晨星はほろほろと落ち落ちて 第十幕
「……ハァ」
滞在中の町ペシュフーロンの領主、ガイルエックとのわちゃわちゃとした再会を果たした翌朝。
何故かため息交じりで起きてきたポムカ。
「おはよう、ポムちゃん。……朝から大変そうだね」
「おはよう。……ええ、本当に。気持ちはありがたいんだけど……」
そんな彼女に声をかけたのはこの町の領主、ガイルエック・ヴィーラヴェブスことガイルであった。
実は昨晩、ポムカたちはガイルの住む領主邸に泊まらせてもらっており、今いる場所はそんな領主邸にあるやや大きめのラウンジであった。
これはそうなることになった際の様子……
「……お~い、そろそろいいか~」
ガイルが騎士団員たちに攻められショックを受ける中、ルーザーが全員に知らせるように声を出す。
「どうしたの?」
「エルがそろそろお
一身に注目を浴びたルーザーはその視線をエルにやると、それに釣られたと他の面子もエルを見る。
「かふっ……にぃくぅ……ぐあ」
すると、そんな彼女は目は半目、口はだらしなく開きながらも、手にしたチキンは手放さない状態でガクンガクンと船を漕いでいた。
「女の子がしちゃいけない顔してるぅぅぅ!!」
「……あ~、そういえばもうそんな時間だったわね」
「エルはもう眠くなっているのか?」
しかし、壁に掛けられていた時計の針はまだ9時を回っていない時分だと首を傾げるルセットにポムカ。
「この子、基本的に7時頃には眠くなっちゃうみたいで……」
「子供か!」
「ちなみに朝は大体4時起きで」
「いや、お婆ちゃんだった!」
これは田舎暮らしの名残だとポムカ。
昔は日が落ちる前に夕食を取り、日暮れ頃には寝てしまい、そして朝早く起きては農業などに勤しんでいたためと。
「流石はド田舎組……」
「だとしたら、ルーザーもそうなのか?」
「いや。うちは狩りしかしない村で、そのために遠出することもあっから、寝れる時に寝とくって感じだな」
そのため、どちらかといえば眠気には強い方だとも。
「そ、そうか……そうとは知らず、ちょっと時間を取り過ぎてしまったね。申し訳ない。それじゃあ、僕たちはこれで失礼するよ」
「じゃあ、私たちも今日はこれでお開きにしましょうか」
「は~い」
こうして、帰宅の準備をする面々だったが、「それで、エルはどうするのだ?」とルセット。
「ああ、それなら……」
「……ま、俺だわな」
ポムカの言葉にルーザーは、「ほら~、エル~、帰るぞ~」と声をかけつつ、手提げかばんを持つ感覚でエルの腰を持って持ち上げる。
「うにゃ……」
「いや、持ち方ぁ!! モニクンとブテルの時もそうだが、お前は人を運ぶのに慣れてなさすぎないか!?」
「え?」
「まぁ、それはそうなんですけどね……」
本来であればおんぶやお姫様抱っこを期待するものだが、こいつにそんな期待はできないと既に諦めているとポムカ。
「いやまぁ、確かにそんな奴なんだろうが……」
ポムカの言葉にルセットも、少ない時間ではあったがルーザーのことは何となく理解ができたと、どこか納得しつつ呆れた様子。
一方のモニクンとブテルは『運んできた』という言葉に反応したようで、「俺たちも?」と首を傾げている。
「って、そういや、俺たちも目ぇ覚めたらベッドだったっスけど……」
「お前が運んでくれてたんだなぁ」
「あぁ、まぁな」
「そいつは助かったっス……何故か後頭部がすげぇ痛いっスけど」
「オイラもなんだぁ」
頭を摩りながら何故だろうと頭に「?」マークを浮かべる2人。
その言葉に理由を知っている女子たちは皆、同情の眼差しを向けていた。
「……そうか。なら、後で治癒の魔術をかけてやるからな」
「「?」」
「って、そうだ! ポムちゃんたちって、今日宿泊する所って、決めてるの?」
一方のガイル。
思い出したかのようにポムカたちの宿泊先について問いただす。
「ええ。近くの宿に泊まっているけど……それがどうかした?」
「どうかしたじゃないよ! ポムちゃんを宿に泊めた――っていうか、
……ということがあり、ポムカたちは領主邸に宿泊することになっていたのであった。
そうして快適な空間による睡眠をとれたはずなのに、何故か
それは屋敷に到着した昨晩、ハンハという老齢の女性と再会したことだ。
