第3話

ンガリ達は翌朝小屋から出されて、朝食を貰った。

昨日の食事といい、今日の朝食といい、今までの集落の生活からは普段はお目にかかれないような豪華な食事だった。

ンガリ達は何かのお祝いでないと食べられないような食事を夢中で食べた。

周辺の民兵や民兵側の一般住民の態度はンガリ達に優しくなったか無関心だった。

朝食を終えたンガリ達は整列させられて、民兵の将校らしき人間から何やら演説を聞かされた。


我々は今この国を腐敗した奴等から取り戻すために戦っている。

その為には君たちのような若い腐っていない人間が必要だ。

この国を真に豊かな国にする為に武器を取って戦わなければならない。

君たちの村は腐敗した政府側に与していた「生意気な村」だったので、正義の鉄鎚を下してまだ腐っていない君たちを助けだしたのだ。

君たちは新しい国を作るために我々と一緒に戦わなければならない。

この国を解放するのは君たちだ。

と言う趣旨の演説を長々と聞かされた。


ンガリ達には熱心に声を張り上げて話す将校の話の意味がさっぱり判らなかったが、どうやら殺される訳ではなさそうなので、少し安心した。


長い演説が終わるとンガリ達は横一列に並ばされた。

民兵の将校とンガリ達を拉致した民兵たちの中の最年長の少年兵、中年の女がンガリ達をより分け男の子と体格が良い女の子は最年長の少年兵の元に、残りの女の子は中年の女の元に集められた。


オチュアは中年の女の元に集められ、ンガリを名残惜しそうに見ながらどこかに連れて行かれた。

ンガリはオチュアをずっと見ていた。

残されたンガリ達は2列に並ばせられた。

最年長の少年兵はその部下らしい少年兵4人をンガリ達の前後に並ばせて行進の仕方を身振り手振りを交えて教えた。

それは足を伸ばして高く跳ねあげ、手を大きく振るいささか滑稽に見える歩き方だった。

ンガリの後ろに並んでいた男の子が最年長の少年兵の歩き方を見てクスクスと笑った。

列の前後にいた少年兵が飛んできて笑った男の子を拳骨で殴り倒し罵った。

ンガリ達は泣きべそをかき顔を晴らした男の子を横目で見て緊張して顔を引き締めた。

最年長の少年兵が先頭に立ち、銃を肩にかけて号令を上げながら行進を始めた。


ンガリ達は緊張した顔つきでそれに従って行進していき、ある建物の前に連れて行かれた。

建物の前に長いテーブルが置かれて、その上に新品の迷彩服の上着と様々な柄のTシャツとズボン、運動靴などが積んであった。

迷彩服以外の衣類は民兵組織が難民向けの救援物資を強奪したものだった。

Tシャツの中には先進諸国の、飢餓や戦争とはまったく無縁な幸福な子供たちが着るような、アニメのキャラクターなどがプリントされた可愛らしい物などが混じっていた。

ンガリ達は一度その前を素通りして、建物の裏手にある簡単な作りのシャワーを浴びさせられた。

体を洗ったンガリ達は、また建物の前の長いテーブルの所に連れて行かれ、迷彩服を始めとする衣料品を受取って身につけた。

新品の迷彩服を着せられて少年兵たちに優しく接してもらったンガリは自分が大人になったようで少しだけ嬉しかった。

親兄弟が無残に殺され、集落を破壊された記憶が遠い記憶になりつつあった。

いや、ンガリの自分の身を守るための本能が無意識に悲惨な思い出を遠い記憶に追いやろうとしていたのだ。

恐怖を与え、安堵させる、殴りつけ、優しくする、罵り、褒める、奪い、与える。

それは、大人に比べて順応性が高い子供を短期間で兵士に仕立て上げる為の民兵組織の洗脳のやり方だった。

ンガリ達は知らず知らずに洗脳をされ始めていた。


その頃、中年の女に連れて行かれたオチュア達もまたシャワーを浴びさせられ、新しい服を支給された。

ンガリ達が迷彩服に身を固めされられて、行進の練習をさせられている間、新しい服に着替えたオチュア達は、広場の隅の木陰で中年の女からいろいろと質問されていた。

字を読み書きできるか?

