エピソード16.来客と仕組まれたお誘い

「二人共!!見えてきたよ!!」

「……海の……匂い」

「潮の香り!!王都よりも色合いが明るい!人も沢山いるんだろうなー!」

「魚……なら……食べられる」


 馬車に揺られて数日。見えてきたのは全体的に白を基調とした建物が立ち並ぶ港町、――サンシーク。


「にぃ、海……行こ?」

「釣りくらいなら……」


 妹の問いかけに若干詰まって返答する。

 さすがに水着もないし、人の多い所で妹にそんな格好はさせられない。海には危険も多い。


(……どうしてこんな事に)


 はしゃぐ女の子二人を眺めつつ、どうしてこんな状況になっているのかを思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日はお店、辞めておこうか」

「……ん……疲れた」

「ありがとうナツ」


 森での出来事が片付いた後、僕らは魔石の処理をして家に戻ってきていた。


「母様ー?……いないし」

「おサボり?」

「かもね」


 仕事を押し付けておいて、森の守護精霊様本人は外出中……。何をしているんだろうか。


「一応、お店の様子だけ見てくる」

「ん〜」

「そこで寝ないでよー」

「……ん」


 これは寝そうだ。

 空中で寝られると、ベットまで運ぶの大変なんだけど……母様に頼もうかな。


 ローブを丁寧に片付けて、店へと続く扉を開けた。

 少し急いで出てきたから、もう少し店内の掃除をしておきたかった……んだけど。


「…………ニア?何やってるの、そこで」

「あっ!!セイタいた!!ちょ、ちょっと……お店の中に入れてもらってもいい?」

「なんでこんな天気の日に」

「ここまでだったら大丈夫かと思って飛び出して来たんだけど、まさかいないとは思わなくて」

「そもそもどうやってここまで?」

「えっと……気合い?」


 店に戻ってくると、何故かお店の入口前にニアが頭を抱えて座っていた。扉上に少しだけある雨避けで氷から身を守っていたようで。


「まぁ、入っていいよ」

「やった!ありがとう!」


 このまま放り出したままでも良かったけれど、この天気の中、入口で震えている姿があまりに痛々しかった。



「それで、今日はどうしたの?」

「そう!この天気が良くなったら一緒に港町まで行かない?」

「港町って、ここから南の?」

「うん!サンシークだよ!」

「どうして、っていうか、天気が良くなってから来てもよかったんじゃ」

「ハっ?!それはそうだ!」


 何も考えていなかった事は理解した。

 それにしてもサンシークか。


 気分転換に行ってみるのはありなんだけど……


「あの二人が無事かどうか確認するまではなぁ」

『あら、行ってきたらどう?』


 いきなり頭の後ろで声が響く。


「うわっ、母様……ってちょっとっ!!」

「えっと、突然どうしたのセイタ?」

「ご、ごめん、ちょっと……あはは」


(母様っ!!いないと思ったら何でこんなところにいるの?!それに、透明化してるなら先に言って)

『この子があの精霊眼と魔人眼を持った子ね〜』

(分かってるなら急に姿見せないで!)

『この程度の精霊眼で見破られる私じゃ無いわよ』


 そこでドヤ顔されても。


『それに、あの二人なら無事みたいよ』

(なんでそんなことわかるのさ)

『王女さんの方はともかく、騎士さんの方は一度森に入ってるから』


 一度害を及ぼした者は逃がさない。

 つまり、森に入った時点で母様が追跡できる術を持っているわけで。


(ストーカー見たいだね)

『失礼しちゃうわ!!』

「あの……セイタ?」

「ああ、ごめん。サンシークだったよね?僕達も同行させてもらうよ」

「本当っ?!やった!」


 後でナツにも聞いてみないと。

「……行く」

「な、ナツ。いつの間に…」

「あっ、コナツちゃん!おはよー!」

「おは、よ」


 それも心を読まれたかのような返答。


『そうそう。サンシークなら、次いでにお使いを頼まれてくれない?』

(本当の目的はそっちか)


「母様……なまけ、もの」

『なんとでも言いなさい!私は睡眠で忙しいの!』

(それをサボりって言うんだよ)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 日差しが強く、天気は快晴絶好調。

 とても僕らの住む森と同じ大陸だとは思えない。建物が白を基調としてるのは、日差しが強いからだろうか。


 ……地球にいた頃、何かの授業で聞いたヨーロッパの街並みを思い出す。あの時は一生見る事は無いと諦めてたけど、まさか世界を跨いで訪れることになるとは考えていなかった。


「眩しいねっ!」


 白い大きな門を潜れば外からも見えた一面真っ白な世界。町の入口に到着し、乗っていた馬車から降りる。


 この大陸随一の貿易港でもあるサンシーク港町。

 港があるためか、冒険者……のような風貌の集団も多く見かける。


「さーて!まずはどこに行こうかなっ?」

「用事があるんでしょ……?まずはそれを済ませてからの方が」

「ん〜それも……」


――ぐぅぅぅぅ


 聞こえてくるのは腹の音。

 誰のものか、想像は容易い。


「えへへ、まずはご飯にしない?」

「はぁ、落ち着いて食べられる場所、探そうか」

「ん……ごはん、魚」


 到着早々、海を目の前にして僕達はご飯所を探すこととなった。

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