晨星はほろほろと落ち落ちて 第十六幕

「ふぅ~。撮った撮った!」

「ええ、本当に。うちの義娘むすめたちではこうはいきませんものね」


 先ほどルーザーたちが談話をしていたラウンジへ戻ってきた夫妻及びルーザーたち。


 写真を撮り終え満足したといった様子の夫妻は、ここでハンハたちがまとめていたポムカ写真集を見ながら感想を述べている。


「無論、息子あの子たちが選んだ者ですもの。わたくしとしても愛することに異論はありませんが……」

「それでも子を持つ母であり、一端いっぱしの成人女性。このようなことをする訳にもいかんからのぉ」

「ええ。……しかも、全員子供まごは男の子というのですから本当に……」


 ガックリと肩を落とす夫妻。


 自身も6人産んでおきながら6人とも男児であったことから、せめて孫はと思っていたのに孫すら男児なのだから、この反応も当然といえば当然だ。


 だからこそ、未だ誰のものでなく、更に幼さも残るポムカは愛でる甲斐があると、夫妻は心躍らせながら写真を撮影し、今まさに自分たちの間に座らせていたポムカの頭を撫でたり(クエル)、抱きしめながら頬擦りするといった様子で(ネンニル)、この時間を堪能していた訳だったのだ。


 無論、完全に子供扱いのポムカは照れながら、早くこの時間が終われと願っていたが。


「……いや、そろそろ解放してやれ? それか飯にさせろ? エル、もう寝てっからな?」


 一方のルーザー。

 この夫妻の振る舞い、及びそれに付き合わされている現状に飽き飽きしていると、エルをだしにしつつ言葉を告げる。


「…………ぐぁ……この……ソーセージ、美味しいんよ……」

「夢で晩ご飯食べてる?!」


 実際、エルはもはや夢心地どころか夢の中にいたため、「そうですか……仕方ありませんわね」とネンニル。


「これから、ポムカのご友人たちを撮るつもりでしたのに……」


 心底残念だとでもいうように、ポムカを抱きしめたままドレス姿の4人をチラッと見ていた。


「い、いや~! 本当に時間があれば撮って欲しかったけどなぁ!」

「お、お腹ペコペコですもんね~!!」

「空腹で、死に、そう」


 その視線から逃げるように3人はルーザーの後ろに隠れつつ、ポムカのようなお人形扱いは遠慮したいと大きな声でその厚意を優しく拒絶する。

 ……気持ちはわかるが。


「それなら、明日にでも撮ってもらえばいいんじゃない?」

「えっ?!」


 しかしとポムカ。

 自分だけがいいようにされるのはたまらないと、妖しく笑いながらナーセルたちを巻き添えにしようとそんなことを口にする。


「そうですわね。仕方ありませんので、そうしましょう」


 その言葉をネンニルが受け入れてしまったことで、彼女たちは撮影会に参加することが決定したのであった(勿論、被写体として)。


「酷い裏切りです~!」

「ポム、酷、い……」

「ふふんっ。頑張ってね、皆」

「無論、あなたも参加ですよ? ポムカ」

「……え?」

「そうだな。美しき花を撮るのも良いが、美しき花々を撮るというのもまた乙なもの。なぁ、ポムカよ」

「え? いや、その……」


 してやったりといった表情で鼻を鳴らしていたポムカだったが、意図しないネンニルたちの言葉に予想外だと戸惑ってしまう。

 どうにかして自分だけは避ける方向にしてもらおうと、何かを口にしようとしたものの……


「やったね、ポムっち! 皆で一緒に撮ってもらえるんだってさ!」

「そうですね~。一緒に! 撮ってもらいましょうね~」

「いや、私はもう十分……」

「逃がさ、ない、よ?」

「ぐっ!」


 勝ち逃げなんて許さないとばかりにナーセルたちに逃げ道を塞がれたことで、「……わかったわよ」と、ガックリした表情で次の撮影会も引き受けることにしたのであった。


「では、明日の予定も決まったことだし、早速食事とするかのぉ。……ハンハよ、準備はできておるか?」

「はい、滞りなく。……では、皆さん、ご準備を」


 そうして、話はついたとクエルオックの言葉に恭しく頭を下げたハンハがパンパンと手を軽く叩くと、それを合図に扉の向こうから多くの料理人、調理人がこのラウンジへと入ってくると、キビキビ食事の準備を始め、あっという間に立食形式での食事会が催されることになる。


「おお! 凄い美味しそうなんがいっぱいあるんよ!」

「そうだな……って、え?」

「急に起きた!? そして、最初から起きてたかのように会話に入ってきた!!」


 そんな目移りしてしまうほどの豪勢な食事達を前に急に目を覚ましたエルと、目を覚ましたという状態をすっ飛ばして会話したエルに驚きを隠せないといった様子のナーセルたちだったが、そんな彼女らを余所に、どこか不満気だったのはクエルオックとネンニル夫妻だ。


「本当は町の有力者どもを集めて、盛大にポムカが生きていたことのお祝いをしたかったのだが……」

「えぇっ!?」

「ハンハが急に呼ぶのは失礼にあたるし、その食事の準備もすぐにはできないというものですから、仕方なくこのように質素なものに……」

「ハ、ハンハさん!!」


 夫妻のやろうとしていたことは決してポムカの望んでいたことではないと理解していたハンハの振る舞いに、まるで救世主と出会ったとでもいうように感動した表情のポムカ。

 そんな彼女の言葉や表情を受け、ハンハはにっこり笑うと軽く会釈するのであった。


「……まぁよい。今日はこの程度にしつつ、明日にでもまた準備すればよいしな」

「ですわね」

「……どうやら、予断は許されていないみたいだね」

「ええ、そうみたい……」


 しかしと夫妻。

 未だ諦めていないとでもいうような態度には、流石に何とかして抑制しなければと思うポムカとガイルなのであった。


「な、なぁ? もう食べてええん?」

「ああ。構わぬ。好きなように食べるがよ……「あんま食べすぎんなよ?」「は~い。って訳で! いただきますなんよ!」」

「エルっち!? ルザっち!? 合わせてエルザっち?! せめてクエルオック様が喋り終わるまで待って! っていうかクエルオック様の言葉にかぶせるのはやめて!?」

「流石、ド田舎、組、遠慮、無い」

「そもそもエルちゃん~、あんなに食べてたのに~、まだ食べられるんですね~」


 クエルオックの号令をギリギリ待たず、早速食べ物を好き放題お皿に乗せつつ食べ始めたエルと、「こりゃ、魔術学校に帰ったらダイエットさせねぇとな」とエルにダイエットさせねぇと考え始めていたルーザーのその奔放過ぎる振る舞いに冷や汗を掻くナーセルたち。


 しかし、一向に聞く気が無いといった様相の2人を見て、「……まぁ、2人にそういうの期待しちゃ駄目だよね」とのナーセルの言葉にフニンとルーレが頷くと、折角だし自分たちもいただこうと運ばれた食事に向かっていく。


 こうして、和やかに始まった宴ではあったが……


「……して。お前さんは今までどこで何をしておったのだ?」


 とクエルオックがポムカに問いかけたことで、事実を知っているガイル達の空気は凍り付く(ルーザー&エルを除く)。


「いや、それはもっと最初に聞けよ」

「そうは言われましても……あんな美しい姿をしたポムカを前に我慢などできようものですか」

「確かに」


 一方のルーザー。

 そのまとも過ぎる質問を夫妻に投げかけていたが、さもありなんと告げた夫妻の言葉に呆れてしまう。


 そんな自身の発言に深く頷く夫妻を余所に、自分が奴隷として働かされていたなんて聞かされた際にはとんでもないことが起こりそうだなと思いつつ、別に気にかけてやる必要もないかとポムカは「実は……」と正直に自分の身に起きたことを話すのであった。




