エピソード20.環境問題はどこにでも

「アルゴートには会えたのか」

「あ、はい。情報ありがとうございます」

「あのアルゴートが素直に扉を開くとは……さてはお主、少し特殊だな」

「あ、い、いや……えっと」

「ははは、そう慌てなくても詳しく詮索はしない」


 ほんの少しだけしか話していないのに図星な事を聞かれて戸惑う。対するエゼルさんは、にっこりと笑って話題を変えた。


「ここはいい場所だろう?ワシがまだ子どもだった頃からほとんど何も変わっておらん。街並みは進化していけども、この景色だけは変わらない」

「……守って、きたんですね」


 発展していく街を作る傍らで、こうして自然の形を守り抜いていたんだ。


 変わろうとするのが難しいように、同じ形を保ち続けるのもまた、相応の努力が必要である。


「だがの、最近になって、この海も少しづつ変わってしまっている」

「何かあったんですか」


 僕には、この海はかなり綺麗に見えるけど。


「あぁ。有害な魔力が海に広がっている。このままではこの港町に魚が寄り付かなくなる」

「そ、そんな……一体何が」

「あそこのパイプが見えるか?港から海へと伸びるあれだ。あれはこの街の生活排水を海に流すために作られた物で、内部には汚れた水を浄化するための魔法が付与された魔道具が埋め込まれている」


 浄水場……のようなものだろうか。

 これも環境を保とうと行動した魔法使いたちの努力だ。


 しかし、水が汚染されているのであればそこに欠陥があった?


「その魔道具に欠陥は無い。しかし、致命的な隙があるのは事実。水に溶け込んでしまった有害な魔力がある事に気が付かなかったのだ。人間には無害だが、水中の生物は魔力の変化に敏感で、微弱な魔力にも反応する」

「それで少しずつ魚が離れて……」

「そうだ。水中をよく見てみろ。小魚はおらず、有害な魔力に耐性のある水生植物しかいないだろう」


 目で見える場所の水中を覗く。言われて気がつく。動いている生き物の姿が見当たらない。

 植物も種類が少ない気がする。


「……街の人はこの事を?」

「気が付いていない。ワシとアルゴートは頻繁に釣りをしていて気がついたが、水中を毎日見ていなければ当然分からないだろう」


 そう言って海を眺めるエゼルさんの目は、どこか悲しそうで諦めを含んでいた。


「おっと、もうこんな時間か。じじいの長話に付き合わせてしまって悪かったな」


 水平線には太陽が半分隠れていた。

 いつの間にか、夕陽が隠れる程の時間が立っていたらしい。


「あ、あの」

「この辺りは日が沈むと冷える。早く宿に戻るといい」


 手を振ると、そのまま離れていってしまった。

 しばらく無言の時間が続く。


「にぃ……」

「うん。何とかしてあげたいよね」

「……できる?」

「ナツが望むなら、何とかしてみせるよ」

「……がん、ばって」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「もう遅い!迷ったのかと思った」

「ごめん。ちょっと海を見に行ってて」

「あーずるい!私も行きたかった!」

「ま、また明日……でも」

「約束だよ!」


 夕陽が沈む前に宿へと足早で向かった僕たちは、少しお怒りなニアの出迎えにあった。

 プンスカと頬を膨らませて怒る姿は全く怖くも威圧も無いけれど。


「それで、何してたの?」


 とはいえ怒ってる。

 時間には遅くなってしまったけれど、これはきちんと説明しておくべきだろう。手伝ってもらわないといけないこともある。


 アルゴートさんとの内容はぼかしつつ、主に海での出来事について話した。そして、魔力の問題を何とかしたいという旨も伝える。


「それは……やろう!!やった方がいいよ!私も手伝うよ!」

「の、乗り気だね。そしたら探して欲しいお店……というか人?がいるんだけど」

「いいよ!どんな人?」

「魔鉱石を加工できる技術を持つ鍛冶師。魔道具を作るのに魔鉱石がいるんだけど、今回の魔道具にはさらに加工が必要なんだ」

「にぃ……できない?」

「んー、今回はお店の設備もないし、かなり特殊な形状になるから僕じゃ厳しいんだ」


 街に帰ってお店の設備を使えば作れるかもしれないけど、それでも数回は失敗する。魔鉱石の加工や変形は、その道の職人に頼む方が確実である。


「この街の広さなら鍛冶屋とかがあると思うし…探すのを手伝ってもらえると助かる」

「魔鉱石の加工……、できる人知ってるよ」

「ホント?!この街の人?」

「う、うん。その……し、知り合い?」

「そっか、知り合いか……知り合いっ?!」


 魔道具作成最大の問題が、早くも解決する可能性が見えてきた。

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