第13話 世界が割とハードだった件

 ガラガラと言う音を立てて馬車が走る。中にいたのは皆素晴らしい実力を兼ね備えた冒険者達。

 しかし今はその顔に憂いの表情が浮かび上がっていた。


 ギルドマスターのギラは深いため息を吐き出し、目を伏せる。理由は明白、そして仕方の無いことだった。


「──救えなかった……な」


 彼は鎧をゆっくりと拭う。虚しさの残る手つきで拭った手甲には被害者たちの血がこびりついていた。

 ほかの冒険者達も皆血だらけの防具を布で拭いている。


 その様子を眺めながら、カルロンは一人心の中で呟く。


「(───そうだな、救えた命だったかもな)」


 ◇◇


 昨日、ギルド魔物の大量発生が報告されたあとすぐに討伐隊と救護班が呼び出され、すぐさま現場に直行したのだが。

 やはり馬車を利用しての行動故に想定よりも時間がかかってしまい、その結果彼らが辿り着いた時には……


 魔物達による晩餐会パーティが開かれていた。

 その宴は俺たちの手で中止させれたのだが、まあそれはもう惨たらしい結末だったわけで。


 魔物によるフルコース。……それは凄惨でグロテスクで、理不尽な末路を俺達に見せてくれていたのだ。

 とても幼い子供さえ魔物のフルコース料理になった。

 まあ俺は特に何も思わなかったが、ここにシェファロがいなくてよかった。そうも思ったのだ。


 その後、激昂した冒険者たちにより魔物は次々と討伐されて行った。こうして魔物の大量発生は解決されたのだ。


 俺は改めてこの世界の人間の脆さ、弱さをその時身をもって思い知った。

 俺は二度ほど魔物のくちばしでつつかれたが、大した痛みもなく……むしろ少し心地良さすら感じれる程のものだったのだが。


 それと同じ攻撃を食らった冒険者が、鎧を纏っていたにもかかわらず、その鎧ごと身体を貫かれて引き裂かれる様を見せつけられた。


 それを見たギルドマスターは、絶望したような表情をしていたが……おそらく彼の知り合いだったのだろうか?

 ちなみに彼らの戦闘を観察していて分かった事がいくつかあったので、それもまた俺なりの解釈を織り交ぜて考察していこう。


 ◇◇


 どうやら彼ら冒険者は、『スキル』と呼ばれるモノを利用していることが分かったのだ。これはギルドマスターや、彼の隣で刀を構えていた奴から見て俺なりに解釈した結果だ。


 しかし『スキル』か。RPGなどの作品ではある意味鉄板の仕様だな、だが……俺の目には『魔法』と何ら変わり無かったのは妙だな……?


 一応彼らが使っていた技を俺なりに再現してみるか。……ダメだ他の人がかなりいる、最悪怪我を増やしてしまうかもしれないな。

 そう俺が考えていると、馬車が不意に止まる。何事かと思っていると……


「……一旦みんな休憩だ……すまんな、この先の道で落石があったらしい……それを処理してくる」


 ギルドマスターはそう言って何人かの冒険者たちを引き連れて進んで行った。


 まあそれならば、都合がいいか。ここで試してみるとしよう。


 俺は近くの岩場に走り着くと、先程彼ら彼女らがやっていた動作を魔法で模倣再現する。


 ──俺が見たのは、ギルドマスター・ギラが剣を上に掲げて……確か『轟破天ごうはてん』と言いながら放っていたな。


 同じようなモーションで俺は剣を構える仕草をする。当然剣など持っていないのでただ腕を上に上げただけの変な人になっているが、幼児がする行動にいちいちツッコミを入れてくる輩は居ない。


 俺は目を閉じる、そして彼らの『魔力』の動きと技術を文字通り模倣する。


「────轟破天!!……駄目か」


 だが流石に何も起きなかった。然るべき結果と言うべきか?

 やはり冒険者と魔法使いではそもそも原理が異なるのか?


 そんな言葉が頭の中で蠢く。しかし同じ技が使えないのならば、それに類似した技ならば……どうだろうか?


 あの技、『轟破天』を放ったあと……刀身からは押しつぶすかのような破壊のエフェクトが迸っていた……つまりあれはということか。

 は魔法の属性ではなく、結果を示すものだ。どんな属性の持ち主でも『破壊』という結果を引き起こすことは可能だ。

 魔力をただぶつけるだけでも『破壊』は発生するからな。


「彼は自分は魔法を使えない、だから冒険者になった。と語っていたが……それは違うのではないか?……恐らくだが『スキル』を発動することで擬似的に……」


「おんやぁ?……どしたん?話聞こか〜?」


 突然俺の目の前に女がと現れる。

 ん?今魔力探知を解除したつもりは無かったのだがな?……一体どういうことだ。


「あなた今何処から現れたんですか?確かヒノ、と呼ばれていた御方殿?」


 そう聞くと関西弁の刀使いは目を若干細めながら答える。


「ん〜ウチはを持っとるからなぁ……何処にだって現れるに決まっとるやろ?」


 ……加護?火の鳥の加護?


「せやで、火の鳥の加護や!……コイツほんま便利でなぁ、何処にだって現れる事ができるんよ、しかも回復効果もあるんよ!すごいでぇ?」


 火の鳥、つまりはの加護ということか。──そもそも加護とはなんだ?

 俺は突然発生した『スキル』と『加護』について新たに考察せざるを得なくなってしまった。


「ひとつ聞いていいか、加護とは何だ?」


「おおう、いきなり変わるんやな、すっごいぬるりと変わるんおもろいなぁ……あ〜せやな、加護っちゅーのは……」


 ◇◇


『加護』それは冒険者のみが獲得出来る特殊な権能の事。それは魔法界を離れて冒険者世界に……世界樹を跨いだ際に人間に付与されるという特殊な権能なのだと。


 俺はヒノさんの話を聞きながらそれが冒険者と魔法使いの区分になっているのではないか?と考察した。


 そしてそれが事実ならば、俺にもスキルと加護が備わっているのではないか?


 まあ使わないがな。悪いが、スキルとはそれ即ち『固定化された概念』と言えるものだろう。それは俺の自由な考えと相反する。


 それに加護?それはただ『役割の固定化』だろう。

 くだらない、実にくだらないな。


 そのスキルも加護も、所詮は魔法でしかない。それならば、魔法の拡張性を利用して俺はスキルも加護も再現してやろうじゃないか。


 ◇◇


 ギルドに帰ったあと、少しの沈黙が響き渡った後……


「──何故宴が始まっているのだ?……まあ俺が言えた立場では無いが、不謹慎なのでは無いのだろうか?」


 俺の言葉に酒瓶を片手に担いだギルドマスターは、顔を真っ赤にしながら。


「───だからだぜ!?……アイツらの分まで俺達生き残ったヤツらが楽しんでやらないと……アイツら化けて出てくるかもしれないだろ?……」


 そう言うと、近くにいた冒険者達と一緒に大合唱を初めてしまった。

 ──だがそれはとても合理的だ。


 成程、ある意味そうやってこの世界の冒険者達は生きてきたのだろう。


 楽しそうに宴を謳歌している彼らの目は実に美しかった。


 後悔を持って戦地に赴けばそれ即ち死に近づく。死を見たからこそ、生の楽しみを謳歌する。


 刹那主義であり、『死を想えメメント・モリ』を意識の根幹に絡ませている。


 ──全く面白いな、冒険者とやらは。












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