ハンハはガイルを赤ん坊の頃から世話してきた女性であり、それが縁でポムカのことを知っていたのだ。
勿論、ポムカ自身も彼女を覚えていたこともあり、再会の際には大いに喜び合った訳だが、そのことがハンハを燃え上がらせてしまったのだ。
「ポムカ様に相応しいお召し物を仕立て上げなければ」
これはポムカの服装を見たハンハの言葉だ。
彼女の服装を俗っぽいと感じた彼女は、ポムカにはドレスが似合うと言うも、自分はもうそういう立場の人間ではないし動き辛いからと拒否。
しかし、全く聞き入れてくれなかった彼女はメイド総出で作業すると決意し、昨晩では時間が遅いと活動は今朝からになり、そしてその採寸に先程まで付き合わされていた訳だ。
おかげで朝から忙しなく動く羽目になったと、ポムカは気疲れしていたのだった。
「そもそも、ドレスなんて必要ないのに……」
「フフッ。まぁ、うちは子供6人全員男って家系だからね。ポムちゃんのような年頃の女の子を、ハンハたちは構いたくて仕方ないんだよ」
兄たちは既に既婚者なのだが、流石にポムカ程の年齢の子はおらず、兄たちに娘ができるまで可愛がる甲斐が無いんだろうとも。
「母上も義理の娘ってことで
「そういえば、伯母様にはスゴイ可愛がられてたっけ。私も姉様も」
あまりにも甘やかしてくれるため、母親であるアリエスカが伯母様ことガイルの母親に苦言を呈することもしばしばあったそう。
「母様が居ない時なんて、うちの子にならないかってずっと誘われていたし……」
「何してたんですか……母上……って、そうだ! 母上と言えば、ポムちゃんのこと母上たちに……「……うぇ。朝食べた物もんが全部出ちゃいそうなんよ」」
初めて聞いた母親の醜態に呆れるガイルだったが、母親のことを口にしたことで何かを思い出し口にしようとしていたものの、ポムカと同じく
「あ、あたしも……」
「おかえり。……皆も大変だったみたいね」
「本当に、それ……」
「ドレスを作ってくれるって言われて~、テンション上がってましたけど~」
「こんな大変だなんて聞いてないよぉ……」
実は彼女たちもまたハンハの手によってドレスを仕立て上げられることが決定しており、ポムカの後、彼女たちの採寸が行われていた訳だ。
「そうなんな……なんであんなにお腹締め付けるん? 危うく食べたもん全部吐き出すところやったんよ?」
「確か、に……」
「でも、そういうものよ。ドレスを作る……っていうか、社交界のために着飾るのって」
今まで一度も味わったことがないというエルたちと比べて、幼少の頃ではあるが経験があったとポムカはどこか余裕そうに言うものの、それでも参ってしまうといった表情ではあった。
「そ、そうか……女の子は本当に大変なんだね」
一方のガイル。
男であるが故にその感覚はわからないと、同情する眼差しを向けていた。
「はぁ~。わかってれば、いっぱい食べなかったのにな~」
「でも、あの誘惑、勝てない」
「それはわかるんよ……」
お腹を押さえつつ後悔する彼女たちではあったが、それでも店では味わえない豪勢な食事に釣られたのは無理からぬことと複雑な表情をしていたのであった。
「あはは……。って、そういえば……ルーザー君はどうしたんだい?」
そんな彼女らを不憫に思いつつ、唯一この場に居ない唯一の男子の姿が見えないとガイル。
それにポムカは呆れ顔で答える。
「ああ、あいつね。あいつはそんなの着る気はないって、朝早くからランニングに行ってるわ」
実はルーザーもまたハンハによって礼服が仕立て上げられることになっていたのだが、当然の如く固辞。
「ルーザー君、動きづらい服は嫌いやからね」
実際、今回のポムカのトラウマ克服のキッカケ探し――という名の旅行でもわざわざ動きやすさ重視で制服を着ているし、その感情は当然抱くものであろう。
「そうか……って、そうだった! ポムちゃんのこと、父上たちにも伝えようと思って待ってたんだった」
「伯父様に?」
伯父様ことクエルオック・ヴィーラヴェブス。
このヴィーラヴェブス領の現当主であり、十三騎族の当代であり、ポムカの父アフェルバス・ランペルトンとは再従兄弟はとこの関係にある相手。
なので正確には伯父ではなく
「そういえば、さっきも何か言おうとしてたけど……それだったのね」
「うん、父上たちもきっと喜んでくれるだろうからさ。……って訳で、早速繋げようと思うんだけど、いいかな?」
そう言って手に持っていた水晶玉を見せたガイル。
「なんやのん? それ」
「もしかしてエルっち、
「でん、ぽー?」
「
共鳴させた2つの伝報玉を全く同一の物として定義し、その水晶に話しかけた声や映る姿をもう一方に反映させられるという代物だ。
「へぇ~。そんなもんあるんやね」
「まぁ、高価な物だし、知らなくても無理ないかもね」
「使う、機会、普通、ないし」
「ですね~」
そんな高価な代物を平然と扱ってみせるガイルを見て、やはり十三騎族は違うな~というナーセルたちを他所に「それじゃあ、父上に繋げるけど……準備はいいかな?」とポムカに尋ねてみせるガイル。
「……え、ええ。大丈夫。久々にお会いするから、ちょっと緊張するけど……」
「それじゃあ」
ガイルの言葉に前髪を整えつつ少し緊張した面持ちのポムカ。
そんな彼女の返事を聞き
すると、
「公務で外出していなければいいけど……」
そうして水晶が光り輝き始めること数十秒。
水晶の向こうからここには無い声が聞こえ始めてくる。
「……ガイルか。どうした? 急な呼びかけなど。何か問題でも起きたのか?」
すると、水晶玉に人影が映し出される。
そこに映し出された面相は白髪に白髭と老齢な雰囲気を漂わせながらも、力強く鋭い顔つきの男性であった。
そんな人物が映し出されたこと(というより本当に人物が映し出されたということ)で、「おぉ~」と声をあげたのはエル。
「しっ。今、お話し中だから」
「ご、ごめんなんよ」
しかし、それをポムカが嗜めると「ん? 誰かいるのか? 女の声だったようだが……」とクエルが気付く。
「あ、えっと……実は父上に会っていただきたい子がおりまして……」
「会わせたい者だと? ……なるほど、遂に貴様にも愛する者ができたか」
「うへっ?!」
今から紹介する相手を恋人と間違えられたガイルは、そのあまりの変化球に素っ頓狂な声で驚いてしまう。
「全く……貴様も年頃だというのに、未だ浮いた話の一つも持ってこんから、どうしたものかとネンニルと話していたのだぞ?」
「あ、いや……父上、そういう訳じゃ……」
「……しかし、ようやくお前もあやつのことを吹っ切れた訳か。あれが亡くなってからというもの、お前はずっと部屋でウジウジしおってからに。儂がお前にその領地を預けねば今も部屋に閉じこもって……「だ、だから違いますって!」」
今までずっと心配していたかの如く、それでいてどこか呆れてものが言えないともでいうかの如く、何かを話し続けていたクエルだが、流石にそれ以上誤解されるのは困るとクエルを遮るように声を出すガイル。
その顔はどこか照れた表情でありながら、誰かに聞かれたら不味いというような少し焦ったものではあったが、流石に情報が少なすぎるとポムカたちは首を傾げることしかできないでいた。
「……? そうなのか? では何用でわざわざ……」
「えっとですね……実はその……って、もうさっさと会ってもらった方がいいか。……それじゃあ、ポムちゃん」
そんなガイルの言葉に首を傾げたクエル。
ガイルはそんなクエルに何と言って伝えようかと考えるものの、直接見てもらった方がいいと判断したことでポムカを手招きすることに。
そうして呼びかけられたポムカはガイルと立ち位置を変わりつつ、久々に会うこととなる相手にやや緊張した面持ちで挨拶し始めた。
「……あ、えっと。お久しぶりです、クエル伯父様。ポムカです。ポムカ・ランペルトンです」
「ポムカ・ランペルトン? 知らぬ顔だが、それがお前の恋びt…………って、ちょっと待て? その名前、どこかで聞いたことあr………………んんっ!?」
ポムカの言葉に水晶に顔を近づけたクエル。
あまりにも近づけすぎているせいで、老齢の、しかもスゴイ形相の顔がドアップと、とんでもない絵面になっており、おかげでエルたちはビックリしていたが、クエルは気にせずポムカの顔を凝視する。
「ポムカ……って、あのポムカなのか?! 我が友、アフェルバスとアリエスカの娘……あの、ポムカなのか!?」
「あ、はい……。御無沙汰しております、伯父さ……「ポムkっ!?」」
ガシャン!!
