晨星はほろほろと落ち落ちて 第六幕

「親戚ねぇ……。そう言って、領主様に取り入ろうとする輩がどれだけいると思ってんだ?」


 これがあの後、領主邸へと出向き、領主に会わせて欲しいとお願いした時に門番に言われた一言だった。


「ま、普通はそうよね」


 領主邸を離れながら諦め顔で言うポムカ。


「っていうか、貴族たちが問題児過ぎるって話しじゃない?!」

「そうですよね~」


 一方のナーセルたちはそんなポムカに付き添いながら、ポムカが会えない原因を作ったと思われる貴族に憤っている。


「さて、どうかしらね? 私が伯父様に最後に会ったのは10年も前の話だし、私のことを知ってる人がいないんじゃ、貴族どもがまともだったとしても、門前払いされてたんじゃない?」


 一応、門番には詳しい自身のプロフィールを伝えたものの、それが本当なら凄いことだがそれでも証拠が無い者を入れる訳にはいかないと結局ダメだったので、ポムカはこの反応という訳だ。


「確かに。名前、出しても、ダメ、なら……」

「無理っぽいんよな~」


 とはいえ、ポムカの過去を知っている相手に会えなかったのは、やはり残念でしかないとエルとルーレ。


「なんだったら塀乗り越えて、無理矢理にでも会ってもらうってのはどうだ?」

「あなたらしいけど……ああいう要所は普通、四方に対物結界壁ハイリアル・ウォーラメントが張られてるから、入れそうに見えて入れないからね?」

「あ、そうなの?」


 一方のルーザーはあの程度の塀なら乗り越えるのは余裕と提案するも、流石に無理だとポムカは否定する。


 対物結界壁ハイリアル・ウォーラメントは調整次第で向こう側が見えるようにしたりできるので、不透明にすると景観が損なわれたり窮屈さを感じたりする状況や、試合形式での何かの際に観客を入れるような状況などでは通常、完全な透明状態にするものだ。

 そして、領主邸なる重要施設ともなれば警備は厳重にしなければならないので、対物結界壁ハイリアル・ウォーラメントを展開しているというのは当然のことと言える。


 ちなみに施設などに展開される対物結界壁ハイリアル・ウォーラメントは魔術師などによる魔術で生み出したものではなく、魔鉱石を用いて生み出しているため、人間が生み出すものよりも頑強で(人間が生み出したものは使用者の力量によって肩代わりできる威力が下がる)、魔鉱石にマナを注げば半永久的に展開できる(人間、魔鉱石問わず、生み出した魔術は時間経過によってマナが霧散していく)ため、基本的に人ではない物に展開する場合は魔鉱石が用いられることになる。


 更にちなみに魔術学校などで使用される対魔結界鎧マナリアル・アーマメントは、行使する教師の力量によって不公平感が出ないようにと、ある程度数値化し全員同じだけ肩代わりできるように調整してある(それでも多少の誤差は出てしまうが)。


「な~んだ、残念。うまくいきゃ、ポムカをそいつに会わせられたってのに」

「その心遣いはありがとう。でも、門番さんの言葉も最もだもの」

「そうだけどな……でも、そうなると、行くところ無くね?」

「だね~」

「……いいえ。もう一か所だけあるわ」


 ルーザーたちの言葉に一息吐いたポムカは、どこか覚悟を決めたような顔をしていた。


「もう一か所?」

「……あの山よ。私が……最後にお友達と遊んでいた所」


 ポムカが指し示す場所。

 町の外、ここから南西に位置する小高い山。


 そこは彼女の命運が分かれた場所であり、最も鮮明に覚えている記憶の最終部ともいうべき所。


 それ故に、行くのが怖かったとポムカ。


「とはいえ、私のトラウマを治すキッカケを探しにわざわざ故郷ここまで来たんですもの。それなら、思い当たる所へはできる限り行かなくちゃ。あなたたちまで巻き込んじゃってるんだし、何の成果も無かったなんて申し訳ないもの」


 ここへ来るのに片道4日。

 となれば往復で8日。


 そんな期間費やさせておいて何も無かったでは、確かにポムカも心が痛いことだろう。


「それは~、気にしなくていいことですよ~?」

「そうだよ? どうせ学校も休みで暇だったし」

「やること、なかった、し」

「そうなんよ! 馬車の旅も何だかんだでたんしかったし」


 一方のナーセルたちはポムカを気遣うように言葉を述べるも、確かに馬車での旅路、皆が持ち寄ったトランプなどでの遊びは非常に盛り上がっており、普段できないことができたと楽しんでいたりする。

 おかげでより女の子同士仲良くなれたとエルたちは大満足であり、ルーザーも彼なりにやったことのない遊びができたと退屈だったが不満は無かったとも。


「皆……」

「それに暴れそうになっても安心しとけ。いざとなればちゃんと止めてやるし、どうなったって俺が何とかしてやるからよ」


 そう言ったルーザーの手の形は手刀スタイルだった。


「……ねぇ、一応聞くけど……どう止める気?」

「どうって、こう……そいっ! っと」


 その形を見て嫌な予感がするとポムカが尋ねると……その方法とは脳天を目掛けての瓦割りだった。

 きっと無慈悲な一撃であろうことは容易に想像できてしまった。


「……できる限り自分で抑えられるように頑張るわ」


 そのためポムカは何とか自分で抑えられるよう頑張ろうと誓いつつ、小高い山へと向け彼らを先導するのであった。



「「「……」」」



「……ん?」

「どうかした?」

「……いや、なんでもねぇよ。……今のところはな」

「?」


 ◇ ◇ ◇


「うへぇ~、獣道ばっかぁ」

「歩きづらいですね~」

「もうちょっとよ。変わっていなければそろそろのはず……ほら、あそこよ」


 ポムカの思い出の地を目指すため、グリテステラ大樹海よりかは空が開けている森の中を歩く一行。

 足場などが整備されていない故に歩きずらいその場所を、おおよそ2時間程度歩いていた彼女らは、ついに目的の場所へとたどり着く。


「綺、麗」

「ほんまなんよ」


 そこは柵がこしらえられている広々とした場所であり、下を覗くと結構怖い印象のある所であった。

 しかし、そこから見渡す景色には中々の風情があり、目立った建物は無いながら暮夙くれまだきの町並みは絵画のように美しく、それを見に来ただけでも来た甲斐はあったというものだった。


「いつもこの辺で遊んでたのか?」

「いつもって訳じゃないけど……やっぱり遊びたい盛りの頃は目いっぱい走り回ったりしたいものじゃない? だから、距離的にもそんな遠くないここは絶好の遊び場だったのよ」


 親の目の届くところではやれ危ないからとめられたり、はしたないからとめさせられたりすることも多いが、町の近くともあって魔獣などがいないか頻繁に調べられ安全が担保されていたこの辺りは、悠々と羽を伸ばせると子供の遊び場としては人気だったんだとか。


「まぁ、私はそもそも領主の娘ってこともあって、あんまり自由に外を出歩けなかったからね。お友達に内緒でここに誘ってもらった時は、すごい喜んだものよ。……メイドさんや庭師の方にはバレてたけどね」


 とはいえ、その境遇を憐れんで逆に抜け出す協力をしてもらってたのはいい思い出だとも。


「それで、前の晩なかなか眠れなかったって言ってたんだね」

「ええ。……そして、私はそのかくれんぼの最中に眠っちゃって……」


 その後の結末は以前彼女が語った通りだった。


「それで……何か感じることはあるん?」

「……そうね」


 エルからの問いに、柵に近づいてそこから見える風景を目に焼き付け始めるポムカ。


 吹き付ける温かな風を肌に感じながら、過去に思いを馳せているのか、ただここからの景色も覚えていないと落胆しただけなのかはわからないが、それでもポムカはジッとそこから見れる光景を眺めている。


「……いいえ。残念なことに何にも」


 しかし、ポムカにはその光景に感じ入るものは無かったようだ。


「やっぱり、何となく覚えてる景色と違い過ぎるからね。ここが全部、燃え始めようものならアレだけど……」

「『じゃあ燃やしてみっか』とは、言えねぇわな」

「ええ……」

「そっかぁ……」


 その結果に皆、落胆した表情を見せてはいるものの、それでもわかったことがあるとルーザー。


「でも、そういうことなら、今のところは巨大なもんが燃える様を見るってことだけがトリガーになるってことでいいみたいだな」

「そうだね」

「……となると、解決方法は一つしかねぇか」

「方法?」


 そんなものがあるのかとポムカたちがルーザーに期待の眼で見つめるも、当のルーザーは「残念だが、そんな万能な手段じゃねぇぞ」と注意を促す。


「要はちょっとずつ燃やした物を大きくしていって、ダメだったサイズで何度も挑戦していって慣れるっつー、力業だからな」

「本当に力業ね……」


 確かにピーナッツアレルギーを治す際、ピーナッツをアレルギーの反応が起きないギリギリのラインで摂取していって徐々に体に慣れさせるという方法は存在するし、花粉症等の治療の一環として似たような手法である舌下免疫療法ぜっかめんえきりょうほうなるものも存在しているため、この方法は少なくとも有用ではあるのだろう。


「でも、それってポムっちにはきつくない?」

「確かに。ポム、可哀想」


 しかし、ルーザーが力業であると認めるように、そのギリギリのラインを狙い続けるというのは精神的には辛いものだ。


 だからこそルーザー自身も、「わーってるよ。ただ、どうしても治さなきゃなんねぇなら、これしかもう方法はねぇって話だ。やるかやらないかはポムカに任せるがな」とポムカに委ねた訳だが。


「それは……」


 そうして、ルーザーの言葉を受けたポムカ。

 その顔は当然困惑した表情ではあったのだが、それ以上に彼女としては皆が自分のために頭を悩ませているという状況に申し訳なさを感じていていたようで、少し笑ってみせると……


