エピソード12.緊急事態
「王女様!!報告します。護衛を含む聖女御一行は、全員無事な模様です!ですがこの天候故、魔物の住む森から抜け出せていない様子」
「分かりました。私が今から救出に向かいます」
「そんなっ!無茶です!この天候で外に出るのは危険です!」
「私の友人の方に、救出するための道具を作っていただきました。安全は保証致します」
「友人……って、いつの間に?!」
「今は一刻を争う事態ですから、お話はここまでです」
あのお二方については、秘密にしておくべきだと彼女と約束しました。
私も、大切なご友人を危険に晒すような真似はしたくありません。王女としても、友人としても。
「私一人でも行きます。ですが……」
専用の鎧を着て、門を守る兵士の止めを振り切って、開け放った門の前には数人の騎士団員が待っていました。
「王女様!我々も御一緒します!」
「……危険ですよ」
「それは承知の上。我が団長のピンチですからね。日頃、団長を振り回している王女様が助けに行くとあらば、その護衛は我々が継がねばならないと言うものですよ」
「そう……ですか。なんだか頼もしいですね」
「というか、ここで王女様を一人で行かせたりしたら、帰ってきた団長にボコボコにされてしまいます」
「違いない!」
「ふふっ、ありがとうございます」
なんといい部下を持ったことでしょう。
ミオンのため、この天候の中飛び出してくれる仲間がいるのです。なんだか私まで嬉しくなってしまいました。
(数人分お願いして正解でした)
一人で行くと強制しても、彼らは勝手に着いてきたでしょう。と言いますか、私はそんなにミオンを振り回しているでしょうか?
「直ぐに出発しましょう!皆さんにはこれを」
私は戴いた袋から円盤のような綺麗な板を騎士団の皆さんに渡しました。先程セイタさんに作っていただいた魔道具です。
ボタンを押すと自動で使用者の頭上に展開し、体を覆う円柱の光によって外からの攻撃を防げるのです。
私はそう解釈し、実際に空から落ちてくる氷の粒を弾く瞬間をこの目で確かめました。
一度、前方から飛んできた木の葉も弾いたので、外からの攻撃は全て防げるようです。
(……これは、扱いに要注意ですね)
これほどの物が出回ってしまったら、現在各地で起きている戦争や暴動が過激化する恐れがあります。
何せ、私が見てきた中でこれが最も優れた防御魔道具であるから。
「お、王女様っ!凄いですよこれは」
「兜を外しても全然問題ありません!一体これをどこで」
「すみません。女の秘密です」
口元に人差し指を当て、秘密にしておくよう注意しておきました。ミオンが信頼を置いている人達です。きっと守ってくれるに違いありません。
「さぁ、出発しましょう!」
「「「はいっ」」」
目指すは北の迷いの森。
ミオン……無事でいてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
――失敗した。
まさかこの道で盗賊に襲われるとは。
聖女様をお護りすべく奮闘したものの、こちらの騎士は3人。圧倒的数の差に、馬車を捨てる選択肢を取らざるを得なかった。
幸い、聖女様の移動が目的だったために馬車に大したものは積んでいなかった。そうでなければ、あれほど迅速に馬車を捨てる判断ができたかは怪しい。
「聖女様、大丈夫ですか?お怪我は……」
「ええ、私は無事ですわ。それより」
「私は大丈夫です。この程度、慣れております」
私は血の流れた痕が残る利き腕を一瞥し、そして周囲に視線を巡らせる。
逃げた先はすぐ横に広がる森。
盗賊を振り切るために入ったが、ここは恐らく迷いの森だ。魔物が住んでいるし、一度入れば確実に迷うとされる霧が立ち込めている。
完全に立ち往生だ。
「皆は無事か!!」
「団長、一先ず動けない者はいません!」
「御者の方も保護出来ました。被害は馬車だけです」
「よくやった。怪我をしている者は……」
「私に治させてください!せめて、このくらいは」
聖女とは、勇者と近しい存在であるとされている。
勇者が魔王を倒す聖なる力、すなわち矛であるならば、聖女は人々を癒す力……補助や回復をこなす盾の面を持つ。
共に多大な魔力を持ち、光の精霊の加護を得ている。こと回復においては、この世界に聖女を超える者はいないとさえ言われているほどだ。
「さて……どうしたものか。先程使い鳩に伝達書を持たせたが、この霧で果たして王城まで辿り着いてくれるかどうか」
怪我人は聖女様が何とかしてくれるだろう。
動けない者もいない。
しかし、食料も水もないこの状況……ここで助けを待つのは無理だろう。
かと言って、無闇に動いても体力を消耗するだけ。やはり大人しく助けを待つべきか?ここは太陽の陽射しが通らない。かろうじて昼か夜かが分かる程度。今宵は非常に冷える。
(明かりと暖の確保が最優先だな)
ここは森の中。暖を取るのに必要な木々は大量に落ちている。
「この中に火魔法を使える者は」
続く言葉は、仲間の騎士の警鐘にかき消された。
「魔物です!!獣型が数匹!」
「皆構えろ!離れすぎるなよ」
真夜中の暗い時間に加え、この霧。
戦うには不向きすぎる。
「"フラッシュライト"」
聖女様の声に、辺り一帯に暖かな光が灯る。精霊加護付きの光魔法だ。
「助かります、聖女様」
「お易い御用です。それよりもお怪我のないように!」
「来るぞ!!」
――ここから、私たちの長い夜が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます