第9話 ギルドに押し入った件

 魔法使いと冒険者、貴族と平民には死ぬほど確執がある。

 まあどこの世界でもそうだろうが、特にこの世界ではそれが顕著だと俺は思った。


 そもそもこの世界はとある魔法使いが救った世界のようで、それのせいで魔法使いの地位が冒険者達よりも高くなるのだ。


 俺が魔力で読んだ文献によると、この世界を救った男は自らを『魔皇』と名乗り、この世界のルールそのものになったと。


 だがその男は人間であったが故に寿命には勝てなかった。そして死ぬ間際にこう言い残したと言われているそうな。


「──次の魔皇は純粋な魔法使いがなれ」


 魔皇には子供がいた。それぞれ『火』『水『風』『土』『光』『闇』そして『時』と『空間』。八人の子供達の事をそれぞれ『原初の魔法使い』と今は呼ぶらしい。


 その子供たちはそれぞれで子供を作り、そうして世界に魔法は広まっていったのだ。


 特にその原初の魔法使い達同士の子供は凄まじい力を有していたと言われており、そのことから魔法使いと魔法使いの子供は最高の魔法使いになれる。

 そんな風説が広まったのだ。それが『純魔』。


 原初の魔法使いの子供たちの血族の子供。純粋なる魔法の継承者。

 ちなみに俺の家『キエス』も『純魔』らしいが、だからと言って誰かを見下す訳では無いことだけ覚えておいてくれ。


 それはさておき、魔法使いはこの世界の支配者だ。では冒険者とは何か?

 それを説明するにはこの世界の階級のようなものについて話す必要があるな。


 この世界の頂点に座すのが『魔皇』だとしたならば、次に『純魔』が来る。

 その下には『大魔法使い』が存在する。


 ここまでは概ね想像通りだろう。しかしここからが面倒なのだが、『魔法使い』、『魔道士』『魔術師』とランクが下がる事に魔法でできることのレベルが下がってゆくのだ。


 魔術師にもなるといちいち魔法を使うために『術式コード』を書き記さないとダメなのだとか。


 つまり魔法が支配するこの世界においてどれだけ魔法を使えるかを表すのがこのランクということだ。

 そしてそれは生まれた瞬間に決まるのだとか。魔法の属性が決まるのと同じく、その者がどんなランクなのか。

 それが例えば『魔法使い』ならばもう人生安泰なのだとか。ん?俺はハードモードじゃないかって?


 それだから追放されたんだろうな。

『純魔』なのに弱い、そんな存在を家に居るものとして扱いたくなかった親たちの気持ちは理解はできるが共感は出来ないがな。


 ◇


 では冒険者とは何か?


 それはこの魔法が支配する世界において、ほとんど魔法を使えないものたちを指す

 いわば『レッテル』のようなものだ。


 最もその数は全体の半分に及ぶため、最早冒険者は自分たちをバカにする『魔法使い』達とは完全に縁を切っているものも少なくないレベルだ。


 ……こうして振り返って見ると、完全にジャンルが異なるために区分が分けられているようにすら思えるな。


 話を戻そう。冒険者達は魔法で作った武器ではなく、魔物を倒して手に入れた武器で敵を倒し。

 互いに助け合って困難を乗り越える。


 ちなみに魔法使い達はそんな泥臭い彼らを嘲笑の的として見ている。実際家でも冒険者を馬鹿にする話ばかり聞かされてうんざりする程だった。

 この確執は最初の『魔皇』の死後ずっと存在している。


 ◇◇


 そんな訳で魔法使い(特に貴族)と冒険者は仲が悪い。

 ちなみにであるが、魔法使いと冒険者のに関しては、実はあまり差は無いと俺は思っている。


 というのは魔法使いはあまりにも近接戦闘が弱いのだ。俺みたいな身体強化すら使えない貧弱な者もいる。


 もっともそれすら必要ないぐらいの圧倒的な魔法を遠距離から撃ち込む為、必要ないと言うのが魔法使いの言い分だ。


 ふん、自分の苦手なことからただ目を背けているだけではないか。

 ──バカバカしい

 ◇◇


 俺はギルドの扉を叩く。もちろん扉を開けるのは頑強な肉体と鋭い目をした冒険者。


「あ?なんだ、子供?……おい誰か子供が迷子みたいだぞ?……どうした?坊主」


 その声に合わせて次々と俺の元に冒険者達が集まってくる。その見た目は誰も彼も鍛え抜かれた肉体と、年季の入った武器達を携えており。

 俺が昔読んだファンタジーモノの勇者のような奴らばかりだった。


「すみません、ここのいちばんえらいひとをよんでください」


 俺は丁寧にゆっくりと言葉を紡ぐ。年相応に見える喋り方を工夫して出すのは案外難しかったが何とか上手くいったようだ。


 やがて集まっていた人混みをかき分けて一人の男が現れる。


「おう、俺がギルドマスターのギラだ。……何か用か?坊主、依頼か?」


 見た目は30代そこそこだが、体のあちこちにその鍛えた証が光り輝く男だった。

 鎧にもあまたの傷がある。それらはかなりの年季の入ったものだった。

 俺は辺りを見回す。これだけいれば良いか。


「あのね」


 俺はまるで優しい子供が今から夢物語を語り始めるかのような優しい口調で皆の視線を集め。



「───ああすまんな、騙すようで悪いが……君たち俺に手を貸す気は無いか?」


「「「「「?!!?」」」」」


 あまりの変幻さに戸惑う冒険者達。俺はそれらを手を挙げて静止し、その先を紡ぐ。


「───ふむ、まずは俺の名前を話しておこう。俺は『キエス=カルロン』……いい反応だ、そうだな俺は『純魔』だ」


 ざわめく冒険者達。その中でも最も強そうな男がこちらに歩み寄ってくる。


「てめぇ今何て?……キエスだ?……純魔だ?…………お前俺たちをバカにでもしに来たのか?あ??」


 それは先程まで優しい視線を向けていた奴らとは同一人物とは思えないほどの変わりよう。


 だが俺は対して臆することなく話を続ける。


「違う、そもそも俺は四歳だ。そして俺は身だ……これもまたいい反応だな、続けるぞ」


 先程から整理が出来ていないのか、とても良いリアクションをしてくれる冒険者達を尻目に俺はテーブルの上に立つ。


「ギルドマスター、先程から黙っているが……何か言いたげでは無いか?……」


「ああ、すまんな。今どうやって貴様を殺すのか考えていたところだ」


 サラッとそう言うが、俺は対して驚くでもなく、


「まあ妥当だな。少なくとも俺が逆の立場なら容赦なく斬り殺していたところだ」


 そう言い返した。当然そんな切り返しされるとは思っていなかったようで一瞬唖然としたあと。


「……君はほかの貴族とは違う価値観を持っているのだな?」


 その分析をしてきたことに俺はにっこりと笑顔で返した。


「まあこの場にいるものにとって貴族は紛れもなく許せない対象だろうということはもちろん理解している。……だからこそ俺は一つ君たちに提案したいのだ」


 そういって俺はゆっくりとテーブルに腰かける。

 俺はゆっくりと腰掛けてテーブルから辺りを舐めまわすように見つめると。

 その場にいた誰もが唖然とする言葉を口に出す。


 それは間違いなく俺の覚悟を示すものだ。それを口に出したからには、俺はその立場にならなくてはならない。

 一瞬脳裏にそれを言うべきか?と誰かの声が聞こえた気がしたが、そんなものに今更引き止められるほど俺は生優しくは無いからな。


 口をゆっくりと開けて宣言する。



「───俺が『』になる為の力を貸せ」と。









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