「……ま、それはまた今度考えるってことで。とりあえず今日は日が暮れないうちに宿に戻りましょう。そろそろエルがお腹空く頃だし」


 エルを出だしにしつつ、今日はお開きにしようと口にしたのであった。


「いや、ポムちゃん……流石にオラはそんな空気読まん女じゃ……」


 ぐ~


「……」

「「「「「……」」」」」


 エルのお腹が鳴り響く。

 ご飯を寄越せと鳴り響く。


「昼飯あんだけ食っといて……」

「エルっちのお腹はどうなってんのさ?」

「あ、あはは……や、山登りが大変やったしな~?」

「そんなに、辛かった、かな?」

「議論の余地はありそうですよね~」


 照れた笑いをするエルにその場の全員が呆れながらも癒されつつ、そういうことならとポムカの言葉を受け入れ山を下りようとしたその時……


「……ああ、そういうことなら先にこっちを処理した方がいいか」


 頭を掻きながら、ルーザーが彼女らの歩みを止める。


「なに? まだ何かあるの?」

「いや、お前らにはねぇさ。俺が用があるのは……」


 そう言って、森の茂みに視線をやると、大きな声を出してこう告げる。


「おい! 聞こえてるんだろう? 出て来いよ! そこにいる3人!」

「え?」

「「「……」」」


 ルーザーが声をかけたその場所は、鬱蒼と生えた茂みや木々のせいで詳しい様子は見て取れない。


 しかし、ルーザーは何かに気付いているようで、ジッとそこを見つめている。


「ルザっち?」

「どう、したの?」

「いや。俺たちのことをずっとけてる奴らがいたからよ。このままじゃ鉢合わせると思ってここで迎え撃とうかと」

けられてた?!」


 あっけらかんと語るルーザーの言葉に、驚きを隠せないといったポムカたち。


「ああ。最初は気のせいかと思ったけど……流石に人気ひとけのねぇ場所なら気付くわな」

「オラは全く気付いとらんよ?」

「私もだけど……本当にいるの?」


 疑り深く目を凝らしてみる女子たち。

 しかし、やはりそこに誰かがいるような気がしない。


「出てきませんよ~?」

「気のせいなんじゃない?」

「いや、確かにいるぜ。……おい! いいかげん出て来いよ!!」


 しかし、それでも茂みの奥からは何も気配はない。


「……ったく、仕方ねぇな」


 そう言ったルーザーは近くにあった手頃な石を拾い上げると、「出てこなかったお前らが悪いんだからな!」と勢いよくその石を茂みに向けて投げつける。


 ビュンッ

 ――風を切る音がする。

 それは剛速球で投げられた石の音だ。


 ゴツンッ

 ――何かに激突した音がする。

 それはとても鈍い音だった。


「ギャッ!」

 ――誰かの声が聞こえる。

 それは紛れもなく人のこ……


「えっ!?」

「今、声が!?」


 茂みの中。

 ルーザーが投げた石の終着点にて、突如として聞こえてきた人の声。

 それに女子たちは素で驚いてしまう。


 どうやら、そこに誰かが居るというルーザーの言葉は本当だったようだ。


「ブ、ブテル?! 大丈夫っスか!?」

「ぐへぇぇぇ……」

「……まさか、気付かれていたとは」


 すると、流石にこの出来事に観念したのか、茂みの奥から白を基調とした鎧を纏った1人の女性が姿を現す。

 一方、ブテルと呼んだ男性と思しき声音の者は未だ姿を見せては来ない。


「本当に、いた?!」

「スゴイです~」

「いつから気付いていた?」


 鎧を纏う女性の言葉に「屋敷から離れた直後くらいか?」とルーザー。


「なっ!? 我々の動向を最初から気付いていただと?!」

「な~んか、視線を感じてたけど……やっぱあってたか」


 ルーザーの言葉に驚きを隠せないといった女性に対し、一方のポムカは、「ちょっと! 気付いてたんなら、何でもっと早くにそのこと言わなかったのよ!」とルーザーを叱ってみせる。

 ……まぁ気持ちはわかるが。


「さっきも言ったろ? 町の中だと確信が持てなかったって。それにあいつらの目的がわかるまでは泳がせておいた方がいいと思ってよ。……まぁ、結局わかんなくて鉢合わせないように声かけちまったけど」

「目的って……」


 確かに気のせいの可能性を考慮するのならば、ある程度相手の目的が分かってから行動しないと濡れ衣を着せてしまう可能性があるので、慎重に行動する必要はあるだろう。


「それに……」

「それに?」

「言ったらエル、テンパると思って」

「えっ!?」

「「「「あぁ~」」」」

「あぁ~って!?」


 チラッとエルを見ながら告げるルーザー。

 その辛辣な言葉に本人は驚くものの、他のメンツは確かにそれはあると頷いており、更に驚きを隠せないといった様相だった。


「……どうやら、お前たち――いやお前を少し見くびっていたようだ。……モニクン。ブテルの様子はどうだ?」

「んだなぁ~……」

「……ダメっス。完全にのびてるっス」

「そうか……本当に凄いんだな、君は。気配は完全に消せていたと思ったが」


 一方、茂みの中に居ると思しき仲間に声をかけた女性。

 しかし、容体が芳しくないと知ると、ルーザーのその鋭さには感服するよりないといった感じに褒めてみせる。


「そうだな。確かにあんたは結構読みづらかったが……もう2人が丸わかりだったからな」

「そうか……やはり彼らに尾行は無理があったか……」


 ルーザーの言葉に落胆した表情になる女性。

 なにやら、期待を裏切られたというよりかはやっぱり駄目だった、ないし初めから駄目だと思っていたという風な諦めが見て取れたが、果たして……。


「……そんで? あんたら何者だ? 何の目的があって俺たちをけてた?」

「ああ、すまない。我々のことを話していなかったな。我々はこのペシュフーロンにてを務めさせてもらっている者だ。君たちの正体を知りたくてけさせてもらったんだが……少なくとも君たちに害をなそうとか、そういう目的ではないことは理解して欲しい」

「これはこれは……騎士でしたか」


 恭しく頭を下げる女性。

 そんな彼女が『騎士』と知ったポムカは途端に態度を軟化させるも、それにはれっきとした訳がある。


 それは、騎士とは十三騎族が認めた者しかなれないものだからだ。


 元々、騎士という称号は国のために戦う者であれば誰でも名乗ることができたのだが、当然の如くそれを悪用した者が現れ騎士への信頼が揺らぎ始めてしまったことで方針を転換。

