第2話 記憶と現実
それは紛れもなく英雄の記憶だった。
それにしてはしょうもない記憶も沢山あった
ハーレムを築こうとして、一緒に旅していた仲間に妨害されたり
金欠だったことも忘れて高級な飯屋に行き、払えなくて店主に泣きついたり
仲間の一人が欲しいと呟いたアクセサリーを借金してまで買ったり
実際には欲しかったアクセサリーじゃなくてその仲間に呆れられたり
一人で旅をするのは寂しくて、初めて訪れた街で道ゆく人々の一人一人に「一緒に来ないか!?」と声をかけたり……そんな記憶がありながらもその男は紛れもなく世界を救った英雄だった。
ある人を救った、ある家族を救った、ある村を救った、ある街を、ある国を、そして世界さえも、
俺はそんな英雄を知っている。
絵本で、伝記で、演劇で幾度となく見聞きしたある英雄譚。
約200年前、彗星の如く現れ、その時代の誰にも成し得なかった混迷を極めていた世界を平和へと導くということを成し遂げ、そしてまるで役目を果たしたかのようにその後姿を消した、少年なら誰もが憧れを抱くある物語の主人公
そんな記憶を何故か知らないが今年で10歳になる俺が、受け継いでしまった。
普通の10歳の少年なら、自分は選ばれた人間だと思い、冒険に出るのだろうが…俺はそうは思えなかった。
何故なら…
「やあアキラ!やけに神妙な顔してるけど元気にしてる?もちろん僕は元気だよ!」
「別にお前のこと聞いてねぇし、なんで毎日こんな中途半端な時間に来るんだよ。アリス」
そう俺にはこの女の幼馴染がいる
俺より一個上で、来年から名門魔術学校であるサリアス魔術学校に通う天才がいる
この天才のお陰で英雄の記憶を持とうが、勘違いせずに俺は凡人なんだと自覚出来る
俺がこれまでやってきた事、全てにおいて俺より上である身近な天才。
こいつのおかげで俺は家業である民宿を継ぐという決心がついた。
そんな天才が今日も俺に話しかけてくる
「アキラはさ〜、なんでそんなに無気力に生きてるんだい?」
「今さっきお前、俺に対して神妙な顔してるって言ってたのに、なんで無気力に生きてるって断言できるんだよ」
「どうせそんな神妙な顔してるのも、今日限りでしょ、明日にはもうこれまでのように、無気力で堕落した顔つきになってるよ」
「今までの俺ならな」
「?」
「俺はな、今人生で初めて悩みを抱えているんだ」
「何それ?あきらにそんなことあるわけないじゃん」
「は?何を根拠に言ってるんだよ?」
「僕の天才的な直感と、これまでアキラと友達として付き合ってきた経験から」
「残念だがその予想は大きくはずr「あ!あとアキラの人間性!」
キレた。あ〜あこいつ俺の触っちゃいけないとこ触れちゃったね。
俺の水たまり並みの深い懐を溢れさせちゃたね。
よし
「てめぇ、表出ろ」
「魔術の勉強の時間だね!」
なんでこいつはこう言われてこう受け取るんだ
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