忠直は慷き慨る 第三幕

「これでどうだ!」


 ポムカと共にいたポニテ少女の風の魔術が魔獣に命中すると、その魔術のダメージには耐えきれないと魔獣は体を横転させて動かなくなる。


「……どうやら、やったみたいね」


 そばで控えていたポムカ達が集まって来て戦果を確認するも、無事討伐できていたようだ。


「やったー! やっと討伐できたー!」

「お疲れ様」

「タフな相手でしたね~」

「疲れ、た」


 疲労困憊というように、その場にヘナヘナと座り込んでしまうポムカの友達たちの姿を見るに、どうやら魔獣討伐はこの子たちにとっては大変なことのようだ。

 一方でポムカは特にこれといった疲労感を見せないどころか、「それじゃあ、目玉を取り出しておくわね」と魔術で生み出したナイフで淡々とポイントのために必要な素材を取り出し始めていたりする。


 血が吹き出ようが、ぐちゃぐちゃとした気持ちの悪い何かが飛び出てこようがお構いなしに目玉をえぐり出しているポムカの姿を、友達たちはややひいた様子で見つめている。


「……よくできますね~、そんなこと~」

「私は、ちょっと、無理……」

「確かに」

「……あぁ~。まぁ、私も前まではそっち側だったんだけどね~。……あのバカのせいで、流石にもう慣れたというか、慣れさせられたというか……」


 自分で言ってて悲しくなるといった表情のポムカだが、どうやらルーザーが何かのキッカケとなっているようだ。


「ルザっちが?」

「そ。あいつやエルとは、よくこういう所に来ては魔獣退治とかさせられてるからね」

「魔獣退治?」

「そういえば~、ポムちゃんってよく~、ルーザー君たちと~、どこか出かけてますよね~?」

「誘っても、ダメな時、ある」

「そういえばそうだね。もしかして、そういう時っていつも……」

「ええ、そうね。だいたい……」


 目玉をほじくり終えたポムカは、友人たちの他愛ない疑問に答えようと振り返る。


 しかし……。




 ズザザザザ!




 突如として森がざわめき出したことで、話を中断せざるを得なくなる。

 勿論、木々が喋り始めたということではなく、実際に木々が騒いでいるような状態になったという意味だ。


「えっ!? な、なに!?」


 その異変に慌てて身を寄せ合い、周囲を警戒する4人。


 そんな彼女らの視界が捉えていた光景、それは……。


「き、樹が……」

「……樹が、伸びてる?!」


 そう。

 今まさに樹が上空に向かって伸びている姿だった。


 正確には大きくなっているというのが正しいだろう。

 幹の太さもみるみる太くなっていき、木の間このまがどんどん狭まっているのだから。


「なになになになになに!?」


 突然のことに困惑する友人たち。


 こういう時にはよく頼りにしているのか、ポムカの腕や体にしがみついたり抱き着いたりしてその恐怖を紛らわせようとしている。


 そんな状況にあってか、ポムカは友人たちをなだめるように手を優しく握ってあげるも、やはり内心焦っているのか、その場をすぐさま動けるような状態ではなかった。


 少しの後、ようやく木の伸長が終わるとポムカは現状把握に努めようと辺りを見渡す。


 しかし、有益な情報などは見て取れず、ただ鬱蒼としていた木の幹が太くなり先が見えずらくなったこと、そして太陽の光が入らなくなったために今まで以上に森が薄暗くなった程度のことしかわからなかった。


「……伸びるの、終わった?」

「みたいですね~」

「ど、どど、どうなってるの!? これ?!」

「さぁね。少なくとも先生の話には無い状況だし、サプライズの演出でも無ければ何かが起こってるってことは確かなんでしょうけど……」


 努めて冷静に。

 しかし、動くなら迷いなく。


 そんな早急に何かを選ばなければならない状況でありながらも、ポムカが的確な現状分析をしてみせたのは、3人に自分は至って冷静だと伝えるためだったのだろう。

 慌てる必要は無いのだと自覚してもらうために。


「ど、どどどうするの、これ!? どうすればいいの、これ!?」


 だが、残念なことに約1名には伝わっていなかったようだ。


「SOSで~、助けてもらいますか~?」

「無理ね。ここで魔術を放っても信号は外の先生には見えないでしょうから」

「確かに、無理そう」


 一方でポムカのおかげか冷静であった残りの2人との会話で上を見上げた4人。


 そこに広がるのは青々とした空ではなく、鬱蒼とした影を落とすだけの樹葉だけであり、この状況で上空に何かを打ち上げたとて、樹葉に阻まれ誰かに何かが伝わることはないだろうことが見て取れる。