「なるほど……そのようなことが」

「エブラブランド……確か、我が領地の南部を治めている貴族ゴミくずでしたわね」

「うむ。1年ほど前に家宅が焼けたという話も聞いておるし……成程。成程」


 2人の顔は笑顔であった。

 しかし、とても愉快だと思わせるようには見えなかった。


 顔に影を落としたままの2人。

 とりあえずポムカを怖がらせないためか、笑顔の形を保っているものの、その言葉の端々には殺意しか感じない。


 おかげでガイルたちの身震いは止まらない(勿論、ルーザーとエルは気にしていない)。


「さて、どうしたものか」

「何を考えることがありましょうや。……断頭台を用意すればいいだけのこと」

「死罪は確定なのですね……」


 まぁ、気持ちはわかるがとガイルを余所にクエル。


「そもそも、あんな輩どもに統治を一任していたのが間違いだったのだ。国王より自国の民同士で争っている場合ではないと言われたが故、渋々受け入れてやってはいたが、やはりあんな輩ども信じてはならなかったのだ。奴隷の噂は真実まことであったようだし、いっそのこと我が領地は息子たちや騎士たちに任せるべきだな」


 奴隷の噂、それ自体は口々に囁かれており、通報のような形でクエルたちの耳にも入っているのだが、無論そうなっても大丈夫なようにと貴族たちはあの手この手で奴隷の事実を隠蔽しており、強硬手段による調査をしても何の成果も得られなかったということもしばしばあるそう。

 しかもその際には賠償や責任の追及などで、十三騎族を困らせてくることもあり、彼らとしても証拠不十分だとどうしても動けないんだとか。


 かといって、無理矢理に貴族を廃絶させて領地を没収したりすると、10年前にあった『廃絶貴族の乱』のように魔人と手を組んで王国内の治安を乱しかねず、そうならないようにするためには一族郎党皆殺しにしなければならないのだが、一族郎党とはどこまでを差すのかもわからない程に貴族の関係者は数が多いと手が出せないというのが実情だったりする。


「ですわね。……見ていないさな、貴族ゴミくずども。一薫一蕕いっくんいちゆうなど夢物語だと思い知らせて差し上げましょう。……ふふふっ」

「ふふふふっ」

「「ふふふふふふふふふっ」」


 なので今回のように奴隷としての経験があるというポムカの存在は彼らが動く格好の機会であり、そもそもポムカに手を出したことそれ自体が彼らの逆鱗に触れると、怪しく笑いながらも憤り殺意を露わにしていた訳だ。


「ち、父上……母上……」

「流石、ヴィーラヴェブスの……」

「あいつらがどうなっても構いませんけど~」

「でも、ちょっと、怖い……」

「「うんうん」」

「なんだ? その武闘派夫妻ってのは」


 一方、ブルブル震えながらルーザーの後ろに隠れるナーセルたちを他所に、呑気に食事に手を付けていたルーザーが『武闘派夫妻』という部分に首を傾げる。


「やっぱり、知らないん、だね」

「お2人に対して言われている噂……っていうかあだ名だよ。クエルオック様は見ての通りだけど、ネンニル様も昔は騎士として戦場を駆け巡っていたらしくてね」

「その姿に父上が母上に一目ぼれ、って感じなんだけど……」

「そのことで周りから~、そういう風に言われてるんです~」

「なるほど……」

「「ふふふふふっ」」



 ちなみにその後、本当にエブラブランド家の一族は処刑され、関係者は皆、ヴィーラヴェブス家の奴隷として罰を受けることになるのだが……それはまた別のお話。



「……それはそれとして、あのどもはあだ名で呼ばないんだな。お前」

「流石に恐れ多いよ! あんな顔も見ちゃった後だし」


 ブルブルと震えながら言うナーセルだが、確かにあの面相を見ては日和るのも無理はない。


「それより、ルーザー君の方、こそ」

「オッサン呼ばわりって~、スゴイです~」

「そうか?」


 一方のルーザー。

 相手の立場など気にしないとばかりの呼び方に、ナーセルたちは怖いもの知らずだな~と思うのであった。


「……それにしても、愉快な話よ。よもや奴隷になってなお、その力を馬鹿どもに見せつけるとはな」

「ええ。本当に大した子ですね。ポムカは」


 戻って夫妻。

 ポムカの振る舞いに胸がすいたとばかりに優しい笑顔を見せるも、「別に大したことでは……」とポムカは照れたように否定する。


 しかし、それには黙っていられないのがナーセルたち。


「何言ってんのさ! ポムっちのおかげであたしらは無事でいられたんだよ?!」

「それなのに~、大したこと無いだなんて~」

「いくら、ポム、でも、許さ、ない」

「あ、あなたたち……」


 今までルーザーの後ろに隠れていたというのに、その言葉には我慢ならないと飛び出してくると、先ほどの恐怖心など無かったかのようにポムカに告げる3人。


「オ、オラも! ポムちゃんには色々助けられて……ごへっごへっ!!」


 一方のエル。

 彼女もまたそんなポムカの振る舞いに言いたいことがあると告げようとしたものの、ご飯中であったために食べてたものがのどに詰まったとせき込んでしまう。


「ちょっ! エル?!」

「食べるか喋るかどっちかにしろよな」


 仕方ないとばかりに背中をさすってやるルーザーを余所に、息を整えたとエルは、「ポ、ポムちゃんが大したことないなんてないんよ!」と再び言葉を告げていた。


「エルまで……」


 そうして、自分のことを悪く、低く見積もるのは許さないといったナーセルたちの姿を見てルーザー。


「……ふっ。もう諦めたらどうだ?」


 エルの背中をさすりながら、笑みをこぼしてそう告げる。

 そんな彼の顔を見たポムカはどこかむずがゆく、それでいてどこか照れたように顔を背けると……


「……あぁ~、もう! わかったわよ! はいはい、私はスゴイ、私はスゴイ! ……これでいいんでしょ?」


 自棄になったとでもいうように、彼女らの言葉を受け入れるのであった。


「勿論!」

「うん」

「はい~」

「なんな!」

「ったく……もう、それは言わなくていいって言ってるのに……」

「それはお断りだって、こっちも何回も言ってるんだよな~」

「ですね~」

「そっちが、諦め、て」

「ぐぬぬ……」


 こそばゆい感覚に陥りながらも、素直な称賛に悪い気はしないといった感じのポムカ。


 そんな彼女の姿を見て微笑むネンニルは、「……良いお友達に巡り合えましたね」と優しくポムカの頭を撫でるのであった。


「……はい」


 ◇ ◇ ◇


「それでは! ポムカの回帰を祝して……」

「「「乾~杯!!」」」

「いや、何回乾杯してんだよ……」


 えんたけなわ……など許さないとばかりに何度も行われる乾杯。


 主賓たるポムカをそばに置きつつ、何杯もの酒を呷るクエルオックに、「本当に……あなたはアリエスカによく似て……ヒック!」と酔いながらもポムカを撫でることを止めないネンニル。


「全く……父上も母上も張り切っちゃって」

「でも何か2人、カワイイね……って、領主様に言うのは失礼でした! ごめんなさい!」


 そんな2人の傍若無人の振る舞いに呆れていたガイルに、つい軽口を言ってしまったと慌てて失言を取り繕うナーセルだったが、「ふふっ、大丈夫。その程度を気にする2人じゃないよ」と笑顔のガイル。


「まぁ、父上も母上もポムちゃんたちが亡くなったって聞いて、相当ショックを受けておられたしね。きっと、本当に嬉しいんだよ」


 ポムカの頭を撫でながら、その幸せを感じているネンニルに、それを羨ましそうに見つめるクエルの姿を見つめるガイル。


 その視線には確かに郷愁以上のようなものを感じさせ、こんな時間をどれだけ待ち望んでいたかといった様相だった。


「……まぁ、その中でも一番ショックを受けておられたのが坊ちゃんでしたが」

「ば、婆や!?」


 そんな中、スッとそばに現れたハンハ。


 曰く、ペシュフーロンの大火の後、ガイルはひと月以上何も手につかない程落ち込んでいたようで、クエルオックたちの言葉で再起することができた後もたまにポムカの名前を口にするほど、心ここにあらずといった状態が領主になってからもあったんだとか。


