悪?の組織の基本方針?と始動開始?

(えーっと、マルグリットとギオマーが曾祖母。リーヌとイーザックが母。クラウディア、エステル、イネス、ヴァラが姉妹……とんでもなく複雑怪奇だなおい!)


 場を新生暗黒深淵団エルフ集落支部であるプレハブ小屋に移したシエンは、勝手に大幹部達認定した者達の家族関係に混乱した。


 彼の頭の中では。


 マルグリットとギオマーの曾祖母組。

    ↓

 リーヌとイーザックの母組。

    ↓

 クラウディア

 エステル

 イネス&ヴァラ

 の四姉妹。


 という家系図が作られた。


 なお詳細に説明すると。


 マルグリット《底なし沼の蜜》とギオマー《少女のような兵士》が互いに妻で素直じゃない祖母同盟。

    ↓

 リーヌ《死と労働の神の最高司祭》とイーザック《緩い雰囲気と皮肉屋を併せ持つ護衛》が超甘やかし母親同盟。

    ↓

 クラウディア《長女自称の甘えん坊で司祭》

 エステル《陰鬱な雰囲気のせいでその長女より色っぽい次女》

 イネス&ヴァラ《無垢とおませの姉妹》

 の仲良し四姉妹となる。


(どうなってんだ?)


 心底困惑するシエンだが、間違いなく歴史上トップクラスに面倒な家系図なのは間違いない。問題なのはそこに年齢可変式のこの男を挟むせいで、余計に面倒なことになっていることだが。


 しかし、それは今の状況と関係ない。


「えー、では我が新生暗黒深淵団の大幹部が全員揃った初めての会議を行う! わーぱちぱち!」


 パチパチパチパチ。


 ホワイトボードに第一回世界征服会議と大きく書いたシエンがわざとらしく拍手を求めると、基本的に彼を拒まない女達が拍手を返す。


「まずはお手元の資料をご覧ください。正直面倒だったので、旧暗黒深淵団の資料をこの世界用に機械翻訳してそのまま使ってます。部外秘なので取り扱いにはご注意ください」


 急に社会人のように口調を変えたシエンが、㊙と印字された資料を見るように促す。


「まず旧暗黒深淵団は、別次元に存在する地球と呼ばれる世界……と言ってもその地球世界が百だの千だの存在しますがこれは一旦置いておきます。とにかく数ある地球世界の一つで世界征服。そして世界平和を実現するため活動していた組織です」


 基礎も基礎から入ったシエンの説明に、女達は真剣に聞き入る。


「まあ色々あって俺が生まれる前に九割くらい世界征服が完了しかけましたが、ヒーローって呼ばれる連中に邪魔されて首領だった親父から末端まで全部。大幹部、幹部、怪人、戦闘員の殆どが負けて死んでから復活しました。驚異の科学力と魔法の合体でそういった類ができるとだけ理解してください」


 さらっと死んで復活したという単語が流れたが、この世界において神が介入しない死者蘇生はほぼ行われていないため、かなり重要な発言だった。


「そしてこの世界に漂流してきた訳ですが、勿論我が新生暗黒深淵団も世界征服からの世界平和を目指します。じゃないとマジで百年か二百年後くらいにはこの世界吹っ飛んでるし」


 シエンは常日頃から世界征服とその目的を語っているため新参のマルグリット達も知っているが、それでもこの場で力説する。


「この名簿に載ってる連中は現在全員がジジババです。要所で投入すれば色々とぶっ壊してくれますが、基本的に助っ人参戦くらいだと思ってください」


 超緊急・一九六二年十一月存続臨時作戦参加者名簿。

 成功。


 第一、二、六、七船団制圧部隊名簿。

 成功。


 考えられない作戦Ⅱ参加者名簿。

 成功。


 超破壊爆弾暗号奪取部隊並びに無力化部隊名簿。

 成功。


 水中船位置特定並びに無力化隊名簿。

 成功。


 大陸間攻撃施設破壊部隊名簿。

 成功。


 その他様々。


 機械的に翻訳されているが、見るものが見れば震えが走る時代と作戦目標、それをねじ伏せることに成功した戦力の名が連なっている。


 だが全員が既に老いており、とてもではないが昔のように年中無休で戦うことは不可能だろう。


「なお余談ですが、パソコーン……別次元からの情報では、暗黒深淵団がいた地球は我々が制圧した国に残した極悪人ぶっ殺しシステム。平和維持装置。戦争破壊機能。あと色々が稼働しており、ヒーロー達が機能を段階的に停止しようとしたら戦争が起きそうになって稼働を再開。世界平和は維持されているようです」


