第7話 追放された件()
次の日俺は父親と母親。つまりはコキュルトとヨミナに呼び出されて馬車に乗せられる。
俺は既になぜ馬車に乗せられているのかについては把握済みではあったが、わざと聞いてみることにした。
「お父様、お母様、今日はどこに行くの?」
二人の返答は無い。その代わり、目元に少しだけシワを寄せたのが答えだろうか。
馬車は家からどんどんと遠ざかり、やがて田園地帯に差し掛かる。
俺の乗っている馬車は仕切りのようなものが反対側に強いてあって、そこにはおそらく誰かが眠っていることが把握出来た。
ふむ、見たところメイドか?……幼いメイドという感じのそれだな。
俺は父親と母親の目を誤魔化しながらこっそりと魔力探知を使い、そいつを観察する
どう見ても幼子、いや俺と同い年ぐらいだろうか。
と、父親であるコキュルトが手をかざす。途端馬車の周囲が加速し……一瞬で別の場所に到着した。
なるほど転移魔法か。初めて父親が使っているのを見たがなるほど便利なものだな。
寸分のズレもなく、本当に正確に別の場所に到達している。その魔法の技量は紛れもなくコキュルトという男が優れた魔法使いであることを俺に示していた。
──示してはいたが、はっきりいってそこまですごいとは思えなかったのは言わないでおくか。
馬車は再び今度は山岳地帯を駆け抜ける。途中魔法を使い、幾度となく転移を繰り返す。
◇
「……着いたぞ、カルロン……ここがお前の新たな家だ」
そして俺たちは新たな家へと到着したのだ。
「ここが……新しい家?お父様、それは一体……?」
「カルロン、貴様ははっきりいって我が家の中で恥である……それぐらい分かるだろう?」
「は、恥ですか?!ぼ、僕はまだ四歳ですよ?!……まだまだここから……」
「黙れカルロン、貴様は他の兄妹と違い魔法をろくに扱えないだろう?その有様では貴様をスカーナリアに入れることなど到底私は許さん」
「う、嘘ですよね!?お、お母様!……お母様?……」
「カルロン。これはあなたの為なの、分かるでしょう?……貴方みたいな弱いものが生きていけるほど魔法の世界は甘くないの……」
「そ、そんなっ……そんなぁ?!」
「はぁ……カルロン。貴様は生まれた時から既にハズレだった、帰還魔法等というハズレ……いや下位互換を引っ提げてこの家に生まれたのだ、むしろ今まで貴様を殺さなかったことを感謝するべきだぞ?」
ふむ、かなり色々と此奴も抱えているのだろう。その表情には後悔、背けたい事実から背けたものだけが持つそれを有しているな。
「……ハズレ……下位互換……お母様、貴女もそんなふうに僕を見ていたんですか?!」
「……分かりなさい、カルロン。貴方は紛れもなく下位互換よ、我がキエスにとって貴方ははっきりいって不要な存在なのよ」
「そんな……そんなっ……こと……こと……」
俺はわざとらしく涙を流す。
「故にカルロン、貴様はここで静かに暮らせ。ではさらばだ、次に会うのは貴様が死んだ時だ……ではな」
「じゃあね、カルロン……そうだ……そこのメイドさんはあなたにあげるわ。その人にお世話でもしてもらって幸せに暮らしなさい」
そうして言いながら俺を馬車から突き飛ばし、起き上がろうとした俺を置いて馬車は再びどこかへと走って言ってしまった。
「そんな、そんなぁぁぁぁぁぁ!!!!お母様!お父様ぁぁぁぁあ!!!!!!」
俺は泥だらけになりながら、涙を零し地面にうずくまる。
俺の慟哭は山々に響き渡り、そうしてどこまでも響いていた。
◇◇
さてと、演技終わり。ではさっさと家の片付けを始めるか。
俺は魔力探知から二人がいなくなったのを確認すると改めて家の中に足を踏み入れる。
そこは一人で住むには少々大きなボロ屋だった。
見張り用の塔もあり、広場には食べ物を育てる場所もある。それならばここで植物を育てるのも有りか。
と、後ろから話しかけられる、
