第4話 誘拐された件①

 二歳になる直前、そんなある日のこと。


 俺は父親と母親……では無くメイドたちに連れられて久しぶりの家族旅行に連れていかれていた。

 元々父親と母親が着いてくる予定だったのだが、体調が優れなかったという事で仕方なく後々合流する運びになったのだが。


 俺は正直乗り気ではなかった。というのは当然ながら俺以外の兄妹達も一緒に行くことになっていたからに他ならない。


 話してはいなかったがこの兄妹達に俺は散々邪魔をされたのだ。

 奴らは突然扉を開けて部屋に入ってきて俺のほっぺたをぷにぷにぷにぷに触りやがるし。


 毎度俺を見る度に「うわぁ、ハズレ〜〜」だの、「コイツなんで生きてるの?」だの……全く貴族というのはこうも人を馬鹿にしないと生きていけない種族なのか?


 勿論俺は喋らない。いや別に喋ろうと思えば喋れるだろうが、それで変な注目をされると俺の修行の妨げとなる。


 俺にとって必要なのは時間と、人がいない場所だったのだから……それの妨げになるような事は避けるべきだろう。


 だからなるべく一緒にいる時間を少なくすべく、兄妹達が近くにいる時は泣く演技をしたりして奴らを別の場所に行くように必死に誘導する羽目になってしまい、面倒なのだ。


 そのおかげか知らないがめちゃくちゃに魔力探知が得意になったのは言うまでもないだろう。


 だが今回は強制的な物だ、逃れるすべなど無いわけで。


 ◇◇


「あうー、マッマ、どこ〜どこ〜」


 一応年相応の喋り方をしては見る。うん気持ち悪い。

 すっごい違和感がこびりついてしまうな。なんと言うか演技力をより鍛える訓練にはなりそうとしか言えないな。


 だが、愚かな兄妹とメイドはしっかりと騙されてくれたようで。


「くくくく、聞いたか?ヘルセネー?コイツまだママを探してるってさ」


 ふむ、こいつはハーディアス。あれから二年の時が経ちだいたい年齢としては五歳程だろう。少し生意気さに磨きをかけているようである。

 ちなみに魔力量は俺の一万分の一程度だ。


「ええ、聞いたわ?……マッマ〜〜だって?ぷぷぷ……弱々しいわね!あたしはもうマッマ〜なんて叫ばないわ」


 先程呼ばれていた通りコイツはヘルセネー。齢にして四歳ほど。その割にはマセガキになったものだ、母親の教育の賜物だろうか?

 ちなみに魔力量は俺の一万分の一だ。


「二人とも……こいつをバカにしてやるなって……くくくく……ごめんやっぱりムリ」


 ふむ、コイツはスティス。1番上のハーディアスと同い年だ、つまり五歳……まぁふたごだからな。それは当然だが。


 ちなみに魔力量は(以下略)。


 ◇


 さて俺以外は安定して立てるからか俺だけ未だに乳母車に載せられている。

 心底腹立たしい限りだが、まぁ逆を言うと俺の魔力操作と偽装能力が完璧に機能している証拠でもある。


 今のところ俺を見て、隠している魔力と身体能力の指摘をした奴は一人もいない。

 勿論顔を見に来る『純魔』にもだ。


 今回俺達が連れられて赴くのはキエス家の避暑地のようなもの……今は観光地として機能しているそこ。


 崖の上にそびえ立つ巨大な館。そこに俺たちは向かっていた。

 ちなみに護衛のメイドはあまり強いとはいえず、普通に俺は常時体内の魔力防壁を展開しておく必要があると認識していたので。


 


 馬車を降りて歩いていると、地面に引かれた一枚の布が光り始め……それに飲み込まれた俺たちは見知らぬ場所に転移していたのだ。


 そこはカビ臭く、ホコリが充満している暗い部屋だった。

 そして隣では何が起きたのか理解できない兄妹達と無惨にも殺されたメイドの死骸が転がっていた。


「?!き、きゃぁぁぁ?!!!」


「な、なな……な?!!なん、何、何が?!」


「う、ひ、ひ?!ヒィ、?!!!」


 ふむホラー漫画様々な悲鳴の上げ方だな。よくそこまでの100点満点のリアクションが出せるな。

 俺はそう思いながらそれらを冷静に眺める。


「……よぉし、作戦成功だ兄貴!」


 と、どこからともなく(俺には普通に見えていたが)現れた男がなにかの魔道具を取り出して光らせる。


「さぁて、君たちは今から俺たちの人質となります!……あー子供だから分からないかな?ん?」


「ひ、人質……?!……ふ、ふん!僕達はキエスの人間だ!ここからすぐに……あれ?」


「ど、どうして?!……なんで!」


「て、転移が使えない?!」


 その慌てている様を眺めながら、俺はその場の分析を始める。


 ふむ、先程のあれは転移を封じる魔法の道具だろうか。

 実際今この場になにかの魔法が充満しているのが確認できる。最もそれぐらいであれば俺ならばさっさと吹き飛ばすことは可能な程度だったが。


「おいおいキミ達ィ?逃げようとしてんじゃ……ねェよ?! 」


「……?!ごぶっ?!い、痛い……痛い!」


 ほお、案外大切に人質を扱うタイプのやからではなかったか。

 見た目的には優しそうなのでそう思っていたが、普通に蹴りを子供に入れてくるあたり……普通に愚かな輩だったか。


「……さて逃げようとしたキミ達ィにはァ!罰としてぇ?……この爆発する首輪をプレゼントぉ致しますぜぇ!」


 そう言いながらその男は首輪をくっつけていく。


「あれ?兄貴コイツって……確か価値が無いんじゃ?」


 ふむ誰が価値がないって?

 俺を指さしながら少し頭の悪そうな輩がそう叫ぶ。

 それに対し、リーダー格の男は。


「ああ、そいつはゴミだ……はっきりいって人質の価値は無いはず……まぁほっておいても問題ないだろう……それにソイツは確か『帰還』とか言う一方通行の魔法しか使えないやつだったはずだ」


「じゃーコイツには首輪いらないっすね?というか子供ですし……なんなら眠そうにしてますけどどうします? 」


 ふむ、俺の眠そうな演技に引っかかってくれるとは優しいな。コイツは。

 後で半殺して済ませてやろう。


「……倉庫にでも保管しておけ、俺はこいつらをいたぶった後にヤツらに金を要求するための魔法を送る予定だ」


 そう言いながら男は立ち去って言った。その立ち去る姿をみて俺は。


 なるほど、コイツは確かキエス家にちょくちょく来ていた商人だったな?と思い出していた。

「……待った、一応見張りをつけておけ……まぁ人質の価値は無いが……万が一逃げられると厄介だからな」


 ふむ、なかなかに鋭いじゃないか。


 そうして俺はつるっパゲたおっさんと倉庫にいることになってしまった。

 ちなみにこのおっさん、先程から俺の顔を撫でたり可愛いなぁ……とか言っているのが心配になってくる。何か前の仕事でこんな風な奴がすぐに退職してたような。


 そんなことを考えていたら、隣の方で何かを殴る、蹴る音が聞こえてきた。


 そして兄妹たちの悲鳴。俺は少し耳を凝らして聞いてみることにした。


 ◇


「……てめぇらキエスの連中には散々お世話になってるからなぁ?!……いちいち上から目線で毎回毎回俺たちをバカにしやがって……おい?泣くんじゃねぇ?殴られたいのか?……ん?」


 ふーむ、貴族の性格が裏目に出ているなと俺は呆れかえる。

 貴族はプライドの塊だ。例え商人だろうと、基本上から目線を辞めることは無い。


 それは当然ヒンシュクを買うに決まっているわけで。


 まぁ、エスカレートし始めたら助けてやるか。それまではこの屋敷の構造と位置を確認しながらこっそり『帰還』の鍛錬に当てるとしますか。



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