ココロノサクラサク

 教室に戻る。

 瀬田さんは着いてこない。


 まぁ当然だ。


 あそこから着いてきたらどんだけ強靭なメンタルしてんだって感心してしまう。


 「で」


 小野川さんは席に着く。

 腕を組んだ。

 そしてぎろりと睨む。


 「ひぃっ」


 私は思わず声を出してしまう。


 小野川さん的に言うのならば、


お互いの愛が再認識できました。 円満具足でハッピーエンド!


 じゃないのだろうか。


 なんか怒らせるようなことしたかな。


 少し思考を巡らせる。

 うーん、わからん。


 「な、なんです。小野川さん。私なにかしましたか。あ、あの、思い当たる節がないんですけど」


 誤魔化すのは良くないと思って素直に言葉にする。


 「それよ」

 「は、はい?」

 「だからそれよ」


 小野川さんはピシッと指差す。

 はて、と私は首を傾げる。


 「なんで私のこと小野川さんだなんて言うのかしら。なんて敬語みたいな口調になっているのかしら」

 「あ、たしかに……」


 両手で口を覆う。


 「私のこと嫌いなわけ?」

 「そ、そんなことはないで……ないよ」

 「本当に?」

 「うんうん。だってわ、私……愛姫と結婚したいくらい好きだもん」


 おどけてるような雰囲気を醸し出すが、嘘偽りない。

 もしも法律がそれを許すのなら、今すぐにプロポーズしたい。

 そのくらいには気持ちは大きくなってる。


 「じゃあ、ちょうど良いわね。結婚しちゃいましょうか」

 「う、うん。って、え?」

 「約束よ。私たちが社会人になったら結婚しましょう。その頃には法律変わっているんじゃないかしら」

 「そうかな」


 小指と小指を絡ませる。


 「約束」


 教室で優しい声が響く。

 その響きも逃げるように消えていき、教室には静寂だけが残る。

 私たちは額と額を合わせ、呼吸の音を混ぜ合う。

 その呼吸音をもっとも自然な形で止めた。

 その瞬間に私の瞼の裏には花びらが咲く。


 それはまるで


 季節外れの桜が咲いたかのようだった。

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