第2話

偵察隊員達が集落中央の広場の入口で足を止めた。


ざっと100人程の集落の住人が、老若男女問わず血だるまになって倒れていた。

辺りには早くも甘ったるく苦味とすっぱみが入り交じった死臭が重く立ち込めていた。

隊員達は何度嗅いでも慣れない臭いに顔を強張らせた。

軍曹の階級章を付けた大柄の東洋人が軍隊用の手話で黒人と東洋人の兵士に広場の捜索を指示し、自分はもう一人の東洋人の兵士と共に広場を取り囲む様に並んでいる粗末な家の捜索を始めた。


手前の家の中を注意深く除き込んだ軍曹はむっつりと口を閉じたまま、喉の奥から不機嫌な大型肉食獣の様な唸り声を発し、若い東洋人の兵士は息を飲んだ。

家の中には凌辱され、破壊された3人の女の残骸が転がっていた。

女達は乳房を抉りとられ、切り裂かれた腹から引きずり出されたハラワタが地獄の誕生会の飾り付けの様に家の梁にかけられていた。

更に女達の股間には棒切れが深く突き刺されていた。

顔を強ばらせて女の残骸に近づいた東洋人の兵士は小さく声を上げた。

女の内の一人がまだ生きていて兵士の足をつかんだのだ。

反射的にリュックのサイドポケットからモルヒネを取り出した東洋人の兵士の腕を軍曹が掴んだ。

軍曹は人差し指と中指を突き出した拳を自分のアゴの辺りで小さく上下にくねらせた。

楽にしてやれ、と言う意味だった。

医療設備がある所まで早くても丸一日かかる、このまま放置してもハゲ鷹かハイエナに生きたまま貪り食われるし、民兵組織の追跡を続けなければならないので連れても行けない、そしてモルヒネは自分達の為に必要なのだ。


