『転移魔法』の下位互換と笑われた『帰還魔法』のやばさを理解しているのは俺だけでいい〜〜〜転生した先の名家の中で期待されていない俺の自由な下克上

ななつき

第????話 エピローグtoエンドログ

 時計が聞き馴染みのあるリズムを刻み、ひょっとしたら魔物ですら背伸びをして日向ぼっこを始めたのではないか?と思えるほどの暖かなゆったりとした午後。


 窓辺に腰掛けながら一人の男が読んでいた本をパタリ、と閉じる。

 男は銀髪にすら見えるほどの優しい色の金髪を耳にかけ、目の前に座る男に向き直る。


 相対する少しだけオシャレな服を着た片眼鏡モノクルを携えた若年はひとつ尋ねた。


「──それで今回はなぜインタビューを受けてくださったのですか?キエス=カルロン様」



 それに対し、キエス=カルロンと呼ばれた男はため息をついて答える。


「──君たちが何度も何度も取材をさせろと迫るからだぞ?……全く、君たちのその執着心には感心せざるを得なかったのだからな」


「お褒めの言葉と預からせていただきます!いやぁそれにしても、立派な家ですね!カルロン様!」


「はぁ、まあ当然だろう?むしろこれは控えめに作って貰った家なのだがな?──どうした?俺の立場に見合わないとでも?」


「いえいえ!滅相もありませんよ!『魔皇まおう』と言う最も素晴らしい立場にありながら……これほど慎ましい家に……などという質問、口が裂けても言えません!」


「裂けてるが?」


 わざとらしく驚いた表情をする記者。


「あははっ!気にしないでください、それで──」


 カルロンと呼ばれる男が突然手を上げる。


「済まないな、ティータイムの時間だ……おっと慌てなくていいさ──なぁに君もせっかくだから味わっていくがいい……ウチのシェファロの淹れる紅茶は格別だからな?」


 記者の男は少し申し訳なさそうな顔をして、自分は紅茶が苦手なのだと伝えた。


「何と!……それは少し勿体ないですね、折角ですからこの機会に……とまでは言わんよ……人の苦手をわざわざ克服させる様な優しさは持ち合わせて居ないからな……そしたら珈琲などはどうだろうか?」


「カルロン、持ってきたよ!……おっとそっちの記者さんの分の珈琲はすぐに仕上げてくるね!ちょっと失礼……」


 一人の女性がすっ、と現れてカルロンの耳元でそう囁く。その後すぐにその場を離れる。


「──今のがシェファロ様ですか?貴方様のお后……様の一人でしたよね?」


「──どちらかと言うと彼女は、と言うべきだろうな………」


 そんな僅かな会話の合間に、再びシェファロと呼ばれた女性が……どう見ても男装の令嬢というか、執事のような見た目の女性は珈琲と、付け合せのお菓子を携えて現れた。


「──相変わらず気が利くな、さすがだシェファロ!……記者殿もさあどうぞ……なんせ、あなたのインタビューは非常に長くなりそうな予感がするのでね、……まあゆったりとするとしようか」


「──では貴方様の半生について、いろいろとご質問させていただきます!……ではまずは─────。」


 ◇◇


「相変わらず、冷静なのがムカつくわね!………にしてもあの記者いつまでカルロンを拘束するつもりなのさ!……アンタは良いの?」


 一人の女神がシェファロに尋ねる。


「──ええ、あの方の人生を十周年特別インタビュー記事にされるらしいので……まあカルロン様は謎が多いお方ですし……これを機にみんなもカルロン様の活躍を知って貰えれば嬉しいな〜なんて思っていますからね!」


 心なしか嬉しそうなシェファロに女神『■■■■』はため息をつきながら苦笑いをこぼす──。


「そういえば、王妃様は何処に?あの方はここにいても別に問題ないはずじゃ?……」


「あ〜王妃?あの計略バカは王立図書館に新しいスペースを作る為の会議に出てるよ……まーアイツもまあカルロン一筋のバカだからなぁ……あたしらと同じようにね」


 そういうと女神は微笑んで、シェファロが作った紅茶をすする。


「あっつつ!!女神様前も言ったけど猫舌何ですけど?!」


 ◇◇


 カルロンが記者に話し始めたのは、とある一人の転生者の物語。


 まだ世界に魔法使いと冒険者たちの確執があった時代、ステレオタイプな貴族達が冒険者を見下し……血筋だけが全てだった時代を終わらせた一人の天才魔法使いの物語。


 並み居る実力者をねじ伏せ、魔族を殲滅し……世界のバランスを保った英雄。


 隔たれていた世界樹を統一し、皆平等な時代を作った最強最高の『魔法使い』、その魔法使いの頂点にして皇帝。


『帰還』と言うハズレと呼ばれた魔法を正しく活用して頂点に登り詰めた、一人の転生者の物語の始まりは、とある一人の人生の幕引きから始まったのだ。


 ◇◇


 カルロンはゆっくりと過去を振り返る。たしかあれはまだ自分が『大西 大成 』と呼ばれていた頃の話だな。


 ある雪の日の出来事───────。




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