正義ではない。ないったらない。

前書き 

三人称に変更



(さーて、世界征服をするために、困ってる奴の弱みに付け込んで協力者を作らないとなあ。なんせ普通の人間に世界征服の協力を頼んでも足元見られて終わりだ)


 二代目暗黒深淵団の首領シエンは、今日も今日とて世界征服のために邪悪な企みをしていた。


(私達、別の次元からやって来たのですが、これから一緒に世界征服どう? みたいなノリも絶対通用しないだろ。いや、悪魔とか邪神とかに分類されてる奴らならいけるか?)


 そこでまずシエンが目を付けたのは、同じ人類の敵である悪魔や邪神といった類の者達だ。


 彼らもまた常日頃から光の世界を狙っており、上手く調整すれば利害の一致で協力関係を結べるのではないかと考えた。


 しかしシエンは悪魔や邪神にあまり詳しくないので、父である大悪王に相談することにした。


「パパ、どう思う?」


 シエンは吐き気を催しながら、悪のドンとして経験豊富な父にパパと呼び掛けて相談する。


『ふうむ。悪魔は契約さえ守れば有用だというのが、様々な次元で共通している。ただ邪神はピンキリだからなあ……この世界の邪神はどれくらいの年齢なのだ?』


「大体一万年とか二万年は生きてるって話だった」


『若いな!?』


(出たよ親父の無駄なスケールのデカさ)


 渦を巻く深淵から驚愕の念が発せられると、シエンは一万年や二万年の邪神が若いと口にした父のスケールの大きさに内心で溜息を吐く。


(普通に考えて一万年とか二万年生きてたら立派な邪神だろ。これだから昭和出身は駄目なんだ。なんたって昭和の悪の組織のトップオブトップは、下手すりゃ世界が生まれ落ちた影だったり、宇宙誕生で分裂してなんとかかんとかなガバガバスケールが多いんだ。いや、怪人のスペックはともかく令和や平成のボスも負けてないとか、パソコーンが言ってたな)


 昭和出身のスケールについて心の中で呟くシエンだが、平成や令和の悪の組織も怪人のスペックが落ちた代わりに、ボスの背景や能力がやたらと濃くなっていることを、交流が続いている怪人パソコーンから教わっていた。


 なおこの交流、シエンが妙なサブカルチャーに触れてしまう原因になるが、それは一旦置いておこう。


『一万歳で邪神って……はあ……新米は面倒なんだよな……』


 そんな桁違いの一人である大悪王が昔を思い出して溜息を吐く。


 しかしそんな桁違いを殺しこそできなかったものの、打ち破ったのがヒーローなのである。


「そんで若い……? 邪神ってなにが面倒?」


『うーむ。若い邪神は全てを破壊してやる! 人間の苦しんでいる姿が大好き! 定命の者っておもちゃだよね! みたいな連中が多い。世界征服からの支配とは相容れない場合が殆どなのだ』


「そんな奴らはぶっ殺そう!」


『うむ。パパたちも若い頃は人間を虐殺しようとする邪神と戦い続けたものだ』


「おのれ若い邪神共め! 人間をおもちゃにして滅ぼすだと!? そんなことはこの悪の秘密結社が絶対に許さん!」


『それでこそ我が息子だ!』


 意気投合する父と子。


 世界征服を成し遂げ人類を支配しようとしている悪の秘密結社にとって、その人間を根絶しようと企む邪神はまさしく水と油。決して相容れぬ間柄なのである。


 実際、大悪王も今は全次元に散らばるかつての仲間達と共に邪神と戦い、世界征服のための道を整えたことがある。


 重ねて述べるが、あくまで世界征服と人間の支配のためだが。


「逆に古い邪神はどんな感じ?」


『古い邪神は、俺は関係ないから好きにすれば? といった意見を持つ者が多かったな。良くも悪くも超越し過ぎているから、俗世への関心が薄いのだ。うむ。やはり世界征服をするなら若造たちが障害になるな』


「ふむふむ」


『なあに。若い邪神がどんなに強力でもパパが出たら圧勝だよ圧勝。ヒーローには百人くらいに囲まれてボコボコにされたけど』


「時と場合によってはとんでもないことになるから、ちょっと気を付けてほしいかなって」


『まあね……』


 シエンは父から俺に任せとけみたいな念を感じたが即座に却下した。


 百人のヒーロー&全宇宙の光と希望に敗れた大悪王だが、裏を返せば馬鹿みたいな攻撃ですら根絶できなかった頑固汚れなのだ。そんな大悪王がシエンの目の前にある渦からこちらに直接現れたら、最悪の場合この星が拉げて世界征服どころではなくなるだろう。


(そんな親父を受け入れられる地球の宇宙さんマジ凄い。尊敬だよ尊敬)


 なおシエンは、そんな大悪王すら受け入れる容量がある地球世界の宇宙を尊敬していた。


『おっほん。邪神は一旦置いておいて悪魔の方だが、こっちはこっちで契約の内容に関してだけは真面目だ。しかし、それ以外は隙を突いたり抜け道を探そうとするから面倒だな』


「うげ。愛社精神がないとかダメダメじゃん」


『うむ』


「駅前で社歌を歌うくらいの忠誠心溢れる戦士を求めているのに、抜け道を探そうなどとは言語道断!」


『全くその通り』


 昭和に頭をやられている親子は再び意気投合する。


 駅前で社歌を歌わせるなど、令和どころか平成の悪の秘密結社でもしていない悪逆非道だが、頭昭和な彼らはそれくらいの忠誠心を持ってほしいと思っているのだ。


 しかし、邪神と悪魔が駄目となれば残された手は少ない。


「……じゃあやっぱり困ってそうな奴を助けて、弱みに付け込んで地道にやるわ」


『……うむ。頑張るのだシエン』


 実働戦力の持久力が衰えていることに頭を痛める新旧のボスは、困っている者達に手を差し伸べることにした。


 あくまで世界征服のために!

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