東洋人の兵士は強張った顔で頷いた。

身動きも出来ず、つぶらな瞳を見開き涙を流しながら声も出せずに食い縛った歯の間から浅く、速く、苦痛の吐息を吐き出している女。

まだ10代半ばと思える女が涙を流しながらじっと東洋人の兵士を見つめた。

東洋人の兵士が腰からナイフを抜くのを見ると、女は兵士を急かす様に小刻みに頷いた。

兵士は女の頭に回り込み、片手で女の目を閉じながら素早く女の喉を掻き切った。

女は喉から血を吹きだたせ、短く痙攣してすぐに動かなくなった。

東洋人の兵士は女の体に残った服の切れ端でナイフの血を拭きながら拳で自分の涙を拭った。


軍曹は兵士の涙に気付かない振りをして家の中を調べた。

子供の写真等があれば、いつどこで拉致された子供なのか特定出来るからだ。

この家には写真は無かった。

軍曹は東洋人の兵士に顎をしゃくり、家を出た。



軍曹達が家々を捜索する一方で、黒人ともう一人の東洋人の隊員は広場に血にまみれて転がっている集落の人々を調べていた。

微かに息がある者は皆、深手を追っていて、楽にしてやるしか方法が無かった。

黒人の兵士が、ナタを握りしめて倒れている老人の傍らに倒れてうめき声をあげている迷彩服を着た少年を見つけた。


黒人の兵士が少年に近より、髪の毛を掴んで顔を横に向けた。

こめかみに横に走った切り傷があり、黄色いねばついた物が塗り付けてあった。

民兵組織は拉致した子供達の洗脳に、暴力以外に麻薬も使う。

こめかみに傷を付けてそこに麻薬を塗り込むのだ。

家族を残虐に殺されて拉致された子供達も早ければ二週間程で洗脳されて銃を向けて来る。

死を恐れない凶暴な兵士になってしまうのだ。

黒人の兵士は少年兵士の髪の毛を離し、じっと少年を見つめた。

11、2才位のあどけなさが残る顔が苦痛に歪んでいた。

黒人の兵士は血だるまになって倒れている集落の住人達を見回し、ため息をついた。


そして、銃の台尻で少年兵士の頭を力任せに殴り付けた。

何度も何度も少年兵士の頭を殴り付け、少年兵士の息が絶えた後も執拗に殴り続けた。

荒く息をついた黒人兵士は、口や鼻や耳から脳味噌をはみだたせてペシャンコになった少年兵士の顔に唾を吐きかけた。

傍らでじっと見つめていた東洋人の兵士が黒人兵士の腕を軽く叩いた。

東洋人の兵士が少年兵士の頭の残骸を思い切り蹴飛ばした。

黒人の兵士が東洋人の兵士の肩を叩いた。

二人は顔を見合わせ頷きあった。

そして、広場の捜索を再開した。


軍曹達は家々の捜索を粗方済ませて広場に戻って来た。

広場の捜索を終えた黒人と東洋人の兵士が軍曹達に近づいた。

黒人の兵士が軍曹に向けて親指と人差し指と中指をつき出して前後に動かした。

軍曹が頷き、兵士達は背負ったリュックを下ろすと、周囲を警戒する様に背中を向けあい、銃を構えたまま腰を下ろした。

そして煙草を吸いながら、ナッツバーを口に押し込み、水筒の水で流し込んだ。


軍曹は何枚かの写真を手に入れていた。

軍曹はくわえタバコで背負ったリュックを下ろすと、写真を封筒に収め、日付と集落の場所を書き込んでリュックに入れた。

集落はしんと静まり返り、兵士達がナッツバーを咀嚼し、飲み込む音さえ大きく聞こえた。

空を飛ぶハゲ鷹が次第に増えて来た。



その時、集落の外れから、か細い赤ん坊の泣き声が聞こえて来た。

長距離偵察隊員達は食べ掛けのナッツバーを胸ポケットに突っ込み銃を構えて片膝を立てると周囲を警戒した。

集落の外れに立っている何件かの家の方角からか細い赤ん坊の声が聞こえて来ている。

脅威度が低いと判断して捜索を後回しにしていた場所だ。

隊員達が軍曹を見た。


軍曹は人差し指と中指を伸ばした拳を赤ん坊の泣き声がする方角に突き出した。

四人の兵士は菱形陣形で慎重に声の方向に進んだ。

彼らの背後では、何羽かのハゲ鷹が広場に降り立ち、集落の住人の亡骸を啄み始めた。

集落の外れの一件の家の傍にナタで散々に斬りつけられて息絶え、重なりあって倒れている、男女の死体があった。

軍曹が隊員達に周辺の捜索を命じ、男女の死体に近づいた。

男女の死体のそばには、銃撃で身体を二つに引きちぎられた犬の死体と、片腕と顔の半分を吹き飛ばされた少女の死体と、地面に叩きつけられて頭を潰された幼児の死体が転がっていた。