 尤もその悪逆非道な行いはしっかりと爪痕を残しているようで、世界は元の原型を保っていない程に破壊され尽くしてしまったようだ。


「なんか、世界平和は正義の味方では不可能だと気が付いてももう遅い。お前達は戦争と虐殺が起こる責任を取れるのか? 取れねえよなあ。だって正義の味方だもん! という奴ですな。とかよく分からないことを言われましたが、現在ヒーローは悪の組織が残した装置を維持する側に回っており、旧暗黒深淵団は試合に負けて勝負に勝ったと言っていいでしょう。以上が我が新生暗黒深淵団の前身です」


 とりあえず旧暗黒深淵団の説明を終えたシエンは、続いて新生暗黒深淵団の活動方針を述べようとする。


「オーク、オーガ、ゴブリンといった、食人で文明圏に攻撃を仕掛け、繁殖に他種族を利用して、やたらと増える連中はぶっ殺対象です。幾つかの集団に交渉から入ろうとしたら、そもそも害意しかなくてとんでもない目にあいました。妖精さん起源かと思ったら、あいつら邪神が人間を面白おかしく壊すために生み出した尖兵かよ。世界平和を実現するには邪魔ですので、見つけ次第ぶっ殺しましょう」


 なんたる悪逆非道。複数の種を見つけ次第殺そうとする宣言など、まさに悪の組織としか言いようがないものだ。新生暗黒深淵団は、シエンが首領となったせいで更に死と破壊をまき散らす存在に変貌したようだ。


「続いて強力な麻薬を作って売り捌いている組織は見つけ次第ぶっ壊しましょう。依存性のある薬物なんて、統治をする上で邪魔にしかなりません。優先順位のトップが俺らではなく薬物になるとか言語道断です。中毒者は毒ドクターの爺さんに渡したら、次の日には元気な人間に戻ってます」


 なんたる極悪非道。真面目に商売をしている組織を見つけ次第破壊するなど、人間の道理を踏み躙っている。その上、より恐ろしい薬物を使用する怪人に渡そうとしているではないか。


「宗教勢力も結構ぶっ潰す予定です。異教徒はぶっ殺せ派は特にぶっ殺します。マジで邪魔。心底邪魔。この世界の戦争の半分以上、幾つかの教会勢力のせいじゃん。麻薬の原産地を巡って神の御意志がどうたらで戦争するんじゃねえ」


 なんたる残酷非道。真摯に神へ祈り、その教えを広めようとしている者達を殺そうとするなど、まさに神を恐れぬ大罪である。


「同じく邪神とか悪神の類を崇めて、世界をぶっ壊そうとしてる連中もぶっ殺します。世界征服は世界が存続していて成り立つものです。その根幹を揺るがす存在は悪の組織と相容れません」


 なんたる無理非道。同じ悪でありながら相容れぬと決めつけ、一方的に殺害宣言をするなど恥の欠片もない言葉だ。


「同じ理由で、悪魔のこちら側への侵略も対処します。最上級の君主級悪魔へは、旧暗黒深淵団の大幹部を投入することも考えられます。つーか怪人が一人、自主的な威力偵察に向かいました。今頃、魔界でどんぱち賑やかにしてると思います」


 しかも、隠居状態のジジババまで引っ張り出していると言うではないか。これこそまさに老人虐待である。


「これと並行して、各国への影響力を強めます。以上が我が新生暗黒深淵団の基本的な行動指針になります。全員が一丸となって世界征服。そして世界平和を成し遂げようではありませんか」


 そう締めくくったシエンは、まさに悪の首領として文句の付け所のない男だろう。


 これには彼に堕ちている女達も拍手喝采。


(……悪とは?)


 ではなく疑問を覚えていた。


 だが重ねて述べるが、悪の組織は悪の組織なのである。なぜなら悪の組織なのだから!

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