3覚悟

桃華

「あのさ、素朴な、というかよく考えたら当たり前の疑問なんだけど、『忘れる』ってどんな感覚なの?」

「え?どうしたの急に」

桃華

「んー?だってさ、私たちが感じる忘れるって、なんか、こう、うっすらぼんやりだんだんと消えていく感じじゃん?桜のそれってどんななのかなーって」

「それは…わかんない」

桃華

「だよねー。言うと思った。あ、ポテトちょうだい」

「感覚はわからないけど、怖いのは確かだよ…」

桃華

「…ごめん。無神経なこと聞いた」

「あと、忘れる瞬間が突然、ということもあるらしい。紬から聞いた話だけどね」

桃華

「………」

「もしかしたら明日かもしれないし、何日か後かもしれない。なんなら今この時間だって、ああ、これは紬にも同じこと言ったか」

桃華

「そこは覚えてるんだ」

「でも………もう覚悟はできてる」

桜N

「本来の人生ならする必要のない覚悟。こんな目にあわなきゃいけない理由はなんなのだろうか。私は無神論者だが、神がいるのなら文句を言ってやりたい。『なぜこんな悪意のある奇跡を授けたのか』と。『前世の私がどんな悪事を働いたか知らないけど、現世の私にそれを押し付けるな』と」

「…………ごめん。嘘ついた」

桜N

「そう呟いた私はテーブルの下で拳を握りしめ、震えていた。爪が食いこむ。血が出そうなほど痛い。でも、私の恐怖心に比べたら蚊に刺された程度でしかない」

桜N

「どうせ、この恐怖も無くなるのだろう。今ばかりは『忘れて』ほしかった」

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