第3話 この子のことと、これからのこと

チロチロ…


チロチロチロチロ…


ん、くすぐったい


チロチロチロチロチロチロ…


ちょっと、くすぐったいって!


ハッ!何を?…母を失って、母にもう一度会いたくて魔法を行使したら意識が遠のいて…


 ふと隣を見ると、、、ってなんだこの子は??尖った三角の耳に、細い目、鼻が前に出ていて毛がもふもふしている。全体で80cm位か?その中でも尻尾は全長の3分の1位占めているほど大きい。色は黄色のようなオレンジのような色で、尻尾はほとんどが白色だ。


「きゅ?きゅーん!」


 僕が観察していたらこっちを見て首を傾げたが、次の瞬間には元気よく鳴いて顔を舐めてきた。なるほど、くすぐったいと思ったのはこの子の仕業だったか。


「ハハハッ、可愛いなあお前は。母様に会うことは叶わなかったが、もしかしたら、母様が言っていた僕が命を見ることのできる意味は、この子と出会うことだったのかな、なんて」


 頭や顎下を撫でると喜ぶので撫でながら考える。この子はなんて生き物なのだろうか。この大陸の生き物については勉強してきた。主に魔核を持ち、魔法を使うことの出来る魔物と、魔核を持たず魔法を使えない動物の2種類に分類される。どちらの方が危険か、と問われればどちらも危険と答えるだろう。


 ただ、動物の場合家畜を除いてそのほとんどが巨大である。これは、魔物との生存競争で体の小さく弱いものは淘汰されてきたからだと言われている。そのため動物は魔法を使う魔物に対抗できるよう巨体になったと言われている。


 対して魔物の大きさは完全にバラバラである。どんなに小さくてもそいつは生存競争で生き残ってきた種である。魔法の強さは体の大きさに比例するわけではないので小さいやつは大抵強力な魔法を使う。


 魔法を使うものは全員魔力を体内に有しているのでそれを感知する事が出来るのだが…考えすぎて手の止まった僕の手に自身の体を擦り付けているこの子からは魔力を全く感じない。


 となると動物に分類される訳だが、撫でることを再開した手から感じるこのもふもふとした手触りからは魔物や他の動物から身を守れるとは到底思えない。


 この子は僕が責任を持って守ろう。ただ、動物とはそのほとんどが凶暴である。果たして飼いたいと言って父様に許してもらえるだろうか。


 いや、見たこともない動物を飼うことなんて受け入れられないだろう。命を見る事ができるという、他人にはないものを持って生まれた僕。その結果この子と会えたなら、それはきっと意味のある事なのだろう。


 ならば家を出てこの子と2人で生きていくのもいいだろう。


 「お前は僕についてきてくれるか?きっと険しい人生になるだろうけど絶対に守ってみせるから」


 「キュー?キューンキューン!」


 きっと伝わっていないだろうけど元気にじゃれついてくる。僕らなら不思議と生きていけると自信が湧く。そうだ、これから一緒にいるんだから名前をつけないとな。


 「うーん。君の名前なんだけど、テンはどうだ?人の魂は亡くなったら天に昇ると言われているんだ。君は母様を、思って作り出したものだからなんだけど。どうかな?」


 「キュ!キュキュキュ!」


 おお、なんとなく伝わったのか僕の周りを周りながら喜んでいる。


 「そうかそうか、喜んでくれたなら良かったよテン。僕はウカノ。これからよろしくね」


 「キューン!」


 よし、そうと決まれば家を出る準備をして父様に伝えに行こう。

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