第0章 幼少期編(0歳〜4歳)

第0話ただのプロローグ

 時計の針が遂に帰宅時間へと差し掛かったことを確認して俺は席を立ち上がる。


「では部長、本日もお疲れ様でした」


「お、おう……な、なぁ……もう少しだけ残ってくれたりって……」


 俺は部長には目もくれず立ち去ろうとしていたところを呼び止められる。


「不可です、俺は決められた時刻までしか働きませんので」


 そう言うと唖然としている部長、他の仕事仲間を無視し俺は帰宅の途に着く。


「ふむ、今日は珍しく大雪だな」


 東京にしては珍しいちゃんとした冬の大雪。それは日が少しずつその隆盛を落とす度に強まっていっていた。


 雪で滑って転んだ、などという事が起こらぬように傘をさながらステッキの要領で利用しながら俺は雪道を帰り始める。


 ◇


 男、『大西 大成』が帰ったあと、彼の仕事場では彼の愚痴の言い合いが開催されていた。


 代表はもちろん


「あの野郎!!いくら仕事ができるからって毎日定時退社する事ないだろうが?!」


 ハゲ頭の部長は、渾身の叫びをぶちかます。目は血走り、いらだちを隠せない表情で。


「本当ですねぇ……彼が定時退社しない日を見たことありませんもの……ねぇ〜課長〜あいつの給料下げたりできないのぉ?」


 お局がそう言うと、課長と呼ばれた男は


「無茶を言いますね、あいつの優秀さは社長お墨付きです……それにみなさんも助かっているでしょう?」


 白髪をポツポツといじりながらつぶやく


 その言葉に先程まで文句を言っていたものたちが一斉に黙る。


『大西大成』は死ぬほど優秀な男だ。齢24とは思えぬほどの冷静さと卓越した処理能力を有しており


 実際いまさっきも、みんなに割り振った仕事を全て片付けた上でバックアップまでしっかりととり……それらをまとめて読みやすく整理した上で帰っているのだ。


 もはや文句のつけ所が無いほどの有能。それが彼である


 しかし、若者にそんなふうにされては長年ここの会社を引っ張ってきたもの達にとっては目の上のたんこぶなのである。


 部長と呼ばれた男はため息を吐き出しながらつぶやく


「やつが来てから俺の立場がどんどん無くなっていきやがる……もういっそあいつ死んでくれな……おっと誰も聞いていないな?」


「部長、死ぬとか言ってはダメですよ……」


「わかってるって……」


 しかし彼の願いはしっかりと叶うこととなる。



 ◇




「……ふむ……交通規制がかかったか」


 大西は来た道を引き返して、なるべく雪が少なさそうなルートを検索し直し

 そちらを歩くことにした。


 というのは流石に想定以上の雪だったせいで靴の中が冷たく、さらに滑り止めなどもないためなるべく慎重を期す必要がありそうだと言う判断の末である。


「なるほどこちらの道か、少し路地裏を通らざるを得ないのはあまり宜しくないがな」


 酒場通りを通って路地裏。彼が知る限りあまり治安が良いとは言えないその道を通らなくてはならない。


 まぁそれはそれとして早く家に帰るためには致し方ないと割り切り

 大西は酒場通りを歩き始めた。


 そして殴られた。誰かわからないDQNに


「邪魔だよ!カスが!」


「ふむ……すまない、そこに雪だるまがあるとは知らなかった……私の落ち度だ」


 どうやら雪だるまを作っていたDQNのカップルの邪魔をしてしまったようだ

 踵を返して大西は立ち去ろうとする。


 しかし殴られたのにも関わらず、冷静な対応をされたことが逆にDQNを逆ギレさせてしまった。


「てめぇチョーシ乗ってんじゃねぇぞ!」


「ふむ、調子は至って普通だが?……それにしてもいい雪だるまじゃないか」


 そんなことを言ったところ、まぁおそらくだが酒も入っていたのだろうそのDQN男は


「てめぇみてーな透かした野郎は気に入らねぇんだよぉ!」


 そう言って手に持ったバタフライナイフをくるくると回しながら近づいていく。


 おそらくだが、大西からついでにお金を集ろうとしているのだろうか。


 そのために近くに行ったその時


「アッ、」


 唐突にDQNが転けた。たぶんそこは鉄だったせいだろう

 滑ってしまった。手にナイフを持ったまま


 そしてそのナイフは





 ─────「……なるほど……そうなったか」


 俺の腹に突き刺ささっていた。


 口からぽとぽと、と赤い液体が零れる


 からだから急速に力が抜け始める。


 まぁおそらくだが、俺は死ぬな。そう判断した大西は

 ゆっくりと壁にもたれ掛かり、テキパキとメモを残し始めた『犯人』と『原因』『死因』となるであろうそれを書き留めると、それを親友にメールで送る。


 もちろん画像込みで。


 ちなみに俺を刺してしまった男と女は慌てて逃げていった。まぁあの調子だと救急車は呼んでいないだろう

 それに今は交通規制もかかっている。到着した時俺が生きている確率の方が低いな。


 見ている人もちらほらいたが、既に出来上がっているようで気にしていなかった。


 血が急速にからだから抜けていく反動だろうか、頭がものすごく痛い。


「…………はあ……全く、くだらない人生の結末がこれとはな」


 俺の体には既に雪が降り積もり始めていた。


 俺の死を悲しんでくれるやつはおそらく親友一人だけだろう。母も父もとっくに他界している。


 俺はもうすぐ来るであろう死神を待ちながら、ふと。


「そうだ、ゲームの石を使い切らないと勿体ないな」


 そう思い、震える手で1番好きだったゲームを開く


 だが……


「ふ……まさか……緊急メンテ……とはなぁ……運……ないなぁ……」


 そう言うと俺は本当に意識をブラックアウトさせた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 大西 大成 享年24歳


 彼の人生はここで終わる。



 だがこれはあくまでも『大西大成』という1人の男の物語の終わりである。






 ◇◇◇


 身体が動かない?目を開けるとぼやけて何も見えない

 しかし何かの物音だけが聞こえる。


「あ…………た…………まし………………」


 なんと言っているのか、聞き取れない。それだけではなく、腹の当たりがとてつもなく暑い

 俺は思わず


「暑い!と言うかここは何処だ!」


 もし天国や地獄なら答えてくれないだろうが、それでも一応そう尋ねるつもりだった。


「…………おぎゃあ!!!!!!」


 最初に口から出た言葉に俺は驚く。


 俺は決して馬鹿なことをやっている訳では無い。


 だが俺にはその声を聞いて、すぐに理解した。


 これは生まれ変わっている。……俺はどうやら前世の記憶を持ったままで生まれ直したのだと。


 しかし何を言っているのかよく分からないのは困る。

 俺はもっとよく聞こうと耳に力を入れることにした

 その途端、一気に周囲の音がききとれるようになった

 それは驚きではあるが、助かることなので文句は言わないことにした。


「……この子はハズレですな、この家にとっては間違いなく」


 おいおい、いきなり俺の事を否定されたんだが?












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