第37話 革命の髪飾り

「止まれ!誰に許可を得てこの海にいる?ここがどういう場所か知らねえのか!」


海賊船から拡声器を使って野太い怒号が飛んでくる。樹達の姿は捕捉されていた。

樹はジンに指示を乞う。


「しかし、海は安全じゃないのかよ。海賊だらけだぞ、こんなことなら空を飛んでた方が」


「空にはもっとおっかないのがいる」


「……なるほど。で、策はあるのか?海上戦なんて慣れてないぞ、正面突破じゃかなり分が悪いだろ」


「ある。海の上で戦うのは分が悪いが、船の上で戦うなら我々が不利になることもない。つまり、相手の船上に潜り込む」


ジンは海賊達の威嚇に全く屈することなく、魔法を発動させる。手から伸びる半透明な氷の鎖。遥か遠くへ伸びたソレは、先頭の海賊船を引っ掛けた。


「これで乗り込むぞ」


ジンが指を鳴らした瞬間、氷の鎖はレールとなって通路のような形に展開した。人が1人通れるのがギリギリの幅。鯨の背中から氷の路へ飛び乗ったジンは、凄まじい速度で氷上を滑っていく。


「全く、見かけによらずたまに滅茶苦茶な作戦に出るから驚かされるぜ。俺も覚悟決めて飛び込むしかないってことか!」


無謀にも滑走路へ身を投げたジンに続き、覚悟を決めた樹も身体を滑らせる。


当然、海賊達が大人しく待ってる訳がない。侵入者に対して、激しく迎撃する。


「撃てぇ!氷の道を撃ち落とせ!」


船に装備された大砲の砲筒がグルグルと角度を変えて照準を合わせたら、爆音とともに砲弾が放たれる。黒い爆弾が氷の架け橋を圧し潰すも、間一髪で2人は走り抜ける。崩れた氷塊が海に溶け、ギリギリのところで敵の船の甲板まで辿り着いた。


「コイツ等、本当に乗り込んできやがった!」

「怯むな!構わず撃ち殺せ」


一斉に向いた銃口。暴れる弾丸の渦。

ただこの手の場面は、風の帝国で幾度となく経験してきた。銃を構えた相手には素早く懐に潜り込み、コンパクトな振りで殴り飛ばす。


「なんでもう俺の前に!げぇっ!?」

「魔法使うまでもねえよ。黙って寝とけ」


顎に強烈な掌底。吹き飛んだ海賊の男は、そのまま海に落下していった。海賊達のヘイトが樹だけに集まったところで、今度はジンが背後から始末する。

非常に単純な動き方だが、洗練されていると対処できない。白氷を繋いだ先頭の海賊船の船員は、瞬く間に落水していった。


「怯むな!あの咎人どもを船ごと撃ち落とせ!」


乗っ取られた海賊船を取り戻そうと後続が吠えるが、もう遅い。

海賊船の周りを回遊していた巨大な鯨がここぞとばかりに水上から跳び上がる。巨体はそのまま船に跨り、真っ二つに崩壊。船員たちは荒波に飲み込まれて、気づけば海の藻屑となった。


「ジン、見てみろよコレ。大層な宝箱だ、アイツ等なにか財宝を隠し持ってたのか?」

「ほう……野蛮な賊にしては厳重なロックだ。なにが入っているか分からない、気をつけろよ」


乗っ取った船に積み込まれていた1つの宝箱の存在に気づいた樹とジン。

幾重にも施された錠を解き、慎重に中を開ける。

蓋を開くと、そこにはティアラが眠っていた。角度によって紫にも水色にも光る幻想的な宝石が散りばめられた、芸術的な逸品だ。


ジンはこの謎のティアラの詳細を確かめる。


『革命の髪飾り』……レア度☆☆☆☆☆

・価格……市場価値不明。

・備考……水国革命軍の総督『リウ』がいつもつけている髪飾り。宝石の輝きは、彼女の気高さと上品さを象徴する。


「驚いたな。コレがこんなところにあるとは」


「おい、俺に分かるように解説してくれよ!そもそも革命軍のリウって誰だよ、この世界では有名な名前なのか?」


「……そうだな。着く前にそろそろ伝えておいてもいいだろう。水の国がいま現在、どういう状況に陥っているかを」


ゆっくり揺れる船の上に座り込み、ジンは水の国の情勢について語り始める。


「まず国内は2つの勢力に分かれており、互いに対立している危険な状態だ。ひとつは現在、王として国を統治している『オウキ』派閥。所謂、政府側だな。そしてもうひとつは、革命によってオウキ政権の崩壊を目論む革命軍。この革命軍を率いるのが、総督『リウ』という女性だ」


「女性が革命軍を……。いや、でもそもそもどうして争いが起こってるんだ?」


「考え方の違いだな。国王のオウキは弱者に非常に厳しい。納税額が低い者は取り締まり、暴力をもって支配する。勿論、政府に反旗を翻す革命軍や、奴隷同然の扱いを受ける咎人がまともな扱いを受けるハズもない」


「文字通り革命を起こしてオウキの政権を覆そうって訳か」


「今の政府のやり方では貧富の差は加速するばかりだ。裕福な家庭に富が集中し、一般市民は過剰に締め上げられる。不満も出て当然だろう。また革命軍は咎人に対してもある程度寛容な態度を示しており、贖罪の姿勢を見せているのであれば私刑を行使するべきではないという考え方だ」


「俺達は革命軍に取り入って、一緒に政府を打倒するっていうのが目的でいいのか?例によって政府の奴らが現実世界も裏から操っている権力者連中なんだろ?」


「風帝の話からも恐らく間違いないだろうが、どう立ち振る舞うのが得策かは兄貴達と合流してから決める。どこか、冤罪を証明する重要なデータがあれば良いんだが」


今後の身の振り方に話し合っている頃、眼前にようやく光が見えた。

海賊を退けてから長らく先の見えない夜の海に揺られていたが、遂に水の国の入口である港町の灯りが確認できたのだ。


「海賊船で乗り込むのは流石に目立つ。ここからは俺が海上に氷を張る。やむを得ないが徒歩で移動だ」

「そりゃ当然か。とりあえずこの髪飾りは持ち歩いておこう。こういうアイテムはゲームだと後々効いてくるからな」


樹はひととおり金目のモノや武器、それに問題の髪飾りを回収して収納すると、氷の上に飛び乗った。





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