第2話 おはよう世界

 目を開ける。世界は変わらず気絶する前と同じ様相を呈していた。


 なるほど、幻覚や妄想では無かったか。俺は少し残念に思いつつも世界を再び見つめ直す。


 そうだ、言っておかねば。


 ───『おはよう世界』「あぅううあう」


 うん、やはりこうなったか。実際今の声で親が目を覚ましたようだ。

 全く子供の体はすぐに目が覚めて楽だな。


「あらァ起きたの、カルロン〜んーちゅー」


 なんと言うかスキンシップが激しい親だ。

 それはそれとして俺は再びいくつかのことを考え始めた。

 まずひとつ、昨日気絶してしまった訳についてだ。

 俺はいくつかの仮説を立てた。

 一つ『一日に使用出来る魔力に制限があるパターン』

 二つ『幼少の頃に無理に魔法を使った反動によるもの』

 三つ『魔力切れ』

 この三つだ。俺が行った行為の中で有り得そうなのは、三番だろうか。


「……ーーー」


 おや?何やら父親と母親が話し合っているようだ。せっかくなので聞いてみるとしようか、場合によっては俺の昨日の状態について何か分かるかもしれない。


「……検査の結果だがカルロンはやはり魔力が少ないな、これでは役に立たなすぎるぞ?」

「……そうね、他の兄妹達に比べて圧倒的に魔力が少ないわね……この子どうしてかしら……」


 ……おっと、色々と耳寄りな情報が。


 なるほど俺は魔力とやらが少ないと、そういうわけか。それ故に昨日一度魔法を使用しただけで気絶したと。

 それならば『魔力切れ』が最有力だな

 そして驚くことに俺には兄妹達がいるらしい

 なるほどある意味それは厄介ネタだ。


「おっ、話をしていたら……こら!静かにしろ……『ハーディアス』『ヘルセネー』『スティス』!」


 ヤンチャな声がして俺の目の前に二人の男と一人の女が現れた。

 ふむ、見た目からしてちゃんと父親と母親の血を引いているのだろう金髪碧眼。


 俺はそいつらに絡まれていた。ほっぺたをつついてくる少しタレ目の男が『ハーディアス』だろうか?

 逆につり目で、少し気の強そうな男が『スティス』か?

 そして一番はしゃいでいるのが『ヘルセネー』と。


 ん〜確かに俺が知覚できる魔力の量は俺とは比べ物にならないようだ。

 しかしなるほどな、どうやらこの父親と母親は後先考えず子供を産みまくっているようだ。


 まぁアレか、貴族だからそこまでお金に問題はないということか羨ましいヤツらめ。


 実際俺と三歳程しか変わらないくせに、妙にこいつらは図太そうな見た目をしている。


「〜父上ーコイツが新しい雑魚のおとーと?」

「コイツが『帰還』なの?〜ふーん?ハズレって呼んでもいいの?」

「2人とも、この子がぷぷ……可哀想……ふふふ……だからやめなさい!」


 うーんなんだろうかすっごい嫌な兄妹。俺から言わせてみれば、『帰還』も『転移』も意味としては大したものでは無いように思えるのだが、どうやらこの世界ではそういう訳では無いらしい。


 なるほど、この世界は思っていたより俺にハードモードを押し付けてくるようだな。


 俺は他の奴らが去った後、一人俺自身のできること、これからやるべきことを模索することにした。


 まず俺の課題は一つ『魔力量』、一度放つだけで寝てしまうのは流石に使えなさすぎる。コストパフォーマンス的に換算しても役には立たないだろう。


 2つ目に『帰還』という魔法の性質についてだ。話を聞く限り『転移』の下位互換のような扱い、つまりはバカにされてる節をメイドを含めて色々な場所で聞く。

 その魔法をどうやって使うべきか、それが2つ目の課題だ。


 3つ目『立場』だ。俺は曲がりなりにも貴族という一種の立場にある訳だが、その立場において必要なこと……おそらくだが優雅さや、冷静さなどの要素がこの先必須になるだろう。

 その為に今からできることは何なのか。


 そう考えながらふと、あることに気がついた。


 魔力が昨日より増えている気がするのだ。それは僅かながら俺の体内の熱量が増えていることで気がついたのだが。

 ……もしや魔力は使い切るとより強くなるのか?


 俺はそれを試すために再び『帰還』を唱える。


 昨日は一回で寝てしまったが、今回は果たしてどうなのか。


 ちなみに俺を散々触ったあと、位置を直さずに兄妹達が去っていってくれたことは言わなくてもわかるだろうか。


 おかげで今から試せる。


「……『帰還』!」


 当然声は出せないので、心の中で詠唱する

 すると俺の体が前回と同じように手から出た糸に合わせて引っ張られる。


 さて、それは予想済み……ではここから……





 ……なんと、まだ眠くならないと?


 俺は驚いた。一応仮説の段階ではあったそれにある意味現実味が帯びてきたのだから。


 俺の仮説はこうだ。『魔力』は使い切ると寝るが、寝ている間に少しだけ器が大きくなるのではないか?


 それがもし本当ならば、試さない訳には行かない。

 俺は体に力を入れてみる。

 当然生まれてすぐなので起き上がることは出来ないが、魔力のおかげだろうか少しだけ横にずれた。


 俺は再び唱える───『帰還』


 なんと、再び俺の体は元の位置に移動したのだ。

 しかしそこで俺の魔力が尽きたようでそのまま眠くなってしまった。



 ◇◇



 次の日、俺はそれと同じことをしたのだが……そこで驚きの結果が生まれた。


 俺はてっきり昨日は二回だったので、今日は三回で眠くなると思ったのだが。


 なんと出来たのだ。それだけでなく、体に力を込める際魔力を纏わせるイメージを試して見たところ……なんと体が一気に動けるようになったのだ。


 まだ立ち上がったりは出来ないが、それでもかなりの進歩だと言えよう。


 ◇◇



 さて、今日はどうなるか……俺は再び誰の目も無いことを確かめたら寝床のベットを蹴り、位置を入れ替える。


 そして俺は『帰還』を唱える。


 …………想定外だ。まさか、八回使えるとは。


 それだけでは無い、俺の心臓部が死ぬほど暑くなっていた。


 その日、俺はひとつ新たに自らがやるべきことを増やした。


 それが『魔力の調整』である。体の中の魔力を抑えないと、暑すぎるのだ。


 いや別に暑いだけならばいいだろ?と思うものがいたら、一つ言いたい。いや、言わせてくれ。


 ?と。今は春、そして親たちの会話の中でこの世界にも四季があることがわかっている。

 そして春の時点で暑いのだ。夏になったら俺は蒸し焼きになってしまう、自らの魔力でな。


 俺は暑いのが嫌いだ。昔から頭がぼーっとするのが好きでは無い、それ故にそれも最優先で行うべきことにした。


 ◇◇



 あっという間に冬がやってきた。


 俺は既に『帰還』の魔法を一日に唱えられるようになっていた。

 それだけではなく、体に魔力を纏わせる技術も勿論ものすごくなっており。

 俺の体は既に魔力の鎖帷子で覆われているような状態になっていた。

 実際今の俺が何者かに襲われたとしても、傷一つつかない自信がある。


 それだけでなく、立ち上がることも可能になっていた。なんなら走ろうと思えば走れるのだが、それは流石に親の目が怖い。


 そして最後に


 俺は魔法のヤバすぎる技を見つけてしまった。


 それが『』という技だ。







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