本を読んだ事がある人はいるか?

英語、もしくはフランス語を話せるか興味がある人はいるか?

オチュアは一番上の兄が教師だった事もあって、読書好きでもちろん読み書きが出来た。

英語も貧弱ながらある程度のボキャブラリーを持っていた。

中年の女はオチュアの他2人の女の子を建物の中の広い部屋に連れて行った。

残りの子供は別の女達が雑用を教えるために炊事場へ連れて行った。

中年の女は広い部屋に並べられた他の集落から拉致された女の子達の列にオチュア達を加えて、英語の初歩を教え始めた。


オチュアは部屋の壁に並んでいる本を見た。

雑誌や小説、絵本など、英語やフランス語の雑多な種類の本が並んでいた。

オチュアは中年の女が教える初歩の英語にたちまちのめりこんでいった。

オチュア達は民兵組織のスパイとして育てられているのだ。

子供は警戒されにくいので、敵方の村や基地に入り込んで色々な情報を収集する役目を負わされる。

字の読み書きが出来て英語やフランス語を判れば優秀なスパイになる。

そんな事はおくびにも出さずに中年の女は面白おかしく初歩の英語を教えた。

オチュアは知らず知らずに戦争の道具にされている事も知らずに、熱心に英語を勉強した。


ンガリ達は午前中いっぱい怒鳴られ、時には殴られながら行進の練習をした。

昼休みに、やはり豪華な食事を貰い、午後はナタを渡されて藁束で作った人形を斬りつけたり、棒をナタに見立てて仲間同士で戦闘訓練をしたりした。

戦士としての訓練がンガリ達を活気づけさせた。

平和な集落での思い出や無残に犯され、奪われ、殺された家族の思い出が、少しづつ少しづつンガリ達の頭の中で小さくなっていった。

ンガリ達は飽きることなく日が暮れるまでナタでの戦闘訓練に明け暮れ、他の集落から拉致されてきた子供たちと歓声をあげながら棒で叩きあった。

夕暮れになり、ンガリ達は衣類を渡された建物の裏手にある小さな小屋に連れて行かれた。

ンガリ達は小屋の前に並ばされて、最年長の少年兵に導かれて一人づつ小屋の中に入っていった。


ンガリの順番になり、小屋の中に入ると中央には火が焚かれていて、伝統的な呪術師の姿の老人が火を前にして座っていた。

ンガリが呪術師の老人の前に座らされた。

呪術師は何事か呪文を唱えながらンガリの頭を掴むと、もう一方に握られたナイフで素早くンガリのこめかみに傷をつけた。

恐怖と痛みに声をあげたンガリのこめかみの傷に黄色い軟膏の様な物が塗り付けられた。

傷の痛みと共にンガリの脳を衝撃が襲った。

ドクドク血管が脈打ち、よだれがでて、目玉がせり出した。

呪術師が手を離すとンガリは少年兵によって小屋の裏口から外に出されて地面に転がされた。

朦朧としたンガリの視界には、やはり、こめかみに傷をつけられて黄色い軟膏を塗られた同じ集落の子供たちが体を折り曲げてひくっひくっと体を震わせながら転がっていた。

新しい今まで感じた事が無かった感覚がンガリを襲った。

ンガリのペニスがはち切れんばかりに勃起し、ンガリは荒い息をつきながら体を反りかえらせた。

ンガリは恐怖から解放され、体の中を太古の昔からの戦士の血が駆け巡るような高揚感を覚えた。

ンガリは早々と昇った満月を見つめながら口の端からよだれを垂らしながら吠えた。

いにしえの戦士が巨大な獣を倒して歓喜の叫びをあげるように月に吠えた。

吠えるンガリ達の両脇を支えて少年兵達がどこかに運び去った。

あとには麻薬入りの軟膏を傷口に塗られ、ショック症状で死んでしまった男の子の死体が二つ転がっていた。

