第10話 冒険者としての物語が始まる件
魔皇になる事を宣言した俺に誰も彼もが唖然とする。
だがその様子はどちらかと言うと未だに戸惑いが多かった。
ふむ、まだ一歩足りないか。ならば。
俺は再び言葉を紡ぐ。今度は少し低い声で、力強く、凛とした雰囲気で喋る。
「───君たちは悔しくないのか?」
「……何がだ?……」
「生まれた時点で自分の限界が示されていることがだ。」
その言葉を聞いた時、周囲の人間が近くにあったものをグッ。と握りつぶすのが俺には分かった。
やはりな。この言葉に反応してしまうぐらいには彼らの心の中には悔しいと言う感情が有るのだろう。
だから俺はさらに焚きつけることにした。焚き付ける事でこの火種はさらなる業火へと成り上がるだろうからな。
「君たちはいくら強くなろうと、素晴らしい力を有していようと……血筋が違うだけで、魔力が少し無いだけで……嘲笑の的だ」
「…………」
声はなくとも、俺の言葉に生えた棘は彼らをグサグサと刺してゆく。
「知っているか?俺は四歳になるまである程度教育を受けたのだがな、冒険者に関しては底辺のゴミと同じように扱え、などと教えられたんだぞ?……」
まあ最も、そんな話をしている貴族達の方がよっぽど底辺のゴミなのだがな。
「……もう一度聞くが、今のままで良いのか?君たちは何もなし得ないまま、努力も才能も全てが歴史の闇に葬り去られていく今の時代が、最高の事だとでも言うのか?!」
「──いいわけ……ないに決まっているだろうが!?!」
「そうだ!」「俺たちにだって……」「私にだって……」
おそらく今までずっと虐げられてきた冒険者達の心の中のフラストレーションが
───弾けた。
だからこそ、俺はその冒険者達にさらに言葉を投げかける。
「───だが俺は分かる、君たちが紡いできた鍛錬、絆の素晴らしさを。……いい剣だ、何十年と使っているな、年季が違うだけじゃなくて手入れもしっかりとされている」
俺は近くの冒険者の剣を少し見て、そう呟く。
男は目元に薄らと笑みが零れていた。
「─────この紡いできた素晴らしい物語を、絶やす訳には行かない。君たちもそう思うだろう?────いい返事だ」
そう、彼らの紡いできたモノは絶やすべきでは無い。間違いなく今のこの世界は間違っている。
「ならば、世界を変えようじゃないか!……この腐りきった貴族と魔法使いだけが幸せなだけの排他的な世界を!」
「オオオオオ!!!!」
「────しかし君たちには『魔皇』になって世界を変える資格が無い。……だが俺は違う……俺は先程言ったようにキエス……『純魔』だ。俺には世界を変えるチャンスがある」
いつの間にか皆真剣に俺の前で話を聞いている。まあ構図的には少々変ではあるが。
「この立場を貰ったのは、おそらくこの理不尽で腐りきった世界を新しくする為なのだと俺は考えている。そしてその世界を変える片棒を君達の力で支えて欲しいのだ」
と、後ろの方で……
「───ッ!アタシはアンタが本当に信用出来るのか分からない!」
その言葉が飛び出してくるとは、案外冷静なモノもいたのだな。
「そうだな、俺の事を今すぐに信じろ……というのは無理な者も居るだろう。だから俺はしばらくの間君たちの手伝いをする。その代わり俺の願いにも対応してくれると助かるのだが、出来るだろうか?ギルドマスター殿」
「…………確かに君がほかの貴族達とは訳が違うのは理解した。それで君は俺たちに何をしてくれるのだ?──今、ではなく未来の話だ」
ほお、そちらを聞いてきたか。此奴もさすがにギルドマスターという立場なだけあるな。
「──俺は世界のルールを壊す。誰もが平等に立場を手に入れることが出来る機会を作り出す。そして魔法使い第一のこの世界を、本来あるべき形に戻す。……これは夢物語では無く、約束だ」
「……そうか、約束……」
ギルドマスターのギラは少し目を閉じて考えたあと手を差し出す。