軍曹が男女の死体に近づくと、赤ん坊の泣き声がひときわ大きくなった。

赤ん坊は死んだ女の足の間に転がり、臍の尾が付いたまま体をもがかせて泣いていた。

女が息絶える寸前に最後の力を振り絞って産んだか、死後に自然に産み落とされたのか、そこに産まれたばかりの赤ん坊が転がり、手足をもがかせてか細い泣き声を上げていた。

軍曹は銃を降ろし、じっと赤ん坊を見つめた。


周辺を捜索した兵士達が軍曹の所に戻って来た。

近くの草原に三人の子供の射殺体があった事が報告され、男女の死体の近くの家から何枚かの写真が回収された。

軍曹が写真を受け取った。

一枚の写真に子沢山の家族が家を背景に笑顔で写真に収まっていた。

子供達の両親は今目の前に転がっている男女の死体だった。

兵士達は赤ん坊を見下ろして沈黙した。

広場からはハゲ鷹達が互いに争いながら死者から目玉をつつき出し、ハラワタを引きずり出す音が聞こえて来た。


兵士達はじっと写真に見いっている軍曹を見た。

兵士達の視線に気付いた軍曹が顔を上げた。

軍曹は赤ん坊を見、草原に頭を巡らせた。

下卑た笑い声の様なハイエナの声が遠く聞こえて来た。

軍曹は兵士達を見回し、楽にしてやれと言う意味の仕草をした。


このままでは、赤ん坊は生きたままハゲ鷹やハイエナに貪り食われるのは判りきっている、が、兵士達は顔を反らせ、俯いた。

軍曹は、ナイフを抜くと、手が微かに震えているのを兵士達に気付かれない様に素早く赤ん坊を楽にしてやった。

軍曹によって喉を掻き切られた赤ん坊は、たっぷりお乳を飲んで満ち足りて眠る様な、安らかな死に顔だった。

赤ん坊ののどをかき切る直前に赤ん坊の小さな小さな手が軍曹の指の先を掴んだ。

軍曹はその柔らかい感触に動揺した。

軍曹は震える手で、男女の服でナイフを拭い鞘に戻した。

そして立ち上がり、青い青い空を見上げた。


軍曹は青い空を見上げたまま、草原の方に歩いて行き、震える手で食べ掛けのナッツバーを取り出すと空を見上げたまま、食べ始めた。

長距離偵察隊員達は、押し黙ったまま俯いてじっと足元を見つめていた。

やがて黒人の兵士が赤ん坊の亡骸に近より、そっと赤ん坊を抱き上げると死んだ女の腕に抱かせてやり、死んだ男の手と、指が何本か欠けた女の手を握り合わせてやった。


隊員達は黒人の兵士が執り行った細やかな儀式を見届けると、もそもそと胸ポケットから食べ掛けのナッツバーを取り出して食べたり、草原の方を向いて煙草を吸った。

黒人兵士も手に付いた血を拭い、煙草に火を付けた。


青い青い空の下にひろがるのどかな草原地帯に、ハゲ鷹が互いに争いながら死体を貪り喰らう喧騒が響いた。

軍曹は回収した写真を見つめた。

7~8歳位の目がギョロリとした少年が無邪気な笑顔で、男女の死体の傍らで死んでいた犬の生前の姿と共に写真に収まっていた。

写真の少年はンガリであった。

軍曹は残りのナッツバーを飲み下し、リュックを下ろすと、回収した写真を先程の封筒に入れた。


草原にハイエナ達が現れた。

笑い声に似た声を発して互いに呼びあいながら、用心深く集落に近付いて来た。

十数頭のハイエナの内、一番大きな一頭が、軍曹の目の前で軍曹を注意深く見つめながら草原に倒れているンガリの兄弟の死体をくわえて仲間の方に引きずって行った。

他のハイエナが死体に殺到した。

ンガリの兄弟の死体は奇妙な踊りを踊る様に頭や手足を振り動かしながら、ハイエナ達にハラワタを引きずり出され、引き裂かれ、喰われていった。

軍曹はハイエナを撃ちたい衝動を抑えて隊員達の所に戻った。


軍曹が二言三言隊員達に指示を出すと、彼らは元の機敏で慎重な顔付きと動作を取り戻し、血に狂ったハイエナ達を警戒しながら、ンガリ達を連れ去った民兵組織の追跡を再開した。

長距離偵察隊員達が草原に消えた後、残された集落ではハゲ鷹とハイエナと蠅がおおっぴらに殺戮の後始末を始めた。


こうして、ンガリの住んでいた集落は、ンガリ達民兵組織に連れ去られた者以外、全てが死に絶えた。


また一つ、民兵組織に襲われた集落が消滅した。




ンガリ達は両手を後ろに縛られ、長いロープに首を繋がれ、二列で歩かされた。

少年兵達はンガリ達の列の周りをブラブラしながら、時折歩みが遅い子供を殴った。

集落でンガリを抱き締めて少年兵に銃で顔を殴られた少女、オチュアはンガリの前をフラフラと歩いていた。

太陽が高く上がり、乾期のサバンナを照りつけた。

ンガリ達は喉の乾きに悩まされ、時折少年兵に殴られながらノロノロとサバンナの道を歩いた。

ンガリ達の列の先では略奪した食料を山積みにした荷車を、虐殺を免れた集落の大人達が曳いていた。

荷車には大人の民兵達が食料の山の上に腰を下ろして酒を飲みながら、荷車を曳く集落の大人達の足の遅さに悪態をついた。


集落で泣いたンガリをからかい、オチュアの顔を銃で殴り付けた少年兵が銃の先でオチョアのスカートをめくったり、傷付いたオチュアの顔を指でつついたりしながら、しつこく付きまとった。

オチュアは真っ直ぐ前を向き、少年兵を黙殺した。

苛立った少年兵がンガリを銃で小突いた。

日差しの強さに脱水症状を起こし、ひときわ小柄の男の子が何度か倒れた。

その度にンガリ達を繋いでいるロープが引っ張られて首を締め付けた。

少年兵達は倒れた男の子に悪態をつき、銃で小突き、蹴飛ばしながら無理矢理立たせた。

遠くから、ハイエナの笑う様な声が聞こえて来た。


死の匂いを嗅ぎ付けたハイエナ達が距離を取ってンガリ達を追って来ていた。

少年兵達が面白半分にハイエナの群れに銃を射つが弾は当たらずに空しく土煙をあげた。

荷車の上の大人の民兵の一人が最年長の少年兵を呼び、何か指示を出した。

少年兵は、ンガリ達の列に戻ると、何度か転んでその度に小突かれた小柄の男の子の所に来た。


少年兵はナタで男の子の首を繋いでいる紐を切った。

戒めから解かれた男の子は朦朧とした目で少年兵を見上げた。

少年兵が男の子の足元に銃を乱射した。

男の子はパニックに陥り、サバンナに向かってよろよろと逃げ始めた。

後ろ手に縛られた男の子は足元に着弾する弾丸に追いたてられて、ハイエナの群れの方に逃げていった。


少年兵がニヤニヤしながら、逃げていった男の子を眺めた後、ンガリ達にもっと早く歩けと怒鳴り付けた。

後ろ手に縛られた男の子はハイエナ達に引き倒されて生きたまま引き裂かれた。

少年兵がおどけて男の子のか細い断末魔の悲鳴の物真似をし、民兵達は笑い転げた。

ンガリ達は民兵達の笑い声を聞きながら頭を垂れて歩いた。


オチュアが、歯が何本か欠けて腫れ上がった口を開き、低い声でンガリ達の集落でよく歌われた子守唄を歌い始めた。

オチュアにちょっかいをした少年兵が怒鳴りながらオチョアの頭をひっぱたいて歌を止めさせようとした。

オチュアは叩かれる度に口ごもったが歌を止めなかった。

尚もオチュアを叩こうとした少年兵を最年長の少年兵が咎めた。

歌を歌わせて、早く歩かせようと考えたのか、最年長の少年兵がンガリ達にも歌う様に命じた。

オチュアを叩いた少年兵が憎々しげに唾を吐きかけた。

オチュアは顔に付いた唾を無視して歌い続けた、ンガリ達も水分を失いひび割れた唇を開けて歌った。

荷車を曳かされている集落の大人達も涙を流しながら歌った。

村に伝わる子守唄がハイエナに喰われた男の子の鎮魂歌の様にサバンナに流れた。


荷車の上では大人の民兵達が歌を聞きながらあくびをした。

ンガリ達は日が暮れるまで歩かされた。

辺りが暗くなり、民兵達は荷車を止めてキャンプの準備を始めた。


ンガリ達は最低限の水を与えられた後、いましめを解かれないまま、寝かされた。

焚き火を囲んだ民兵達はンガリ達の集落から奪った食料や酒で宴会に興じていた。

サバンナの寒気と産まれてから最大の空腹に苛まれながらもンガリ達は眠りに落ちた。

民兵達は食料を食い散らかし、酒に酔いながら騒いでいた。

ンガリは体のすぐ横の異様な気配に目を覚ました。

ンガリの横で寝ていたオチュアを、泣いたンガリをからかい、オチュアを銃で殴り、オチュアの歌を止めさせようと頭を叩いた少年兵が犯していた。

うつ伏せに押さえ付けられた10歳の少女は腰を鷲掴みにされて、12~3歳位の少年兵に後ろから犯されていた。


ンガリは目を見開いてオチュアに行われている蛮行を見つめた。

オチュアは後ろから荒々しく貫かれ、目にいっぱい涙をためて、苦痛に顔を歪ませながらも、それが唯一の抵抗であるかの様に悲鳴を上げずに耐えていた。

やがて少年兵が、オチュアの中に思い切りぺニスを押し込みながら獣の様な唸り声を上げて果てた。

少年兵はオチュアのスカートでぺニスを拭い、オチュアの頭を後ろからひっぱたき、クスクス笑いながら歩き去った。

ンガリの視線に気付いたオチュアは、ンガリの服に顔を押し付けて涙を拭うと泣きながら自分を見ているンガリに、気丈にも微笑んだ。




翌日の明け方にンガリ達は身体を蹴飛ばされて起こされた。

ンガリ達の前に、板切れの上に置かれた半煮えの芋が一つと、粗末な容器に入れられた水が置かれた。

ンガリ達は手を後ろ手に縛られたままで犬の様に芋にかじりつき、水を飲んだ。

ンガリの横ではオチュアが折られた歯の激痛に顔をしかめながらも、生きる事にしがみつくかの様に芋をかじり、水を飲んだ。

オチュアのスカートは血で汚れ、昨夜の暴行の跡を示し、集落襲撃の時に銃の台尻で殴られた目は腫れ上がって完全に視界を塞ぎ、ハエがたかっていた。

