エピソード21.何事も上手くはいかない
「えっとね、私がここに来た理由が、そのおじ……知り合いを助けるためなの」
探そうとしていた人物がニアの知り合いだった。
驚いて再度尋ねてみれば、どうやら過去にあのおばあちゃんと関わりがあったらしく、ニアも子供の頃にあそんでもらったことがあるとか。
「その……知り合い?に、何かあったの」
「病気で寝込んでるだけみたい。今日の予定って言うのが、実はおじさんに会うためだったの。ただ、結構具合は悪そうで……ブレスレットも壊れちゃってたし」
「ブレスレット?」
「うん。おじさんが昔から大事にしてる物で、病気にならない加護がある特別なモノなんだって。ここ数十年病気にならなかったのはこれのおかげだって、おじさん喜んでた」
……一見するとただの気持ちの問題に聞こえるけど、加護がないとは断言できない。
実際、回復魔法が存在するし、加護が付与された装飾品なら、病気や怪我から護ることもできるだろう。
話を聞いた限り、相当強い加護が付与されていそうだ。
……でも、そんな効果の物が簡単に出回るとも思えない。
(って、今はそれよりも)
「その魔道具が本物だったら、僕が直すことできるかも」
「ほんと?!」
「絶対……とは言いきれないけど、今から作ろうとしてる魔道具とは違ってブレスレットは単純な作りだから。その代わり、知り合いの病気が治ったら」
「うん!魔鉱石の加工、頼んでみる!」
「なら交渉成立だね」
ここまで順調に話が進んでいた。
あまりに順調かつ都合のいい展開。この後で帳尻合わせが来るのではないかと、不安になる僕もどこかにいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、身支度を整えた僕達はすぐに寝込んでるというおじさんの元へ向かった。
宿から出て西に向かうと、この町のふんすい広場がある。そこに隣接する一角に目的の鍛冶屋がある。立派な煙突からは何も出ていない。
「おじさんー!魔道具を直せるかも知れない友達を連れて来たよ!」
「……ニア……本当か、ゴホッゴホッ」
「ほら!無理しないで!」
入口からお邪魔して奥へと進み、ニアが声をかける。
すると、さらに奥から弱々しい返事と大きな咳の音が聞こえてニアが駆けだした。
慌てて彼女の後を追いかけると、寝室のベットで横になっている70代くらいの男性がいた。
「紹介するよ!ザカルおじさん!凄い鍛冶師で、魔鉱石の加工もできるよ。こっちが私の友達のセイタとナツちゃん!」
「セイタです。ニアさんには、仲良くして頂いてます」
「……ん」
「おぉ……あのニアに友達が……、嬉しいな。私もきちんと挨拶をしたかったが、こんな状態ですまない」
「いえ、ニアさんから話は聞いています。無理しないでください」
僕は一礼して返す。
喉は特に気にならないが、見るからに顔色が悪い。白い髪が、より顔色の悪さを引き立たせている。
「早速なのですが、大切にしていらっしゃるというブレスレットを、見せて頂いても?」
「おぉ、君が直せると言うのか……」
「絶対では無いですが、おそらく直せるかと」
「おじさん!確かここに入ってたよね?」
パタパタとニアが移動する。
引き出しを開けると、中には一際綺麗に輝く銀色のブレスレットがあった。特殊な模様が形取られている。
魔法付与のためのものだろうか。
形状にも大きな変化は無さそうだ。
……となれば、付与されていた魔法側に問題があるのかも。付与された魔法刻印の劣化で、魔道具も魔力を吸収しにくくなる。
最終的に魔力が吸収できなくなれば、加護はただの飾りになってしまうのだ。
「どう……かな。直せそう?」
「うん、一時間くらいあれば何とか」
「本当か!!……うっ、ゴホッ」
「おじさんは寝てて!ごめんねセイタ、その魔道具、おじさんの思い出の品みたいで……壊れたのも結構気にしてたんだ」
当の本人は本当に苦しそうでそれどころでは無い。
「ナツ」
「……"スリープ"」
僕はナツに頼んでおじさんに魔法をかける。
あれほど苦しそうだったおじさんが、あっという間に寝息を立ててすやすやと眠りについた。
「しばらくゆっくり寝かせてあげよう」
「セイタ……ありがとう」
「そうだニア。この家に空いてる場所ってある?魔道具を作っておきたいんだけど」
「あるよ!!廊下に出てすぐ左の部屋!私はここでおじさんの様子見てるね」
僕の事情を知っているとはいえ、魔道具を作る場所を見られたくはなかった。言われた部屋に移動し、預かった魔道具を机に置く。
「一度、加護と刻印を分離して直すのが早いかな?加護を分離する時に魔道具が壊れないか心配だけど……」
「ん、だいじょう……ぶ」
「あはは、ありがとう」
ナツに励まされるとできる気がしてくる。
僕は服の袖を巻くって気合を入れた。
「修繕開始だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
セイタたちが部屋から出て行ってからかなりの時間が経った。おじさんはベットで気持ちよさそうに寝ているし、私は部屋を眺めることしかやることが無い。
(……ほんの少しだけど、隣の部屋から魔力を感じる)
この眼の副産物なのか、見えない魔力を薄らと視ることが出来た。彼が魔道具を直してくれているんだ。
凄い力を持っていて、それを必死に隠す秘密の多い
――それだけ知っていればいいを
――それだけで信じることが出来るから。
思えば、セイタは初めて見た時から不思議な人だった。
とんでもない量の加護を受けながら、それに耐えられる魔力量を持っていて、しかもその膨大な魔力を簡単に隠してた。完全に街に溶け込んでいて、だから
だって本来魔力は視えないもの。
私が特殊なだけで、一般には見えないのだから、普段から隠す必要なんてないのに。
日常的に魔力を隠している人なんていない。
だから不自然。
(まぁ、私にしか分からないんだけどね)
初めて見つけたあの日から、私の中で彼は特別だった。
「……?なんだろう?」
何となく、胸の辺りに違和感を感じる。なんだか変な感じ。その気持ちは、まだ私には分からない。
「あっ、魔力が……セイタ!」
その思考は、捉えていた魔力が途絶えることで終了した。慌てて立ち上がると、部屋の扉が開いた。
「遅くなってごめん。修繕、終わったよ」
いつも通りの表情で、先程と変わらないままのブレスレットを手渡す。
「早く着けてあげて」
けど分かる。
この魔道具が、とんでもないモノだということが。
ありえない性能に変化しているということが。
受け取ったそれをおじさんの腕に着ける。
すると、
「うっ……は?!身体が軽い!!頭も痛くないぞ!」
寝ていたはずのおじさんがベットから飛び起きた。
「良かった。ちゃんと直せたみたい」
「少年!感謝する!!このブレスレットも、心做しか昔の輝きを放っているようだ」
腕を天に上げ、銀色の輝きに見蕩れるおじさん。
「おじさん、そうだった!とある魔道具の制作で、セイタが魔鉱石とその加工ができる人を探してるの!おじさんできない?」
「む?そんなことか。もちろん問題ない!……いや、問題はあるが」
「どういうこと?できるの?」
「無論できるぞ。ただな……現在魔鉱石が不足していて、ここには無いんじゃ」
「「えぇ?!」」
順調だと思った魔道具制作は、結局振り出しに戻る音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます