第14話 11歳になった件
───あの日から実に七年の月日が流れた。
しかしこの七年間ははっきりいってカルロンにとってはその倍以上の長さを感じさせるものだった、とだけ記しておこう。
◇◇
「──では本日も日課を開始する。済まないないつも」
俺は十一歳になった。前世で言えば小学校高学年だろうか。背丈もかなり伸び……恐らくだが父親と母親がデカかったせいだろうか?────分からないがこのままいくと俺は前世の身長を圧倒的に超えることぐらいは予想できるほどだ。
かつて金髪碧眼だった俺の見た目は、かなり変化していた。
まず髪は白髪に近く、金髪の要素がかなり薄れてしまった。これは魔力が渦巻くダンジョンなどにずっと潜っていた弊害の一つで、太陽光をあまり浴びなかったことが関係しているだろうか。
それから目も少し変化していた。碧眼はより黒に近くなり、奇妙な模様が浮かび上がったのだ。
だが魔眼、などのものでは無いため……本当に何故この模様が浮かんでいるのかは一切が謎である。そもそも無害なので解明する必要すらない気がするがな。
そのほかはあまり語るべきことなど……ああ。
魔力に関しては限りが無くなってしまったので、どれぐらいと答えることはできないな。……まあ毎日魔力を使い切ろうと努力した末路だろう。
身体能力も無論おかしい。ぶっ壊れている。
最近では日課で巨大な竜や山ほどのサイズの蟹などを片手で叩き潰せる程度には強くなっていたのでな。まあここに関しては俺でさえ少し異常だとは思っている。
それから特殊な技能を幾つか手に入れた。それはまたおいおいね。
「────カルロン!早く行かないと遅刻するよ!?」
と後ろから走ってきた声で俺は回想を中断される。まあこの声の主は言わなくてもわかるだろう。
「シェファロ、まあ落ち着け。余裕で間に合う」
「そうだけどさぁ……まあいいや、ん!これ弁当作っといたから!……」
俺はシェファロからお弁当を受け取り、カバンに詰める。
シェファロはあれからさらに立派に成長した。齢十一歳とは思えぬ程の身体、精神を携えた素晴らしいメイドになった。
彼女は赤髪をゆっくり掻き分け、少しだけ呆れた顔をしながらカルロンを急かす。
その光景は、『
「──今日は少し遅めになるかもしれない、ああギルドに言ってご飯を食べていてくれて構わないぞ?」
「───またですかぁ!……ったく少しは早く帰る努力をしてください!」
もはや熟年の夫婦かと見間違えるほどの会話。それはここまでの約『2555日』、『2555回』のやり取りが積み上げたただの素晴らしい結果。
◇◇
俺は日課に入る。最も俺の仕事内容はほとんどあの当時から変化してはいない。
まず俺は『帰還』を使用し、指定された場所に『帰還』する。
その指定された場所は実にこの冒険者世界の端っこ。最東端と最西端、そして最南端と最北端。
これらだ。その距離は実に1000キロを超える本来であれば途方もない長旅なのだが。
そう───本来は。
俺はこの七年間この距離をひたすら『帰還』し続けた。
何を言っているのか?と思うものもいるだろうか。
まあそれは今俺がそれを実際に行っているところを見ればわかるだろう。
「では日課を開始する。……『指定位置/最東端』──『帰還開始』」
俺はその瞬間、身体ごと果てしない紺碧の空に吸い込まれていく。
それはなにかに吸い込まれているのではなく、なにかに手繰り寄せられるように、ものすごい速度で引っ張られる。
俺の身体は瞬時に超音速の空間に移行し、それ相応の負担が全身に掛かる。その状態を維持しながら俺は魔力探知を最大発動させる。
俺がやっていること、それはただのバンジージャンプだ。簡単に言えばだがな。
括り付けた『
ただし、それは魔力による超強制的な移動を含み……その引き寄せの速度に至ってはゆうに『超音速』に達している。
「さてと、では日課二つ目も並行して行うとしますか」
カルロンはおもむろに本を取り出す。カバンの中に入っていたそれを彼は読み耽る。
もちろん止まっているのではなく、超音速で引き寄せられているさなかで……だ。
その速度の中で本を読むことのおかしさ、とち狂っている様は伝説のバーサーカー『ヘラクロア』をして「理解出来ぬ」と言わしめたそれ。
もちろん手で持つだけでは空気抵抗、魔力抵抗などが作用して本などあっという間に消し飛んでしまうだろう。
では彼はどうやって本を読んでいるのか、それはただ魔力で空間を固定しているだけだ。
『帰還』魔法は空間属性の魔法だ。その力を利用して魔力による空間の固定を彼は自力で習得した。
しかしもし魔法使いがその光景を目の当たりにしていたのならば、ショック死してしまうこと間違いなしだ。
この指定した場所までの帰還の際に本を読む行為。
これにはかなり大量の技術が必要となる。まず第一に『風圧の無効化』。これは言わなくてもわかるだろうが、超音速で飛行する都合上、ありえないほどの風圧が彼を襲う。
風圧はまるで竜の羽ばたきの如く。しかしそれが彼の本を読むと言う行為の妨げになることは無い。
何故ならば彼は風圧を魔力で無効化する技術を習得しているから。
───それは可能なのかって?まあ可能にしてしまったんだよ。彼は
そもそも風圧を魔力で無効化などという行為は極めて理解の範疇を超えている。風圧が引き起こす衝撃波も含め、それらはひとたびふれればカルロンの肉体に傷を与えるだろう。
その不規則な波と風。それを常に無力化させるためには有り得ないほどの繊細な魔力中和技術が求められるのだから。
───それは『風』の原初の魔法使いでさえもなし得なかった技術。
しかしそれを可能にしてしまったのが、キエス=カルロンというただのぶっ壊れなのだから。
まあ彼に言わせれば
「──?この程度中和出来なくてどうする?」
と一切特別な事だとは認識はしていなかったのだが。
と、彼の魔力探知にいくつかのデータが発生する。
それをある程度読み取ると彼は進路を変更する。
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