第6話 誘拐された件(顛末)からの追放

 誘拐犯をぶちのめし、その後日課を終わらせて寝た俺。目を開けるとそこは屋敷の中だった。

 最も、寝るだけで俺の魔力は高速で回復するので怪我する心配などはしていなかったが。


 一応俺は置き去りにされる可能性も1%程考えていたが、それは流石に杞憂だったか。


「……心配などいらないぞ!あの誘拐犯たちはみんな処刑した!……もう大丈夫だ!今回はすまなかった!スティス」

「怖かった……怖かったよ!お母さん、お父さんのバカ!!」


「ごめんねハーディアス、あなたに傷をおわせたやつはちゃんと殺しておいたから……ほら、泣かないで」

「うう、ううぅ……」


「ヘルセネー様、すみませんでした!……あぁ……私共がそばにいれば……」

「気にしないわ、……あたしは強い、強いもの……強い……うわぁぁぁん……」


 ちなみに俺には誰も声をかけてこない。まぁそれがこの家にとっての重要度の話なのだろうな。気にしていないが。

 ……少しだけ、兄妹達が羨ましく感じたのはおそらく嫉妬だろうか。まぁ俺は前世では父も母も滅多に家に帰ってくることなど無かったからな、其れのせいだろうか。


 ◇◇


 あの後、スティスの所持していた位置転送魔道具により居場所を特定した父と母を含むたくさんの魔法使い達がこぞって押し入ってきた。

 そしてその現場の様子から、を起こしたのだろう。と言う結論に達したのだとか。


 ふむ、偽装が上手くいったようで何より。俺は自分がやったとバレないように奴らを同士討ちしているように見せかけて位置を配置した。

 手元には金貨をばら撒き、それを掴むように倒れる犯人たち。


 まぁ状況から見ても、俺がやったとはならないように丁寧にセッティングしたのでな。


 んでその犯人たちは、回復魔法で目を覚ました兄妹達の証言により即断即決で処断されたそうだ。

 一応俺がやったと証言してきそうではあったが、父親と母親の性格的にこんなヤツらを生かすわけがないと言う俺なりの信用の結果だ。


 そもそも魔法があるから、相手の証言など聞く必要が無いしな 。


 そんなこんなで俺たちが誘拐された件は幕を閉じた。


 ◇◇


 またしても日常は戻ってきた。俺は立てるようになったことをアピールしながら、外をゆっくりと歩いたりして……

 勿論父も母も俺には期待などしていなかったからか、一度しか見にこなかったが。


 ちなみに俺を見ていてくれたのはメイド達だが、その目は可哀想なものを見る目ばかり。


「……この子やっぱり兄妹達よりも成長が遅いわね」

「ほんと、ただでさえ帰還魔法とか言う下位互換なのに成長まで遅いなんて……可愛そうね」


 そんな会話を聞いた時の俺の内心は「ま、偽装してるからな」以外の何物でもないのだが。


 そうしていつの間にか俺は二歳になり、三歳になり、そして運命の四歳の日が訪れた。


 この世界では魔法を嗜むものは皆『魔皇学院スカーナリア』という所に通う事になる。

 そしてそれが十四歳から二十歳までらしく、其れの入学に向けたことを幼少から教えるのだとか。


 ちなみに貴族は全員強制的にここに入れられるらしいが、その話を聞いた時に俺は……


「なるほど、つまり俺を入れたくないと今後言い出すだろうな」


 そう即座に理解した。

 そしてその判断はしっかりと現実のものとなった。


 ◇◇

 四角のように並べられた席でキエス家の面々が一同に面会していた。

 一番真ん中で指揮を執るのが現、当主『キエス=コキュルト』……カルロン達の父親。


 その隣にいる女性が『キエス=ヨミナ』……カルロン達の母親。


 コキュルトの反対側で腕組みをしているのが『キエス=ヘルリア』叔母である。


 ヘルリアの隣にいるのが『キエス=イフェルノス』コキュルトの父親。


 コキュルトの左どなりにいるのが『キエス=ゲヘナズ』コキュルトの兄。


 その反対側に居るのが『キエス=ロキサス』、父親のもう一人の兄。



 ◇


「……追放?……ですか……」

 コキュルトの言葉に驚くヨミナ。


「ああ、やつははっきりいって未だに学院に入る為のレベルに到達しえない……兄妹と比べて明確に劣っているからな」


「それは確かに最善でございますな、我々キエスの名に泥を塗ることは先祖が許しますまい」

 ゲヘナズがため息を零しながら頷く。


「でも良いのですか?あの子はまだ四歳、はっきりいってまだ伸びしろが」

 再びヨミナが尋ねるが……


「バカをいえ、未だに魔法すら使えない、使えたとしても転移の下位互換たる帰還魔法だぞ?……わざわざそんな奴のために学院の貴族枠を割くなど言語道断」

 コキュルトの意思は既に固まっていたようだ。


「そうですね、それはいい考えだと思います、それに彼を魔法界に送り出さないことも彼の為になるでしょうし」

 ベルリアは諦めたようにそうつぶやく。


「魔法界ははっきりいって実力主義ですからな、あの子のような弱っちいものが生きていけるとは到底思えません、せいぜい冒険者が関の山かと」

 イフェルノスはそう言って目を閉じる。


「ハッ!冒険者?…確かに役立たずにはぴったしだろうよ」

 ロキサスはそう言って笑い飛ばす。


 どうして彼らはこんな会議をしているのか、それはハーディアスとスティス、そしてヘルセネーとカルロン。

 彼らの学院に入る為の指導がまもなく始まるからにほかならない。


「今まで、誰一人として転移以外の魔法を持つことはなかったと言うのに、初めての事ですからな」


 イフェルノスはそういうと手の中に持っているコップをメイドの手元に転移させる。


「それなぁ!……ったくせっかく子供が四人も産まれてくれたんだし、俺の仕事も楽になると思ったのによォ!」


 ロキサスはそう言うと席から即座に離れた位置に転移し、お菓子を持って戻ってくる。


「今更言っても仕方がないでしょ?それにここまで引き伸ばしたんだから、さっさと決めないとじゃないの?」


 ベルリアは手の中でコインを転移させる。


「そうだ、な……それよりも、どの先生を他の子につけるのか……それが重要だぞ?」


 ゲヘナズは呆れたようにコキュルトのそばでその言葉を投げかけ……元いた場所に戻ってくる。


「……本当にあの子、可哀想な子よ……この家で『転移』魔法を使えない時点でこの家にいる資格がないもの……」


 ヨミナはうなだれながら、そう答える。


 ここに居るのはみな卓越した純粋な魔法使い達だ。


 今までひとりとして『転移』以外の魔法を持つことがなかったキエスの面々にとって、カルロンは非常に厄介なものとなっていた。


 ─故に彼らは選択した。




 ◇◇


 次の日、カルロンは父親に連れられて家から離れた場所に移動させられることとなった。


 所謂、追放である。


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