昨夜、オチュアを犯した少年兵が仲間と共にオチュアを眺めてクスクス笑いあいながら、何事か話していた。

オチュアの向こう側の同じ集落の少女が芋にかじりつきながら、オチュアの血に汚れたスカートを見て、汚ならしい物を見る目付きになり、体を遠ざけた。

オチュアは周りに全く無関心を装い、歯の激痛に耐えながら芋にかじりつき、飲み込んだ。

オチュアは涙を見せない事、悲鳴を上げない事、そして、絶対に生き延びる事を心に誓った。

それが、いままでオチュアが平和に暮らしていた集落を襲い、親兄弟を殺し、我が身を犯した者達に出来る、10歳の少女の唯一の反抗だった。


オチュアはよく一緒に遊び、笑い合った友人であった、隣で芋をかじっている少女の冷たい態度も気が付かない振りをして、芋をかじり、水を口に含んで、涙と共に飲み込んだ。

やがて、ンガリとオチュア達は立たされ、ロープに首を繋がれて屈辱的な行進を再開した。

早くも熱をおびた日差しが差し始めたサバンナをンガリ達は歩いた。


オチュアは昨夜の暴行で起きた股間の裂傷の痛みに耐えながら、ギシギシと音が聞こえそうにぎこちなく歩いた。

昨日の哀れな男の子供の様にハイエナ達のエサにされない様に、皆の歩く速度に必死についていった。

昼を過ぎても行進は止められず、オチュアは気が遠くなり、体のバランスを崩して前を歩いていた少女の背に倒れかかった。

かつてオチュアと良く遊んだ少女は悪態をオチョアに浴びせると足を後ろに蹴りだしてオチュアの体を突き飛ばした。

後ろからオチュアを見ていたンガリが怒りに身を震わせながらオチョアを蹴った少女に飛び掛かった。

たちまちロープに繋がれた子供達が数珠繋ぎのまま倒れた。

ンガリはオチュアを蹴った少女の背中に這い寄って、思い切り噛み付いた。

少女は悲鳴をあげて頭を振った。

たちまち辺りは騒然となった。


少年兵達が集まり、ンガリを少女から引き離そうとしたが、どこにそんな力が残っていたのか、オチュアの為に怒り狂ったンガリを少女から引き離して取り押さえるのに、少年兵4人掛かりでも苦労した。

ンガリは仰向けに押さえ付けられながらもなお、少年兵達を撥ね飛ばす勢いで暴れながら悪態を付いていた。

オチュアはンガリに感謝しつつもじっと体を動かさないで体力の回復を図った。

歩くことが出来なければ昨日の男の子の様にハイエナの餌にされてしまう。

最年長の少年兵がンガリの顔に突撃銃を突き付けた。

最年長の少年兵はじっとンガリの顔を見つめた、が、やがて銃を下ろすと笑いながらンガリの顔をぺたぺた叩いた。

そして、荷車に寝そべっている大人の民兵達の所に行き、何事か話した。

大人の民兵達が鷹揚に頷いた。


隊列は休憩をとる事になり、ンガリ達にも水を与えられた。

暫く休憩した後に隊列はまた行進を再開した。

最年長の少年兵がンガリの横を暫く歩きながら、ンガリの肩をポンポンと叩いて笑いながら歩き去った。

彼は数年前に自分自身が拉致された時の事を思い出していた。


日が暮れる頃、ンガリ達の隊列は民兵組織の監視所を通り抜け、民兵組織の本拠地に入っていった。

ンガリもオチュアも何とか殺されずに歩き通した。

ンガリ達、集落の子供達は戒めを解かれ、ボリュームある食事を与えられたがあまりにも空腹すぎてせっかく腹に入れた食事を吐いてしまう者が大勢いた。

食事が終わるとンがり達は小屋に閉じ込められた。

ンガリ達は疲労の極に達していて、小屋の床に倒れ伏すと泥の様に眠った。

集落が襲撃を受けたのはつい昨日だが、ンガリには、もう、何年も昔の事の様に感じた。


ンガリ達が眠りについた頃、ンガリ達の集落から密かにンガリ達を追跡していた東洋人の軍曹に率いられた傭兵団の長距離斥候班は、民兵の監視所を遠くから念入りに観察していた。

そして、監視所を遠く迂回して民兵組織の本拠地に入り込み、地形や建物の配置、民兵の警備状況を調べて、手書きの地図を作成した。

民兵の監視が届かない所まで後退して休息を取り、日が落ちてから、また、民兵達の警備状況を調べ上げると、夜の闇に紛れて民兵組織の哨戒線から離脱した。

彼ら長距離斥候班は逆追跡を警戒しながら5日間掛けて駐屯地に戻り、報告を済ませ、襲撃を受けた集落から収集した写真などを提出した。


そして、装備と銃の手入れをし、シャワーを浴びて、洗濯が済んだ軍服を着て温かい食事を取り、ベッドに倒れ込むと、12日ぶりに警戒を解いて体の力を抜くと、泥の様に眠りこけた。




続く

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