第3話
12月20日、僕たちは早朝、駅に集まり、東京まで上りそこから成田空港の第二ターミナル着の新幹線に乗りこんだ。第二ターミナルからはシャトルバスに乗り、朝の10時には成田火星空港に着いていた。発射時刻は11時からになっていて、もろもろ受付を済ませるにしてもまだ少し余裕があった。その時ちょうど水色の綺麗な髪をした女性といい感じにセットされた黒髪の少年。女性のほうは白いワンピースを着ていてとても大人びた雰囲気であった。少年のほうは平均的な身長だがとても引き締まった筋肉質だった。首には頸動脈に沿ってタトゥーが入っていて、腕にも彫ってあるのか手首にチラチラと黒い模様が見え隠れしていた。ピアスやネックレスの金色のアクセサリーを付けていた。一見してヤンキー然とした風貌だった。
「おはよう!二海さん!あと山田ああ!!おはああよおお!!あ、山田の貴金属類事前に申請してなさそうだから没収だね。」
僕はちょうどロビー内に入ってきた友人たちの姿を見つけ久しぶりに会ったことや旅先の非日常感から少しおかしなテンション感で両手を振って声をかけた。すると近くの窓から外に並んだ宇宙船を興味深そうに眺めていた他のメンバーも気づいたのかぞろぞろと集まってい来た。
「ルカさん、それに皆もおはよう。去年の年末ぶりかな。変わりないようで安心した」
「てかルカ、え、アクセサリー持ち込めないのマジ?そんなことどこにも書いてなかったぞ!持ち込めないものって飲食物しか書いてなかったぞ!せっかく気合い入れてきたのに」
「あ、佐湯、やーまだ久しぶり。あの昨日送っといた火星人捕まえる用の網持ってきた?」
「佐湯おはよー、ついでに山田もおはよ。相変わらず山田はすぐ騙されるね。貴金属類の申請ってこれからチェックインするときにやることだから大丈夫だよ。」
二山と田中がそれぞれ挨拶する。二山は相変わらず絶好調な様子だ。目を逸らしたい事実だがいま二山のスーツケースには本体と持ち手に括り付けた虫網が付いていた。お前の中ではどんなサイズの火星人なんだよと言いたくなる気持ちはあったが。どうせ言っても聞かない。
「まじか、よかった。出先で財布忘れたときレベルでビビった。あ、糺(ただす)、恥ずかしいから網は持ってきてないぞ」
山田がホッと、胸を撫でおろす。山田は海外のアクション映画が好きでこのような見た目に進化していたが、中身は意外と普通の高校生だ。二海もきれいな水色に染めている髪も何かのアニメの影響らしい。余談だが彼らがわざわざ隣町の農業高校を選んだ理由はひとえにこの格好が理由だった。彼らの通っている農業高校は年々議論が持ち上がり正論を盾にされ立場が弱くなっていく多様性の圧に屈し、ついには完全に匙を投げてしまった結果。服装も髪型も自由で校則が県内で最も緩い学校として知られていた。ちなみにそのせいで駅前で怖いお兄さん達に声をかけられる生徒が増えたり、悪いコミュニティに誘われ非行にはしる例が増えたらしいが、その点、友人の二海と山田はよく心得ているだろうから心配はなかった。
「ふたりとも、元気だったー?」
ロビーの奥のほうから現れた初絵はいつの間にコンビニに行ってたのか手にビニール袋を持って小走りでこちらに駆け寄ってきた。
「さっきそこのコンビニ行って来たら、いろいろ面白い限定のお菓子売ってたから買ってきちゃった!!みんなで味見しよ!」
そういいながら笑いながら袋から激辛火星チップスだとかコズミックマーブルグミとかあまり食欲をそそられない商品を見せびらかしてきた。初絵はみんなと一緒に集まると普段より少しだけおバカになる。
「初絵ちゃん、飲食物は持ち込み禁止だよ。あともうそろそろ出発の時間だから準備しないと。」
みんなが何も言えずに呆気にとられていたので僕が代わりに初絵に悲しい真実を告げた。すると彼女はビニール袋を持って黙ってトボトボと歩いて行ってしまった。しばらくして戻ってきた彼女の手にはビニール袋はなくなっていた。
「家に郵送してもらった……時間だよね……はやくいこっか」
さてそんなこんなで今から私たちはもろもろも受付と手続きを済ませ乗船口に来ていた。
「じゃあ、またあとでな」
そういって二海と山田は民間の貸し切り船に向かって行った。火星までは丸一日かかるためしばしの別れになる。初めて乗り込んだ宇宙船の中はとても広く、政府の船や最高クラスの船は最近はパイロットのいない完全自動運転となっているため、操縦室なども存在せずただ広い豪邸のリビングのような造りになっていた。部屋の一番奥にはの前向きに座席が五席ずつ二列に並んでいた。座席は背の部分が少し丸まっていてマッサージチェアを彷彿とさせるような作りになっていた。部屋の中央部にはコの字型のソファーとテーブルがあり、後方にはお風呂とトイレの部屋がそれぞれついていた。僕たちはそれぞれ席に座り出発のアナウンスを待った。
「ご案内申し上げます。只今より成田火星空港発、火星空港行きの宇宙船。出発いたします。前方の座席に座り座席に付けられた安全装置と座席上部に付けられたシートベルトをよく締めていただけますようよろしくお願い申し上げます」
部屋内にアナウンスが届く。安全装置とは宇宙に出るまでの振動を無くすための装置で、シートベルトも自動でロックがかかるため地球から出るまではこの座席からは立つことはできない。やがて揺れもなく座席は平行に保たれているため一切実感は湧かないが宇宙船が出発した。宇宙に出るまでの間、僕たちは少し緊張で口数が少なくなっていた。
「ねえ、テレビ出して外部の映像見ない?」
初絵がおもむろにそういった。座席についたボタンを押すとテレビが前方の壁に現れる仕組みになっている。しかし外の映像を見るのは僕は反対だった。
「初絵ちゃん、むり。外の映像はちょっと怖い。映画でも見よう。そうしよう」
「お、おれも映画に賛成だ。い、いや怖いとかではなくな?せっかくだから火星の映画でも見て予習しようぜ!!」
二山は明らかに手が震えて焦っていた。
「ええい!うっさいー!。せかっくなんだから見ないと損でしょ!宇宙出た瞬間地球は青かったって言おうよ!それ、ポチッとな」
初絵がボタンを押すとテレビが現れ、そしてすぐにその大きな画面に外の映像が映し出された。
「「「おおー」」」
宇宙船はもうすでに雲を抜けていたらしく白と青に綺麗に分かれた世界がそこにはあった。僕たちはみな先ほどの緊張を忘れその綺麗な映像を眺めていた。映像はやがて白が小さくなっていきやがて海と大陸が見え始め、空もより一層青が濃く暗くなっていった。やがて成層圏を抜け宇宙空間に入った。
「すげええ!」
僕はとっさに声を上げていた。徐々に広がり始めた地球は丸くなっていった。感動とかそんな単純な言葉では言い表せなかった、今この瞬間この光景に僕たちは万感の思いを胸に抱いていた。僕たちはしばらく無言で映像を眺めていた。初めにシートベルトが外れて動けるようになっていることに気づいたのは雪だった。
「おなか減った。ご飯食べよ?」
そういえばもう午後1時だった。昼と夕のご飯はもちろん、お酒以外の様々な飲み物が乗っていた。
雪が乗船口入ってすぐ目の前の棚をあけるとプレート型になってる料理をを取り出すとソファーまでもっていって置いた。僕たちも宇宙空間の魅力から我に返って、席を立って各々背中を伸ばしたりしていた時だった。
「U-09、U09、直ちに座席に座って衝撃に備えてください」
けたたましいサイレンの音と共にスピーカーから男の声が流れてきた。それは以前に特別授業で暗記させられた緊急時コードだった。U-09は障害物危機だった。本来軌道計算からぶつかるはずのない物が何かしらのミス、トラブルで衝突の危険があると流れるコードだった。しかしその続くアナウンスはあり得ない物だった。
「前方から未確認の高速飛翔体が飛来中、前方から未確認の高速飛翔体が船舶001に向かっている。推定衝突時間はあと3分。衝突回避のため緊急軌道修正を遠隔で行う。全員直ちに座席に着け!」
その衝撃のアナウンスに僕らは頭が真っ白になりながら席に座った。するとシートベルトが物凄い速度で降りてきてロックされる。その言葉が聞こえた瞬間安全装置が効いているはずの座席が大きく揺れ次の瞬間全員の意識は白く塗りつぶされていた。
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