第12話 いきなりすぎる件
ギルドマスターギラは待ちくたびれた様相で足をコツコツと鳴らす。
木で出来た床は心地よい反響音を響かせるが、それもまたその場の喧騒に揉まれて消え失せる。
「───来ないな。約束の時間になったと言うのに!」
彼は今、一人の少年を待っていた。確かカルロンと言ったはずだ。
彼とは朝の7時に集まる約束をしていたのだが。
その時間になっても彼は来なかったのだ。
約束をいきなり破ってくるやつを信用すべきか?と改めて彼は悩み始める。
「まあまあギルマス〜気楽に行こうや!……あんなちっこい奴が必死にこのギルドに来ようとしとるんや、それを待ってやるのも大人の役目とちゃうんか?」
そう言ってギラの前に腰掛ける女侍。名を『ノトリー・ヒノ』と言い、このギルドの中でも指折り……いや冒険者達の中でも屈指の実力者だ。
「ヒノ……だがなぁ……初日から遅刻してくるヤツとか、心配なんだよなぁ……特にアイツは……」
「貴族、やからやろ?……まあアンタの考えも分かるけどなぁ……それを信じたるんがアタシら大人やろ?」
「それは……そうだが……」
「あら、ギラ……そんなに思い詰めて、んふふその顔も可愛らしくて好きよ?私は」
横から押し入ってきたのは『ベルフェルト=コーラル』。弓使いにして
「コーラル、とは言えなぁ……」
やっぱり信用するべきじゃ無かったのかな、等という言葉を言おうとしたその時だった。
───ギルドの扉がギィイイと開かれる音がした。
人が来たことを知らせる鈴の音が鳴り響き、入ってきたのは、三人の大人を荷車に載せた一人の少年……『カルロン』だった。
◇◇
「すみません!ここに回復系の魔法、もしくはポーション等を持っている方は居ますか?!……こちらの方々の治療をお願いいたします!」
「わ、分かったぜ!」
彼は入ってくるなり、何人かの冒険者達に指示を出すとこちらに走ってきた。
「──すみません!遅くなりました!」
「お、おう?……何があった?……」
「端的に話しますと、魔物に襲われて致命傷をおっていた冒険者がいたので救助してきました!……それよりも早く彼らに適切な治療を!」
そういうと再び走っていった。
「一応彼らが戦っていた魔物から受けた傷で、出血しています!……止血ポーションと……それから体内に入ってしまったダイアモンドの針の切除を優先してお願いします!」
……あれは本当に四歳児か?俺は思わず目を擦る。変化は当然起きない。
テキパキと指示を出し、何人かの冒険者達がそれに従い迅速に行動していく。
やがてしばらくした後、治療を受けていた彼らは息を吹き返したのだった。
◇◇
全く、災難にも程かあるぞ。俺はそう心の中で舌打ちをする。
朝早くに家を飛び出し、地形を高速で駆け抜けていた俺の前に魔物が現れたのだ。それだけならば大した問題では無かったのだが、なんとそいつらは血だらけの冒険者をそれぞれ1人づつ抱えていたのだ。
そいつらは俺が魔力探知で観測した限りでは、まだ生きている。だがもうすぐ死ぬかもしれない、そんな様子だった。
冒険者たちを抱えていたのは、まるで巨大な鉱石を体に纏ったかのような様相を呈する大型の鳥型魔物。
名前はよく分からないが、あまり強そうではなかった。故に俺はさっさと殴りにかかるが……。
「───硬いな、コイツ」。
俺が殴った場所は本当に硬かったのだ。最も空を飛んでいるせいで威力がかなり減衰してしまっている可能性は大いにあったのだろうが。
ならば魔力弾を……。
「ん?コイツら魔力にも対応してくるタイプの魔物だったか」。
俺目掛けてその羽毛、と呼ぶには少し固すぎそうなそれがこちらに飛来してくる。
「材質的にダイアモンドか、ん〜面倒だし、さっさと倒すか……『
全てを焼き焦がす事象が魔物を襲う。いくら硬かろうが、生き物である以上必ず灰になる。
魔物の誕生の仕方はよく分からないが、少なくともこの世界の魔力でできている身体を持っている以上、燃える。
──燃えるならば炭に出来る。
──炭に出来るならば、灰に帰せる。
それだけだ。
ドサドサと落ちてきたそれらの残骸をどうにかしつつ、横たわる冒険者たちをチェックする俺。
「脈拍異常あり、魔力に乱れあり、出血多量か」。
不味いな、思いのほかこの傷は重症だ。俺は手を当てて帰還魔法を発動させようとするが……。
「……不味いなこの傷の中にある鉱石の針、これを取り除かないと回復したそばから出血してしまう……これを……」
「ッぐぁ?!……い、痛い!痛いっ!」
不味いな、出血が多すぎる。
血を帰還させれば血自体は足りるだろうが、外に出てしまった血を再び戻すことはあまり宜しくない。
それならばさっさと彼らを適切な治療ができるやつのところに連れてゆくのが正しいはずだ。
だが片手で運ぶには……ん?あそこにあるのは……壊れた馬車?
◇◇
まあ都合のいい事だ。いやよくよく考えると彼らが乗っていたものだったのかもしれない。
それはともかく俺はそれに三人を載せると。
「───すまんな、少し揺れるぞ」
全力で魔力でコーティングして空中に吹き飛ばす。それを俺は蹴りながら街に飛んでゆく。
もちろん内部の衝撃波、揺れはほとんど俺の足に帰還するように指定してあるから、彼らの負担にならないはずだ。
──多分。
◇◇
「───成程、すごいことをしてくれたな……君は……まぁありがとう、だな」
ギラは呆れながらお茶を啜る。カルロンという少年の話を聞いたあと、ギラは困惑しながらも冷静に礼を伝えた。
「いえいえ、大した魔物じゃなかったですし……それに運が良かっただけですよ」
謙虚に笑っている彼を尻目に俺はこの事を伝えるべきか悩む。
彼が倒した魔物、それは『
だが、基本姿を見せないはずの魔物なはず……?
それに彼が助けた者達も、
疑問は尽きないが、それはそれとして……彼『キエス=カルロン』の実力を俺に教えてくれたことには感謝しないとな。
そんなことをふと考えていた俺の元に、伝令が走って来た。
「──報告!報告!!東部盆地にて魔物の大量発生!!至急冒険者各位準備を!!」
「はァ?!!!……チッ、それが原因か!」
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