第8話 冒険者と手を組むことにする件

「よしと……これで先ずは部屋の中は見違えるほどになったな」


「で、でも……服が……」


 俺は煤や埃で汚くなった服を見る。確かに少し汚くなってしまったな、うーむ、ならばこうやって使うか。


「?!か、カルロン様?!」


 俺は貴族らしい小綺麗で邪魔くさい襟のついた服を破り捨て、それを雑巾のように折りたたむ。

 そうして困惑しているシェファロに俺は一つ尋ねる。


「俺の目には君は魔法の使い手のように見えるのだが、それは合っているか?」


「ど、どうして分かったんですか?!」


 シェファロの驚き用は身振り手振りを織り交ぜた、非常にダイナミックなものだ。

 その様子に俺は改めてこの子が同い年の小さな子だと言うことを思い出す。


 しかしこの子はかなり歳の割に冷静だと俺は思った。

 少なくともすぐにこの状況に対応しているという点を踏まえると、まあおそらくメイド長辺りがしっかりとしつけていたのだろう。


 ちなみに俺はあのメイド長は死ぬほど嫌いだ。人を人として扱わないアレを俺は人の上に立つべき物としては見ていないからな。


「安心しろ、俺の目がおかしいだけだ。気にするな」


「す、凄いです……私と同い年ですよね……?」


 俺はまあな。と答えると、ついでにシェファロにひとつ頼み事をする。


「え?……堅苦しい口調じゃなくてさっきのラフな口調で……ですか?」


 そう、俺にはシェファロのその堅苦しい口調。いわば上の者に媚びへつらう口調が気に食わなかった。


「ああ、ここには俺と君しかいない。そして俺はただの追放された哀れな……君と同い年の子供だ。──もっと気楽に行くべきだと俺は思うぞ?」


 堅苦しさから抜け出すために、あえて追放されたのだ。なのにまたしても堅苦しくなっては困る

 ただそれだけなのだ。


「───ッ!分かりました!……で、では……カルロンっち〜?飯どうすんの?〜」


 俺は思わずずっこける。あまりにもラフ過ぎで逆に笑いが込み上げてきた。


 ──コイツ思ったよりも面白いな?


「や、やっぱりだめですよね……こんなラフなのって……」


「面白い、気に入った。ということで俺の前ではそのラフなのを崩さないでくれ、むしろそっちに慣れたい」

 そう言うと俺は改めて自分の手をシェファロの前に差し出す。


「──俺はキエス=カルロン。まあしがない追放された哀れな貴族だ、よろしくな」


「え、えっと……OK、アタシはシェファロ……うん、よろしく!…………こんなふうな感じでいいのかなぁ……」


 まあしばらくは慣れが必要……おっとそろそろお腹が空いてきたな。それにもうすぐ暗くなる。一旦水拭きしようとしていたのを俺は諦める事にした。

 早いところ街に行かねばな。


「今から街の方に行こうと思うんだが、シェファロ、君は一人で真っ暗闇の中で待っていられ」


「無理!無理!無理!!暗いの怖いもん!」


 なんか改めてこの子の年相応の対応を見れた気がする。それはともかく、その反応は正しいと思った。


 しかし時間もあまりない、……仕方が無いな。


「少し失礼」。


 そう言うとシェファロを俺はお姫様抱っこする。そして困惑するシェファロに一言、


「──今から全速力で走る。舌を出すなよ、怪我するからな」


「ふぇ?」


 シェファロの返答を待たず、俺は体全体に魔力を流す。

 途端体の隅々が猛烈な光に包まれ、そして……





「───ッッツ?!」


 俺は一歩足を踏み出す。その途端、世界が超高速で横に流れる。

 もし、シェファロが現代人ならばこう思っただろう。「アタシ、新幹線に乗ってたっけ?」と。


 実際には、新幹線の四倍近い速度で駆け抜けているのだが。


 大地を踏みしめるたびに、辺りに超高火力の衝撃波が足元を吹き飛ばす。

 そして景色がさらに加速する。


 ちなみにこんな身体能力を得たのには俺のとあるトレーニングが関係している。


 ◇◇


 あれは確か魔力をコントロールする訓練を自力で初めてしばらくした頃……帰還魔法以外の魔力の使い方を模索していた頃の話だ。


 元々魔力を体に纏わせることで自然のアーマーを作ることに成功していた俺だが、ある日ふと思ったのだ。


「───細胞にも魔力を纏わせたら面白そうだな」


 と


 俺は現代人だ。だからこそできたのかもしれない。魔力を体に纏わせるのははっきりいって外付けのものに過ぎない。


 俺はそう考えていたからこそ、閃いた技だ。


 細胞の一つ一つ、それらに魔力を試しに流し込む。ミトコンドリアがあるのかは分からないが、それが有ると仮定して魔力をそれらに纏わせる。

 細胞核があるのかは知らないが、その中の遺伝子情報に魔力を流し込む。

 所詮イメージの話だが、そうやって体に魔力を纏うのではなく馴染ませた訳だ。


 ──淡々と、日々のトレーニングの一環として。


 ◇◇

 俺が赤子の頃に始めたそのトレーニング。それはなんと恐ろしいぐらいの結果を示してくれた。


 このトレーニングを初めてから、一日ごとにどんどんと一日の魔力量と筋力が増していったのだ。

 元々のトレーニングで鍛えていた分と合わせて、本当におかしいぐらいの魔力を一日に使えるようになった訳だが。


 それをコントロールするだけでもかなりとトレーニングになったのは言わなくてもわかるだろう。


 こうして鍛えた結果、ただの殴りで大人をなぎ倒せるようになったという顛末なのだ。


 ◇◇


 こうして俺はありえないほどの身体能力を獲得し、今まさにそれを最大限発揮している。


 あっという間に街の灯りが見えてきた。ちょうど夜なのも幸いして実によく見える。


「──あと少しだぞ?シェファロ……あー気絶してる……まあ無理ないか」


 俺は気絶してるシェファロを優しく撫でると、改めて走り出す。


 ここまでは人間はおらず、いても魔物ばかりだったので全速力で飛ばしても問題なかったが。

 さすがにここら辺から人間に出くわすだろう。

 実際俺の魔力探知には人間が複数確認できるようになっていた。


 俺はこっそりと忍び足(時速100キロ)で走り、あっという間に街の中に滑り込む。


 ◇◇


 俺は街に入り、辺りを見回す。

 まず気絶しているシェファロを起こし、そして今回の目的を話すことにする。


「シェファロ、着いたぞ?……ほら、起きろ?」


「……おなかいっぱいの……バゲット……」


 なんか幸せそうだ。だがそれを叩き起し、不満そうな顔をしているシェファロに今回の目的を話す。


 今回街に来たのには二つ理由がある。

 一つ目は食料などの買い出し。

 二つ目に。その目的はただ一つ。


「ぼ、冒険者と手を組む?!ですか?!」


 シェファロの驚きが街にこだまする。


 俺は軽く頷く。


 まあ驚くのも無理はないか。


 と言うのは使である。






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