 王家が制度を設け、王家または十三騎族が認めた者しか騎士を名乗ることを許さないとお触れを出したことで、騎士の名は信頼に足るものとしての価値を取り戻すことができたのであった。


 そのためポムカは信頼に足る相手と敵意を納めたのである。


 ちなみに騎士の名を偽ると重罪どころか極刑に処されるので、騎士を騙る偽物はほぼいないと言っていい。

 ……勿論、バレなきゃいいの精神で騙る不届き者がいない訳ではないが。


「俺たちの正体って……そんなに俺たち怪しく見えたか?」

「た、ただ観光してただけなんよ?!」


 一方、騎士のことすらよく知らない田舎組は、敵意と恐れをそのままに会話を続けていた。


「いや……君たち自身というより、という点に興味があってな」

「なんだそりゃ? 子供ぐらいどこにでもいるだろう?」

「そうなんだが……さて、どう言ったものかな」


 頭を悩ませる女性。

 その姿にルーザーたちはどういうことだと顔を見合わせている。


「……まぁ、詳しく知りたいのなら我々の詰め所まで来てくれないか? 君たちの話を聞かせてもらえるのなら、我々が何故尾行などしたのか説明しよう」

「詰め所? わざわざ? 別にここでもよくねぇか?」

「それはまぁそうなんだが、そろそろ日暮れが近……」

「おいおいおい! さっきから黙って聞いてれば……姐さんの言葉を聞けねぇたぁ、どういう了見っスか? あぁん!?」


 ルーザーと女性との問答に痺れを切らしたとでもいうように、先程女性にモニクンと呼ばれた男が森の茂みから姿を現す。


 その姿は……


 顔の至る所に付けられたピアス。

 カラフルなモヒカン。

 何故かトゲトゲした装飾の施された鎧姿といった様相であった。



「「「「「どう見ても野盗!!!」」」」」



 声を大にして危うく騙されるところだったと改めて警戒心を抱くルーザーたち。


「あ、うん……だよな。初めて見ると、そう思ってしまうよな……」


 一方の女性はそんなルーザーたちの反応には理解ができると遠い目をしていたが、「すまない。信じられないかも知れないが、これでも本当に我々は騎士で……」と口にする。

 しかし……。


「まさか……こんな白昼堂々、騎士を名乗る輩が居るなんて……」

「騎士を騙るのは極刑なんだよ?!」

「そうなんか?!」

「知らなかったんですね~」

「ああ、そうだな」

「ルーザー君も、か」

「まぁ、期待通りの反応だけど……流石に見過ごせないわね。私の思い出の場所で、騎士の名を穢そうだなんて」


 ルーザーたちは完全に警戒してしまい、女性の言葉は耳に入っていないよう。


「ま、待ってくれ! 我々は本当に騎士なんだ! ヴィーラヴェブス様の名前に誓っても構わな……」

「そうっスよ!? オレたちゃ、偉い偉い騎士様っス! それを悪党だなんて何様のつもりっスか?! あぁん!?」

「言うに事欠いて伯父様の名前まで使うなんて……流石に許せないわね」


 何とかその場を取りなそうとする女性だが、メンチを切るモニクンの顔――その歪み切った表情は誰がどう見ても悪党面であり、基本的にはまともの部類に入るであろうポムカでさえ信じる様子はない。


「頼む、モニクン! 少し黙っていてくれ! お前が喋ると築き上げようとしてる信頼が何度も0にリセットされる!!」

「何言ってんっスか、姐さん! 姐さんが騎士じゃないなんて馬鹿にされてるのに、黙ってなんかられないっスよ!!」

「わたしじゃない! 騎士かどうか疑われてるのはお前!!」

「それに、ブテルがやられたんっスよ?! あいつの仇を取るまでは、オレは誰にも止められないっス!」

「わたし、上官なんだが?! 上官がダメと言ったら必ず止まれ!? な?」


 とにかく今はモニクンを止めなければ話が進まないと女性が必死にモニクンを止めようとするものの、ブテルと呼んだ男のことを根に持っているのか、決して止まる気配を見せないでいる。


