忠直は慷き慨る 第二幕
●課外授業のルール
・新入生は全員参加(体調不良は除く)。
・単独でもチームでも参加方法は自由。ただし事前にチームを組む相手は通達する必要がある。
・ポイントは一番メンバーが多いチームの人数の数が最大値となり、個人だと最大値が手に入り、以下メンバーが増える程ポイントは減っていく(例:一番メンバーが多いチームの人数を10人とすると、単独で10ポイント、2人チームで9ポイント、といった感じ)。
・ポイントは各チームメンバーそれぞれに入る(3人チームで2ポイント手に入った場合、それぞれに2ポイント入る)
・上記のようなポイント配分になるので事前に通達が無いとポイントはそのままになり人数を減らせば損、増やせば得となるが、追加でチームに参加した生徒にはポイントが割り振られないので結局損をすることになる。しかし、貴族の中には自分のチームを過少申告しつつ自分に逆らえない平民を利用してチームに引き入れることでポイントを稼ごうとする者もいる(勿論バレたらポイント没収だが、ずっと見張っているわけではないので、確認はほぼ不可能と昔から横行している)。ちなみにメゴボルとナカリーラは意外にもこのズルはしてないが、正々堂々やっているのではなく新入生として初めての課外授業ということからただ単に知らないだけ。
・魔獣討伐の方法は何でも可(魔術だろうとグーパンだろうと)。基本は魔術を使うことが推奨されているが、相手は魔獣であるがために何があるかわからず監視役の数も圧倒的に足りないため致し方なしと認められている。
・討伐したことを証明するために討伐した獣の目を摘出して、提出する必要がある(提出できないとポイント無し)。なのでこの方法が嫌だと基本的に貴族は他の生徒を連れてやらせている。
・各個人、チーム同士の戦闘は禁止。ルール違反は即退場。ただしバレなきゃいいの精神で相手をはめようとする者もいる(特に貴族)。
・身の危険を感じた場合、上空に向けて魔術でSOS信号を放てば教師たちに救出してもらえるが、その時点で課外授業は終了とみなされ、その時点でのポイントのみ加点される。
・今回の討伐対象は猪が魔獣化したもの(それ以外の魔獣や大型の魔獣は教師陣によって討伐済み)。
・獲得できるポイントの価値や用途については、今話では関係ないので割愛。
といった具合。
ついでに言えば討伐対象は早い者勝ちということになるので、一早く魔獣と遭遇して他の参加者より先を越すか、あえて奥に行って誰もいない所で確実に討伐するかといった戦略も必要となり、メゴボルやナカリーラなどは先手必勝型を狙っているようだ。
「貴様のような魔獣には、この高貴にして光輝なる出で立ちは、目に入れるだけでも恐れ多いことだろう! しかし! それでも獅子は兎を借るのにも全力を出すという! ならば、ボクも貴様を狩るために全力を出してやるとしよう!」
目の前にいる普通の猪よりかは大きめの1匹の猪――即ち、魔獣を相手にするメゴボル。
その振る舞いはさっさと攻撃した方がいいのではと思えるほどに無駄が多すぎる動きではあったが、そんなことを取り巻きたちが口にできる訳も無く、「流石はメゴボル様! カッコイイ!」「やっちゃってください! メゴボル様!」と最大限におだてていた……可哀想に。
「うむ! 任せておけ!」
「ふんっ! な~にが任せておけですか! 手下に攻撃を全部任せてる癖に偉そうに。それに比べてあたくしのなんと勇敢なことか! なにせ、自ら攻撃に参加しているんですもの!」
従者の気苦労を知ることもないであろうメゴボルが意気揚々と攻撃を始めようとするのを尻目に、別の魔獣を狙っていたナカリーラはメゴボルに自身の方が上だと言わんばかりにアピールしつつ攻撃を魔獣に当てている。
実はナカリーラの言うように、メゴボルは従者に攻撃を任せ安全地帯でふんぞり返っていたりするので、偉そうという言葉は間違ってはいない。
しかし、こちらはこちらで他人に話しかけてる余裕があるのなら早く倒せばいいものをと思わずにはいられない振る舞いをしているので、所謂どんぐりの背比べとしか言いようがない状態なのだが、やはり取り巻きの少女たちはそんなことをおくびにも出さず、「流石です! ナカリーラ様!」「まさに貴族の鑑!」等とナカリーラの言葉に乗っかっていた……本当に可哀想に。
「ええ! そうでしょうとも! そうでしょうとも! オーホッホッホ!」
「な~にが、攻撃すら自分でだ! 手下を囮にして自分は安全地帯でちょこちょこ攻撃してるだけの癖に!」
そう。
実はナカリーラもちゃっかり魔獣に狙われないように立ち回っており、人を非難する筋合いは無かったりする。
