第44話 革命の狼煙
革命軍の集会の翌日、霞城制圧に向けて早速船が出た。
革命軍の主力とタツキ達4人が動員。相手を甘く見ていないからこそ、中途半端に戦力を分散させずに全力で叩き潰す。
ウミガメの革命旗が風に揺れる。リウを乗せた先頭の船に樹達も同乗し、甲板のところで潮風を浴びていた。その隣にはヤスケがいた。
霞城まではまだ時間がかかる。
樹はこの機会にと気になっていたことを質問してみた。
「知ってる範囲でいいんだけどさ、総督の姉さんと国王はなんで対立してんだ?考え方の違いだけ?それとも過去になにか因縁が?」
「あぁ、そりゃもう因縁大アリよ。冷血王オウキは、なんてったって電脳世界を創ったゲーム会社『DeNoU』の御曹司だからな。それに知らねえと思うが、総督だって元は大企業の令嬢だぜ」
「……それは驚いたな。『LIFE』の制作会社の息子かよ、道理でデータログなんかが隠されている訳だ」
「総督の親父とオウキの親父の会社は元々協力関係にあってよ、『LIFE』を共同開発していた。だが、総督の親父は騙されていたんだ。詳しいことは言えねえが、蓋を開けてみたら利権は全てオウキの親父の会社が独占。そりゃあ揉めるわな」
饒舌に語るヤスケだったが、それを逆に訝しんだのが横で聞いていたジンだった。
「随分と詳しいな。彼女が現実のことを明かしたのか?」
ジンもヤスケ同様、表向きは同志として手を組んでいるが半信半疑。
鋭い視線で試されるが、ヤスケは全く物怖じせずに笑い飛ばして答えた。
「ハハッ、まぁそりゃ怪しいか。なにを隠そう、オラは総督の会社で働いていた社員の息子だからな。内情からなにから全部知ってる」
「そういう繋がりになってんのか。じゃあアンタに咎の炎が点いている理由は?」
複雑な関係に樹は眉間に皺を寄せる。
そしてもうひとつ、彼の出自に関する謎を問いただすと、ヤスケはやれやれという手振りで観念した様に話し出した。
「全部打ち明けねえと信用してくれねぇか。総督とオウキの親父が決裂した時、最も怒りの声を上げたのがオラの親父さ。機密情報とか全部、ブチ撒けようとしたんだよ、無謀だよな」
「そんなことしたら……」
「オメェらの想像通りだぜ。なんせバックには国がついている。そんな巨大な権力に逆らったらどうなるか、想像に難くねぇ」
ヤスケが言うには、彼の父親は『LIFE』開発についての内情を漏洩しようとした罪で『特別極刑』に処されたそうだ。今もこの電脳世界の何処かを彷徨っているか、既に精神を破壊されているかヤスケにすら消息が掴めないという。
そして息子であるヤスケも見せしめに、ゲーム内では咎の烙印を刻まれてしまった。
「オラは現実でムショに投獄されてる訳じゃねえが、まあ運営は好き勝手できんのさ。例えばオラみたいな特定のプレイヤーを咎人にすることも」
「ペナルティのようなモンか。そういえば、刑事さんもそのケースだったな」
樹が兄のことを話に出したので、顔を顰めるジン。
グッと歯を食いしばったのかギチギチと音が鳴る。
「そんな身勝手が許されていいのか!運営の気にいらない人物を次々に咎人にするなんて……!」
怒りで感情が昂ったのか、珍しく声を荒げるジン。
当事者のヤスケはその理不尽に慣れ切っていて、今さら怒ってくれる人がいることが新鮮だった。
「オラの頃は権力の濫用が横行していたんだ、仕方ねぇ。ただ、運営が好き勝手暴れ出すとバランスは崩壊する。近頃、無暗に特別極刑が行使されなくなったのは、炎の国の女王が検閲して権力の暴走を未然に防いでいるからだ」
ヤスケ曰く、炎の国の女王だけは他国のトップ達とは異質な存在だという。
彼女こそ、『LIFE』開発の際に巨額の融資を行った規格外の大富豪だ。1人だけ政府や開発陣と異なる人間であるからこそ、咎の判断を俯瞰的に見ることができる。
つまり、彼女の審査を経てなおも強制的に咎人にされるということは、相応の罪状が認められた場合だ。例えば、京橋などがソレに該当する。
「まぁそういう背景もあってオラ達は総督に加担するし、今のオウキの内政にも不満があるから革命起こすぜって訳よ」
風を浴びながら過去の境遇の話に花を咲かせていた頃。
双眼鏡で航路を確認していた船員達が声を張り上げて注意喚起した。
「前方の空に大量の魔獣確認!こちらへ向かってきます!」
上空から金切り声のような鳴き声。
太古に地球に存在していた翼竜のような魔獣の群れが、敵意を剥き出しにして迫ってきていた。
霞城は魔獣が統治しているだけあって、周辺は魔獣の密度が異様に高い。魔獣から放たれる瘴気が重なり霧となることから、霞城という名前がつけられたのだ。
ジン達が話を中断して迎撃体制に入ろうとしたところ、既に気合いの入った者がいた。
「ランカ、我々の道を阻むモノを残らず一掃してください」
「は〜いリウ様!ランにお任せ!」
総督に命じられた小柄な少女は、小さな手を素早く組み合わせる。革命軍の総督から認められているだけあり、流石に速い。彼女はただの専属料理人ではないのだ。
「ガトリング☆オン!」
彼女の右腕が変形し、黒曜石が腕を覆っていく。
それはやがて漆黒の機関銃に。左腕を支えに、両足を船上に固定して魔力の礫を射出する。
見かけによらない豪快な戦闘方法。
接近戦なら発動までに時間がかかるが、遠距離戦なら滅法強い。ドドドドッという轟音とともに、翼竜を撃ち落としていく。
決して狙いが良いとは言えないが、下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるを体現する。圧倒的な弾丸の暴力、彼女の魔力が尽きるまで装填し続ける。
「リウ様!確認できる魔獣は撃ち落としましたよ!褒めて褒めて〜!」
「偉いですよランカ。革命軍には貴女の力が必要です」
褒められたランカはご機嫌に飛び跳ねて喜んだ。
霞の先にぼんやり見える黒い城の影を見据えて、リウは叫ぶ。
「さぁ皆さん、もうすぐ霞城に到着します!対峙する魔獣の数も増えます、気を引き締めていきましょう!」
リウが船員たちを鼓舞すると、船からは血気盛んな野太い男達の声が返ってきた。
戦争を指揮する者として、彼女は自己暗示をかけて行動を正当化する。
「これは平和を勝ち取る為の戦争です。平和の為に必要な……」
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