エピソード04.お嬢様の悩める愛
ミオンが最近おかしいのです。
少し前まで私の護衛として仕えていました。凛とした立ち振る舞いと、美しい笑顔。初めて、私をあの
あの人といると、毎日が輝いていて……とても楽しかったのです。
ですが、ある日突然、近衛騎士団の団長に任命され、その距離が遠くなってしまいました。
護衛という名目の解除だけは阻止しましたが、私もミオンも忙しい毎日を送っていまして、会う機会はめっきり減ってしまったのです。
彼女の休日にはこっそりお城を抜け出して街で遊び歩いた日々が遠い昔のよう……。
広く寂しい王室で一人、物思いにふけっています。
「お嬢様、学習のお時間です」
「はーい。今行くわ」
今日もまた、つまらない一日を過ごすことになると思うと、なんだか余計に寂しくなってしまいました。こっそり抜け出して、ミオンに会いに行こうかという考えまで浮かんできます。
その途中、いつものようにお城の広い厨房の前を通った時。そこで私はとんでもないものを見てしまいました。
えぇ、それはもう、驚いて物陰に隠れてしまうほど、びっくりしたものです。
(ミ、ミオンっ?!)
あの料理が出来ないと嘆いていたミオンが、厨房で必死に何かを作っていたのです。時々ボソボソと呟きながら、一冊の本を近くに置いて、一生懸命。
……何を作って……誰のためのものですかっ!?
「お嬢様!何をしていらっしゃるのてすか?早く行きますよ」
「ちょっと待っ」
「待ちません!!行きますよ」
「あっ……あぁ……」
私はメイドに無理やり引きずられて、自習室という名の監獄へと連れて行かれました。
「おかしいです……何かあったのでしょうか」
目の前にはノート。
横に山積みの本。
そしてノートを睨む私。その思考は完全に彼女のことでいっぱいです。
「王女様……何かお悩みですか」
眼鏡を付けたこの男性は、私の魔法の先生です。
毎週、私に魔法を教えるため、この場に来て下さるのですが……私が全く勉強に手が付いていない事を心配してくださったようです。
「い、いえ……その……」
私はミオンの事を聞くかどうか悩み、遠回しに尋ねて見る事にしました。
「私の護衛の騎士様の事はご存知ですか?」
「ええ、あの美しい赤髪を目にしたことがあります。この国随一の女騎士だとか」
「そうなのです!!剣を振るう彼女はっ、それはもうかっこよくてっ……」
勢いよく立ち上がった私は、顔を赤くして座り直します。
「さ、最近は騎士団の仕事が忙しいみたいで……あまり会えていないのです。今どうしているか気になってしまい」
「はは、王女様はその騎士様がお好きなんですね」
「すっ、好きだなんてそんなっ!!」
否定はしたものの、周囲の私たちへの見え方がそうだと知って、嬉しさが顔に出てしまいます。
「お力になれず申し訳ないですが、私はあまり王城の事は詳しくなくて……。ああ、でも先日、街で歩いているのをお見かけしました」
「多分休日の日ですわね。何をしていたのでしょう?」
「分からないですね。誰かを追っていたような雰囲気でしたけど」
(休日に何をしているの……ミオン)
まるでお仕事のような休日を過ごしている彼女の姿を聞き、悩みを忘れて呆れてしまいました。
けれどミオンの事ですから、きっと見知らぬ国民のための行動だったのでしょう。彼女の優しさを私は知っています。
「むぅ……ですが、そこで何かあったに違いありません」
結局、私の疑問の解決にはならず、その日のお勉強は捗らないまま終わってしまいました。
「やってしまいました……」
先生が気を使ってくれて、終わっていない問題を課題にしてくれました。関係の無い先生に気を使わせてしまったことに申し訳なさを感じながら、天井を見上げてため息を吐きます。
頭の中でぐるぐると悩んでいるうちに、次第によろしくない怒りが湧いて出てきます。
(そうです!全部ミオンが悪いのです!今から直接会ってとっちめてやります!)
この時の私が半分暴走状態だったのは、言うまでもありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
場所が変わって私は騎士団の訓練所を訪れています。
中では訓練が終わったばかりの騎士さんたちが、汗を拭きながら剣の手入れをしています。
「すみません……」
「はーいどうしまし……王女様っ?!」
突然の来訪に驚かれてしまいました。が、同僚の方々と顔を見合わせた彼らは、にっこりと笑って付け足します。
「騎士団長でしたら、少し前に用事があるとかで出ていきましたよ」
「本当ですか!!ありがとうございます!」
聞きたい情報を手に入れた私は、急いで王城の門へと走り出しました。
「相変わらず、団長は王女様に好かれてんなぁ」
既に頭の中が彼女でいっぱいな私は、後ろでそう呟く騎士さんの言葉を聞いていませんでした。
「お、王女様?!どうしたんですかこんな時間に……」
慌てた様子で門に到着した私に、門を守る門番さんが声をかけます。
「そのっ……ミオン……騎士団長はっ、ど、どちらに?」
「ああ、団長でしたら、用があるからと先程ここを……」
「ありがとうございます!私も行ってきます!」
「えぇ?!何をして……」
「追いかけっこです!!」
もはや意味の分からない、理由になっていない嘘を吐いてこの場を乗り切ろうとしました。当然無理だと思いましたが、もう一人の門番さんが笑顔で後押ししてくれます。
「まぁ新人君、いいじゃないか。いざとなれば団長がいる。王女様、気をつけてくださいね」
「はい!」
こうしてたくさんの人に目撃されながら、私は王城を抜け出すことが出来たのです。
門を抜けると街へと続く大きな橋があります。ここからの街の景色は見事なもので、前はよくミオンと眺めたものです。
「あっ……いました!」
橋を渡りきったところで、少し奥にミオンの姿を発見。
ですが、何か挙動がおかしい……ような?手には謎の袋も持っていますし。もしかして……浮気ですか?!まさか、ミオンに限ってそんな、いや、ですが……。
「こ、こっそり後ろを…………」
気になった私は、こっそり後ろから追いかける事にしました。こんなことなら、もう少し動きやすい服装で来るべきでした。反省です。
後を追うと、しばらく橋から続く街の大通りを歩いていたミオン。何度目かの交差する道を左に曲がり、角の噴水に向かっているようです。
それからまた少しばかり歩き続けて……噴水が見えてきた位置で立ち止まった彼女は、左右をキョロキョロとした後、すぐ横の路地へと入って行きました。
慌ててあとを追いかけると、とあるお店に入っていくミオンの姿を捉えました。
(ここは……アイテム屋さん……?)
あとに続いてお店の前に移動すると、扉の上に店名が描かれています。
"小さなアイテム屋さん"
可愛らしい名前ですね。
私は扉の影から顔をだし、綺麗なショーウィンドウからこっそり中を覗きました。
(なっ……?!)
そこで目にしたのは、1人の少年と……
(ミオン!)
恥ずかしそうに白い袋を渡す、ミオンの姿でした。
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