晨星はほろほろと落ち落ちて 第九幕
「……ガイル君。あなたに3つ言いたいことがあります」
「はい……」
静まり返った食事処――その2階。
吹き抜けをバックに腕を組んで椅子に座るポムカと、反省しきりの表情で3つもあるのかと思いつつ床に正座するガイル。
それをすぐ近くでアワアワしながら見守るルセットに、面白いことになってきたと見つめるナーセル、フニン、ルーレ。
そして、その状況を気にせずご飯を食べているルーザーと、頭を何度もコクリコクリと動かして船を漕いでしまっているエル。
そんな異様な光景を目の当たりにできている幸運な数名の観客(+騎士団員たち)をそのままに、ポムカは厳しい視線をガイルに向けつつ口を開く。
「まず1つ目に……女の子にむやみやたらと抱き着いてはいけません。私だから許してあげるけど、普通なら怒られる以上のことがあってもおかしくないんだからね?」
確かに交際していない年頃の異性に突如抱き着くというのは褒められた話ではないし、世が世なら訴えられていても不思議ではないだろう。
「はい……申し訳ございませんでした。ポムちゃんが生きていたと知って、つい感極まってしまって……」
実際、ガイルの目元には泣きはらした後のような跡がくっきりと見て取れ、本気で嬉し涙を流していたと理解できるので、やましい気持ちあっての行動でないのは確かだろう。
……だからこそ、ポムカも許してあげると言った訳だが。
「2つ目。そんなあなたがワンワン泣いたせいで私の服は涙や鼻水でべちょべちょです」
確かにポムカの服のお腹辺りには水に濡れたと思しき跡がこれまたくっきり残されており、これをもう一度着るというのは憚られるだろう。
勿論、魔術で洗浄してしまえば問題ないので、あくまでも気分の問題ではあるが。
「はい……それに関しても大変申し訳なく。この後すぐにでも弁償させていただきます」
「……そして、3つ目。公共の場で、しかも十三騎族というお立場の方が本気で泣きじゃくったせいで完全に悪目立ちしてしまった私は、明日からどんな顔をして町を歩けばいいのかわかりません」
一応、目的自体は完遂しているのでもう町を散策する必要はないにせよ、それでも帰るまでは間違いなく奇異な目で見られ、人によっては寄ってたかってガイルとの関係を聞いてくるなんてこともあるだろう。
それ故にポムカはどうしてくれるんだとばかりにガイルに詰め寄っていた訳だ。
「はい……。とんだお恥ずかしい真似をしてしまい、本当~に申し訳なく……」
「……ガチの説教じゃん」
深々と頭を下げるガイルを見たナーセル。
領主を正座させて何をするのかと見守っていたら、本気のお説教をポムカが始めたのでこの感想という訳だ。
とはいえ、ポムカの言葉はどれも正論であるためか、ガイル自身はその言葉の悉くに反省しきりのようだった。
「……あ~、あともう一つ」
「まだあるの?!」
頬を掻きながら、照れくさそうに明後日の方へ視線をやっていたポムカ。
そんな彼女の姿に、まだ怒られるのかと驚いていたガイルだったが……
「……今まで連絡せずにごめんなさい。心配かけました」
「ポムちゃん……」
今までとは逆に申し訳なさそうに謝辞を述べたポムカに、再びガイルは感極まったとばかりな顔をする。
「……って、ちょっと?! ガイル君、また泣く気? やめてね? この歳になってまたワンワン泣くの」
「な、泣かないよ!」
目元をごしごしと袖で拭きつつ、何とか悲しみをこらえたガイルは、できる限り柔らかく、できる限り親しみを込めて震える声で彼女に伝えるべき言葉を投げかける。
「それよりも……おかえり、ポムちゃん」
「……ええ。ただいま」
そんな彼の言葉にポムカもまた努めて柔らかく、ともすれば久々の再会に自分も溢れそうになる涙を必死に堪えつつ応じるのであった。
「……あ、あの……こ、これはその……いったいどういう? ……というか、団長がそんなに大泣きされるとか……」
一方、ようやく2人の間に割って入っていいと悟ったルセットが、特に気になっていた部分を指摘しつつ戸惑いの声をあげている。
その様子を見るに、ガイルが晒した醜態は初めて見る光景といったようだ。
「ルセっちはガイっちのこんな感じ、知らなかったんだ?」
「あ、ああ。初めてお目にしてビックリし……ん? ガイっち?」
「そこは~、気にしちゃダメです~」
「いつもの、こと」
「?」
ルーザーも引っ掛かりを覚えていたナーセル流のあだ名に、十三騎族相手にそんなあだ名を付ける者がいるのかと聞き間違いを疑ったルセットだったが、フニンやルーレからの言葉を受け、よくわからないといった面持ちで首を傾げてしまう。
しかし、「でも、ポムっちは知ってたんだね? この……えっと……」とナーセルが話を続けてしまったことで、そんなルセットの疑問は露と消えたのであった。
「ガイル君ね。……って、ごめんなさい。普通に考えて、ガイルエック様って呼ばなきゃだったわね」
ナーセルの言葉にガイルを紹介しようとしたポムカ。
しかし、今更ながらに立場の違いを思い出し訂正するも「や、やめてよ、ポムちゃん」とガイル。
「ポムちゃんに様付けされるとか、聞き馴染みが無さ過ぎて逆に気持ち悪いよ」
どうやらいつも通りの方がいいようで、ポムカにそう呼ぶよう伝えていた。
「……そう? それじゃあ、今まで通り呼ばせてもらうけど……彼はガイルエック・ヴィーラヴェブス君。私はガイル君って呼んでいるけど……ここの領主、クエルオック・ヴィーラヴェブス様の六男で……って、今はガイル君が領主様なんだっけ?」
「うん、まぁね。父上に押し付けられたんだけど……」
どうやら、「座学などしている暇があるのなら、さっさと前線に立って経験を積むべき」と言われたのは、彼で間違いないようだ。
「そう。まぁ、伯父様らしいけど……私とは
「よろしく」
「
「聞いたことねぇな」
恭しく頭を下げるガイル。
その礼儀正しさは流石の騎族というべき所作ではあるが、ルーザーたちは
「曾祖父が兄弟同士の間柄をそういうらしいわね。……まぁ、私も昔聞いた時は同じ反応をしたものだから、何となく頭に残っていた訳だけどね」
「ふふっ、確かにね」
「……で、話を戻すけど、ガイっちがこんな子だってのはポムっちはやっぱ知ってたんだ?」
「まぁね。……というか、領主として立派にやっているっていうガイル君の方が想像できないかも?」
「ちょっ、ポムちゃん!? や、やめてよ。一応、皆だっているんだから!」
「ふふっ。ごめんなさい」
意地悪く言うポムカの言葉に騎士団員たちを視野に入れつつ焦ってしまうガイル。
その仲の良さ――即ち親戚である以上に親しい理由を知らなかったルセットは、どこか心中穏やかではいられないといった様子で眺めており、流石に気になると「あ、あの!」と言葉を投げかける。
「ん?」
「だ、団長はその……ポムカと親しいようですが、ど、どうしてそこまで……」
しどろもどろになりながら2人の関係を知りたいとルセットに、どこか違和感を感じつつ、「あれ? ランペルトン家のこと、話してないの?」とガイルがポムカに問いただす。
「ええ、まぁ。特に人に言うようなことでもないと思ったから」
「……なるほど。ポムちゃんらしい」
そんなポムカの振る舞いに、過去の彼女と重ねつつ、昔と何も変わっていなかったことをどこか嬉しく思ってクスクスと笑みをこぼすガイルの姿に、やはりどこか戸惑いを隠せないといった様子のルセット。
そんな彼女に改めてとガイル。
「彼女はポムカ・ランペルトン。ここの先代領主、アフェルバス・ランペルトン様のご息女だよ」
「え? ……ラ、ランペルトン!? あ、あのランペルトン家の御令嬢、様なのですか!?」
「ええ、まぁ。とはいえ、もう昔の話……「こ、これは失礼いたしました!」」
予想だにしていない事実を聞かされたと驚いたルセットは、ポムカの言葉を遮り慌てて膝をつく。
「まさか、ランペルトン家の御息女とは露知らず、数々のご無礼を……」
ここでいう数々のご無礼とは、彼女を尾行したことやモニクンが攻撃してしまったことを言っているのだろう。
「おい、お前たちも頭を下げろ! 特にモニクン、お前はな!」とルセットがモニクンとブテルにも同様のことをさせているところから見ても。
「あ、頭をお上げください! 私はもう貴族でも何でもない者ですし……」
ポムカがそんな振る舞いをされる謂われはないと慌ててルセットに声をかけるも「いや? ランペルトン家は父上が名誉騎族として名前を残しているよ?」とあっけらかんと話すガイル。
「何してるんですか、伯父様……まぁ、伯父様ならしそうだけども。……とにかく。そのことについては気にすることありませんから、どうかいつも通りで」
「し、しかし……」
「本人がそう言ってるんだから、逆にその態度は失礼というものだよ。ルセット」
ポムカの言葉にそれでもといった表情のルセットだったが、ポムカの意をくんであげるべきとのガイルの言葉に、「……そ、そうですか」と返事をすると、「……わかりました。では、そうさせていただ……じゃなくて、そうさせてもらおう」と言いつつスッと立ち上がるのだった。
ちなみにそれを見て膝を付かされていたモニクンやブテルも立ち上がっていたが、本人たちは何でこんな姿勢を取らされたんだろうと首を傾げていたりする。
……彼らのような人間にとっては貴族だなんだはどうでもいいのだろう。
「……しかし、得心がいったよ。お前がランペルトン家の人間だというのなら、団長とポムカは昔馴染みであったという訳か」
「ええ。よく一緒に遊んだのは確かね」
「そうだね。歳も近かったし」
「っていうか、さっき
「す、すまない……聞きなじみがなさ過ぎて、正直ピンと来ていなかったんだ」
そもそも、単なる親戚程度なら十三騎族にはたくさんいるため、それほど特別な関係だったと思わなかったとも。
「ま、確かに十三騎族は王国をずっと支えるために、たくさん子供を産んで後継者を必ず残さないといけないっていう暗黙のルールがあるからね。……おかげで貴族がどんどん増えちゃう訳だけど」
そのため、ポムカもその程度の間柄なのだと勘違いし、何故こんなに仲がいいんだろうと思っていたようだ。
「……でも。ってことは、お嬢は団長の昔のこともよく知ってるってことっスか? 特にあのめっちゃ泣きまくってたところとか」
「ちょっ!?」
すると、そんな彼女らの会話にモニクンが割って入ってくる。
「お。おい、モニクン! 失礼だぞ!」
「っていうか、お嬢って……」
「いや~。だって、団長のあんな情けない姿、見たことなかったっスから」
「それはそうなんだなぁ。おかげで、このお店も貸し切りにせざるを得なかった訳だしぃ」
「ブテルまで!」
「そ、それに関しては本当に面目ないと思ってるよ……」
2人の言葉に反省しきりのガイルだが、実はポムカとガイルの再会時、このままでは騒ぎになりかねないと来客していた人々には出て行ってもらっていたのだが……
これはその際の光景。
「おぉい、てめぇら! 今日の所は貸し切りにさせてもらえねぇっスかね~?!」
「この通りだぜぇ?! 代金はご領主様が全部もってくださるからよぉ?!」
メンチを切るモニクンとブテル。
更に騎士たちも同様に顔を近づけて客たちに頼んでいたため、「どの面下げてこの通りなんだよ……」とは全てのお客の声。
「相変わらず顔怖すぎるからな? このままだとほぼカツアゲだからな? 話を聞けば、カツアゲどころか奢りで嬉しいまであるけどさ」
「あぁん?! 何か言ったっスかぁ!?」
「だからそういうところを改めてくれってだな……」
「……やめとけ。こいつらには何を言っても無駄だ」
「そうなのか……」
一方、お客の言葉にも特にした風もないモニクンたちの様子を見て諦めたといった表情の常連客に、彼らの言葉にこれがいつも通りなのかと旅行者や運送業者たち。
「……はいはい。ま、あんたたちが言うなら引き上げてやるけど……」
「結局どういうことなのか、後で教えてくれよな」
仕方ないとばかりに立ち退いてくれることにはなったものの、流石にこの状況は気になると後日に詳細説明を要求する。
「あぁ、それは任せろなんだなぁ!」
「楽しみにしとけっスよ?」
そうして、町の人たちは撤収していくのであった。
「この光景、毎度お馴染みなのか……」
「みたい、だね」
その様子を見ていたルーザーたちは呆れていたが……何はともあれ、こうして今ここはルーザーたちしかいない貸し切り状態になっていた訳だ。
「まったく、勘弁して欲しいんだなぁ」
「そうっスよ! 町の奴らの迷惑も考えて欲しいっスけど?」
「うぅ……」
顔は怖いし服装はおかしいしで本当に騎士かと疑いたくなる面々ではあるが、言っていることはまともとガイルは反省しきりなのであった。