大人の民兵が二人、転がっている子供の足を無造作に掴んで人形の様に引きずりながら、世間話に花を咲かせて時々笑いあいながら拠点にある死体を捨てる場所へ歩いて行った。


祭りが始まるらしく、民兵組織の拠点の村ではドロドロドロと地の底から聞こえてくるような太鼓の音が響き始めた。

ンガリ達は何とか普通に歩けるようになったが、いまだに興奮状態になり、目を血走らせて口々に意味のない事を言い合っていた。

広場では巨大なたき火が焚かれて、民兵組織の人々や民兵組織側の一般住民が集まっていた。

太鼓の音が鳴り続け、それに合わせて住民たちが歌を歌っていた。

アフリカの祭りの唄ではひとつのフレーズを何時間も何時間も繰り返す。

それを聞いているとだんだんと太古の世界に引き込まれるような不思議な感覚に陥って来る。

ンガリ達は上半身を裸にされて民兵側の村の戦士の化粧を施された。

白い塗料を体中に塗られたンガリ達に、住民達が、指につけた赤い塗料でンガリ達を守護する呪文を書きなぐっていた。

遠巻きにンガリ達を見ている人々の中にオチュアも混じっていた。

オチュアは英語を教わった部屋にあった「星の王子様」の本を胸に抱いていた。

熱心に英語を学んだオチュアに中年の女が褒美に与えた本だ。

銃を肩にかけて、ナタを手に持った民兵たちが跳ね、踊りながら焚火のまわりを回り始めた。

民兵の司令官と思える男がたき火を背景にして並ばされたンガリ達の前に立った。


お前たちは戦士になるか?


司令官が言い、ンガリ達と並んだ民兵がはい!と答えた。

ンガリ達も血走った目をぎょろぎょろさせながらはい!と答えた。


お前たちは命を捨てるか?


はい!


お前たちは敵を殺すか?


はい!


無慈悲に殺すか?


はい!


敵を殺せ!


はい!


無慈悲に殺せ!


はい!


ンガリ達は興奮を抑えきれないで跳ね、踊った。


殺せ!殺せ!殺せ!


殺せ!殺せ!殺せ!


やがて広場には頭に袋をかぶせられ、手を後ろに縛られた男たちが引きずり出された。


こいつらは敵だ!


殺せ殺せ殺せ!


こいつらは敵だ!


殺せ殺せ殺せ!


こいつらは敵だ!


殺せ殺せ殺せ!


ンガリ達は良く研がれ、ギラギラと焚火の明かりを反射するナタを渡された。


殺せ殺せ殺せ!


民兵の兵士がンガリ達の後ろにそれぞれ立つと、頭に袋をかぶせられ、後ろ手に縛られて転がっている男たちの前に連れて行った。

ンガリ達は興奮してナタを振り上げて叫んだ。


殺せ殺せ殺せ!


ンガリ達と共にいた民兵が男たちの足を斬り付けた。

足から血を流し、悲鳴をあげてもがく男たちに興奮したンガリ達がナタを振り上げて殺到すると、男たちを散々に切り刻んだ。

男たちが動かなくなってもなお、ンガリ達は狂乱状態でナタを振りおろした。

オチュアは血に狂ったンガリ達を見ていられなくなって、本を胸に抱きしめてそっとその場を離れた。

オチュアを拉致し、犯した民兵の少年兵が2人の仲間を連れてオチュアの後をつけた、そして村のはずれの人影が無い所でオチュアをかわるがわる犯した。

オチュアは最初に犯された晩に自分に誓った事をかたくなに守り、悲鳴を上げず、涙を流さず、中年の女から貰った本を固く握りしめて顔を歪めて歯を食いしばり、凌辱の痛みに耐えた。


ンガリ達が惨殺したのはンガリ達の集落から拉致された荷車を曳かされた男たちだった。

ンガリは同じ集落の男達を自ら殺した事も、今、この瞬間にオチュアが少年兵たちに面白半分に犯されている事も知らず、半ば無理やりに酒を飲まされ、民兵やともに拉致されて兵士に仕立て上げられた子供たちとともに踊り、歌い、叫んだ。

明け方まで歌い踊り狂ったンガリ達は倒れこむように地面に横になるといつしか眠ってしまった。

目が醒めたのは翌日の昼近くだった。

ンガリ達はいつの間に小屋に運ばれて、他の子供たちとごろ寝をしていた。

頭がずきずきと痛み、気分が悪く吐きそうになっていた。

無性に水が欲しくなり、小屋から出たンガリはすぐ目の前にあった井戸から水を汲んで飲んだ。

ンガリは周りを見回して改めてこの村の豊かさに圧倒された。

ンガリの集落は井戸が無く、4キロも離れた所に細々と湧いている濁った水を毎日運ばなければならなかった。

村の建物は泥や家畜のフンでなく、木材が使用されていて、屋根は草でなく瓦が使われていたのだ。

行き交う住民たちもンガリの集落とは天地の差があるほど綺麗な服を着ていた。

ンガリが寝ていた小屋から数人の子供たちが出て来て井戸によろよろと近付いて水を飲んだ。

オチュアが片足を引きずり、本を胸に抱えて歩いていた。

オチュアはンガリに気づいて、手を振りかけたが、手を下ろして歩き去った。

ンガリはまだ朦朧とした目付きで村を見回していたがオチュアには気付かなかった。

やがて、最年長の少年兵がやって来て、ンガリ達に水で昨日の化粧を落とす様に命じてから、さっぱりしたンガリ達を食事に連れて行った。

ンガリ達が寝ていた小屋には夜の間に冷たくなった男の子の亡骸がひとつ転がっていた。


やはり豪華な食事だったがンガリ達は食欲が無く、食事を残す者が多かった。

食べ物を残すなど、ンガリ達の今までの生活からは考えられない贅沢さだった。

午後になり、ンガリ達は村のはずれにある射撃場に連れて行かれた。

長いテーブルには中国製の突撃銃がずらりと並んでいた。

ンガリ達はじっと雑で無骨な作りの銃を見つめた。

大人の民兵がンガリ達の前に進み出て無動作に一丁の突撃銃を手に取ると弾倉を銃に叩きこみ、セレクターをオートに切り替えてボルトを操作すると、いきなりンガリ達の頭上めがけて掃射した。

ンガリ達は頭を抱えて地に伏せた。

2秒ほどで銃撃が止んだ。

民兵が笑いながらンガリ達に立つように言った。

民兵の男は弾を撃ち尽くした銃をンガリ達に差し出し、左手で銃を支える先台と言う所を触らせた。

恐る恐る触ったンガリ達はあまりにも銃が熱くなっているので驚いて手をひっこめた。

民兵の男は左手に熱さに耐える為にぼろきれを巻いていた。

ンガリ達にもぼろきれが配られてそれぞれの左手に巻いた。

そして、一人ひとりに銃が渡されて簡単な操作の仕方を教えられると射撃練習が始まった。

ンガリ達は銃の物凄い銃声と強い反動に耐えながら必死に銃の撃ち方を覚えた。


その頃、オチュア達は熱心に中年の女が教える英語を習っていた。

こうして、家族を殺され、平和に暮らしていた集落から拉致されたンガリとオチュアは民兵組織の戦力に込み込まれていった。

2人はそれぞれ、兵士とスパイに仕立て上げられていった。

2人が戦闘の仕方と英語を習っている日々が過ぎていった。



傭兵団の駐屯地ではやっと本隊が到着した。

一個大隊規模の戦闘歩兵部隊の指揮を任されたのは長距離斥候班の指揮を執っていた軍曹と同じく東洋人の、最近少佐に進級したばかりの将校だった。

軍曹と同じで、東洋人にしては大柄な彼は年の割に真っ白になった顎髭を生やしていて、白狐とあだ名をつけられていた。


慌ただしく編成と装備品の支給、追加訓練などで混乱している駐屯地内で少佐と軍曹が再会した。

少佐と軍曹は階級差など関係ないように互いに肩を抱き合って再会を喜んだ。

同年代の2人はもう、30年近くの付き合いなのだ。

その夜、少佐は指揮下にある4人の部隊長を集め、軍曹の報告を聞いた。

事態は深刻であった。

軍曹の報告によると民兵組織はその80パーセント以上が未成年で占められていて、彼らの蛮行の様子からすると生きて捕虜になる事は、ただでさえハーグ陸戦条約などの庇護を期待できない傭兵達にとって絶望的な最期を遂げる事になると覚悟しなければならない。


そして民兵組織は次々と集落を襲い、拉致した子供達を自分達の兵士に仕立て上げて着々と勢力を拡大している事も判った。

部屋の隅に座っている私服の傭兵が、最近中国から大量の小火器が運び込まれた事を報告した。

現在、傭兵団の一部を割いて現地にいる中国人の武器ブローカー、と言っても正式な人民解放軍の兵士なのだが、を暗殺する計画が進んでいた。

が、入ってしまった大量の小火器はどうにもならなかった。


ゾンビの軍団との戦いになるな、と少佐はため息をついた。

ゾンビは完全に頭を破壊して息の根を止めなければならない。

もちろん簡単に降伏はしないし互いに捕虜も取らない過酷な戦いが増えるだろう。



国内最大の勢力を持つ政府軍も内部では熾烈な派閥争いに明け暮れ、一部の将校は中国人ブローカーや反政府民兵組織に買収されている可能性があるので迂闊に共同作戦が取れなかった。

手持ちの少ない兵力では前線を作り上げて敵を追い詰めるのは無理な相談だった。

しかし、点と線を維持しているだけではゲリラ戦術を取る相手には絶対に勝てない事は過去の歴史が証明している。

おとりを使っておびき寄せて一気に包囲殲滅するか、敵の本拠地に全兵力を一気につぎ込んで叩きつぶすか、選択肢は限られている。

民兵組織全員を皆殺しにして根絶やしにする事も作戦の選択肢に入れなければならない事を思い、少佐は眉をひそめ、大きく広げた地図を前に頭を抱え、タバコに火を付けた。




ンガリ達はナタでの戦闘訓練、突撃銃での射撃訓練に明け暮れ、何日かに一回こめかみの傷口に麻薬入りの軟膏を塗りつけられた。

日に日にンガリは麻薬の快感に溺れて行き、軟膏を塗りつけられる日が待ち遠しくなった。

酒と煙草の味も覚えたンガリ達は次第に周りの少年兵たちに染まっていった。

平和な集落での日々は遠く過去の事になり、古株の少年兵の武勇談などを聞きながら、ンガリ達は早く実戦に出たくてうずうずしていた。

オチュアは熱心に英語を学び、砂が水を吸い込むようにどんどん新しい言葉を吸収していった。

英語の勉強以外に洗濯や掃除や子守りなどの重労働をさせられ、時折少年兵達に凌辱されながらも、教室の本棚の本を読みあさって、ここ以外の素晴らしく美しい世界に思いを馳せながら歯をくいしばって過酷な生活を耐え抜いていた。




その頃少佐が率いる戦闘歩兵大隊は着々と戦闘態勢を整えていった。

この大隊は世界中の人種民族が雑多に入り混じった構成になっており兵士達は俺たちは世界大隊だ!と笑いながら自称した。

東洋人の傭兵は、主にミャンマー(ビルマ)でカレン民族解放軍(KNLA)に属して戦った経験がある傭兵を基幹としてアジアで過去に軍歴を持っている者たちを新たに徴募した者たちを加えた一団、黒人兵はアフリカ南部の某国の憲兵中隊を基幹とし、それにアフリカで戦闘経験を持つ者たちを徴募した一団で構成され、そのほか中東や東欧での傭兵経験者などが参加していた。



