第一章 冒険者編(4歳〜12歳)
第11話 新たな家に帰った件
話をつけたあと俺はシェファロと共に家に帰ることにした。勿論家具、食料、調理道具などの生活必需品は前借りとして頂いたのだが。
「それでどうやって帰るつもり……えっ?」
「帰還魔法の正しい使い方をしたのだが、事前に言うべきだったか?……それよりも幾つか聞かせてもらいたいのだが……」
俺はシェファロに尋ねる。その内容は、移動した時の感覚についてだった
と言うのには幾つか訳が有るのだが。
「え、えっと……ちょっと立ちくらんだような感覚?」
成程、やはり他人に合わせて『帰還』を使った試しがなかったからそこの調整が足りていなかったか。
なら少しだけ座標のズレを最初の位置より手前に戻せば何とかなるか?
「他にはあるか?そうだな、具体的なものでもいい」
「え、えーっと……でもちょっと眩しくて目がチカチカしたかな……それ以外にはあんま無いね」
目がチカチカ?ふぅむ……、あ…ーー
成程な。先程いた場所が灯りが灯った室内だったから余計に光を一気に取り込んでしまったのか。……やはり周囲の状況によっては他者に影響が出るのか。
俺は少し考えたあと、シェファロに、
「スマンがちょっと手を貸してくれ、ああ手伝ってくれという意味ではなくてだな」
俺はシェファロの手に触れる。同時に瞬間的には魔力を反響させて体内の魔力状況の変動を観察する。
問題無し。これなら冒険者達の魔力の耐性の無さなどによる負荷等はあまり気にしなくていいか。
こういった過程を踏まなければ、どうなるのか分からなかったからな。俺自身は幾度となく『帰還』を使っているから空間魔法に耐性はあるが。
それを初めて……特に魔力の低さなどが目立つ冒険者達に使うというのは場合によっては何かしらの影響が出ないとは言いきれなかった。
つまり俺用の『帰還』ではなく他者への『帰還』を使うという修練も必要になるわけだな。
「───あ、あのっ!も、もういいかな?ずっと手を握られているとちょっと……」
「あ、すまんな。もう少し調べさせてくれ、何悪いようにはしない」
俺は改めて冒険者達の骨格、肉質、防具などの追加武装の魔力抵抗等を頭でシミュレーションする。
勿論その場である程度は調整するつもりだが、一応規格を設けておくことで即座の判断に使うことが出来るからな。
「ええ……わ、分かったわ!……うん、じゃあ私もあなたの頭撫でてるね!」
「構わないが、それがなんの意味があると?」
「なんか腹立つから!アタシばっか触られて腹たってきたの」
まあこいつは悪い奴ではない。問題ないと俺は伝え改めて調整を施す。
◇◇
「すまんな水拭きも終わったぞ……ではさっさと明日の用意に取り掛かるためにご飯を作るとしようか」
「あ、アタシに任せてっ!……ふふん!」
「君は料理ができるのか、ああメイドだったな。……では君に任せるとしよう、俺はこの家の周囲に蔓延る魔物たちの処理と結界の生成に取り掛かろう」
「わ、わかった!任せ……魔物?」
◇◇
魔物。それは人類に仇なす獣達の事。
まあ正確には人類が勝手に敵と認定してぶっ殺して回っているだけの可哀想な獣達だ。
一般的には人型なら『オーク』や『ゴブリン』『リッチ』などの王道なファンタジー的魔物から『ガガガガ・ガズ』などのこの世界特有の魔物も存在する。
人型の魔物は基本的に人間と同じように武器を使用したり、魔法を使ったり、知恵を使い連携を使ってくるものも少なくない。故に警戒すべきなのだと教えられた。
だが俺からしてみれば、むしろ人型より獣型の方が厄介だと思ったのだ。
奴らは人とは異なる動きでこちらを翻弄する。セオリーとは異なる動きをしてくるのだから。
◇◇
「やはりな、獣型……人の匂いにつられて来たか」
サイズはだいたい1メートル前後が三匹。だが四歳の子供にとっては自分よりも大きいそれはまさに脅威と言えるだろう。
その見た目はニホンオオカミのような見た目で、少し黒みのかかった毛皮に、赤色の目。
ここの周囲の環境に適応したのか肉質は少し筋張っており、正直食べる場所は全く無さそうだ。
魔力耐性は……あまり無いか。さっさと倒すために
待てよ?あの毛皮は何かしらの使い道があるかもしれない。それだと無に帰すのは不味いな。
それに今手元に帰還させれるモノも特に無いし。仕方ない、普通に倒すか。
「『
文字通りただ魔力をそのまま弾丸のように撃ち込む基礎魔法攻撃。属性を一切付与しない分自由度が効くだけのただの魔法攻撃。
だが、それでも魔物の隙を着くことは出来た。三匹いた魔物のうち一体にそれが炸裂する。
当然魔物はそれに合わせて後ろに引き下がるが、その方向に俺は飛びかかる。
そして鍛えた肉体でその首をグッ、と掴み締め上げる。
パキパキ。と首の骨が割れる音がしてゆっくりと力が抜けてゆく。
最後の一頭はあわててその場から離れようとするが……
「──
魔力弾は首から上を消し飛ばす。そうして倒れた魔物たちを俺は引きずりながら家に持ち帰る。
その後、周囲に結界を展開する。
これは魔力による防壁。白銀の絶対要塞
俺が独自に編み出した本来の魔力障壁とは比べものにならない程の硬さと範囲を誇る魔力障壁。
まあこんなものか。俺は地面の下も含め辺り一面にそれを展開しておく。そのうえでさらに『監視者』と呼ばれる周囲の魔物を検知する装置を魔力で編み込む。
帰還に使用していた線のようなあれ。あれは魔力の糸であり、その糸の強度は実に優れたものだ。使わない手はなかった。
◇◇◇
「さて、周囲の殲滅と結界の展開は終わっ………………」
「ど、どう?…………頑張ったんだよ!…………ちょっと焦げちゃったけど」
「気にするな、むしろ君が無事でよかった」
俺の眼下に広がるのは焦げた家。おかしいな?あの魔法道具はそこまでの破壊性能は有していなかったはずだが。
焦げた料理用の魔法道具を俺は手で触る。成程……
「あ、アタシって……料理下手だったんだね……あはは……」
「ん?いや単純にこの魔道具の出力がおかしかっただけだ、気にする事はない……それに君が頑張って作ったのはこの調理場の状態から分かるからな、本当に気にするな」
そういうと俺は焦げた鶏肉を口に入れる。確かに少し焦げた味はするが、だからといって食べれない訳では無い。
それに彼女の頑張りを俺は無下にはしたくない。
「美味しいぞ?これは」
「えへへっ!……あ、あんがとな!」
─いい笑顔だ。だが少し待て……
「手を見せてみろ……やはり怪我をしていたか、まあここの焦げ具合的にそうなってもおかしくはなかったが……」
俺は恥ずかしそうに隠した手を見る。四歳の女児にやらせるにはちと難しい案件だったな。まあこの世界のメイドは四歳から働かせていたからおかしいとは思うが。
本当におかしい世界だ。四歳と言えば小学生一年生よりも小さいのだぞ?それにメイドとしての生き方を叩き込むなど、冷静に考えて狂っている。
◇◇
その後俺はそこの周囲の焼け焦げたそれを『帰還』させて元に戻す。
焼き焦げたものを元に戻すことなど朝飯前だ。
勿論怪我した手を元に戻した時にはさすがにシェファロにも驚かれたが、失った部分を元の場所に戻しているだけだからな。
◇◇
───次の日の朝、俺はシェファロが作ってくれたご飯を片手に家を飛び出す。
ここから始まるのは片道50キロの出勤だ。まあ魔力で鍛えたからだをより効率的に動かすためには、ちょうどいいのだ。
何より、地形踏破の訓練はしたかったからな。
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