なので、そういう意味ではメゴボルの方がマシ……だったのだが、結局相手を非難しているのでどっこいどっこいになった訳だ。
「何ですって!?」
「何だよ!?」
そうして互いが互いを罵り合った結果、戦闘中だというのにいがみ合うことになる2人。
ここまで来たらもう仲良しどころか夫婦なのではという雰囲気すら漂わせるものの、それで困ってしまっているのが各手下たち。
メゴボルやナカリーラのために命がけで魔獣の注意を引いているというのに当人らがこれなら目も当てられない。
なので流石にここは黙ってられないとそれぞれの手下たちは、「メゴボル様!」「ナカリーラ様!」と2人の名前を必死に叫ぶ。
その声色から意外と必死さが感じ取れるので、結構ギリギリなのかも知れない……全くもって哀れだ。
しかし、幸いというか何というか、今の言葉で現状を思い出したと言わんばかりの2人は、それぞれが相手に見せつけるように攻撃の準備を始める。
「はっ、ならそこで見ているがいい! ボクの方がスゴイというところを!」
「何を言うかと思えば……いいでしょう! 見せつけてあげますわ! このあたくしの方があなたなんかよりも優れているということを!!」
そうして、互いが互いに見せつけるため、ようやく本腰を入れた形の2人。
そんな2人の態度に手下たちが安堵する中、2人は体の内側を巡るマナに集中すると、威勢よく言葉を発する。
「
「追い落とせ!
すると、突如彼らの周りに衝撃波が巻き起こり、メゴボルの体にはまとわりつくように黄金の鎧が生み出され始め、ナカリーラの手には炎でできた鞭が握られ始めていた。
これは固有魔術の
体内に宿るマナ――即ちオドが固有の形に変化しやすくなったことで、その人にとって最も扱いやすくなった魔術、それが固有魔術であり、そして
オドとは生命の源でもあるが故、固有魔術が常時解放状態だと常にフルマラソンを走っているのと等しく生命の危機に直結しかねないので、自分自身の潜在意識が無意識に固有魔術にロックをかけているのだが、そのロックを『少し開いていい』と命令を下す儀式とも言うべき所作が
そして、その解除する儀式をするために潜在意識に刷り込む文言――謂わば魔術の際の詠唱と同じことを
「受けろ!
金色の鎧をしたメゴボル。
張り手のように突き出した右手から金色に光る波動を生み出し、魔獣めがけて放つ。
ブモォォォォォ!
叫び声のような激しい声をあげた魔獣は、顔面に受けた衝撃の痛みに耐えきれず横たわってしまう。
自分が扱いやすい魔術であるが故に普通の魔術以上の威力を出せるのが
……だからこそ、自分はスゴイとメゴボルが調子に乗ってしまっている訳だが。
「今だ!」
なんにせよ、メゴボルの攻撃で倒れた魔獣。
それを見たメゴボルが合図を出すと、手下たちが一斉に魔術で追撃を始め、ついに魔獣をピクリとも動かない状態にする。
「やりました! メゴボル様!」
「当然だ! なにせ、このボクだからね!! ……どうだ見たか、ナカリーラ! このボクの実力を!」
そうして、自身の手柄を自慢するようにナカリーラに声をかけたメゴボルだったが、「あら、随分と時間かかりましたわね? あたくしはもう既に終えてましてよ?」と逆に返されてしまう。
見ると確かに魔獣はナカリーラが生み出した炎の蛇のようなものに絞めつけられ体のあちこちから血が噴き出しており、見るからに死体というべき姿になり果てていた。
「なっ!?」
「オーホッホッホッホ!! やはり、あたくしの方が一枚も二枚も上手のようですわね!!」
「ぐぅぅぅっ……おい、お前たち! 次だ! 次の標的を探せ!!」
「は、はい!」
「あなたたちもよ! あんな男よりも早く魔獣を見つけなさいな!」
「しょ、承知しました!」
ナカリーラに言い負かされた悔しさから、ブラック企業の上司よろしくついさっきまで自身のために必死に戦っていた手下共に容赦なく指示を出すメゴボル。
それを見て同様に命令を下したナカリーラ。
そんな大慌てで森の奥へと走っていく手下たちを他所に、「次こそはボクが!」「いいえ! 次もあたくしが!」と睨み合っていたメゴボルたちだったが、手下たちが行かなかった方の茂みがガサガサと揺れると、すぐさま視線をそちらに向ける。
「ん? 今のは……」
「もしかして、魔獣?!」
「なら、このままボクが仕留めてやる!」
「なっ!? 卑怯ですわよ! それはあたくしが先に見つけ……」
そうして、我先に討伐してやろうと動き出した2人。
しかし、そんな2人の視線の先にあったものは……。
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