エピソード17.街の探索と変人の予感

「ん〜〜〜〜!!美味しい!」

「お魚……ひさしぶり」

「確かにね。あの街だと魚は滅多に売ってないから」


 僕たちが入ったのは様々な魚介メニューが揃った、この街定番と謳われる料理店『フラッシ食堂』。


 お昼時という事もあり、店内はとても賑わっている。


「新鮮、……おいし」

「ゆっくり食べなよ」


 新鮮な魚は魔力を多く含み、僕が魔力を注がなくてもナツが美味しく食べれる。こうして三人で食事ができるのもそのおかげだ。


「そうだ!二人はこの後どうするの?」

「僕達?えっと……かあ…じゃなくて知り合いに頼まれ事をされてるから、先にそっちを済ませて来ようかな」

「そっかー。実は私も少し用事があってさ。夕方頃に宿屋集合でもいいかな?場所は教えておくよ!」

「了解」


 今日は別行動になるらしい。


 母様の頼みがどんな物/人なのか分かっていないが、彼女に教えられない事もあるはずだ。


 正直、今日の別行動は有難い。


(ただ、目的の人物がどこにいるのか知らないんだよなぁ。母様は街の人に聞けばすぐに分かるって言ってたけど)


 街の人ではないニアに尋ねるのはおかしな話。

 手っ取り早く情報を知っていそうな店員さんに話を聞いてみる。


「すみません、この街にアルゴートさん?って居ますか」

「アルゴートさん?知ってますよ。この街では有名ですからね。お話したことも無いですし、住んでいる場所も分からないですけど……街の人に聞けばすぐに見つかると思います!」

「なるほど…ありがとうございます」


 有名……?

 有名人と言えば人気者だとか、善人を思い浮かべるものだけど、既に母様のお使いというフィルターを挟んでいるせいでポジティブに捉えられない。


 絶対にまともな人じゃない。

 そんな偏見が頭の中を駆け巡る。


「……たぶん……変わり、もの」

「僕もそう思う。あの母様にろくな知り合いはいないよ」


 とはいえまだ一つの情報だけ。

 イメージだけが先走ってしまっては、相手側に失礼だ。


「僕らはとりあえず、情報収集からだね」

「んっ……さがす」


 無駄な気合いだと薄々感じてはいるが、僅かな希望に賭けて街へと繰り出した。



「アルゴートさんね!あの人なら普段はこの先の釣り堀で魚釣りしてるわよ。家は……釣り仲間のエゼルさんなら知ってるかも」

「アルゴートさん……?ってああ、あの変人アルゴートの事か。家は知らねぇが、いつも東門から街に入ってくるな」

「ここ最近は姿を見てないかな。アルゴートはおかしな魔法の研究ばっかりしてる変人だ。どうせ家に籠って研究してるんだよ」


――まずい。

 街の人に話を聞く度に、嫌な予感が当たっている証明がなされていく。皆が口を揃えて変人と言うから、僕は会ってもいないのに既に頭痛の気配を感じていた。


「アルゴート?あいつなら東の丘の上に一人で住んでるよ。最近は見かけないが」


 最後の最後、釣り仲間だというエゼルさんの情報によってその居場所を特定した。ここまで変人だという噂が広がっているのに、住んでいる場所をしらない人が多すぎる。


「母様とはまた違ったタイプの面倒な人っぽいね」

「あるくの……つかれた」

「もう少しだから、頑張って」


 話では丘と言っていたが、これはどう見ても山。あまりに急過ぎてむしろ崖と呼んでもいい。

 そこに申し訳程度に舗装された階段。誰かが利用していることは明らかだった。


 しばらく傾斜が大きい階段を進んで行くと、一部崖を切り崩して建てたような、小さな一軒家を発見した。

 半分崖に埋まっているから、もしかすると見た目以上の広さはあるかもしれない。


「意外と普通の家だ……」


 しかし、ここまで来るのにかなりの時間がかかる。

 例え変人で無かったとしても、相当な物好きで無ければ住み続けるのは困難を極める。いや、住み続けているから変人なのかな?


「やっぱり変人って噂は本当みたい」

「んっ、間違い……ないっ……」


 久しぶりにしっかり足を動かして歩いたからか、ナツはかなり疲れている。いくら精霊に変わったとしても、体力と言う概念が無くなるわけじゃない。


 日頃からゴロゴロと過ごしていた弊害が、その表情に出ている。


「帰ったら、もう少し運動しようね」

「…………いや」


 すごく……嫌そうな表情をする。

 分かりやすいけど、いざと言う時に備えて体力はつけておくべきだ。ごめんねナツ。


「えっと入口は……ここでいいのかな?チャイムは無さそうだし、ノック?」


 僕は一通り呼吸を整えると、家の扉をノックした。


「すみませーん」


 一体どんな変人が出てくるのか。

 少し身構えて、心の準備をしておく。

「…………」

「……」

『………』


 しかしその心構えも虚しく、返事は聞こえてこなかった。

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