「あはは……まぁ、でもそうね。確かにガイル君が泣き虫なのは昔から知って……というより私。ガイル君との思い出って、ガイル君が泣いているところしか無いんじゃないかしら?」
モニクンの言葉に改めてガイルとの過去を振り返ってみたポムカだったが、ガイルの男らしいところは一ミリもなかったのではと首を傾げる。
「ポ、ポムちゃん!? 流石にそんなこと……」
そんなことは無いと言いたげなガイルを他所に、忘れてしまっていた記憶を掘り返してみたポムカ。
浮かんでくる光景でガイルは、無邪気に走り回るポムカを追いかけて転んでは泣き、嫌いな物を食べられないと泣き、夜1人でトイレに行くのは怖いからついてきてと泣いて頼んで来たが、結局翌日におもらししてしまったことでも泣いてと……。
「……うん。やっぱ泣いてるところしか思い出せないわね」
そう結論を出さざるを得ないほどに、ガイルの泣きっぷりに思いをはせるのであった。
「ち、違うって!! もっとあるから!! ちゃんと思い出してよ、ポムちゃん!!」
「って、言われてもな~」
いくら頭を捻ってみても、結局同じ光景しか思い出せないとポムカ。
「……あ。ネンニル伯母様に叱られたって言って
しかも、ようやく思い出した別の記憶でもガイルは泣いていたようだし。
「悪化してるぅぅぅ!! 恥ずかしい思い出しか語られないぃぃぃ!!!」
「アッハッハ! いつもお堅い感じの団長にも、そんな時期があったんっスね!」
「これは良いことを聞いたんだなぁ!」
「お、おい! お前らなぁ!」
「む、昔の話だから! 子供の頃の話だから!!」
モニクンやブテルを嗜めるルセットだったが、当のガイルはバツが悪いと顔を赤らめあたふたしている。
「でも、さっきも普通に泣いてたじゃねぇか」
「あ、あれはその……流石に亡くなったと思った子が生きていたら誰だって、ああなる……だろう?」
消え入りそうな声のガイルだが、流石にそれは理解ができると「まぁ、そりゃそうか」とルーザーだった。
「それについては、本当にごめんなさい。心配かけ……た訳じゃないんだろうけど、ちゃんと伝えられなくて。なにぶん今まで記憶がなかったものだから」
「記憶が無い?」
「どうやらペシュフーロンの大火の折、化け物を目撃したとかで、ショックで記憶を失っていたそうなのです」
「化け物? ……まさか、あの災害に魔獣か何かが関わってたってのかい!?」
先程ポムカたちから聞いた情報を披露したルセットに、初めて聞き及んだとガイル。
「うん。ルセットさんから色々聞いた結果、間違いなく化け物が居たってことにはなるんだけど……」
結論は勇者が関わったかも知れないという曖昧なものなので、ポムカは自信なさげに告げたのであった。
「そうか……まぁ、確かにあの事件は色々おかしな所があったというしね。……でも、まさかその時のショックで記憶を失っていたなんて……」
ポムカの言葉に心痛やむなしといった表情のガイル。
「……でも、そうなると今まではどこに? もしかして、誰かに拾ってもらってたとか?」
一方で、それならポムカは今までどこで何をしていたのだろうと、彼女の過去を問うてみる。
そんな自分の過去に興味津々といったガイルたちに対し、「実は……」と特に話しても構わないと過去を開示することに。
「まさか!? ポムちゃんが奴隷に!?」
「そうか……なにやら色々と言ってはいたが、そういうことだったか」
驚きを禁じ得ないといった様相のガイル。
一方のルセットは、先ほどのポムカたちのやりとりで何となくは察していたとしつつ、同じく貴族によって最悪の結末を迎えさせられたことから、同情の眼差しを向けている。
「でも、ポムの、おかげで、楽し、かった」
「だね~。奴隷だったのに楽しかったのって、マジであたしらだけだよね」
「これも~、ポムちゃんのおかげですね~」
「ありがと。……でも、もうそれ、いちいち言わなくていいわよ? 散々聞いたから。私」
「嫌だね! できることなら全人類に知って欲しいし! ポムっちの凄さを!」
「ですね~」
「断固、お断、り」
「……もう~」
