽこ冒険者にはなりたくないんとちゃうか?」


 ヒノはそう言うと。彼女の目はとある戦いで失われた。まあ本人曰く「眼帯も案外悪ないわ!」との事だ。


 ちなみにその戦いはかなりの被害を出した戦いだ。

 もちろん俺も含めてかなりの冒険者が重傷を負ったのだが、最終的にカルロンの手でその魔物『絶対強欲機構/スライム・グリード』は倒された。

 あれは本当にやばかった。叛逆律レベルIX9の化け物。


「そういや、カルロンは竜すら倒してたってけな?」


「そ、そうなんですかぁ!す、凄い……凄いですもっと聞かせてください!」


 と、どうやらさっき助けてもらった……確か『ミーサ』という少女がコーラルにカルロンの話を教えて貰っていたようだ。


 俺はその話を聞きながら、改めてあの男『キエス=カルロン』のやばさを懐かしむ。


 いかんな、歳を取ったせいか……過去を懐かしみたくなるのは悪い癖だ。全く。



 ◇◇







 確かあれは……『酩酊海栗めいていうに』とかいう強い魔物が出た時の話。



 ◇◇



 酩酊海栗めいていうには黒色のウニ型の魔物だ。ちなみに山に出る魔物。


 そのサイズはせいぜい1メートル前後。しかしそいつはとあるやばい特性を持っていた。


 という名の、最高最悪のデバフをね。


 このにより状態になると、人は呼吸の仕方を忘れるほど酔っ払って死ぬ。

 ちなみに俺も食らって死にかけた。


 タチが悪いのがこのウニには攻撃能力がないのだが、その代わりこのが付与された人間は魔物にとってものすごく美味しい香りがするらしく、一気に魔物に狙われることとなるのだ。


 そいつが出たのが年一のお祭りの時だったので、危うくギルド全滅の危機すら有り得たのだ。


「────ほんと、カルロンいてくれてよかった」


 ちなみにそいつはカルロンが「臭い」の一言で全て消し飛ばしてくれたので解決したのだ。

 余談だが、酩酊海栗の叛逆律レベルVIII8なので普通の冒険者では太刀打ちできないはずだったのに、ワンパンで沈めていたので本当にカルロン君はいかれていると私は思う。





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