少佐はトラックをかき集めて、手元にある4個の中隊を可能な限り機械化していった。

そして、軍曹に、特に技量の高い兵士を集めさせ、30人程度の独立部隊を編成させた。

民兵組織を引っ張り出すための囮部隊だった。

少佐は民兵が出没しやすい地帯で駐屯地から可能な限り近い村を囮部隊の根拠地にして、威力偵察隊を小出しに放って民兵を引っ掻き回す事を考えた。

そして、脅威を感じた民兵側が大兵力を集めて囮部隊に喰いついた所を、機械化した機動力がある部隊をすぐに派遣して一気に民兵の主力を叩きつぶす作戦を立てた。


囮部隊は徹底的に陣地を守り通し、味方主力が到着するまで民兵の大部隊を引き留める必要があった。

囮部隊を任せられるのは気心知れた軍曹しかいなかった。

少佐はジープを何台か用意させ軍曹と少数の護衛を連れてサバンナを走り回り反民兵側の村を訪ねて回った。

その間戦闘歩兵大隊は、サバンナ地方での戦闘に習熟させる為と、互いの連帯感を強化するために猛訓練に明け暮れていた。

2週間かけて少佐はいくつかの村を囮部隊の拠点候補に絞り込んだ。


候補の村の中で傭兵団の駐屯地から車を飛ばせば4時間足らずの所にある、人口500人ほどの村に少佐は注目した。

激烈な反民兵側の部族の村で、数十人の自警団を組織して、民兵のパトロールと何回か小競り合いをしている。

村はちょっとした高台に位置していて、南側と東側はなだらかな坂があり、北側には川があった、と言っても乾季の今では水が無く深さ2メートルほどの溝になっているが、攻撃する方にとっては十分な障害である。


起伏が少ないサバンナ地帯ではなかなか望めない地形だった。

少佐は大量のみやげ物を持った使者を派遣してその村の村長と交渉した結果、小規模の部隊を駐屯させることの同意を取り付けた。

軍曹が指揮を執る30名ほどの独立部隊は数台のトラックに分乗し、新たな前進基地を設営するために傭兵団駐屯地を出発した。

とりあえず周辺の監視の為に個人装備と村への援助物資である医薬品などを積んだトラックの一団は村に向かってサバンナ地帯を進んだ。

急な出動に備えて数少ないトラックを割く訳にいかないので、陣地構築の為の重機材は村で荷降ろしをした空荷のトラックがまた駐屯地に帰ってから乗せて持って行くことになった。

軍曹が向った村では、家族を失った難民を装った民兵側のスパイの子供が何人か入り込んでいて、村が傭兵団の部隊を受け入れる情報を掴んでいた。

子供たちは闇にまぎれて村を出ると、民兵組織の拠点に帰って行った。

子供たちの情報を受けた民兵組織側は眼の上のたんこぶである村を叩きつぶすべく、出せるだけの兵力を村に向かって出発させた。


およそ800人余りの民兵兵士達が民兵組織の拠点を出発した。

その隊列には初めての実戦に参加することが決まり興奮して奇声を上げるンガリ達も含まれていた。

彼らは3日掛けて村の近くの森に辿り着き、森に陣取ると、何名かの斥候を出して攻撃の機会を伺った。

森は、血に飢えた民兵で充満していた。

彼らは火も焚かず、言葉も交わさずに息をひそめて殺戮の機会を待った。

軍曹率いる囮部隊が村に到着したのはその日の午後遅くの事であった。

村で荷物を下したトラックはガタピシと車体をきしませながら、もと来た道を帰って行った。

日が落ちてからの少人数の行動は危険なので、武器弾薬重機材を積んだトラックがやってくるのは翌日になるだろう。

軍曹は万が一に備えて一丁だけ持ってきた3脚付きの重機関銃を村の西側の開けた所に据え付けた。

草原の彼方に森が見えた。

軍曹は嫌な予感がした。

自分がこの村を攻撃するならあの森を拠点にするだろう。

軍曹は重機関銃を森に向けて据え付けると土嚢を兵士に作らせて重機関銃の周りに積み上げさせた。

兵士達は応急的に作り上げた陣地に陣取り、開けた草原に睨みをきかせる重機関銃を頼もしげに見つめた。

しかし、重機関銃の傍らに積み上げた弾薬は2分間の全力射撃で撃ち尽くしてしまう量しかなかった。


続く

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