最終話:キスから始まる恋もある。

「おはようベルデ」


「おはようケンティー」


なんとなくぎこちないふたりの朝の挨拶・・・。


お互い意識してる。


「あの・・・夕べはごめん」


「うん・・・」


「あのさ・・・今日から俺、学校から帰って来たらベルデの家庭教師やるから」


「かていきょうし?」


「いつベルデが自分の世界に帰れるか分かんない以上、ここで暮らすしか

ないだろ?」

「ここで暮らすために知っておかなきゃいけないことがたくさんあるからね?」


「俺の世界のこと、いろいろ教えるから」

「ひとりでも外に出られるようにしないとな」

「じゃないと俺か母ちゃんがついてないとずっと家から出られないだろ?」


「うん、分かった・・・お願いします」


「素直でよろしい」


ってことで、今日からベルデのお勉強がはじまった。


で、バッカスは相変わらず母ちゃんにへばりついているみたいだ。

甲斐甲斐しく母ちゃんの腰巾着をやってる。

夕べのきっかけをバッカスに話したら親指を立ててウインクされた。


で、「チャンスを逃すなよ」って言われた。


俺のクチから付き合ってって言わなくてもベルデはもう分かってるだろう。

キスから始まる恋もあるってこのことだよな。


その後、バッカスは母ちゃんといい仲になっていった。

いわゆる恋人同士・・・母ちゃんも、なまじ姑息な人間の旦那を持つより

働き者で自分のことを大切に想ってくれる素朴なドワーフのほうがいいって

思ったんだろう。


俺の世界では戸籍のない者との結婚は認められていないから、母ちゃんと

バッカスは夫婦とは呼べない。

でも結婚したって別れる夫婦もいる・・・法律上の結びつきなんてあまり意味の

ないことかもしれない。

大事なのはお互いを思いやる気持ちをどこまで維持できるかだろう。


母ちゃんとバッカスはすばらしいパートナーだって思う。

これで母ちゃんもスーパーのおばちゃんに「あら旦那さん?」って聞かれても

胸を張って「そうです」って言えるだろう。


さて、今度は俺とベルデの問題。

俺はキス以来、改めてベルデに愛してるって気持ちを告白していない。

もう何も言わなくても分かるんだ。

恋ってそういうもの・・・言葉などなくても気持ちは通じ合ってる。


そして同時にベルデの勉強もはじまって彼女はたくさんのことを覚えていった。

日常の常識とか、習慣、法律、パソコンの使い方とかも・・・。

料理も洗濯も掃除も・・・家事一式。

たぶん今ならもうこの世界でひとりでも生きていけるだろう。


で、一番変わったのは俺とベルデの私生活。

今は一緒に風呂に入り、もちろん一緒のベッドで同じ布団で抱き合って寝る。


笑ってふざけて・・・誰が見ても仲のいい恋人同士。

たぶん、お互いが結ばれるのも時間の問題。

俺がベルデを求めたら、その願いは叶えられるだろう。


「あのさ、今更だけど・・・私がなにかの拍子で向こうの世界に帰っちゃ

ったらケンティーどうする?」


「え?・・・それは・・・それは考えてなかった」

「ありえるよな・・・そんなことになったらめちゃ焦るな」

「だけど、そうなっても俺はベルデを追いかけて向こうの世界に行くと思うな」

「どこにいたってベルデと一緒ならやっていけそうな気がする」


「そう・・・でももし向こうに帰れる機会が訪れても私は帰るつもりないから」

「ケンティーとここで毎日ラブラブして暮らすの」

「バッカスも迷子さんがいるから帰らないだろうしね」


「それよりケンティーあんなキスじゃなくて、ちゃんとしたキスして」


「あんなって・・・?」


「寝てる時にキスしたでしょ・・・一方的に」

「あんなキスじゃなくて、ちゃんと気持ちを込めてキスして」


「はいはい・・・お姫様」


俺はベルデのご要望にお応えして気持ちを込めて熱いキスをした。


あやまって異世界からやって来たダークエルフちゃんは俺の恋人になった。

本当に絵に描いたようなエピソードだけど、もしこれが、こうならなかったと

したら・・・でもそれは考えないようにしよう・・・悲しくなるから。


ダークエルフってファンタジーの世界やゲームの世界の中のキャラじゃなくて

たしかに現実に存在するんだ。

ウソだと思うなら俺に家においでよ。

本物の可愛いダークエルフが見れるから・・・あ、ついでにドワーフもね。


おしまい。











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闇のエルフなんて言われてる割に案外ネアカなダークエルフちゃん。〜世界が違っても女の子ってそんなもん〜 猫野 尻尾 @amanotenshi

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