エピソード23.遺跡攻略
「ほらこっちだ」
アルゴートさんの後ろに続いて、崖の家に戻ってきた。
昨日ここを訪ねた僕らと違い、この長い崖の階段に初めて来たニアが驚いていた。
「昨日は裏庭を案内して無かったからな。基本的に調合とか研究で使う素材はここで育ててんだ」
こんな崖の家に庭が?――と思っていたが、家の入口の横を抜けた裏側に、それなりに広々とした芝の空間があった。
丁寧に畑まであるのだから驚きだ。
崖の上なだけあり、そこから見える海の景色は中々に絶景で、思わず感嘆の声が漏れ出る。
「……塩害の影響が凄そうですね」
しかし、海の絶景が見れるということは、作物を栽培するにはあまりに適していない環境とも言える。
植物の中には塩の影響を受けにくいものも存在するが、あまり多くない。研究に使うには種類が少ないと思う。
「その辺は問題無いんだ。ここら一帯は俺が張った結界で塩の影響はほとんど無いからな。いやぁ、塩の成分を分析して植物に有害なもんだけ弾けるようになるまで、かなりの時間を費やしたが」
かなりの時間を費やしただけで、新たな魔法を生み出したという。その一言で、彼の実力がどれほどのものなのか容易に想像できた。
一般人は時間を費やした程度で魔法を生み出すことは到底不可能なはずだ。
「おっと、話がそれちまったな。例の遺跡ってのはこっちだ」
自ら話を切り上げて案内を再開する。日頃から周りに気を使っている様子が見て取れた。
「アルゴートさんって、凄くいい人だね」
「うん。僕もそう思うよ」
どうやら、彼の優しさはニアにも感じ取れたらしい。
……まぁ、魔法にこれだけ入れ込んでいれば、街で変人だと言われても不思議じゃない。
悪い噂が無かったのは、街の人も彼が周囲の人に配慮していた事を薄々感じていたからだろう。
配慮……してたよね?
すみません、アルゴートさん。
どうしても、アルゴートさんが魔法の話で暴走している様子しか想像出来ないです。
「この先に進んで行くと、細い通路が見えてくる。お前らが言ってた遺跡の入口で間違いないだろうよ」
「中に入った事は?」
「ん?何度かあるぜ。ただ、大して興味が湧くようなもんが無かったからそれ以上奥には入ってないがな」
「……ギルドには話して無いんですよね」
「ん?そりゃ聞かれなかったからな。まさかここの情報を探してるなんて思ってなかったぜ。そもそもここに遺跡が現れるまで、このすぐ後ろに鉱山が繋がっているなんて思ってもいなかったからよ。ま、そもそも普段あの辺には行かねぇし、聞かれる人もいないがな」
この大雑把で適当なところも、変人だと言われる原因の一つではありそうだ。
魔法以外に興味を示さなすぎる。
「見えてきたぞ。あれが入口だ」
話にあった通路を抜けると、崖の中に埋まった遺跡の一部らしきものが確認できた。
「悪いが、俺はこの後予定があってな。中まで着いていけないが……まぁ、お前らなら大丈夫だろうよ」
「はい。ここまでありがとうございます」
「おう、一応は気を付けろよ」
僕たちを遺跡まで案内したアルゴートさんは、手を振って元の道を引き返して行った。
予定……というのは、たぶん母様の手紙の事だと思う。付き合わせてしまってすみません。
「にぃ……中から、まりょく」
「わかった。魔物の強化元はここで間違いないね。時間も惜しいし、早速入ろう」
太陽はまだ頭の上より少し低い。
夕方までには戻れるように、少し忙しなく内部へと進んで行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「にぃ……ひだり……に、みぎ……さん?まだいる、かも」
「了解。――"
狭い通路で大規模な魔法や遺跡を破壊してしまうような威力の魔法は使えない。
よって、大体の位置に狙って撃てばナツの照準確定で正確に
しかし、遺跡全体が強化魔法の影響を受けていて、魔力探知系魔法の障害になっているため数が曖昧。
一瞬とはいえ、撃ち漏らすことも。
「にぃ――っ、まだいち」
「そっちは任せて!"
強化されたゴーレムは、おおよそゴーレムとは思えないような速度で遺跡の壁を縦横無尽に動き回っていた。
その一瞬でかなり近くまで接近される。
「からのぉーーー!"
それを補うように、ニアがその接近を止める。
止めるというか、――粉々に破壊した。
特殊な眼の力なのか、魔力制御も素晴らしく敵の動きを確実に捉えた攻撃ができている。
「ニアは適正が水だったんだね」
「そうだよ!こういう狭い場所では役に立てる!」
洞窟や遺跡などの狭い場所で火属性は大変危険。
酸欠を起こす原因にもなる。
その点、水はそういった狭い場所と相性がいい。
「ニア……すごい」
「ナツちゃんに褒められた!!」
「……この先……暗い?」
「うん。灯りがあった方がいいね」
「えっ?!もう無視?!」
喜ぶニアを他所に、ゴーレムを倒しつつ奥へと進む。
途中までは所々に松明が設置されていたけど、この先は真っ暗で何も見えない。
「"フォローライト"」
明るい光の玉を生み出す。光属性の魔法に見えるけれど、これはただの無属性魔法。母様から聞いた話では、冒険者が覚えるべき魔法の基本だとか。
追従する光の玉は確かに便利だ。
「ちょっと!二人とも待って!置いてかないでよー」
ニヤけていたニアがあとから着いてくる。
「この通路……全然魔物がいないね」
「たぶん、罠か仕掛けがあって入れないんだと思う」
「え?どうして?」
「魔法的な仕掛けがある場所には、魔物を遠ざける魔道具が置かれてる事が多いんだ。せっかくの仕掛けが壊される可能性があるから」
「へぇー!じゃあ床とか壁を要チェックだ!……って、あれ?この先行き止まりだよ?」
「今話したばかりだけど」
「……にぃ、わかって、る、くせに」
「あはは、ナツにはバレちゃうか」
「どゆこと???」
通路の先はただの行き止まり……なわけが無い。
ただでさえここまで一本道だったのに、他に道がある訳でもなく道が途切れている。
それも、魔物が一体と出現しない。
「続いてるんだよ。この道」
行き止まりのように見える壁の先には通路がある。
ご丁寧に大量の魔物とセットで。
一見すればただの壁。気がついても壁を破壊すれば大量の魔物が飛び出す。仕掛けとは程遠い脳筋で安直な罠ではあるけど、意外と効果はある。
「け、けど!どうやって進むの?!」
「それは問題ない。魔物も対応出来ると思うけど、念の為に攻撃の用意はしておいて」
「えっ?!わ、わかった!――って一体何を……?」
「
僕は静かにスーっと息を吸って――
「よっ!」
僕は軽いステップを踏み、壁に向けて回し蹴りをかました。
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