しかし、そんな状況にあっても無事だったどころか、こうして馬鹿を言っては笑い合えるまでに絆を深める程の活躍をしたポムカを見てガイル。
「……でも、そんな状況もどうにかしちゃうのは、流石ポムちゃんだね」
どこか誇らしげに、どこか尊敬の眼差しでポムカを見つめるのであった。
「そうなんだなぁ。頼りなくてぇ……」
「すぐ泣いちゃうどっかの団長殿とは違ってっス!」
「ぐはっ!」
そんな彼に追い打ちを放つモニクンとブテル。
「お前ら、いい加減にしろ!? 団長なんだよ!? それ以前に十三騎族の方なんだよ!! もっと気を遣え?!」
そんな2人をルセットが嗜めるも、聞く気がないとばかりに口笛を吹いてそっぽを向く2人。
「……いいんだ、いいんだ。どうせ僕なんて、ポムちゃんに比べたらまだまだ未熟だし……」
「落ち込んじゃいましたね~」
「そもそも、上下関係、おかしい?」
「だね? 下剋上、的な?」
膝を抱えていじけるガイルを他所に、モニクンたちの振る舞いに首を傾げるナーセルたちにブテル。
「というより、オイラたちは姐さん以外をボスとは認めてないだけなんだなぁ」
「どういうこと?」
曰く、彼らはあくまでもルセットに付いてきただけなのであって、ガイルに付いてきた訳ではないとのこと。
「それなのにいつの間にか俺たちのリーダー面してんだから、本当に困ったもんっスよね? 姐さん」
その言葉に他の団員達も首を縦に振っている。
「いや、だからわたしは別に、上も下もこだわらないとあれほど……」
「この際、姐さんが団長をやるべきなんだぁ」
「だから、どうでもいいと言ってるだろ!? 頼むからわたしの話は聞いてくれ! 何度も言うが、わたしも上官だからな!?」
一方のルセットは団員たちに身分にこだわらないと伝えるものの、一向に届く気配が見えないと声を荒らげる。
「なるほど……ルセットさんが一番大変そう……」
そうして、中間管理職はどこも大変そうだと思っているかどうかは別にしても、気苦労が絶えなさそうだなとルセットに同情の念を抱くポムカたちなのであった。
「……でもそういえば、ガイル君って何で領主様なのに騎士団の団長さんまでやってるの?」
「……ああ、それはね。父上が原因なんだ」
ポムカの問いに応えるべく膝を抱えて座ったまま返事をするガイル。
「伯父様が?」
「先ほど話したと思うが、元々は警備隊だった我々を騎士に昇格させようとしてくれたのが団長だったんだが……」
「流石に騎士学校に通っていない者に騎士を名乗らせられないと父上に断られてしまってね。それでもと食い下がったら、僕が団長になれば特例で騎士として認めると言ってくださったんだ」
よっこいしょと立ち上がりつつ、原因たるクエルオックの話しをするガイル。
――領主として政をなし、騎士として民を守る。
そんなガイルをルセットたちがしっかりと支えることができたのであれば、それは紛れもなく騎士であるとし、正式に騎士として任命すると約束したんだとか。
「我々としては別に警備隊のままでも構わなかったのだが……」
「とんでもない。君たちのその献身性は紛れもなく騎士そのものだ。そんな君たちを認めないなんて……それこそ領主としての名折れというものさ」
「団長……」
ガイルに真っすぐな瞳で見つめられたルセットは、どこか顔を赤らめ照れたような表情で見つめ返している。
ともすれば何かが始まりそうだと、ナーセルたちが期待の眼差しで見ていたものの……。
「……ま、そんな偉そうなこと言っててもっス」
「あの泣きっぷりじゃ、既に領主の名折れなんだなぁ」
「「「「「確かに」」」」」
「がはっ!!」
モニクンたち騎士団のトドメと言わんばかりの一言で、ガイルは吐血しながら崩れるように倒れてしまうのであった。
「だからお前たちぃぃぃ!!!」
「あはは……」
そんな彼らの姿に、ガイルも肝心な部分は変わってないんだなぁと微笑ましく思うポムカなのであった。
「……ねぇ、もしかしてルセっちって……」
「可能性、大」
「ですね~」
「これは……ルセっちを応援するしかなくない?」
「確か、に」
「できることがあれば~、サポートしちゃいましょうか~」
「だね!」
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