第4話 母の形見と出立

 父様に家を出る許可をもらい、今は持っていくものの準備をしている。とはいえ持っていくものはそんなに多くない。剣と着替えを数着。後は現地調達するしかないだろう。荷物を持って行きすぎても負担になるだけだ。幸い今は春先。凍え死ぬことはないだろう。


 行き先は決まっている。母様が亡くなる時。一瞬の眩く光った後、北側へと光は流れていった。北側は未知の森が広がっている。凶暴な動物や魔物が生息しており、過去の捜索隊もまともな結果を持ち帰れていない。何度も捜索隊は組まれたそうだが、その難易度ゆえに諦められ、現在は森との間に壁を築いている。


 そんな未知の森に行くのは死にゆくものかも知れない。でも、母様が亡くなった時に見た光が行った場所に何があるのか気になる。それに、テンが人の街で受け入れられる可能性も少ないだろう。


 「キュー キュー」


 今も撫でられながら喜んでるテン。一体なんて種類の動物で、どうしてこの子を創り出したのかは分からない。それでもテンと共になら生きていける。そう思えた。


コン、コン


 っ!?まずい。誰か来たようだ。急いでテンをベッドに持っていき、布団を被せる。


 「テン、誰か来たみたいだからその人がいる間は静かにしといてくれ。」


 「キュー」


 伝わっているのかどうか分からないが返事のようなものはしてくれたみたいだ。


 扉を開けるとそこにいたのは母様の専属メイドだった。母様は伯爵家出身だがその時から母様に仕えていたはずだ。そんな者が一体どうしたんだろうか。


 「入れ。どうした?」


 「シンシア様の事で渡したい物があって参りました。」


 「母様の事で?」


 「はい。こちらをお受け取り下さい。」


 そう言って渡されたのは1つのペンダントだった。


 「これは…母様がいつも身に付けていたペンダント?」


 「はい。シンシア様が幼い頃から大切にされてきたペンダントです。自身が亡くなったらウカノ様に渡すよう言われていましたので。」


 「そうか。ありがとう。母様の唯一の形見だ。生涯をかけて大切にしよう。」


 「そうしていただくと私としても嬉しく思います。それとこの家を出るとお聞きしました。どうか、幸せに生きて下さい。シンシア様もそれを望んでいるでしょう。」


 「ああ。分かっているさ。」


 バタン。


 「キューン キューン」


 「良く我慢してくれてたな。えらいぞ。」


 そう言って撫でてやるととても喜ぶ。ははっ、腹を見せて声を出して鳴くほど喜んでいる。


 さあ、そろそろ出立の時だ。一体どんな事がこの先待ち受けているのか。少しの恐怖と、少しのワクワクが入り混じる。でも、この先辛い事があっても、テンもいるし、胸には母様の思いも抱いていればなんとかなるだろうと思える。

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