エピソード25.それぞれの戦い方
「"
魔物との戦闘に入った三人の中で、セイレーンに向かっていったのはセイタだけだった。
音による攻撃は聴いていない。
ゴーレムの時の同じように攻撃を仕掛けるが、ナツの補正が無い魔法はお世辞にも命中率が高いとは言えない。
それでも魔物の中央引きつけるには十分過ぎる威力だ。
――パシュ
「――プアアアア!」
しかし、セイレーンの攻撃は何も音だけではない。
元水霊族の名の通り、水属性の魔法を使用してくる。それも自身の強化魔法の付与が成された魔法を。
――
何も無い地面が歪み、そこから大きな水柱がセイタ目掛けて放たれる。
「"
その攻撃は、彼の背後から放たれるもう一つの魔法によって為す術なく霧散する。
ニアの魔法だ。
セイタはまるで、それが分かっているかのような動きでセイレーンに攻撃を続けている。
声で合図を送っているかのような、見事な攻防である。
「はぁっ!」
自身が放った水柱のせいで一瞬だけ、セイレーンの視界からセイタの姿が消える。その隙を付いて、彼がセイレーンが持つ
「キキキッ……ピガガガァァ」
蹴りつけた位置は完璧だった。
命中した手応えもあった。
だが、その手応えはまた別のモノ。
(核を守る防壁……やっぱり通常の攻撃程度じゃ壊せないか)
一般に、魔物の核は簡単に破壊できる。その性質な特徴は人間の心臓と同じような部位だからだ。
しかし、ことボスに限っては、その認識は危うい。
核から発生する魔力を最大限活かすため身体の目立つ部分に核がある。代わりに、その核を守る強固な結界が無意識かつ常時展開されている。
本来はボスに攻撃を与える事で、その治癒に魔力を割かせ、結界の薄くなった核を破壊するのが鉄則。
もしくは、倒された狂人狼のように、人体……生命活動において致命的な部位の欠損や損傷をさせること。
魔物や魔獣にはこのような倒し方がある。が、超高速回復をする相手にはどちらもそれなりの難易度であることに変わりはない。
「クク…………ピァァァァァァ!!」
耳栓をしている彼女らには聞こえないが、セイレーンが今まで発した事の無い悲鳴を上げた。さらに、その声に呼応するように地面が揺れる。
揺れは規模を増して徐々に壁へと伝わり、壁から2体の魔鉱石ゴーレムが壁を破壊して出現した。
それも通路で倒してきた相手とは桁違いに大きく、広い空間とはいえ、この大きさのゴーレムが2体ともなればセイタたちの動きに大きな制限を受ける。
ゴーレムも巨体故に激しい動きは取りにくそうだが、その巨大な体でセイレーンの前に立ち塞がる。
(これじゃ攻撃場所を視認することが出来ない)
「キキュ……」
「ニアっ!!」
セイタは、肌に感じた危うい魔力よ感覚を捉え、セイレーンの魔法発動と同時に、ニアを抱えて壁に向かって回避する。すると、数秒前までニアが立っていた位置に巨大な水柱が現れ空間を抉り取った。
(発動場所が分からない……魔法の妨害が攻撃速度に追いつかないか)
ニアがセイレーンの魔法を的確に霧散できたのは、彼女の眼によって魔力の流れを読み、魔法発動位置を予知していたから。
ゴーレムによって視界を塞がれた現状では、魔法発動位置を視認した頃には回避が間に合わない。
(だったら……ゴーレムを倒すのが優先だ)
セイタは、ニアを抱えながら片側のゴーレムを指さして、ターゲットの変更をニアに伝える。
(……壊せ……って事かな?敵の位置、見えないもんね)
セイタの意図を読み取ったニアは、大きく頷いて視線をゴーレムに移す。攻撃が止んだタイミングでセイタから離れる。
次の攻撃が来る前に、彼らは分担してゴーレムを相手取る。常に動き続けていれば、セイレーンの攻撃を避けるのは容易い。
(これだけ大きなゴーレムなら、核もその分大きいはず!!)
人型ゴーレムの核は、人間の心臓と同じ場所。
――つまり中心からやや左。
セイタは素早くゴーレムの正面まで飛び上がり、核の部位目掛けて回し蹴りを炸裂させた。
「"烈脚撃"」
威力の底上げと、魔法による攻撃面積の増幅。何より足底から追撃のように放たれる凄まじい衝撃波が発生する。
いくら魔法で強化された魔鉱石であろうと、その凄まじい衝撃には耐えられず。内部の核諸共粉砕してしまった。
走り出してからここまで、僅か7秒半。
巨大であろうと、動かなければただの的。
(……ニアも大丈夫そう)
セイタの圧倒的
「"
初手で放たれる上級広域魔法。巨大な魔法陣がゴーレムを飲み込み、触れたそばからピタリと動きが止まる。
ゴーレムが一瞬で凍りつく様は、まるで少女が指一本で動きを相殺させたかのように見える。
「大きいだけじゃ意味無いんだよ!――"
凍らせたゴーレムの脆くなった外壁を、核ごと粉砕する。セイタと似ているようで、その一連には洗礼された技術が隠れている。
この空間で上級広域魔法を放つ勇気と魔力制御。
どちらにしても簡単にできることでは無い。
核が無くなり、鉱石となって消え去った2体のゴーレム。残ったのは変わらず強化を続けるセイレーンだけ。
(そろそろかな)
(えっと……たぶんもうちょっとだよね?)
しかし、その後の戦闘は長くは続かない。
二人は
「……ん、もー、まんたい。いつでも、いけ……る」
今まで姿を見せなかったナツが、突如として空中に現れた。膨大な魔力を纏っているナツに、驚いているのはセイレーンだけ。
「ヒュアっ!!」
慌てたように悲鳴をあげ、焦った動きで上空のナツを妨害しようと試みるが……
「"
「"
地上の
そうしてセイレーンはただ、膨大な魔力が形になっていく様を待つことしか出来なかった。
死を覚悟するだけの時間が、ただゆっくりとセイレーンを包みこむ。
――絶望
この時の彼女にはそれが理解出来た。むしろ、彼女にしか理解できないだろう。
「――"
刹那、セイレーンの姿は光の底へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます