子供戦争(チルドレン・ウォー)
とみき ウィズ
第1話
チルドレン・ウォー(子供戦争)
とみき ウィズ
※このお話はフィクションです。
しかし、今も地球と言う星ではこのような事がリアルに行われています。
今この時点でも、行われている真実のお話です。
2024年現在、ウクライナの最前線、ガザ、シリア、アフリカ諸国の紛争地帯、東南アジアでも少年兵の存在が確認されています。
序文
世界中ではおよそ80万人の子供たちが無理やり軍隊にかりだされている、と「少年兵の従軍禁止を求める連合」(the Coalition to Stop the Use of Child Soldiers)は伝えている。
このことは実に恥ずべき行為であり、少年兵の従軍はやめさせなければならない。
すべての政府は、軍隊に補充兵として子供たちを送ることを中止すべきである。
そうすれば、反対勢力に対しても同様な中止を求めている彼らの要求は、現実のものとなるであろう。
今月初めに出された「少年兵の従軍禁止を求める連合」の報告書には、恐ろしい事実が記載されている。
世界中のあちこちで、7歳の児童を含むおよそ30万人の少年兵たちが戦闘に参加しており、50万人もの子供たちが、凖軍事組織、民兵、反乱軍に送り込まれている。
出世、権力、賃金などを目的に軍隊に入る子供もいるが、他の子供たちは、誘拐されたり、強制徴募などにより軍隊に送り込まれている。
兵隊、スパイ、見張り、駐屯地の雑用やその他の労働などに従事している。
このような調査がなされてから、言い換えれば、繰り返し行われるこのような恐ろしい行為に世界が警告を発するようになってから、子供を従軍させている国が、悪いことにこの2年間で31カ国から41カ国に増えてしまった。
1999年、2000年で300人以上の子供たちが戦闘で死亡したとされているが、不確かな統計によるものなので、実際の数はもっと多いはずであろうと推測される。
しかし、単に死傷者の数字云々よりも、実際の被害の方がはるかに多いのだ。
時として少女たちもキャンプで雑役や性的奴隷として、ときには兵士として使われている。
無理やり連れてこられた子供たちが何人かいるような集団では、他の子供たちも同じようにして連れてこられた疑いがあると報告書の筆者は強調している。
連行されてきた周りの子供たちによって、無関係の子供が殺害された事件の詳細も報告されている。
少年兵の問題は、その国の将来を徐々に確実に奪っていく。
人生の成長期や教育を受ける機会、平和と安全および安心な生活の何たるかを知る機会など、そのすべてを若者たちから奪いさってしまう。
戦火がおさまったらといって、兵役がなくなるわけではなく、ましてや戦争によって受けた肉体的、心理的な傷は癒えることはない。
報告書の中の身の毛もよだつような一文でも指摘しているように、子供たちは、まさに子供としての特性のゆえに連れてこられる。
子供たちは安上がりで、消耗しても補充がききやすい上、殺人を恐れない、絶対服従の兵士として仕込みやすいからなのだ。
(2001.6.23 ジャパンタイムズより抜粋)
子供は戦争にとって非常に重要な「戦略物資」であり、貧困や過剰な欲と肩を並べる「栄養源」である。
今も戦争は子供たちの命や未来を奪いながら肥え太っている。
今も、この時もなお、子供戦争は世界のあちこちで続いている。
世界は未だ、少女オチュアの祈りを知らず 少年ンガリの涙を知らず、ひとかけらのチョコレートの尊さを知らず。限りある資源の醜い奪い合いを続けている。
それがこの星の死期を早めると承知の上で。
2017年3月現在、世界の子供兵士が減少したとの報告もあるが何の事も無い。
当時子供の兵士が大人になっただけの事であり、紛争地帯の出生率が落ちただけの事であり、幼児の死亡率が高まっただけの事であり、状況はさらに悪化している。
更に拉致や強制結婚や奴隷売買で手に入れた女性の体を使って子供兵士を「製造」する組織まで現れている。
これは「今現在も世界で進行している最悪な状況」の物語である。
我々『先進国』と呼ばれている国に住む人々は、今現在も血を血で洗う激しく醜い戦闘で手に入れた資源と言う物を使って、平和な豊かな生活を享受している。
傾聴!
いいか兵隊ども、耳の穴かっぽじって良く聴け!
お前らが生き残るための心得を俺様がありがたく教えてやる!
よく聞け!この戦場は他の場所とはちいとばかり勝手が違うぞ!
子供兵がバカみたいに多いんだ。
それも、13、4歳の生意気なガキじゃない。
正真正銘の小便垂れではな垂れのちっちゃいガキどもが相手だ。
おい、お前!
笑ってんじゃねぇ!プッシュアップを50回!
今すぐだ!
…さて、薄汚い戦争ザルども。
まじで小便垂れのはな垂れ小僧どもが、身体に似合わないデカサのAKを抱えてやって来るんだ。
うようよとな!
お前らの子供、それも次男や三女みたいな年頃のガキだ。
撃ちたくない気持ちは判る。
俺にも奴等と同じくらいのガキがいる。
しかし、奴等の持っているAKは正真正銘の本物だ。
勿体無くもお前らに支給された、ガリル、これは勿論最高の突撃銃だが、それに優るとも劣らん本物の殺人兵器を抱えて奴等はやってくる。
お前ら人間は心があるから、撃つのを躊躇うかも知れん。
有り難くも、俺様が徹底的に叩き込んでやった、必殺の射撃術の腕前も鈍るかも知れん。
俺達戦争狂いの傭兵どもはちゃんとした兵隊さんとの名誉ある戦闘しか教えられて無いからな!
バカモン!ここは笑う所だ!笑え!
…しかし、敢えてお前らに言って置くぞ!
あのガキどもは男も女も、既に人間では無い!
洗脳されて武器を持たされたサルだと思え!
見かけに騙されるな!
あの餓鬼どもはお前らを撃つ事に一切のためらいは無い!
お前らの子供と姿は似ていても、中身は地獄から来たサルだ!
躊躇わずに撃て!
確実に殺せ!
小癪にも腕や足を撃って戦闘不能にしようなんて考えるな!
俺は見た!
はらわたを半分も吹き飛ばされても力を振り絞って銃を持ち上げて撃ってきたガキをな!
本当の話だ!
7歳くらいのガキが撃ってきたんだ!
奴らは戦闘前に薬を打たれてることが多い!
痛みを感じないスポンジ人間になったガキが相手なんだ!
俺様が教えたとおり必ず体のセンターを撃て!
倒れても体が動いていたら止めをさせ!
いいか!
ここから生きて帰って、本物のお前らの子供やその大事な子供を生んでくれた、マリア様の様なお前らのカミサンを抱き締めたかったら、あのガキどもを躊躇わずに撃て!
罪を感じる必要はない!
お前らに罪はない!お前らは俺の命令を実行しただけの事だ!
お前らの事を赦して頂ける様に、俺様が命にかえて神様に頼んでやる!
いいか!
お前らが生きて家に帰りたかったら。
あの、銃を抱えたサルどもを撃て!
あのガキどもを確実に殺すのだ!
あの哀れなガキどもを楽にしてやれ!