「はぁクッソ!……マジ腹立つ!……こんな辺境の地でアタシ何して生きればいいんだよクッソ!……しかもこんなハズレやろうと一緒に暮らせ?……あーもークソ!」
ほお、口が悪いな。まあ気にしないがな。
「君がメイドか?ふむ、まあよろしく頼む。俺はキエス=カルロン、まあ先程の流れの通り家から追放されただけの哀れな男だ」
「?!お、お前さっきとまるで違うじゃねえか?!……」
俺はさも当たり前のように、
「ふ、当たり前だろう?……あーでもしないと俺は自由になれなかったからな」
そう、俺は自由になりたかったのだ。四歳まで貴族として暮らしてみてある程度わかったことがある。
死ぬほど退屈ということだ。怪我させないように過保護に接され、外で走り回ることなど論外。
魔法は先生が教えるから、それ以外の場所で使うことが許されず。
これでは俺が試したいことが全てできないでは無いか。俺にとってこの世界は試すべき場所だ。
未知で満たされたこの世界。それを一貴族という固定概念の檻の中で過ごすのは不服に他ならない。
故に俺はわざと追放されるように仕向けた。
「まあ俺はわざと追放されたのさ、それを望んだのは俺だ……だから悲しむことなど何一つとしてないぞ?」
「お、おう……?」
赤毛の同い年ぐらいの少女(まあ不良的な印象)のメイドは首を傾げながらため息を着く。
「まあさっさと暗くなる前に家の掃除と食料の調達をしてこなければな、ふむメイド、名前は?」
「あ、ああ……アタシは『シェファロ』……まあよろしくね……」
「ふむ、シェファロ。覚えたぞ?……では時間も少ない事だ、ふむ君はそこで見ていろ。怪我したら危ないからな」
俺はそういうと家の中に足を踏み入れる。そこにはたくさんの雑草が生えており、ガラクタが山のように積み重なっていた。
ふむ、修理して使えるようなものも殆ど無いな。それならば。
「な、なぁ……アンタアタシと同い年ぐらいだよな……?まだ魔法なんて」
「そうだな、普通ならばそう思うだろうが、少し事情が異なるんでな……『
その言葉に合わせて、周囲のゴミが全ていっせいに焼ける。
炎で焼いているのでは無い、文字通り……帰還魔法により灰と燃えさしに帰っているだけだ。
ものを燃やせば灰になる。それが世の理。
「?!な、アンタ魔法を使えるのかッ?!……それにアンタ確か帰還魔法とかいうハズレ……炎の魔法じゃないはずなのに!!?」
ふむいいリアクションだ。なんと言うか気持ちがいいな。
やはり自分だけではこれが凄いことなのか判断しかねていたからな、こうして誰かに反応されるのはモチベーションにも繋がる。
「……なぁに、少し裏技を使っただけだ……さて、これで埃もゴミも消え失せた……あとは……ふむ、シェファロお金は持っているか?」
「え、ええっと……確かこれが……」
ふむ俺には手渡さずにメイドに手渡す。よっぽど俺に関わりたくなかったのだな、どうでもいいが。
俺はそれを手に取る。どう考えても俺とメイドでは足りない程度の金額、それを手渡した意味が少しだけ分かった。
「……ふむこれでは今日のご飯すらままならんな、まあそれは明日にでも街に行って考えるとして」
「街?ここは山の中だろ?……そんな街なんて」
俺はサラッとシェファロに答える。
「あーまあ50キロ圏内にはあるから気にするな」
ちなみにではあるが、この世界は元いた世界と同じ単位を利用しているらしい。
お金の単位である『ゼス』以外はな。
まあそこについては、この世界の基礎を作ったのが日本人の転生者なのだろう。
ぐらいに俺は推測したのだが。
「5、50キロ?!……む、無茶だろ?!アタシもそんな距離走って行けないって……」
「?その程度俺には朝飯前だぞ?」
「……え?」
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