エピソード06.新たな関係
「ひゃぁぁぁっ!しゃ、喋った……?!ミオン!に、人形がっ、喋りましたよ?!」
「お、おお、落ち着いてくださいアヤメ。これはっ……あれです。げ、幻聴……」
「……あ、れ?まだ……お客さん……いた。……こん……にち、は?」
二人が驚くのも無理はない。
兄であるセイタですら人形だと見間違うほどに美しい姿と精霊特有の穏やかな空気。何より、コナツが接客中はほとんど動かずに寝ている事が多いため、そもそも彼女の存在に気がつく者がいなかった。
しかし、初めて見た客が突如動き喋る人形と出会えば……当然このような反応になる。
「今日は早いねコナツ。閉店まではまだ三十分くらいあるよ。まぁ、これだけ寝てれば眠くもないか」
「……ブイ」
「褒めてないよ……」
驚いて固まった二人を放置して、兄妹は日常会話を当たり前のように続ける。まったりとしていて、この場だけ時間の流れが遅くなっているような空間。
あまりの異様さと日常感が混じり合い、固まっていた二人も気勢を削がれて目をぱちくり動かした。
「妹さん、ですか?」
「あ、はい。いつもこんな感じで、人のいる時間に滅多に起きないので、……驚かせてすみません」
「いえ、こちらこそ驚いてしまってごめんなさい」
「……慣れてる……から」
兄に抱きついて、足の後ろからチラリと顔を覗かせて、小さく応えるコナツ。
どこか愛おしさを感じる動きに、アヤメの胸はキュンと締め付けられた。そして、心の中にある感じたことの無い感覚に襲われ、手をわきわきさせてにじり寄る。
「こ、コナツさん……そのっ、わ、私とお友達にっ」
目をキラキラさせてジリジリとナツに詰め寄る王女様。さすがのナツもこれには驚いてセイタのお腹に顔を埋める。
「お嬢様、その、申し上げにくいのですが……大変気持ち悪いです。妹さんが怖がっています」
「ハッ?!す、すみません……あまりにも可愛くて……つい」
「あはは、大丈夫ですよ。妹は少し人見知りでして、人前では毎回こんな感じですから」
セイタはフォローを入れつつ、何かが不満なのか頬を膨らませて無言の抗議をする妹を宥めるため頭を撫でる。
「閉店時間はもう少しありますが……実はこの後予定がありまして、二人のお時間がよろしければ、また後日遊びに来てください」
「是非!!絶対来ますね!」
「お、お嬢様……はしゃぎすぎです」
「えっと……騎士様も、また来てください」
言われずともまた来る予定だったミオンは軽く頷いた。
「無論また来る。それと、騎士様は堅苦しい。良ければミオンと呼んでくれ」
「あっ!!ミオンだけずるいです!私も王女様ではなく、アヤメとお呼びくださいな」
「あ、ありがとうございます……えっと、アヤメさん、ミオンさん。またのご来店お待ちしています」
色々な誤解や騒動があったものの、こうして兄妹は二人と仲良くなった。この国の王女にその護衛と、大層な身分の友人たち。この世界初のお友達は、簡単には会うことができなさそうであった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「うふふ、可愛かったですね妹さん」
「私はこんな暗い時間に、お嬢様を一人で歩かせてしまったことが悔やまれます。申し訳ありません」
「それは……、ミオンがコソコソしていたのがいけないのですよ?」
「うっ……おっしゃる通りです」
笑顔な王女様と、何か気がかりな様子のミオン。
路地を抜け大通りに出たところで店のあった方角に目を向ける。
「どうしたのですかミオン?」
「あのお店、とてもただの兄妹だけで成り立っているとは思えないのです」
「??確かに不思議な二人でしたが、経営に不満はありませんでしたけれど」
違和感に気が付かなかった王女様は、眉をひそめるミオンへ目を向ける。首を傾ける仕草がなんとも可愛らしい。
「かわi……、いえっ。あの兄妹も不思議でしたが、店自体が凄いのです。前に訪れた時は気に止めませんでしたが、あの店には複数の結界が張られていました。それも、王城よりも数段上の複合結界です」
「本当ですか?!王城の結界は、この国の優秀な魔道士数十人が力を合わせてようやく成り立っている結界ですよ?」
「ええ、それほど強い結界を私が見逃すはずありません。複数の結界の一つに、恐らく魔力を隠す結界が混ざっていたのだと思います」
訝しげに眉をひそめ予想を口にするミオン。しかし、彼女とは対照的に、アヤメは可愛らしい仕草で再び首を傾げた。
「隠すと言うと、あの一定量の魔力値分、認識を隠す結界ですよね……。ですが、あの方々は普通にそれなりの魔力を有していることは、私でも感じ取れましたよ?」
「そこが問題なんです。我々に認識できる魔力分減らして尚、王宮魔道士と同等以上の魔力が感じ取れたのです」
「確かに……それって」
「はい、結界のレベルにもよりますが、少なくとも勇者レベルの大きな魔力量を有していることに」
「そんなっ……勇者様は先日発見されたばかりですよ?」
「はい。勇者でも無い人間が、勇者を超える能力を持っていたとなると……」
そこまで言って、二人は黙り込んでしまう。
せっかく仲良くなった兄妹。
この事実を国王に伝えてしまえば、この関わりは途切れてしまうだろう。一般の騎士や王宮関係者と違い、二人にはそれがたまらなく苦しかった。
そうしてしばらく黙ったまま歩いて行った。
「…………」
「…………ふふ」
しかし互いに黙っていて、同じ事を悩んでいると感じたアヤメは、ニッコリと笑った。
そして嬉しそうに告げる。
「私たちはまだ、あのお二人について何も知りません。何か事情があるのでしょう。それに、私にはあのご兄妹が悪い人には見えませんでした」
アヤメはミオンの腕に抱きついて、再度ニッコリ笑う。
「今は二人だけの秘密にしませんか?これからお二人の事を知っていけばいいのです」
「アヤメ様……」
つい可愛らしい姿に抱きつくのを堪え、ミオンは答えた。
「あまり人と関わることの出来ないアヤメ様に、初めての友達ができるかもしれない機会です。私もあの方たちにはお世話になりましたし、今は二人だけの秘密……に、しておきましょうか」
「はいっ!」
実は"二人だけの秘密"という部分に惹かれたとは、到底言えるわけもないミオンだった。
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