それが
「ま……って、あれ? 伯父様? 伯父様?!」
しかし、相手からの返事は無い。
それをそばで見ていたガイルがこちら側の
「……どうやら、慌てすぎて
と、結論付けることに。
ちなみに1つで複数の
「まぁ、急いで新しい
ここペシュフーロンからクエルオックがいるヴィーラヴェブス領首都マエルバーグまでは早馬で2~3日かかるため、早くてもそれぐらいだろうとも。
「それまでは是非、この町に滞在してもらいたいんだけど……」
そう言うガイルの言葉に、エルたちを見るポムカ。
一応、今回の旅の目的は~(以下略)、なんやかんやで昨日の時点でここに滞在する理由がなくなってしまったので……さて、どうだろうという視線な訳だ。
そんなポムカの視線を受けたエルたち。
「別にいいんじゃない? そもそも、ここに何日滞在するかも決めてなかった訳だし」
「魔術学校の再開も~、まだ当分先ですしね~」
「そう、だね」
「それに、まだここの名物とか全然食べとらんのよ」
「あ、それもそう! 昨日はポムっちの思い出巡りと、騎士団の詰め所に行っただけでこの町全然堪能してなかったもんね」
「せっかく、だし、のんびり、旅行も、いい」
各々感想を口にするが、反対する者はいなかった。
「……そうね。それじゃあ、お世話になるわね」
「うん! こちらこそ、ゆっくりしていってね」
「……あん? ここにまだ泊まるってのか?」
結果ポムカたちはしばらくの間、この町に滞在することになるのであった。
一方、ようやく帰ってきたルーザーが、その話に混ざるものの……。
「あ、ルーザー君。そうなんよ……って、えっ!?」
「まぁ、別に俺も構わねぇ……って、どうした?」
「どうしたじゃないって! ルザっち、何その恰好?!」
その姿がパンツ一丁(以降略してパンいちと呼称)の姿であったことから皆が皆、驚きに苛まれてしまう。
「ああ、これか? ……いや、それがよ。調子に乗って森の中まで走り回ってたら、沼にはまっちまってさ。何とか出てこれたんだが、流石にこのままはあれかなって川で洗ったんだが、全然乾かなくてな。屋敷ビショビショにする訳にもいかねぇし、仕方なくこのまま来たんだよ」
一応、だいぶ水分は払ってきたとルーザーも、やはりどこかまだ濡れているようには見える。
……が、正直そんなことはどうでもいいと面々は、その肢体に見惚れてしまっているかの如く、ルーザーの引き締まった体に視線も意識も奪われてしまっていた。
「うへぇ~。わかっちゃいたけど、やっぱルザっちって凄いね~」
「ですね~」
「これは、私でも、見ちゃう」
確かにルーザーのその均整の取れた顔立ちもさることながら、脳筋と称えられる(本人の所感)程に鍛え上げられた肉体は、男子でも惚れ惚れするものがあるだろう。
実際、側に控えていたメイドたちも同様に色めきだっていたし、男性の従者たちも目を見開いて見入っているし。
「……まさかと思うけど、その姿で町を走ってきた訳じゃないわよね?」
しかし、一方でその姿には見慣れていると、ポムカはやや呆れた表情になりながらルーザーの振る舞いについて言及する。
「え? 走ってきたけど?」
「ハァ……」
そうして、予想が当たってしまったと頭を抱えるポムカは、今頃パンいちの男が走り回ってたなんて情報が出回ってなければいいな~と思うのであった。
……既にその話題で町がもちきりなのは知る由もなく。
「それより、いつものよう頼むわ」
「……はいはい。じゃあ、ジッとしてて」
ルーザーの求めに応じたポムカ。
パッと作ってみせた洗浄の魔術でルーザーを洗い上げていく。
実はポムカがこのようにしてルーザーを洗い上げるのは一度や二度ではなく、訓練名目での魔獣討伐の際にちょくちょく魔獣の返り血を浴びてはこのようにして洗浄してあげており、それが縁でルーザーが服を脱いだ姿など見慣れていたのだ。
おかげでポムカとエルはルーザーのその体を見ても、他の子のように色めきたつことはなかったのである(家に帰ってきたらパンいちだったは流石に驚くが)。
