エピソード08.定休日の出会い②

「セイタって、この後予定空いてる?」

「まだやることがあります」

「そっかぁ。じゃあついて行ってもいい?」

「……暇なんですか?」

「あったりー!!」


 受け取った材料と魔石を鞄にしまい、その分の代金を渡す。品物を入れた鞄はマジックポーチと言って、見た目以上の容量が確保されている魔道具。


「別に面白いことはしないですけど……それでも良ければ」

「やった!じゃあおばちゃんまた後でね!」

「迷惑かけるんじゃないよ」


 こうして一人で散策のはずだった買い出しに、一人のおともが仲間になった。



 お店で必要になる物を一通り買い終えた僕は、1週間分の食材を買いつつギルドへと向かうことに。


「へー、セイタって料理できるんだ!」

「……家の人があんまり得意では無いので」

「すごーい!私も食べてみたいな」

「…………」


 彼女を教えてしまったら、いつもの日常が失われそうな気がした。ひとまず沈黙を保って応えとする。


「セイタ、今度作って来てよ」

「……どうして?」

「食べてみたいから!」

「作ったとしても、会えるかどうか分からないですよね」

「じゃあお家教えて!私が食べに行く!」


 は、嵌められた……。

 僕は目を瞑り、一つ二つ考えた後渋々首を縦に振った。


 まったく自然な流れで店の場所を聞き出すなんて。


 どちらにせよ厄介事を持ち込んでしまった。ナツには申し訳ないことをしてしまったな。いつも寝ているから気にしないとは思うけど。


「まぁ、そのうち」

「やった!」


 グイグイと距離を詰められた僕には、日付をぼかす程度の抵抗しか残されていなかった。


 その後も彼女の明るい性格に振り回されながら、食材を求めて様々な店を訪れ数時間。


「その鞄すごいね。そんな大容量のマジックポーチ見た事ない」

「普通のマジックポーチだよ」

「ま、魔道具を持ってるのが既に普通じゃないんだけどね……」


 全ての物を入れて尚余裕な鞄に疑問を持つニア。数時間も一緒にいたので彼女の性格にも慣れてきて、気がつけば敬語が抜けていた。


「そういえば、今はどこに向かってるの?さっき買い物は終わりって言ってたよね」

「ちょっと冒険者ギルドに用があるんだ」

「ギルド……?セイタって冒険者?」

「違うけど、情報収集にね」

「???」


 予定よりも遅くはなったが、母様に頼まれていた森の情報を探しにギルドに来た。僕がこの世界に来てから、ここに入ったのは二回だけ。


 緊張の末に不安な気分を味わう場所。僕はあの雰囲気が苦手だ。品定めされているような、どうにも居心地が悪い。


「えっと……依頼板は」


 受付の横に、学校の黒板よりも三倍は大きい依頼版がある。冒険者の人たちは、ここに貼ってある依頼書から選んで依頼を受けるらしい。


「なんの情報を探してるの?」

「霧の森」

「えぇっ?!あそこは入る事すら出来ない謎の場所だよ?近づく人はいないし、依頼なんてないと思うけど……」

「ない方が僕も有難いんだけどね」


 この数の中から目的のものを見つけるのは至難の業。ニアにも手伝ってもらい、それっぽい内容の紙が貼られていないかをチェックする。


 依頼版は冒険者ランクに合わせて紙が分けられていて、受付に近い方から――


 "S / A / B / C / D / E / Fランク"


 上位のランクに上がるにつれて、その難易度と報酬も上がっていく。Fはほとんど採取系統の依頼ばかり。そこからだんだんと魔物の討伐依頼が増えている印象だ。


「あっ!あったよセイタ!霧の森のやつ」

「本当だ。内容は……

『ここから北西に行った霧の森の一部に抜け道を確認。探索・調査を行った上で、内部の情報の提供を求む』、か」


 ランクはA。


 街からは近いのにも関わらず未探索の土地という事で、危険視されているのだろう。それにしても抜け道か……。


 あの霧の魔法に穴ができるとは思えないけど。


 依頼版の前で考え込んでいると、背後から大きな声で話しかけられた。


「なんだぁ?お前ら。ここはお子様の遊び場じゃねぇぜ。邪魔だからどけどけ」

「あ、はい。すみません」


 気の強そうな大男。

 このタイプは僕の記憶上、関わるとろくなことにならない。素直に道をあけ、目的を達成したのでギルドから出ようとする。


「……待てそこの女」

「私?」

「そうだ。随分可愛い顔してんな。ちょっと来いよ、一緒に遊ぼうぜ」

「ごめんなさい、私今日は彼との予定があって」


 けれど、ニアが男の目に止まり、下心丸出しの顔で呼び止められた。


「そんな細っちい男じゃなくてよ。少し話すくらい、いいだろが」

「きゃっ、や、辞めて」


 丁寧に断りを入れたものの、この手の男はそう簡単に諦めない。強引に彼女の手を掴み引き寄せようとする。


「すみません、僕の連れにあまり触らないでいただけますか」


 その手をさらに掴み、僕は男の動きを止めた。この時点で、厄介事に巻き込まれたであろう事は、僕でなくても分かるほど明確だった。

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