「そもそも坊ちゃまを領主としたのも、ポムカ様を思いずっとお部屋で閉じこもり気味だった坊ちゃんを外に出すべく……」

「ちょっちょっちょっ!? そ、そのことは……!!」

「へぇ~」


 そんなハンハの言葉に何かを感づいたといった表情のナーセル、フニン、ルーレ。

 ……勿論、ルーザーとエルは理解しておらず額面通りに受け取っていたが。


「ま、まぁ? ポムちゃん……というか、ランペルトン家の皆様とは、僕が一番親しかったし? 子供の僕にはまだ公務は早いから遊んで来いって言われて、気兼ねなく遊び回れるってのは凄い楽しみだったし?」


 何かを誤魔化すかのように告げるガイルだが……確かにガイルは当時9歳そこらの遊びたい盛りの子供であったため、他の人の家に行けて遊べるともなればその時間を楽しみにするのは当然だろう。


「よく、言っておられましたね。次にポムちゃんのお家に行くのはいつになるのかと」

「そ、そりゃ、まぁ……ハッ!?」


 しかし、そんな自分をニヤニヤした目で見つめる3人の少女の視線に気づいたガイルは、「こ、子供の頃の話だから! ……そ、それよりその……ちょ、ちょっとお手洗いに行ってくるよ!」と慌ててその場から立ち去ってしまうのであった。


「あ、逃げ、た……」

「ちぇ~。もうちょっと話を聞いてたかったのにな~」


 残念でならないといったナーセルたちは、仕方ないとばかりに標的をハンハに変える。


「……ところで婆やさん」

「はい? 何でございましょう?」

「ガイっちって、昔からああだったんですか?」

「ああ、とは?」

「ポムちゃんに~、夢中なところです~」

「……ああ、なるほど」


 ニヤニヤしながら聞いてきたナーセルたちの言葉に、こちらもクスクスと零れる笑みが我慢できないといった様子のハンハ。


「ええ、そうでございますね。年下でありながらもどこか大人びたポムカ様のことを、坊ちゃんは大層好いておられました」

「「「やっぱり!!」」」


 ハンハの言葉に予想通りだったとテンションの上がる3人。

 やはりこの年頃の時分はこの手の話は大好物なのだろう。


 一方のルーザーとエルはもう完全に興味は無くなったと、新たに用意される食事に手を付けていたりする。


「……でも、そうなると、勝ち目、ない、かも」

「ですね~」

「おや、ポムカ様には既に思い人が?」

「本人は真っ向から否定してますけどねぇ~」


 そう言うナーセルの言葉に合わせて3人の視線が1人の男に向けられる。

 そこにいたのは勿論、ルーザーだ。


「しまったんよ……まさかまだ追加があるとは思わんくて、前半戦で全力出し過ぎたんよ……(´~`)モグモグ」

「なら控えろ? その発言は普通、お腹いっぱいの奴がするもんだぞ?」


 エルの言葉に呆れていたルーザーを見たハンハ。


「おやおや、あのお方が……随分と意外と言いますか、ポムカ様はあのような方が、というような感じではありますが……」


 ポムカの想い人(本人非公認)の意外さに驚いていたが……


「ああ見えて~、とっても~、優しいんですよ~?」

「弱い、人の、味方」

「確かに。見た目も普通に悪くないし、貴族に面と向かってやりあってさえなければ、魔術学校でもモテてただろうしね。……正直、あたしもあり寄りのありだし」

「わかります~」

「ポムには、言えない、けど、ね」


 一方で3人は、その為人ひととなりには好感が持てるとばかりにルーザーを評価していた。


「おや、そうでしたか……人を見る目はあると自負しておりましたが、どうやらぁの目もあてにならなくなってしまったようで」


 ふふっと笑みをこぼしつつ、自分の失態を笑ったものか、はたまたポムカの女の子としての一面が見れた喜びからかはわからないが、そうハンハが告げると……


「……となれば、坊ちゃんには悪いですが、ポムカ様の応援をさせていただくとしましょう」


 ゆっくりとルーザーに近づき、「少々よろしいでしょうか?」とルーザーに声をかけていた。


「あん?」

「よろしければ、そちらのお召し物……いえ、御髪おぐしも含め、こちらで整えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「え? いや、いいよ、別に。面倒だし」

「……よろしければ、そちらのお召し物と御髪、こちらで整えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「え? いや、だから別にい「……よろしければ、そちらのお召し物と御髪、こちらで整えさせていただいてもよろしいでしょうか?」って、こいつ! 人の話、聞かないつもりか?!」

「よろしければ、そちらのお召し物と御髪、こちらで整えさせろ……整えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「おい、今整えさせろって言ったか?! 言ったよな?! まさかこいつ……こっちが『はい』って言うまで何度も言う気じゃ「『はい』ですね? ありがとうございます。ではこちらへ」……って、そういう意味で言ってねぇから! 『はい』とは言ったけど肯定の意味では言ってねぇから!!」


 しかし、指をパチンと鳴らしたハンハの合図にスッと現れた総勢10名のメイドたちが、ガッとルーザーを持ち上げて移動を開始。


「いや、だから! 人の話を聞けぇ!!」


 あっという間の手際の良さにジタバタするしかできないでいたルーザーは、結局逃げること叶わず奥の部屋へと連れ去られてしまうのであった。


「あ、あのルーザー君がいいようにされてるって……」

「……メイドさんって、凄いんやな……」

「「うんうん」」


 ◇ ◇ ◇


「……ったく、まだ動きやすくて助かったけど……何でこんなチャラチャラした物まで付けねぇといけねぇんだよ」


 服など上はシャツと上着、下はズボンとパンツだけでいい。

 ――否、それどころかシャツとパンツだけでいい。

 ――いや、一番楽なのは全裸だ! というのがルーザーだ。


 だからこそ、今のような白を基調とした動きやすさよりも見栄えを重視した礼装は勿論のこと、小物などのアクセサリーを纏わされた状態にはうんざりといった様子。


 しかし、そんな彼の姿を見たナーセルたちは、そんなルーザーの姿に驚きを隠せないといった風な表情をしており……


「いや……めっちゃカッコいいんだけど!?」

「とってもお似合いです~」

「王子様、みた、い」

「なんよぉ……」


 と、今まで無造作に切られていた髪のせいでよく窺えなかった顔立ちが、綺麗に短く髪が切り揃えられたことでその整えられた容貌がより際立ったと、素直に褒めることしかできないのであった。

 ……あのエルでさえ、食事しながらではあるが見入っていたりするし。


「そいつはどうも。……で? これ外していい?」


 しかし、ルーザーはそんな評価よりも耳に付けられたイヤリングが気になるようで、それを無理矢理引っ張って取ろうとしていたりする。


「「「「駄目!!」」」なんよ!」

「いや、何でだよ?!」


 急に怒鳴られたように声をかけられたことで、流石に戸惑うとルーザー。


「何でもだよ!」

「というより~、ルーザー君はもっと~、ご自分の価値を~、自覚して欲しいです~」

「確か、に」


 しかし、一方でナーセルたちは何でわからないんだとでもいうように、ルーザーに言葉を投げかける。


「なんだよ、価値って?」

「価値は価値だよ」

「いや、だから……」

「わか、って」

「なんよ……」

「だから、説明してくれ!!」


 そうして、ルーザーだけがわからない会話を繰り広げていたナーセルたちではあったが……


「……」


 一方でその様子を見ていたポムカは、少し拗ねたような表情でジッとルーザーを見つめていた。


「……どうかしましたか? ポムカ」

「えっ? あ、いや、別に……」


 未だ夫妻の間に座らされているポムカであるためか、その振る舞いの不思議さにはすぐさま気付くとネンニル。

 しかし、ポムカは慌てるように、何かを誤魔化すように返事をすると、再び顔を伏せつつ用意してもらった食事に手を付ける。


「……やっぱり、ポムちゃん……」


 そんな中、お手洗いから帰って来ていたガイルは、何かに気付いてしまったとばかりに、心中穏やかではいられないとポムカを見つめていたのであった。

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