お前らが生きて家に帰りたければ、お前らが大好きな、命に代えても守りたい子供たちやかみさんをもう一度その腕に抱きしめたかったら………あのガキどもを殺すのだ。
お前ら薄汚い戦争サルどもに、神の御加護がありますように。
傭兵団戦闘歩兵第2大隊 駐屯地でのアフリカ初戦の傭兵達に対する、ある下士官の言葉
アフリカの某国。
他のアフリカの国々と同じ様々な部族の居住地域などお構い無しに列強国のパワーバランスで引かれた、不自然に直線的な国境に囲まれた国。
ほぼ全てのアフリカ諸国と同様、この国も独立以来信仰も生活習慣も違うにも拘らず同じ国民にさせられた部族間の紛争、利益率が高い同一作物を無理やり何百年も作らされてやせ細った土地による食糧供給危機など様々な問題を抱えていた。
はるか昔には世界でも早期に図書館などを有するアフリカ人による高度な文明などが栄えていたがヨーロッパ列強の侵略により文明は滅ぼされ一般民衆の教育を否定され、強制的な肉体労働に明け暮れて数百年も経った末裔達は識字率なども世界でも下位に甘んじる事になってしまった。
そして混乱に更に拍車をかけたのが地下に眠った資源だ。
近年発見されたその豊富な地下資源はその国の人々に恩恵を与えるどころかその利権をめぐる様々な勢力による武力闘争により平和から程遠い状態になって久しい。
人々は教育や医療の機会に乏しく数々の豊かな資源を国外に奪い取られ絶望的に少なくなった生きるために必要な物を、あるいは分け合いあるいは奪い合う悲惨な生活に甘んじている。
サバンナ地方の片隅にある部落が存在する。
その部落では貧しい農民たち武装勢力からの襲撃に怯えながら痩せた土地にしがみつきひっそりと肩を寄せ合い暮らしていた。
ンガリは9歳、栄養状態が劣悪な、この地域の子供達が皆そうである様に貧弱な身体を持ったひときわ目がギョロリとした男の子だ。
彼は12人兄弟の七番目だが、現在生きているのは彼を入れてたったの6人。
亡き兄弟達は、栄養状態、衛生状態の悪さから来る、取るに足りない病気でバタバタと死んでいった。
ンガリの家族はサバンナ地帯の外れにある30家族250人程の小規模の集落に住んでいる。
彼らはこの痩せた土地にしがみつき痩せた肩を合わせて少ない物を分け合いながら寄り添うように生きていた。
集落の外れの草と泥でできた家でンガリは兄弟達と着の身着のままで雑魚寝をしていた。
サバンナ地帯の夜は寒い。
ンガリ達は兄弟六人に四枚しかない薄い擦りきれた毛布を、奪いあう様に体に巻きつけて寝ていた。
慢性的な空腹で寒さが事の外堪える晩だった。
明け方、ンガリは母親の手で揺り起こされた。
寝ぼけまなこのンガリの目にいつになく緊迫した母親の顔が薄明かるくなった小屋の中に浮かび上がり、他の兄弟たちを起こすようにと囁いた。
ンガリの父親と16歳になる長男が息を潜め、ナタを構えて小屋から外を伺っている。
何事かと聞こうとしたンガリに父親が厳しい顔で唇に人差し指を当てて黙る様に命じた。
ンガリの小屋の反対側の家から、遠く、激しく言い争う声が聞こえて来た。
そして、何発かの銃声、断末魔の叫び、女子供の悲鳴、荒々しく若々しい幾人もの歓声、様々な物が壊される音が同時に聞こえて来た。
寝起きでむずかる一番下の妹を抱いたンガリのすぐ下の6歳の妹が、身体をビクッと震わせてンガリに身体を擦り寄せた。
振り向いたンガリはまだあどけない顔を恐怖にひきつらせた妹の顔を見つめた。
ンガリは妹の頭を撫でてやりながらも、自分の手がブルブルと震えるのを止める事が出来なかった。
野蛮な音がンガリ達の小屋に近づいて来た。
父親と長男はナタを握りしめ、緊迫した顔で小声で何か話し合うと、長男がンガリ達兄弟に付いてこいと身振りをした。
ンガリ達は父親と臨月の母親を小屋に残して、身を低くして夜明け直前の薄紫の空の下に走り出ると草むらにもぐりこんだ。
ンガリの家で飼っている二頭の痩せこけた犬がむくりと起き上がり黙って付いて来るとンガリ達の横に伏せた。
チラリと集落を振り向いたンガリの目に、真っ赤な服を着た集落の中年の女が腹を赤い荒縄で縛られ、ゲラゲラと笑い、歓声を上げる数人の不揃いの軍服姿の若者達に引きずり廻されて物凄い悲鳴をあげているのが映った。
ンガリは、妹の手を引き、腰をかがめて草むらの奥に進む長男の後を追いながら、中年の女の服の赤は彼女の生き血で、腹を縛っている赤い荒縄は、引きずり出された彼女自身のハラワタであることを悟った。
ンガリ達兄弟六人はサバンナの草むらに身を伏せて集落の様子を伺った。
朝日が差して明るくなり始めた集落の様子を見て、ンガリ達は息を飲んだ。
良く見知った集落の人々が不揃いの軍服をだらしなく着た者達によって、家畜の市の動物達の様に、いや、家畜以下の扱いを受けていた。
抵抗する者は四方八方からナタや突撃銃で殴り倒され、倒れた所をめったやたらと体を切り刻まれて息絶えた。
集落の中央の広場には抵抗しなかった者達が集められてひざまづかされていた。
ンガリ達は自分達とそう変わらない年齢の子供達が、侵入者達に混じって集落の住人に危害を加えているのを見てショックを受けた。
突撃銃やナタを持った少年少女達が、高圧的な態度で住人達を老人、大人の男、大人の女、そして子供達に分けて広場に座らせていった。
少し年かさの十代後半位の侵入者達は、集落の家の中から食料や衣類など役に立ちそうな物を荷車に積み込んでいた。
めぼしい物が無くなった家にはタイマツが放り込まれ燃え始めた。
炎が上がり、住人達は落胆の声を上げ両手で顔を覆い、侵入者達は跳び跳ねて歓声を上げた。
子供達の指揮をとっていた大人の侵入者達が、座らされている住人達の所に行き、若い女や少女の髪の毛を掴んで、悲鳴を上げてもがく彼女たちを、まだ燃やされてない家の中に引きずり込んだ。
やがて家の中から痛々しい悲鳴が聞こえて来ると、ンガリとそう変わらない年齢の侵入者の子供達が卑猥に腰を前後させながらおどけて悲鳴の物真似をし、廻りの侵入者の子供達がゲラゲラと笑った。
ンガリのすぐ上の姉が圧し殺した声を出してンガリの家を指差した。
ンガリの家に六人の侵入者が銃を構えながら入って行った。
侵入者はンガリの父親と臨月で膨らんだ腹を抱えた母親を家から引きずり出した。
父親が侵入者達に何かを必死に哀願した。
侵入者の一人が怒号を上げてンガリの母親の腹を思いきり蹴った。
彼女は悲鳴をあげ、それでも腹を守る様にその場にうずくまった。
ンガリの父親は侵入者に捕まれた腕を振り払い、無理矢理母親を立たせようとしている侵入者に体当たりをした。
他の侵入者がンガリの父親の腰の辺りをナタで切りつけた。
倒れた父親はうずくまる母親を守ろうと、その上に覆い被さった。
侵入者達は、めったやたらにンガリの両親の身体にナタを振り下ろした。
ナタが身体に当たる度に血煙が立ち、絶叫が響いた。
ンガリのすぐ下の妹が、ンガリの手を振りほどき、一番下の妹を抱いたまま、泣きながら両親の方に走っていった。
ンガリ達と草影に伏せていた二頭の犬が吠えながらンガリの妹の後を追った。
妹を引き戻そうとしたンガリを、長男が草影に引き倒した。
ンガリの両親を切り刻んでいた侵入達は泣きながら走って来るンガリの妹と吠えながら走って来る二頭の犬に気付いた。
侵入者達が突撃銃を構え、発砲した。
一頭の犬は身体が二つにちぎれ飛び、もう一頭は後ろ足に弾丸が当たって悲鳴をあげてのたうちまわった。
ンガリの妹は銃弾に左顔面を毟り取られ、左腕を根本から吹き飛ばされ、抱いていた末の妹を落として倒れた。
草影に隠れたンガリ達は息を飲んで倒れた妹を見つめた。
地面に落ちた末の妹の泣き声が響いた。
侵入者達は突撃銃を構えながら倒れた妹に近づいた。
そして、顔と左腕を吹き飛ばされて痙攣している妹の右手を掴んで立たせようとしたが、妹の顔を見て大袈裟に顔をしかめると突撃銃の台尻で殴り付けた。
鈍い音がして妹の首が不自然な角度に曲がると、もう、妹は動かなくなった。
もう一人の侵入者が末の妹を抱き上げ、ニヤニヤしながらあやす様に揺さぶった後、足を掴んで地面に叩きつけた。
三度目に叩きつけた時に末の妹の泣き声が止んだ。
侵入者は笑いながらぐんにゃりと力が抜けた末の妹の身体を投げ捨てた。
ンガリは怒りに耐えきれず、絶叫しながら立ち上がった。
侵入者達がンガリに銃を向けた。
長男と他の兄弟達は侵入達に背を向けてサバンナに逃げようとした。
侵入者達が一斉に発砲し、ンガリの兄弟達は身体を弾丸に引き裂かれて倒れた。
ンガリには弾丸が当たらなかった、身体が硬直して立ったまま動けなかった。
侵入者達が銃を構えてンガリに近づいて来た。
ンガリは顔だけを後ろに向けて、倒れた兄弟達を見た。
身体を引き裂かれてうつ伏せになった兄弟達が血の海で痙攣していた。
侵入者の一人がンガリの首を掴んで、頭をひっぱたくと乱暴に集落の広場に連れて行った。
ンガリの背後では他の侵入者達が、ナタで瀕死の兄弟達に止めを刺していた。
足を撃たれ、苦痛にすすり鳴くンガリの犬とンガリの目が合った。
銃でつつかれながら広場に向かって歩かされるンガリの両目から涙を流れた。
ンガリの涙を見た侵入者が可笑しくて堪らないといった様に腹を抱えてゲラゲラ笑い、またンガリの頭をたたき突撃銃で小突いた。
笑いながら突撃銃でンガリをつついてからかう侵入者はンガリの一番上の兄と変わらない年頃の少年だった。
ンガリは泣いた。
ンガリは大声で泣きながら、広場まで歩いた。
広場に座らされている住人達が涙で歪んで見えた。
ンガリが泣きながら歩いて来ると、広場に座らされている、目を真っ赤に泣き腫らした中年の女が慰める様にンガリに手を差し出した。
ンガリのすぐそばの小屋にすんでいるいつも陽気に笑い声を上げる女だった。
ンガリがまだ幼い頃に親に叱られたり兄弟げんかに負けて泣いていると良く抱きしめて陽気な笑顔で慰めてくれた女だった。
ンガリを銃でつつきながらからかっていた侵入者の少年が、中年の女の手首を突撃銃の台尻で手酷く殴った。
女は悲鳴を上げて自分の手を抱えてうずくまった。
ンガリは子供達が座らされている所まで来ると侵入者の少年に背中を蹴られて子供達の中に倒れ込んだ。
倒れたまま泣いているンガリを近所の家に住んでいる、ンガリより一つ上の少女オチュアが抱き寄せた。
オチュアはンガリの肩を抱きながらンガリを蹴飛ばした侵入者の少年を睨み付けた。
侵入者の少年はオチュアの視線に気付くと銃を振り回して少女の顔面を殴った。
オチュアの口元に台尻が当たり、オチュアの口から真っ赤な血と共に数本の折れた歯が吐き出された。
オチュアは悲鳴も上げずに侵入者の少年を見返した。
侵入者の少年が再度オチュアの顔面を銃で殴った。
オチュアの右目に台尻が当たり、目蓋が切れ、見る見る腫れ上がって右目を塞いだ。
オチュアは殴られた衝撃に無感動に侵入者の少年を見返してンガリの身体を抱き締めた。
侵入者の少年は暫くオチュアを睨み付けていたが、苦笑いを浮かべて肩をすくめるとオチュア達に背を向けて集落の略奪に戻った。
少女や女達を凌辱した大人の侵入者達がズボンのベルトを締めながらニヤニヤしながら家から出て来た。
略奪した物をあらかた荷車に積み込み、連れて行く家畜を一ヶ所に集めた十代後半の侵入者の少年達が大人の侵入達に駆け寄り、何事かせがんだ。
大人の侵入者達が、自分達が出て来た家に向かってあごをしゃくった。
少年達は小躍りして家に飛び込んでいった。
凌辱された少女や女達のすすり泣く声が、また新たな悲鳴に変わった。
その痛々しい悲鳴を聞いた大人の侵入者達はニヤニヤしながら、座らされている集落の男達の中から何人かを立たせると荷車に追い立てた。
侵入者達は集落の子供達を五、六歳より上と下のグループに分けた。
ンガリは年長のグループに入れられ、後ろ手に縛られた。
少女と女達が凌辱されている家から次々とただならぬ絶叫が響いた。
返り血を浴びた侵入者の少年達が右手にナタを、左手に何かプルプルと震える肉塊を手にして家を出て来た。
侵入者の少年達が肉塊を集落の広場に投げ捨てた。
肉塊はえぐりとられた乳房だった。
集落の人々が悲鳴を上げ、それを合図に、大人の侵入者達は座らされている大人の男と女のグループに銃を乱射しはじめ、侵入者の少年や子供達は、奇声を上げナタを振りかざし、老人と幼児達のグループに殺到した。
広場は地獄になった。
それまで、貧しく過酷な状況の中で肩を寄せ合って精一杯生きてきた集落の人々の生き地獄になった。
荷車の傍に集められた数人の集落の男と、後ろ手に縛られ、繋がれた20人程の子供達が上げた悲鳴は、一斉に響き渡る銃声と侵入者達の歓声と、撃たれ、斬られて倒れる者達の断末魔の絶叫に書き消された。
先ほどンガリを慰めようと手を差し伸べた中年の女も顔を胸に血しぶきを上げて倒れた。
ンガリはその光景に耐えられずに目をつぶった。
集落の老人の一人が血まみれになりながらも、侵入者の少年からナタを奪い、少年を盾にして反撃に転じようとした。
集落の大人の男女に銃撃を加えていた大人の侵入者達が人質に取られた少年もろとも老人を撃ち倒した。
虐殺は始まる時と同じに唐突に終わった。
銃撃が止み、侵入者の少年達がナタで、血まみれになって倒れている集落の人々に止めを刺して廻った。
大人の侵入者達は荷車の傍に連れて来ていた集落の男達に荷車を曳かせた。
ンガリやオチュア達、集落の少年少女は後ろ手に縛られ、一本のロープに繋がれて、侵入者の少年達に見張られながら荷車の後を歩かされた。
侵入者達は物資やンガリ達、戦利品を手に入れて、意気揚々と集落を後にした。
ンガリの集落は人と家畜の死体だけが残され、さっきまでの喧騒が嘘の様に静まりかえった。
侵入者達が去ってから20分程後、集落のそばの草原から四人の男が油断無く周りを警戒しながら姿を現した。
彼らは迷彩服を着込んで、長距離偵察用の大きなリュックを背負い、顔に迷彩クリームを塗りつけ、体全体に草を被せていた。
四人の内、一人は黒人で三人は東洋人だった。
彼らは、この国の地下資源確保と治安回復の為に、ある国際的な巨大企業に雇われた傭兵団の兵士だ。
傭兵団本隊がこの国に展開する前に派遣された先遣隊の内、情報収集の為に放たれた長距離偵察隊の内の一隊であった。
彼らは先ほどこの集落を襲った一団である民兵組織の後を5日間に渡って追跡していた。
民兵組織は3日前に別の集落を襲い、その後ふたてに別れて、一団は拉致した人間と物資を本拠地に運び、もう一団が今、この集落を襲ったのだ。
長距離偵察隊員達はこの襲撃をサバンナに身を隠して始めから見ていた。
民兵達が無防備な集落に残虐な行いをするのを歯を食い縛り、攻撃をかけたい衝動をおさえながら、彼らはじっと身を潜めて民兵組織の行為を観察していた。
4人対200人では、はなから勝負にならない。
民兵組織が集落を出て、充分に離れたと判断した彼らは集落に入り、情報を収集する事にした。
厳つい顔の大柄な東洋人に率いられた長距離偵察隊の四人は、銃を構え、不規則に間隔をあけた菱形の陣形で油断無く周囲を警戒しながら集落に入って行った。
早くも死の臭いを嗅ぎ付けたハゲ鷹が集落の上空を輪を描いて飛び始めた。
続く
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