第5話

「じゃあ、もう一人の初絵ちゃんが言いたいのは、この世界でもし、もう一人の自分たちに遭遇してしまったら、片方が消えて人格だけが残るって事で合ってる?」


「うん、実例が私たちだけだから、分かんないけど、その可能性はある」


「でも、その原因も、なんでこの場所に転移してきたか、とかそういうのは分からないんだよね?」


「私が小学生の頃転移したのも宇宙の謎の穴だったから、ワームホール的なトンネルに入ってしまった可能性を考えているけど、そんなものがあるなら現代科学ですでに発見されていないとおかしいとも思うから実際のところは不明だね」


「なら元の地球への帰り方も?」


「当然わからないね」


僕は一連の質問の回答を聞き、思わずため息をついた。部屋の中で誰かが息を飲む音が聞こえてきた。

それにしても部屋の中が堪らないほど寒くなってきた。僕は何度もこの家に来ているので、照明を付けるボタンを押しに行く。パチンッ、しかし照明はつかなかった。


「ねえ、ここ照明つかないけどさ、もしかして電気通ってないんじゃないかな?」


一連の話を終えて、みなそれぞれ今の現状を嘆いたり、思案に耽ったりして静かだった。


「あ、そうかもね!私が居なくなってから、仮の両親も住む必要なくなってすぐに出て行っただろうし。たぶん7年くらい誰も住んでないのかも。」


そうだった、今の話を聞くと目の前にある問題が明確化した。


「いろいろ謎も多くて、初さんとも、」もう少し状況について話し合いたいところだけどさ、まず先にここで夜を越す準備をしない?すぐに帰れない以上ここでしばらくは暮らすしかないし、みんなお財布はポッケに入ってたりしない?私は携帯と財布はポッケに入れっぱなしだったから持ってこれたんだけど。」


雪が財布と携帯を取り出しテーブルに置いた。僕も財布はポッケに入れたままだったので取り出し手テーブルに置いた。


「俺は携帯はあるけど、財布はカバンだったから持ってこれなかったみたいだ。けど大丈夫だ、携帯に電子マネーが入ってるから!」


そういって二山もテーブルに携帯を出す。


「いや、二山、無理。電子アプリなんて使えるはず無いし、使ってもし何か問題起きたときに私たちの存在がばれたら嫌よ」


雪に即座に否定され拗ねた様子の二山が反論する。


「そんなんいったら!通貨だって怪しいだろー!」


「いや、二山君、紙幣と通貨も全部一緒だよ。私の記憶にある限りではこの世界は前の世界と違いはない。しかし、一応さきに自動販売機で使えるか試してみるか。」


初絵がそう話しながら、自分の財布をテーブルの上に乗せた。


「じゃあ、いったん、全員の金額を合わせて、生活に必要不可欠なものをリストアップしよう。それとあとで初さんは、この家の中に何か残っているつかえる物はないか確認してもらえる?」


僕らはそれぞれ財布から紙幣から小銭まですべてテーブルに集めた。すると、スッと二山がカードを取り出すとそこに乗せた。


「これは?」


雪が首を傾けながら怪訝そうに二山の方を見ると、真剣な顔で二山が答えた。


「ああ、5000円分の図書カードだ携帯カバーの裏に入っていた。今回はみんなにお金を借りることになってしまうが、帰れたら必ず返す。今はこれを足しにしてくれ。」


「え、ええ、そうだね。ありがとう二山。」


あ、ついに雪がツッコミを諦めた。その後僕たちは、初絵とともに家中を見て回り、ベットと布団がある部屋を三つ見つけた。しかしそれ以外に物は一切なく、すぐにリビングに戻ってきた。


「んー、ベットがある部屋にはタンスの中にそれぞれ枕と毛布と羽毛布団が入ってたのは良かったんだけど、四人だから一つ足りないね。」


僕らはリビングで顔を見合わせる。すると初絵がテーブルにバラバラに出されたお金を計算し始めて、一か所にまとめ始めた。


「三人合わせて二十万円と千八百円だね。こんなことならもっと持ってくればよかった」


旅行先が火星ともあって、僕たちは気合を入れた金額を用意していた、初絵は十万で俺と雪が五万づつ持ってきていた。

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