俺はその手を握り返し、改めてギラの目を見る。
身長差により、どちらかと言うと子供と大人がなにかの約束をしているような構図だが。
「───これは幼児の約束ではなく、対等な大人同士の約束だ。安心しろ。俺は約束は絶対に破らん男だ……そして君達も俺の事は他言無用で頼むぞ?貴族には知られたくないからな」
「……ああ、わかった……改めてよろしく頼む」
「ん、任せとけ!」
ここだけは少し、子供らしさを合わせた口調にした事で……場の空気を一気に落ち着かせることが出来た。
◇◇
「それで今、の話だが……君は俺たち冒険者の何を手伝ってくれるつもりだ?」
そういえばその話をしていなかったな。
「俺は『帰還魔法』の使い手だ……その顔はどんな魔法なのか分からないって顔だな……ふむ、簡単に言うと一方通行の転移魔法だ」
「それはつまり行き帰りしか使えないということか?」
「正解だ。だがそれでも君たちにとってはかなり助かるのではないか?……例えば冒険中に大怪我をおってしまった際などにな」
「まさか……そうか確かに!……」
「ああその通りだ。帰還魔法を使えば、ダンジョン内から安全に人を救い出せる。これは君たちにとって明らかにメリットになるだろう?」
最も俺にとっても人を運びつつ修行の一環になる為、かなりメリットなのだ
理論だけでは魔法はただの戯言に過ぎないが、それを人の為に使って初めて戯言から真実に変わる。
ただ目の前で自分の強さを自慢するのは構わないが、それをするよりもその時間に人助けと自分磨きを徹底した方が後々の俺の為になる。
「勿論俺にもメリットがかなりあるし、それの対価として君たちの戦い方や技術を修得するのもまた俺の為になるからな」
その言葉にギラは頷くと、俺の手元に何かの紙を持ってきた。
ふむその見た目からギルドカードの発行に役立つものだろうが……あいにくそれは必要ない。
「すまんな、俺は冒険者になるのでは無い……君たちを助ける為の人員だ……何より、俺はまだ四歳だぞ?……」
だがその言葉にギラは知っている。と返し、そのまま俺の名前を書き記す。
「これは特別な紙、初代ギルドマスターが残した『魔法使いとの契約書』だ。……なんの運命か一枚だけ保管されていてな、ぜひそれを使ってやろうと思ってな……なぁに使う機会が無さすぎて場所の邪魔になってたからちょうどいいのさ」
俺に手渡された紙には『キエス=カルロン』と名前が記されていた。
その下にはギラの名前が。そこの下には同盟者の名前と書いてあったのだが。
「ハイハイ!あたし達が書くよ!」「イヤイヤ俺も!」「ジジイに譲らんか?!」「老いぼれは引っ込んでろ!」
何故か揉め事が始まってしまった。まあ冒険者というのはこういった性分なのだろうな。
その様子をシェファロと眺めながら俺は新しい場所で新たにできそうな特訓を考え始めることにした。
◇東部冒険者ギルド『ウロボロス』
その日、一人の優しい助っ人が加わった東部冒険者ギルド『ウロボロス』。
そこはやがて無数の戦いに巻き込まれながらも、何故か死傷者がゼロであり続けた不思議なギルド。
冒険者の世界には
西部冒険者ギルド『ヤト』
東部冒険者ギルド『ウロボロス』
南部冒険者ギルド『ユルルングル』
北部冒険者ギルド『リントヴルム』
そして世界樹『ユグドラシル』の麓に存在する中央冒険者ギルド『グラヴァーク』。
しばらくの間、この中で繰り広げられる物語。
それは魔法使いと貴族たちにとっては下界の話。
相手にすることすらない目にすら入らない下々の話。故に魔法の記録には残らなかった壮絶な物語。
冒険者の世界で、カルロンは実に十二歳まで過ごす事になるのだが……
それはまだ今のカルロンは……知らない。
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