エピソード27.小さな手助け

「おっ、来たな。頼まれてた物はできてるぞ!」

「あ、ありがとうございます。あの量を一日で?凄いですね!」

「ったりめぇよ!調子が戻ればこの程度は朝飯前だぜ」


 翌日の朝。

 僕は一人、ザカルさんのお店を訪れていた。


「にしても、坊主みたいなちびっ子がが魔道具を作れるなんてなぁ。世界は広い、人は見かけによらねぇってことか」

「あはは……」


 詳しい事は話せない。僕は笑ってその場を誤魔化す。


「魔道具に限らず、武器でもなんでも遠慮せず頼んでくれよ!」

「はい。また来ますね」


 大量の魔道具基盤をポーチにしまい、ザカルさんにお礼を言って宿へと戻る。まだ太陽が昇って少ししか経っていない早朝も早朝。

 二部屋に別れて泊まって居るはずなのに何故か決まって僕のベットに潜り込んでいるナツは、まだぐっすり寝ていた。

 ナツが部屋にいないのに何も反応のないニアも、まだ寝ているのだろう。


 この街に居るのも後3日。

 その間に全ての魔道具を造り終えなければいけない。


 それに、せっかく遠い町まで来たのだから、ゆっくり見て回りたい。


 やりたいこと、やるべき事が沢山ある。

 できることは早めに進めておこう。


 僕は二人が起きるまでの間、起こさないように物音に気をつけながら魔道具制作を始めたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――時間は過ぎ、現在4日目の夜。

 ついに全ての魔道具が完成した。


「……ふぅ。設置は明日、町を出発する前でいいかな」


 昨日今日は、ナツとニアと町を歩いて回った。

 主に昨日は食べ歩き、今日は町に戻るまでの道のりで必要な消耗品の買い足し。


 歩いたり話したり、景色を眺めたりする方が多かったから、想定よりもお金は消費していない。

 明日、どこかでお土産を買ってもいいかな。


「さて、そろそろ寝ようかな……」


 寝る前の数時間、長いこと集中していたので疲れた。


 ベットに移動し、その前で立ち止まる。


「………ナツ?寝てる間ならまだしも、僕より先にベットに入っているのはどうかと思うよ」

「……眠い、ねよ?」

「ニアが心配してるって。昨日の朝のことは覚えてるでしょ」

「慌てたニア……おもしろかった」


 我が物顔で僕のベットに潜り込んでいたナツ。

 部屋には鍵をかけていたはずなのにおかしい。


 ……と思ったけれど、窓は閉めていなかった。

 ここから入ったに違いない。


「はぁ、今日だけだよ」

「んっ……寝る」


 いつもより早く、明日の朝に向けて睡眠を取る。

 相変わらず寝ることには熱心なナツに抱きしめられながら、その日も良質な睡眠をとることが出来た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よっ!3日ぶりか」

「アルゴートさん。遅くなりました」

「いや、俺も今来たばかりだから大丈夫だぜ」


 アルゴートさんの準備が終わり、僕らはライードに戻るため待ち合わせ場所に集まっていた。


「……ふぁぁ……にぃ、ねむい」


 隣には、未だ夢心地か状態のナツ。


「随分眠そうだな。あんまり寝れなかったのか」

「少し起きたのが早い時間だったので」

「ん?何か予定でもあったのか?」

「まぁ、そんなところです」


 少しぼかして返事をした。

 朝早くに起きて何をしていたのか。


 僕は今日の朝の事を振り返る。



ーー朝日が顔を出す前、僕とナツは海岸に出向いていたのだ。

 目的はもちろん、完成させた魔道具の設置。事情を知っているニアも手伝うと言っていたが、部屋を訪れた時にまだ寝ていたので、そのまま寝かせておくことにした。


 遺跡攻略を手伝って貰っただけで、充分助かっていた。


「まずは例の空洞かな」


 この魔道具は、生活排水を海に流しているパイプに取り付ける物。

 パイプの出口にピッタリハマるように取り付けることができ、海に流す前に水の中に入った微弱で有害な魔力を分解させる効果を付けた。


 既に海の中に混ざってしまった魔力を浄化する事はできないけれど、これ以上この海に有害な魔力が流れ込むことは阻止できる。


 元々水を綺麗にする魔道具は設置されていると話していたから、余計な機能は付与していない。

 魔道具も"道具"である以上はメンテナンスが必要。


 しかし、定期的に様子を見に来ることも出来ない。


 よって、自動修繕機能……予め指定して置いた日数が経つと、新品の状態に戻る魔法を付与させてもらった。


 そもそもこれが壊れてしまってはなんの意味もないから、どこまで機能するかは分からないけれど。


「自然は強いからね。これ以上汚さなければ、自身の力だけでその清らかさを取り戻す事ができるはず」

「ん。しぜん……つよし」

「よし!排水用のパイプはまだあるはず。残りも探して、朝日が昇り切るまえに取り付けちゃおう」

「オー!」――



 その後、町に面した海岸沿いを端から端まで歩く事になった。魔道具の数は足りたものの、早朝からする運動にしてはかなりハードなもので、ナツが眠気の限界を迎えているのも、当然といえば当然だった。


「ま、馬車でライードまで戻るのには二日程度かかる。ゆっくりできるかは運次第だが、寝てても特に問題はない」

「ナツー?寝てもいいから馬車まで頑張って。ここで寝ないで!」

「セイタ、馬車来たよ!ナツちゃんの荷物、持っていこうか?」

「さすがにそこまでしなくてもいいよ。大した量じゃないし、僕一人でも持てる」

「はっはっはっ!バ――師匠の息子はしっかり男じゃねーか」

「……褒めてます?それ」


 出発前からそれなりに騒がしい。

 母様が何を頼んだのかは分からないけれど、帰りは一人増えて、より一層賑やかな馬車旅となるだろう。


 静かな時間も良いけれど、やっぱり賑やかなのも楽しい。

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