 そればかりか……


「安心してくださいっス、姐さん! あんな奴、自分がすぐに片付けるっスから!」


 ルーザーたちを倒そうという気概すら見せる始末。


「片付けるな! 話を聞きたいんだ、こっちは!!」

「おら、行くっスよ!」

「行くな! 戻れ! そして、わたしの話しを聞……「混迷に惑え! 葉隠はがくれ!」」


 そうして、女性の言葉を聞かず前に出たモニクンは、ルセットが止める間もなくあっという間に解号を口にすると、固有魔術を発揮する。


 それは彼を中心に巻き起こる数多の木の葉であった。


「キャッ!」

「これは……」

「固有魔術です~」


 幾万の木の葉が舞い散りながら、嵐のようにルーザーたちに襲いかかる。


「ハッハッハッ! どうっスか!? オレの技、隠葉いんよう怒濤嵐どとうらんの威力は! 近付くことはおろか、オレの姿を捉えられないっしょ?!」

「あぁもう! あのバカ! 本当に固有魔術なんか使って!!」


 自分の言葉を聞かずに固有魔術を限定解除してしまったモニクンを何とかして止めようと、彼の魔術に巻き込まれながら彼に近付こうとする女性。


 しかし、モニクンにはそんな彼女の想いは通じていないようで、木の葉を苛烈に舞わせ、この場を支配するよう努めていた。


「それじゃあ、次で終わらせてやるっスよ!」

「だから! 終わらせるな!」

「くらえ! 刃葉じんようせん……「ほいよっと!」ぶへっ!!?」


 こうして圧倒的な優位のもと、自身の技で決着をつけようとしていたまさにその時、突如目前に現れたルーザーの飛び膝蹴りを受けたモニクンは、鼻血を吹きだしながらブテルのそばまで吹き飛ばされてしまう。


「なっ!? モ、モニクン!?」

「ぐぁ……っス……」ガクッ


 仲良く倒れることとなったモヒカン男を見てルーザー。


「馬鹿だな、お前。確かに見えはしなかったけど……お前の声でだいたいの位置がわかったっつーの」


 確かに彼の言うように木の葉が視界の邪魔をしていたことで、モニクンの姿は見て取れなかった。


 ……が。

 この技はあくまでも木の葉で視界を見えづらくするものであり、一応、気を遣って最初に居た所からは動いていたものの、消えた訳でも隠れた訳でもなかったため、気配云々うんぬん言ってたこともあり、常に声を出していた彼の居場所はルーザーには簡単に見破れたのである。


「おい! しっかりしろ! モニクン! モニクン!!」


 無数の木の葉の発生源たるモニクンが気を失ったことで、ようやく木の葉が落ち着いたと慌てて2人のもとへと走る女性。


「ぐへぇ~」

「っス~」


 しかし、どちらもルーザーからの強力な一撃を受けたため目を回し続けており、意識が戻る気配が見て取れない。


「……ったく。強盗するなら他の奴、狙えっての」

「他の奴でも駄目よ……」


 一方のルーザーはさて残りはあと一人といった具合に女性を見ていたが……


「……違うんだぁ~。我々は本当に騎士なのだぁ~」


 突如、四つん這いになり女性が涙を流し始めたことで、少し意気を削がれてしまう。


「いや、嘘吐け。そっちのデブもなんかトゲトゲしたマスクしてるし」


 確かにルーザーの言うように最初に倒したブテルもまた、その装いからは人を守る側とは到底思えない。

 しかし……


「確かにこいつら見た目はあれだが……本当は優しい子たちなんだぁ~」


 女性はそれでも自分たちは騎士だと言って憚らない。


 そんな本気で涙している女性の姿を見てポムカたち。


「……ねぇ? なんか、本当っぽい気がしてきたんだけど?」

「オラもそんな気がするんよ……」

「「「うんうん」」」


 流石にその姿には憐憫れんびんの情を抱かざるを得ないと、ルーザーに攻撃するなという視線を向ける。


 それ受けルーザーは……


「……あぁ~……なんか、ゴメンな?」


 ポリポリと頭を掻きながら適当な謝辞を述べるのであった。

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