エピソード24.戦いの準備
――ズドンッ、ゴロゴロゴロ……
特殊な石壁の崩れる音が、遺跡内部に響き渡る。
「"
まだ土煙で視界の悪い中、僕は的確に魔法を撃ち込む。魔力探知でも位置は掴みにくいけれど、核に当たらずとも少なからずダメージは与えられているはず。
「残ってるゴーレムの数、分かる?」
「……んん、けど……5?かも」
「了解!ニア、手分けして倒そう」
「えっ……あ、う、うんっ!おっけー!」
崩れる壁を見て絶句していたニア。呼びかけられた事で現実に戻ってくる。
壁に何か見えてたのかな。
特に異変はなかったと思うけど。
「……にぃ、分かって……ない」
「えぇっ?!な、何を?」
ナツに何故か怒られてしまった。
頭の上に疑問符を浮かばせて、残りのゴーレムを一掃するために動きだした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ、全員片付いたね」
「うへぇ……今みるとすごい数いたねー。先制で数が減らせていなかったら、大変なことになってたかも」
「ニアもすごく助かったよ。核だけを狙って氷粉砕してくれたおかげで、魔物化してた鉱石を回収できる」
「鉱石……?あっ!ここに来た目的って魔鉱石を手に入れるためだった!!」
「忘れてたの?」
「えへへ」
「ニア……あほのこ」
「うっ」
僕の魔法と魔鉱石ゴーレムの相性があまり良くないため、攻略にニアがいてくれて助かっていた。
魔鉱石の身体を強化される前に凍らせる、彼女の技量があってこそ、簡単に倒しきることができた。
「にぃ……あそこ、たぶん……」
話しながら手分けして鉱石を回収する。不意にナツが奥の通路を指さす。僕はそれに応じて頷いた。
「何があるの?」
「遺跡の核……強化魔法を発生させてるボスがいる」
「へーボス……えっ?ボスぅ?!」
「ニア、うるさい……しゃらっぷ」
ボス戦前の緊張感を台無しにされて、ナツがちょっと怒り気味。案外この遺跡攻略を一番楽しんでいるのはナツなのかも。
「鉱石の回収はこんなとこで、奥に進もう」
奥……というよりも、今度こそ通路の行き止まりの大きな扉の先に。
――ギギギギギ
長いこと開かれて居ないような重たい音をたて、扉が開く。今までの通路とは違い、かなり大きな空間と一際強い魔力を放つ中央の
「……人?じゃないよね?!あれって」
「水霊族……とは少し違う。魔物化したセイレーンかな」
「ま、魔物化?!」
「うん。有名なのは人狼族と狂人狼だけど、他の種族にも魔物化が起きる可能性がある。水霊族とセイレーンもその中の一種なんだ」
ニアは初めて聞くことのよう。
けど、僕ら兄妹にとっては、ほんの数日前に魔物化した敵を倒したばかり。説明しながらも、僕の頭は疑問で溢れていた。
(こうも立て続けに魔物化した種族が……偶然?それにしては……)
広い空間で立ち止まるセイタだったが、セイレーンはまだ三人の存在に気がついていないのか。
目を閉じたまま微動だにしない。
「あれ?あのセイレーン、何か持ってるよ」
「あれが遺跡の核、強化魔法を使ってる媒体だ。彼女が魔物化してしまったのは、もしかしたらアレのせいかも」
「セイタっ。魔物化って戻せないの?」
「それは無理だよ。一度魔物になってしまったら、二度と戻ることは無い。何より魔物は倒したら身体は魔力になって消えてしまうから……残るのは魔石だけ」
「そ、そんな……」
「キ……キュアァァァァ!!」
「気づかれた!」
甲高い叫び声が空間内に響く。
同時に辺り一面の魔力が不自然に動き始める。
「な、何……変な音」
「ナツっ、結界を!!」
「んっ――"防音壁"」
異変にを察知した僕は、迷うこと無くナツに指示を飛ばす。その指示の全てを理解して、ナツが結界を張る。
瞬間、僕らの周囲から外の音が一切消える。
「へぇっ?!今度はなに?!」
「これは安全な結界だから安心して。ナツもありがとう、凄い早かったよ」
「……ブイ」
手を伸ばしてピースする妹を撫でる。
魔物の目の前にいるとは思えない、和やかな空間が作られる。
「セイレーンは、歌や言葉といった"音"を媒介にする魔法を得意とする魔物なんだ。特に歌には、人を魅了する力が込められていることが多い」
「じゃあ、あの音は……」
「たぶん、あのまま聴き続けてたら危なかったと思う。魅了自体は直ぐに解除できるけど、効果が魅力だけだとは限らないし」
「ど、どうしよう?!」
「大丈夫。二人ともこれをつけて」
セイタが用意していたのは、耳に収まる程度の小さな木製の円錐。
――ただの耳栓である。
「これは防音の付与がされてるから、どれだけ大きな音も通さない。音さえ聞こえなければ、セイレーンの攻撃は無力化できる」
「わ!凄い!!用意周到だね」
「たまたま昔に作った物を持ってただけだよ」
僕はは嘘と事実が入混じる言葉で濁す。
昔に作ったというのは真実。
たまたま持っていたのは嘘。
持っていたのは、僕が普段、一人でゆっくりしたい時に使っているから。
まさかこんな場面で役に立つとは考えてもいなかったけどね。
「にぃ……でも、それ……じゃ、指示が……」
「うん。戦闘中に音が聞こえなくなる。だから、二人には今から伝える作戦で動いて欲しい。普段以上に集中力を使うから、なるべく早期決着の方法を考えるね」
声が届かないため、その場で咄嗟の連携が難しい。
耳栓に通話機能をつけておけば良かったと、謎の後悔をしていたのはニアには分からない。
僕はできるだけ短く簡単な説明で、作戦の内容を二人に伝える。
「分かった!」
「ん、りょー、かい」
やる気充分、内容もきちんと伝わった様子。
「開始は5秒後、行くよ」
全員が耳栓をつけた事を確認し、セイタが指でカウントする。
――5――4――3――2――1
(ここだ)
――0
結界が消え、僕らは一斉に飛び出した。
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