ちなみにこの魔術は服を着たまま出来なくは無いのだが、他人の服ともなると流石に勝手がわからないと、最初に使った際はパンツがビショビショのままになってしまい、以降ルーザーを洗浄する際はこの姿がデフォルトに(本人は脱ぐのには全く抵抗は無かったが)。
「……ふぅ! やっぱ便利だな、それ」
そうして、ポムカの魔術で汚れと水気を綺麗サッパリ洗い流してもらったルーザーは、気持ちまで清々しくなったと笑顔を見せる。
「そもそも、魔術学校行ってて出来ないのなんて、あなたとエルぐらいでしょうが。……っていうか、早く服を着なさい」
「へ~い」
「えへへ~」
「そしてあなたは照れない。褒めてないんだから」
彼の笑顔にやや顔を赤らめたポムカだったが、皮肉を言うのを忘れないと2人に言葉を述べている。
「…………あ、えっと。ルーザー君たち、洗浄の魔術を使えないのかい?」
一方のガイル。
美しいほどの筋肉を見せつけたルーザーについ視線を奪われていたが、ポムカが口にした事実が気になったようで、意識を戻して問いかける。
「まぁな」
「そもそもオラはそんな魔術があるの、学校入った後に知ったんよ」
「ほ、本当かい?」
洗浄の魔術とは魔術師を名乗るなら誰でも使う超が付くほど便利な魔術であるが故、それを知らないというのはガイルとしては驚きを隠せないようであった。
しかも彼らが魔術学校の生徒ともなればなおのこととも。
「この子たちは魔術学校で、最下位の成績を叩きだしてるド田舎魔術下手コンビだからね。知らないのも当然なのよ」
「なんか新しい二つ名付いたな」
「間違ってはおらんやけど……」
「そ、そうなのか……」
しかし、もはや彼らの無知っぷりにいちいち驚かないとポムカがため息交じりに言っており、その言葉にガイルは悪いと思いつつ呆れることしかできないのであった。
「……でも、そういうことなら丁度いいかもね」
「丁度いい?」
一方、そのことが何か都合でも良かったのか、ガイルがそのように話をしてくる。
「暫く滞在してもらうことにはなったけどさ。毎日観光ってのもすぐ飽きちゃうと思って。まだこの町は作ってる最中で行楽地なんてのもほとんどないし。……でも、そういうことなら、魔術の特訓をつけてあげられるなぁって思ってさ」
「魔術の……」
「訓練、なん?」
「ああ。一応、僕たちは毎日実戦さながらの魔術訓練をしているからね。君たちと比べれば~だけど一家言あると思うからさ。色々教えてあげられるんじゃないかと思って」
確かにルーザーたちが実技授業として魔術の模擬戦闘を始めたのはつい最近の事。
それと比べれば騎士団は魔術の扱いに関しては先輩と言っていいだろう。
ただ、実戦さながらの魔術すら用いた特訓はルーザーたちも自主的(主にルーザーによる強制)にしていることではあるので、魔術以外の部分に関してはその限りではないが。
「……そうね。暇だからってランニングするよりかは、そっちの方が有意義ね。魔術学校の生徒なら特に、ね?」
とはいえ、あくまでもルーザーたちは魔術学校の生徒。
となれば、最も必要なのは魔術の部分であるためか、それはルーザーたちには必要なことだとポムカはガイルに乗っかることに。
……ついでにルーザーへの皮肉は忘れずに。
「……ちっ。まぁ、そうだな。流石に退学は不味いし……」
「やるしかないんよ、な……」
「テンション低っ!」
一方、こんな所まで来て特訓かと思ったド底辺組ことルーザー&エル。
どこかどんよりとした気持ちになりながらも、仕方ないとばかしに受け入れたのだった。
「まぁ~、ここまで来て特訓するなんて~、思ってませんでしたもんね~」
「そうなんな……」
「でも、どうせすることないんだし、あなたたちには必要なことなんだから。ちゃんと、見てもらいなさい」
「「は~い」」
こうして、先生ことポムカの言葉により、この後は魔術の特訓をすることになるルーザーたちであった。
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