「そ、それじゃあ、あたしら一生ここに!?」

「そんな悲観しないでナーセル。幸い、私たちは遅れてスタートしたから最初の地点にはまだ近いはずよ。戻れば意外と早く先生たちと合流できるはずだから……」

「そ、そっか! そうだね!」


 活発だが意外とビビりだったポニテ少女ことナーセルをなだめるように言ったポムカの言葉に安堵した彼女は、「そ、それじゃ、早く戻ろ! サーリュ!」と、今すぐにでも帰りたいと言わんばかりにポムカの腕を引っ張り始める。


「ええ」

「了解です~」

「うん」

「……あぁ、あと。私の名前、ポムカだから。その名前は昔の……」

「ほら! 早く早く!」

「……って、聞きなさいよ。もう……」


 そうして、ポムカではないポムカの名前を告げたナーセルの先導を受けながら、急いで来た道を引き返すことに。




 しかし、今まで以上に失われた明るさ、太い幹による視認性の悪さのせいで、早く移動する訳にもいかないとポムカたちは、焦らずしかして早くといった絶妙な移動を余儀なくされており、その現状が更にナーセルに恐怖心を植え付ける。


「早くぅ~、早く帰らせてよぉ~」

「大丈夫だから、落ち着い……」



 ブォォォォォォ!!



 突如、聞こえてきた何かの音、または声。


「ひぃやぁ!?」

「な、なんです~?」

「獣の、声?」


 その声に反応した3人の女友達たちは、驚きながら再びポムカに抱き着いてしまう。


「でも今の声……とてもじゃないけど、小型の魔獣って感じじゃなかったわね」

「うそうそ!? 大型の魔獣って先生たちが片付けたって話じゃなかったの?!」

「それはそうだけど……木が巨大かしたのと何か関係あるのかも」

「関係?」

「たとえば……他の木々と同じように小型の魔獣も巨大化してる、とか」


 ナーセルたちを焦らせないようにと冷静さを心がけていたポムカだったが、すぐさま今のは言うべきではなかったと自省する。


 たとえそれが見当違いであったとしても、特にナーセルに恐怖心を抱かせてしまうことになるのだから。


「う、嘘っ!? それって……」


 案の定、怯えた表情を見せたナーセルは、必死にポムカの腕にしがみつく。


「……とにかく、ここでこうしてても埒が明かないわ。急いで引き返しましょう」


 正直、普段見れないナーセルのその姿は可愛いと思わなくはないものの、流石にそんなことを思っている場合ではないとポムカは、とにかく皆の気を紛らわせようと帰還を促したことで、ナーセルも渋々頷いて走り始めた。


「……いったい、何が起こってるの?」


 率先して殿しんがりを引き受けたポムカは過ぎ来し方すぎこしかたを見やるも、巨大化した木々に阻まれ数m先しか見ることはできず。

 そのせいで、内心恐怖心が湧き上がっているものの、流石に表に出せないと自制しつつ先へ急ぐ。


 そうして、立ち止まることが許されない状況で、必死に足を動かした4人の少女たちだったが……。


「……あっ! 見えた! さっきの場所だ!」


 ナーセルが指さした場所。

 そこは最初に全員が集まっていた場所……と思われる所であった。


 曖昧な言い方なのは木の間このまが狭すぎて良く見えなかったため。


 とはいえ、教師にSOSを告げ退場した生徒が待機するための色々な設備が用意されているため、まず間違いはないだろう。


「よかった! あそこ明るいっぽいし、何とかなりそう!」

「そうね。でも油断しないで。何が起きるかわからないんだし」

「そうですよ~。焦っちゃダメです~」

「わ、わかってるって!」

「それじゃあ、私が、先に」

「ありがとう、ルーレ。でも私が先に行くわ。皆の中では一応、私が一番強い訳だし」

「了、解」


 そうして、たどたどしい喋り方の長身少女、ルーレの言葉を引き継いだポムカが、先陣を切りスタート地点へと到達する。


「……なっ!?」


 そして、そこでポムカ達が見たものは……。

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